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2021-05-14
(左から)磯貝 友紀、亀澤 宏規氏、坂野 俊哉
2020年4月に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の社長に就任した亀澤宏規氏は、持続可能な環境・社会が同社の持続的成長の大前提であると考え、環境・社会課題の解決と経営戦略を一体と捉えた事業運営を目指しています。そのビジョンをどのように具現化していくのか。PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスの坂野俊哉と磯貝友紀が聞きました。
鼎談者
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ
取締役 代表執行役社長 グループCEO
亀澤 宏規氏
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
エグゼクティブリード
坂野 俊哉
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
テクニカルリード
磯貝 友紀
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
坂野:PwC Japanグループではサステナビリティ経営の推進において、金融分野は非常に重要な役割があると考えています。金融機関がサステナビリティ投資への方針を打ち出すことは、投資先企業に大きな影響を及ぼし、ひいては市場、社会全体への変革につながるとも言えるからです。御社では経営アジェンダとしてサステナビリティに関する取り組みを加速されていますが、まずはその背景にあるお考えをお聞かせください。また、亀澤社長ご自身が、サステナビリティの重要性を認識するに至ったきっかけはありますか。
亀澤:世の中の流れとして、環境や社会課題にどう貢献していくかということを多くの人が意識するようになりました。当社の従業員もそうですし、投資家もそうです。特に若い方々と話していると、環境や社会のことを考えている人が非常に増えたことを感じます。
そのような中で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が起きました。世の中が改めて、社会とは何か、コミュニティとは何かを深く考えるようになり、コロナ禍以前からあった環境や社会への貢献を意識するというトレンドがより加速しました。
私個人としても、在宅勤務が増え、それによって、社会やコミュニティの大切さをすごく意識するようになりましたし、普通に生活ができる環境・社会の大切さを痛感しました。自分の子供たちを含めて、次の世代が普通に生活できるよう、環境や社会を保全していく責任が私たちにはあると思います。
ですから、私は「持続可能な環境・社会がMUFGの持続的成長の大前提」と考えています。環境や社会が持続可能でないと、われわれも成長できない。環境・社会が健全でないと会社も健全ではいられないし、逆にわれわれが健全でないと環境・社会も健全ではいられないからです。
坂野:かつて経済、環境、社会はそれぞれ別々に捉えられる時代があり、その後それぞれ部分的に重なり合うことが認識される時代を経て、今やこの3つの要素は完全に重なり合っていると認識することが必要となっています。私たちはこれを親亀と子亀の関係に例えています。親亀(環境価値)の上に乗っている子亀(社会価値)、孫亀(経済価値)は、親亀が転ぶと一緒に転んでしまう。環境価値が脅かされると、社会価値、経済価値も大きなダメージを負ってしまうのです。亀澤社長がおっしゃるように、今回のコロナ禍で多くの人がそのことに納得されたと思います。
一方で、それを概念としては理解できるものの、事業としては短期的に採算を合わせなければ、企業として持続できなくなる恐れがあります。その点が非常に悩ましいと感じている経営者がたくさんいらっしゃるのも事実です。
亀澤:私は最近、「順番を逆にする」とよく言っているのですが、私たちはどうしても先に業務ありきで考えてしまいがちです。例えば、業務としてお客さまに貸し出しをして、それが環境・社会にどうつながっているかという順番で考えることが往々にしてあります。しかし、その順番を逆にする発想の転換が必要だと思います。私たちMUFGが、「環境・社会課題の解決と経営戦略を一体と捉えた事業運営を目指す」と言っているのは、そういうことです。それこそが、当社の存在意義でもあり、ミッションでもあります。
中期経営計画の策定において、環境・社会課題の解決と経営戦略を一体的に捉えることを強く意識しています。MUFGは事業本部制を敷いており、デジタルサービス、法人・リテール、コーポレートバンキング、グローバルCIB、グローバルコマーシャルバンキング、受託財産、市場の7つの事業本部があります。
各事業本部が経営戦略を考えるに当たって、直面している社会課題は何か、その解決に向けて私たちは何をするのかという順番で考えるようにしています。事業本部ごとに直面している社会課題は異なり、環境問題もあれば、少子高齢化や事業承継といった課題もあります。そうした課題の解決に対して、事業本部としてどう貢献できるのか、私たちが持っているツールやソリューション、ネットワークなどを課題解決にどう生かせるのかという発想で中期経営計画を策定しています。
