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複雑化する社会の中で、中長期的な将来社会の変化を予測することはますます難しくなっています。そのような中、グローバルNGOの活動は将来の社会課題を理解するための「アーリーウォーニング」として注目されています。NGOなどのアクティビストはサステナビリティの問題を提起し、現在および将来の課題を特定する重要な役割を果たしています。
PwC Japan有限責任監査法人(以下、PwC Japan監査法人)が現在公開中のオンデマンドセミナー「グローバルNGOから学ぶ日本企業のサステナビリティマネジメント推進」(現在は公開終了)では、長年グローバルNGOの動向をリサーチし、それに関するアドバイスを提供しているSIGWATCH社の創設者兼チェアマンであるRobert Blood氏が、「国際NGO 今日のアクティビズムへの理解と対応」と題して講演を行っています。
また、PwC Japan監査法人のサステナビリティ・アドバイザリー部長パートナーの田原英俊がBlood 氏に対し、日本企業がサステナビリティマネジメントを推進する上でのグローバルNGOとの関わり方について詳しく伺っています。
本稿では、Blood氏の講演の要旨と、Blood 氏と田原の対談の内容をお伝えします。
(左から)田原英俊、Robert Blood氏
Robert Blood 氏
SIGWATCH LIMITED
Founder Chairman
田原 英俊
PwC Japan有限責任監査法人
サステナビリティ・アドバイザリー部長
パートナー
SIGWATCH Ltd, Robert Blood氏
NGOなどのアクティビストは、サステナビリティの問題提起において重要な役割を果たします。彼らはメディアの関心を引き、市民やステークホルダーと先導して、企業や政府に問題対応を迫ります。彼らの考えを理解することで、企業や政治家が今後直面する課題を把握することができます。
私たちの長年のデータと経験から、NGOは効果的かつ複雑な方法でキャンペーンを展開していることが分かります。彼らは連合を築いて活動し、ステークホルダーを取り込んで企業に圧力をかけます。経験豊富なNGOが好んで使う戦術は、「標的企業」の孤立化です。NGOだけでなく全てのステークホルダーが批判者となり、標的企業を四面楚歌の状態にするのです。その結果、多くの企業は圧力に逆らうことができなくなります。
現在のトレンドを見てみましょう。最近特に目立つNGOの戦術は、農業関連の投資家を標的にすることです。
2019年から2020年にかけては、石油・ガス関連の投資家へのNGOからの圧力が大幅に増加しました。石炭関連に対する圧力も同様のレベルでしたが、COP26での世界的な脱石炭に向けた合意により、2021年末には減少し始めました。そして、NGOはキャンペーンの対象を石炭関連から農業関連に移しました。現在、急浮上している問題は農業です。農業は森林減少や土地利用の変化など、気候変動に大きな影響を与えています。そのため、投資家は今、農業問題に対して石炭問題以上の強い圧力を感じています。
近年の最も重要な変化は、いわゆる「sustainability lite」への攻撃です。これは、企業がサステナビリティを真剣に実行するのではなく、単なるスローガンとして採用するトレンドに対するもので、NGOはこれを「グリーンウォッシュ」と批判しています。
主導的なNGOは米国のさまざまな団体と協力し、「グリーンウォッシュ」という用語を広め、企業や業界を非難する活動を行いました。その結果、グリーンウォッシュに対する規制が制定され、新しい実務指針が生まれました。このキャンペーンの成果は、容認されるサステナビリティ基準を引き上げたことです。グリーンウォッシュが問題になる前は、主張が嘘でない限り「サステナブル」と言えました。現在では、サステナビリティの主張が正直であるか、達成可能かどうかが問われています。
最後に、NGOとの対話についてお話しします。
まず、アクティビストの話を聞く際は、徹底的に耳を傾けることが重要です。彼らの意見を聞くことで、新たなサステナビリティリスクに先手を打つことができます。次に、メディアで目立つ大規模なNGOが必ずしも最も影響力を持つとは限らないことを覚えておいてください。最後に、市場でトップに立つ企業は、NGOが提起するサステナビリティ問題に率先して取り組むべきです。業界にとって重要な問題に対して、自社の知名度と影響力を活用することで、アクティビストから大きな信頼を得ることができます。
日本企業は自国市場でアクティビズムを感じにくいが、海外では主要なターゲットになりうる
田原:講演では、グローバルNGOから日本企業は何を学べるのかについて教えていただきました。ここからは、講演をさらに深堀りし、日本企業が持続可能なサステナブルビジネスを成長させるために必要なアドバイスを伺いたいと思います。
