
Social Impact Initiative 社会を変える旅に出る 第12回 「テックインクルージョン」で実現するマイノリティの豊かな未来
「マジョリティ」が「マイノリティ」に歩み寄ることで格差や不平等が大きく改善されるという概念に基づき、マイノリティの人々の領域にテクノロジーを使って「市場」を作ることでインクルージョンを社会実装する「テックインクルージョン」について解説します。
地域課題解決やエコシステム形成の好事例を指して「コツって何なのでしょうか?」と聞かれることがよくあります。多くの関係者の向かう先を合わせ、パワーを集結させるためにコレクティブインパクトアプローチを適用させることは、一つの対応策だと思います。しかし、飛び道具となるような秘策はありません。人々が同じ方向を向き、コンフリクトを最小限に抑え、主体的に物事を解決しながら、好循環させるような仕組みを作ることは、非常に難しいのです。時間もかかり、根気も必要です。
実は、じっくりと地域課題解決やエコシステム形成の好事例を分析すると、誰か一人が非常に高い成果を上げてヒーロー的に扱われているケースはあまり多くないことに気づきます。むしろ、好事例からは「関わる人々が一体となって取り組んだからうまくいった」というニュアンスのことが聞かれます。
それは、地域や課題解決を考える「場」というコミュニティで育んだ人どうしのつながり、つまりネットワークを使って、課題解決をしていることを意味していると、筆者は推察しています。そこには「ここぞ!」という時に、ネットワークをうまく機能させるために、日常的に人と人の間をつなぐハブ的な役割を担う人が存在しています。人と人との間に有益な情報や知識を流し込み、解決策を編み出す力に変えていこうとする役割を担う人です。
本稿では、このハブ的な役割を担う人がやっていることをその人の性格や場の雰囲気やノリという感覚論ではなく、一つのスキルとして論理的に解説していきます。
「ハブ的な役割を担う人」と聞くと、地域コミュニティに根付いたソーシャルセクターの人を思い出すかもしれません。また、会社や団体の中にもいるでしょう。人と人のつながりを重んじ、人脈を構築することに時間をかけ、誰かに誰かを紹介することに喜びを感じている人がいます。
日本社会において、ひと際残念なことは、こうした人々を単なる「人付き合いが良い人」と片付けてしまっていることです。あるいは「人間関係は幅広いけど、結局何をしている人なのか分からない」というようなひどい言われようをされたりします。
人間関係は、社会を社会として成り立たせるための根源部分に相当します。人々が社会で紡ぐネットワークは、社会関係資本(ソーシャルキャピタル)と呼ばれ、本人やその集団に何らかの価値や利益を生み出す源泉となる一つの資本とみなされています。
ネットワークとは、たいてい関心事項が似ている人たちや、仕事や活動等の取り組みや行動が似ている人たちの間で、作られていきます。人と人のつながりが生まれる時には「資源」「相互行為/やりとり」「感情/意見」が往復しています。
例えば、Aさんがよく待機児童問題について「このままでは良くない!」と言っていたとします。すると、Bさんがどこかで待機児童問題に関する情報を入手したときに、「この情報は、きっとAさんも知りたいはずだ!」と思い、BさんはAさんに連絡を取り、この話を共有します。2者間で「資源」「相互行為/やりとり」「感情/意見」が往復しています。
人と人のつながりを作るのが上手な人は、誰かが欲しいと思っている資源を非常に高いレベルで正確に理解し、質と量と頻度を上げてやりとりをしながら、意見の交換をしています。加えて、感情の交流も交えることで、両者の間に共感や結束を生み出します。そうして、人と人の間に効果的に資源を流し込みながら、全体に流通させていきます。
次に、ネットワークが作り上げられていく仕組みを見ていきましょう。以下、二つのタイプをご紹介します。
一つ目は、いわゆる仲が良い人たちの間でできあがっていくネットワークです。
人と人のつながりは資源をやりとりすることによってできあがっていくことを前述しました。すると、やりとりできるものを持っていない場合や、持っていたとしても相手が関心を示さない場合は、ネットワークの中に入りこむことができないと言えます。互いに資源を持ち、お互いが持つ資源に興味を持つには、両者間に共通点が必要となります。家族や親友、近所の人、社会的な地位や境遇が似ている場合が想定されます。同じ性別や年齢層であることもあてはまります。