坂野:環境・社会課題の解決を第一に考えて本業に取り組むということですね。環境価値と社会価値を前提にして、経済価値を最大化していく企業経営は、今まさに求められていると思います。環境・社会課題は長期的な視点が必要になりますが、中期経営計画はそれと比較して短期的な視点が必要になります。時間的尺度が異なる課題を結び付け、連動させることはサステナビリティの実現には不可欠な視点です。
亀澤 宏規氏
亀澤:本業で社会課題に貢献するのが私たちの基本的なアプローチですが、今回のコロナ禍で、本業だけではリーチできない部分があることも明らかになりました。例えば、公演などが中止になった芸術関係の方々や生活が苦しくなった学生の皆さん、最前線で感染症に対応する医療従事者などに本業で直接手を差し伸べることができないもどかしさがありました。
そこで2020年6月、前事業年度におけるグループ業務純益の0.5%相当額を社会貢献に拠出する新たな枠組みをつくりました。2019年度に実施した社会貢献活動関連拠出と新たに構築した枠組みを合わせると、グループ業務純益の1%程度になります。
単純な寄付ではなく、拠出の仕方も工夫しました。世の中の大きなトレンドとして、SDGsだけでなく、デジタルがあります。例えば、デジタル技術を使って新たなサービスを始めるときに、学生の方にモニターになってもらいアルバイト料を払う仕組みを設けました。単なる寄付ではなく、自社サービスと学生の収入の機会を合わせました。また、個人のお客さまがアプリやウェブで口座開設や振り込みなどの手続きを行う度に、1件当たり39円をMUFGが医療関係機関に寄付する取り組みを2020年5月に始めたところ、寄付総額は約2カ月で上限の5億円に達しました。
「こういうことをやってくれる会社にいられることを誇りに思う」という社員からの反応がありました。
社会貢献活動の方法を一部の社員が考えるのではなく、みんなで考えられるよう、今回構築した新たな社会貢献活動の枠組みを使って、社員からアイデアを募る「1人50万円プロジェクト」を始めました。「50万円あったら、どういう社会貢献活動をするか」を募集したところ、2,000件ほどの応募があり、社員の社会貢献意欲が高いことがよく分かりました。それぞれのアイデアについて、社員による「いいね!」ボタンで投票を行ったのですが、次世代を担う子供たちの育成に貢献したいというアイデアへの賛同が多かったのが印象的でした。
坂野 俊哉
磯貝:御社は金融機関として多くの取引先をお持ちですが、顧客の企業価値向上に寄与するサステナビリティ活動とは、どのようなものだとお考えですか。
亀澤:環境・社会課題の解決は1人、あるいは1社でできるものではありません。お客さまも私たちも同じ社会の構成員としてそれぞれの役割があります。ただ、企業の持続的成長は環境や社会が持続可能であってこそというのは、私たちもお客さまも同じです。だからこそ、みんなで課題を解決していく。それが社会のあるべき姿だと思います。
サステナビリティが世の中の大きな潮流となっているのは間違いありません。
サステナビリティの取り組みは、できるところから取りあえずやってみることが大切ですが、全体感を理解しておくことも重要です。そういう点で、私たちがお役に立てることは少なくないと思います。
私たちMUFGはいろいろなファンクションを抱えているので、さまざまなお客さまから、多種多様な相談があります。サステナビリティについてどのように情報を集め、どう整理し、どのような活動を行っていくか。また、その活動をステークホルダーにどう伝えていくのか。そういった相談には、われわれの経験を交えてお答えしています。
お客さまのサステナビリティの取り組みに貢献する具体的な活動を紹介すると、一つは三菱UFJ銀行の「サステナビリティ・リンク・ローン」があります。これはお客さまのESG戦略に沿ったサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)という目標を設定し、その目標の達成状況に応じて借入条件が変動する融資商品です。
ごく単純化して言えば、環境や社会に対して良いことをして目標を達成できれば金利が下がり、達成できなければ金利が上がるイメージです。2019年11月には案件を成約し、その後も多くの案件を成約しています。
SPTはお客さまの事業内容やサステナビリティ方針に合わせて設定していきますので、私たちはお客さまのことをよく理解できますし、お客さまも自社の事業が環境や社会にどのようなインパクトを与えるのかを客観的に理解することができます。お客さまと私たちが対話を重ねて、共に成長していくことができる商品設計となっています。
磯貝:社会課題を起点とした変革がお客さまにとっても重要だと考えていらっしゃるわけですね。SPTの達成状況によって利率が変わるということは、御社としては短期的に利益を損なう可能性もあるわけですが、顧客企業の環境・社会との調和が、事業の持続性や成長に欠かせないという考えから、リスクを分かち合う商品だと理解しました。
(後編へ続く)
磯貝 友紀
『SXの時代 究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営』(日経BP刊)では、経営者インタビューとともにサステナビリティ経営実現に向けた実践的な内容をご紹介します。