講演で、NGOの活動の4分の3以上は欧米で実施されており、日本での活動は世界全体のわずか1%に過ぎないと伺いました。それが日本企業にとってNGOの活動が企業の長期的成長の上で重要視されていない理由の1つだと推測されます。しかし、多くの日本企業はグローバルに活動しているので、グローバルに活動するNGOが日本企業をターゲットにすることも多くなっているのではないかと考えます。
Blood氏:日本企業は、確かに自国市場ではアクティビズムをほとんど感じることがありません。そのため、顧客をはじめステークホルダーにとって大きな問題にはならないと考えるのは自然なことかもしれません。しかし、世界の大企業の中には日本企業も多く、これらの日本企業はグローバル企業です。私たちがそのような日本企業と仕事をする中で分かってきたのは、NGOのアクティビズムの問題は日本国内ではなく、日本国外にあるという彼らの認識が高まっていることです。
特にNGOの標的になる企業という観点から言えば、いかなる企業も、論争の的になっているプロジェクトや批判を浴びているプロジェクトに大きく関わっていれば、自分たちが標的になると想定しておくべきだと思います。パートナー企業やジョイントベンチャーが標的になるかもしれません。例えば、鉱業生産物の主要な調達元が標的になることもあるでしょう。なぜなら、日本企業は規模、スケールが大きく、国際的に運営しているからです。
もう一つの理由として、日本企業が特定産業においてトップブランドであることが挙げられます。支配的ブランドと見なされていることでもあります。言うまでもなく、テック産業、インターネットテクノロジーやデジタルテクノロジーのような分野では米国のブランドが支配的です。しかし、エレクトロニクス分野では日本ブランドが傑出しています。NGOが見せしめとして企業にリーダーシップを取らせたいと考えれば、標的として選び出される可能性はあるでしょう。
農業分野の投資家がNGOの新たな標的に
田原:SIGWATCH社は世界中で活動するNGOのキャンペーンを毎日モニタリングしています。同社が収集した何百ものデータによると、ここ数年で目立つようになったNGOの戦略は投資家を主な標的にすることだ、と伺いました。これは、投資家が企業の財務的な基盤に深く関与しており、企業自身よりも影響を受けやすい、とNGOが考えているためです。
投資家が標的になった気候変動に関するキャンペーンの多くは石油・ガス関連である一方、石炭関連のキャンペーンは、COP26における世界の脱石炭に向けた合意を受けて減少しています。しかし、最近急浮上しているもう1つの重要な問題は農業関連であり、投資家は石炭関連以上に農業関連の問題に関して強い圧力を感じ始めています。
講演ではこれらのことを教えていただきました。では、農業関連のどのような産業やトピックがNGOのターゲットになっているのでしょうか。
Blood氏:農業は間違いなくキャンペーンが増加しているトピックです。農薬、土地利用の変化、森林減少といった問題との関連で、NGOにとって農業はかねてから重要な問題でした。今、起きている新しい動きは、化石燃料セクターを攻撃するために編み出された戦術と全く同じものが、農業セクターにも適用されていることです。特に目の当たりにしている新しい標的は、農業への融資に対してです。一般の人は、農業にどれくらい資本が投下されるかをあまり理解していないと思います。農業と聞くと小規模農家を想像しがちですが、実際には農業はしばしば巨大企業によって行われており、資金調達が必要です。
そのため、主要な事業の一部として農業への融資を扱っている銀行が台頭してきました。これらの銀行はすでにNGOからの圧力を受けており、農業(畜産業を含む)への融資の気候変動インパクトを認識し、関連する問題に対処することを迫られています。畜産は、比較的エネルギーを浪費し、牧草だけでなく飼料作物を育てなければならないため、NGOにとって大問題です。食品産業、農産品産業、大規模農業は、NGOの標的になる可能性を十分に認識しています。しかし、現在見られる新しい動きは、金融セクターも同様に標的にされているということです。
事業活動に関連するNGOとのエンゲージメント
田原:講演では、NGOとのエンゲージメントが進んでいる欧州と米国から、NGOとの対話について学べるポイントが紹介されました。その1つとして、NGOは絶えず問題を提起し何を変えるべきかを提言するため、新しいサステナビリティリスクを知るにはNGOに注意を払うことが重要だと指摘されました。しかし、サステナビリティのリスクは産業によって異なります。どのNGOが自社の産業と関連しており、話を聞きコラボレートすべきか、企業がNGOを特定する際のアドバイスをいただけますでしょうか。