ここで編み出されるネットワークは「結束型社会関係資本」と呼ばれます。
二つ目は、ゆるやかな友人関係や仕事仲間といった少し距離がある人どうしがつながりながら広がっていくネットワークです。ちょっとした顔見知り程度どうしの間でできあがっていきます。この場合、人々の橋渡しを行うハブ的機能を担う人(以下、ブローカーと呼称)が動いていることが多くあります。ブローカーは、両者の関心事項を引き出し共通点にして、やりとりを成立させていきます。大きくは、
ブローカーは、集団が果たすべき目的や目標、あるいは得たいと思っているインセンティブやメリットを念頭においた上で、誰か特定の人や集団が欲しいと思っている資源を理解し、質と量と頻度を上げてやりとりが実施されるように促します。ひょっとすると「この人とこの人を引き合わせたら、きっとおもしろいことが起きるのでは」というような遊び心もあるかと思います。
ここで編み出されるネットワークは「橋渡し型社会関係資本」と呼ばれます。
このようにして、個人どうしが結束しながらネットワークを作り出し、それが似ている別のネットワークと連結されていきます。そして、また少し異なる個人間や集団間で橋渡し的なブローカーが動き回りネットワークをつなぎ合わせ、再編集していきます。そうして、個人が単独では解決できないような課題に対して、ネットワークを使って解決していこうとする具体的な思考や機運を生み出し、実際にものごとを動かすパワーにしていくのです。
結束型で作られていくネットワークには、程度の強弱はあれ、同質性が内在します。同質性のある集団に少し違う人を取り込んだり、元から少し違う人たちを共存させたりするための橋渡しを行いながら、その差異や違いも集団としての思考に取り入れていけるようなネットワークの編集力が求められていきます。こうして、真の多様性があるネットワークになっていきます。
これらの理由より、筆者は社会課題解決にはネットワークを編集しながら、ネットワークの力を使って対応力を上げていくことが大事であると考えています。
人はひとりでは無力であっても、個々人が近くの人たちと接触し、またさらに別の人と接触していくことで、人とのつながりが広がり、仲間意識や他者を思いやる気持ちなどが生まれていきます。そうして「社会に役立つことをやっていこう」「課題を解決していこう」という考えのもと、具体的な思考やアイデアが生まれていきます。課題解決の現場では、ブローカー資質のある人が大いに活躍されています。こうした役割が一つのスキル・ケイパビリティとして評価される日がくることを願います。
これからの私たちに対応を迫られる課題に、単純なものはありません。集団や組織の長が課題を特定し、集権的にトップダウン的なアプローチで課題解決に取り組めるようなものは減っていくでしょう。社会システムが複雑化する中で、それに関わる人々が主体的に集まり、自分たちの力で解決していこうと考えて動く、分散型のボトムアップ的なアプローチが求められていきます。
私たちは集合的なコレクティブインパクトを創出したいと考えています。そのためには、その原資として、分散的でありつつも、機動的に集合し、パワーを発揮できるネットワークを持っておくことが必要です。
【参考文献】
「マジョリティ」が「マイノリティ」に歩み寄ることで格差や不平等が大きく改善されるという概念に基づき、マイノリティの人々の領域にテクノロジーを使って「市場」を作ることでインクルージョンを社会実装する「テックインクルージョン」について解説します。
人々が社会課題に気づき、行動を起こそうとするところまで変革する「ソーシャルチェンジ」について解説し、「チェンジマネジメント」との違いや、変革に至るまでの5つのステップ、取り組むべき施策などを紹介します。
地域課題解決やエコシステム形成の好事例の背景には、日常的に人と人の間をつなぐハブ的な役割を担う人の存在があります。ネットワークをうまく機能させて社会課題解決につなげるためのヒントとして、こうした人の役割を一つのスキルとして論理的に解説します。
社会を変えるためには課題解決に向けて仲間が集まり、大きな力を発揮するコミュニティが1つのソリューションとなります。そのようなコミュニティが持つ特徴の1つとして、人と人の結びつきである「紐帯」を紹介します。