Blood氏:企業にとって自社の問題に適切なNGOを特定するのは難しいことです。どのNGOが最も手厳しく批判を展開しているかはある程度把握できるかもしれません。企業はその圧力をすでに感じている可能性もあります。もう一つ難しい点は、NGOコミュニティは産業界のように統制されていないことです。いうなれば、事業活動ごとにはなっていないのです。問題別に編成されており、大小の環境団体、大小の人権団体、大小のアニマルライツ団体が存在している、という具合です。
企業として最初にすべきことは、自社の事業活動がどの種類の問題カテゴリーに当てはまるかを理解することです。畜産農業や動物に関わる事業なら、アニマルライツが問題になります。医薬品業界も動物実験が関わるので、やはりアニマルライツが重要になるでしょう。例えば、鉱業、石油、ガスの企業が該当しますが、新興経済国や発展途上国で事業を展開している場合には、現地でのコミュニティに対する影響を考慮し、人権が切り離せない問題になります。現在では、サプライチェーンの拡大により、人権や環境問題の影響を受けない企業はほとんどありません。
つまり、事業内容とそのインパクトを考え、それに該当するNGOを探すという手順です。付け加えると、産業別のNGOも存在しますが、概して小規模です。鉱業やそのインパクトが専門のNGO、農業が専門のNGOなどがあり、彼らは重要な組織ですが、単一のテーマに強くこだわるため、対話が難しいことがあります。交渉の余地はあまりありません。
一方、あらゆる業界をカバーする環境団体とは、業界の背景事情や実行可能なことを話し合うことができ、交渉可能です。こうした環境団体は深い理解を示し、大局を見る傾向があります。いずれにしても、自社ビジネスを見直すことから始めて、サステナビリティリスクの観点からビジネスを分析してください。その後、分析したリスクに関する運動をしているNGOを探し、どのようなアプローチで問題に取り組んでいるかを確認してください。
グリーンウォッシュ問題で企業の信頼性が問われる。情報開示対応で企業は透明性と実質的改善を
田原:講演では、ある環境NGOがさまざまな米国団体ととった活動により、グリーンウォッシュが一般市民の意識に浸透し、その結果としてグリーンウォッシュに対する新しい規制が作られたことが紹介されました。EUのDirectiveや情報開示の規制が世界中で制定されてきており、グリーンウォッシュもその背景にあります。しかし、それらの規制により、多くの企業が法定の情報開示対応のみにフォーカスしている現状があります。幅広く持続可能なビジネスの観点から、企業がどのような取り組みをすべきか、最後にアドバイスをお願いいたします。
Blood氏:興味深いと同時に、お答えするのが難しい質問ですね。サステナビリティ報告の歴史は、サステナビリティへの取り組みを法制化したくない政府が、報告を義務付けることで企業は自ら変わるだろうと考えたことに始まります。自社の活動が見えるようになると、おのずと改善を考えるようになるでしょう。また、企業同士が見栄えのするサステナビリティ報告を競い合うようにもなります。つまり、報告は事実を明らかにするためではなく、変化を促すためのものでした。しかし報告は企業にとって重荷でした。
一方、グリーンウォッシュは別の問題です。これは並行するトレンドだと思います。グリーンウォッシュは、企業がサステナビリティの取り組みを語るときに、環境保護をめぐる議論で正しい側にいると見なされたい、ステークホルダーの懸念や要望に応えることが重要だ、と考えているため起こります。そこで正しいことをしていると思われたいあまり、企業はトラブルを引き起こすことがあります。「会社が規制当局から疑われているのはマーケティング部門のせいだ」と、それはそのとおりかもしれません。なにしろマーケティング部門はオーディエンスに向けて今風の説得力のある表現を使うのが好きですから。
意味はどうであれ、「当社はカーボンニュートラルです」「サステナブルカンパニーです」「これはサステナブルな製品です」といった表現は、一見すると魅力的に聞こえます。かつては「グリーン」という言葉を使っていましたが、今は「サステナブル」が主流です。ただし、サステナブルのほうがカバー範囲の広い言葉です。要するに、グリーンウォッシュの議論は、一部の人が使う誇張表現や誤解を招く言葉づかいを抑制する役割を担い、真剣にサステナブルであろうとする企業がその活動により認められるようにする役割を果たすという意味で、おそらく理にかなっていたと思います。
報告に関して言えば、企業に申し上げたいのは、なぜ報告が必要なのか、その理由に立ち返ってみることです。報告はパフォーマンスを改善するためにあるはずです。報告をパフォーマンスの尺度として使用するなら、今年のサステナビリティ報告書は来年には改善が見られ、5年後にはさらに向上しなければなりません。目標や計画があれば、報告は具体的で有意義なものになります。しかし、単に義務としてこなすだけでは、規制当局を満足させる以外の成果はあまり期待できないでしょう。
田原:本日はどうもありがとうございました。
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