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2021-05-26
(左から)磯貝 友紀、亀澤 宏規氏、坂野 俊哉
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は2020年、チーフ・サステナビリティ・オフィサーを任命すると共に、サステナブルビジネス投資戦略を策定するなど、サステナビリティ経営の推進を加速させています。お金や信用の仲介といった従来の金融機関としての機能を超え、さまざまソリューション機能を持つMUFGが、社会課題の解決を起点に顧客企業の変革や産業構造の転換をどのように支援していくのか。前編に続いて、社長の亀澤宏規氏にお話を伺いました。
鼎談者
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ
取締役 代表執行役社長 グループCEO
亀澤 宏規氏
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
エグゼクティブリード
坂野 俊哉
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
テクニカルリード
磯貝 友紀
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
磯貝:三菱UFJ銀行では「サステナブルビジネス室」を新設されましたが、その目的は何でしょうか。また、多くの企業が、サステナビリティと短期的な利益の両立は難しいと考えていますが、サステナブルビジネス室はどのような時間軸で、どのような目標の達成を目指しているのでしょうか。
亀澤:サステナブルビジネス室は、2019年に立ち上げました。お客さまにとってはポータル、MUFGとしてはサステナビリティ推進のハブとなる組織です。
MUFGにはお客さまのサステナビリティ経営を支援するためのさまざまなファンクションがあります。グループのハブとしてさまざまなファンクションをつなげていく機能を持つのが、サステナブルビジネス室です。
同時に、ポータルとして情報と機能の提供をワンストップで行い、お客さまの持続的な成長を支援するのが、サステナブルビジネス室の目的です。環境・社会課題への対応はビジネスチャンスとリスクの両面があります。サステナブルビジネス室は、攻めと守りの両面からお客さまのビジネスをサポートしていきます。
磯貝:そういう意味ではPwC Japanグループのサステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスもグループ全体のサステナビリティ分野のハブであり、お客さまのポータルとして存在しており、機能や役割はよく似ていると思います。私たちはグループ横断的に、企業が経済価値と環境・社会価値を同時に向上させるサステナビリティトランスフォーメーションを支援しています。また、サステナビリティに資するさまざまなツールを開発するR&D機能を有するとともに、グローバルの知見や経験を集約し、クライアント企業に提供しています。御社のサステナブルビジネス室の活動はどのようなものでしょうか。
亀澤:私たちのサステナブルビジネス室は、お客さまの持続的な成長を支援するため、中長期的なPDCAを回しながらお客さまを支援していきます。
サステナビリティ経営の推進には、MUFG全体としての組織体制の強化が必要です。MUFGの環境・社会課題への取り組みについては「サステナビリティ委員会」で審議し、その審議内容は取締役会および経営会議に付議・報告される仕組みになっています。
また、環境・社会分野の社外アドバイザーを招へいし、専門的な知見からサステナビリティ委員会や取締役会に助言・提言してもらうアドバイザリーボードも設置しています。さらに、2020年5月には取り組みの推進強化と責任の明確化を目的に、チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSuO)を任命しました。CSuOは、サステナビリティ委員会の委員長を務めます。こうしたMUFG全体の組織体制のもと、サステナブルビジネス室が具体的な活動をドライブしていきます。
お客さまの取り組みを支援する具体的な活動の一つとして、前編でサステナビリティ・リンク・ローンを紹介しましたが、MUFGとしては2020年にサステナブルビジネス投資戦略も策定しています。これは、投資判断に経済性(財務リターン)だけではなく、環境社会インパクトも加味したもので、インターナルカーボンプライシング(CO2削減量に将来の炭素価格を乗じて計算する手法)を採用しました。この投資戦略に基づき、インパクト評価を実施する先進的なファンド2本への投資を実行しました。これにより、三菱UFJ銀行出資分ベースでは、年間約5万トンのCO2削減効果が見込まれます。
亀澤 宏規氏
坂野:持続可能な社会を実現するためにはイノベーションを推進する必要があり、それにはリスクマネーが欠かせません。そういう意味からも、御社のサステナブルビジネス投資が果たす役割は非常に大きいと思います。
他方、これまでエネルギーを安定供給し、社会の発展に寄与してきたつもりだったのに、ある日突然、環境保全の観点から、ある事業が批判の対象になるということが今まさに起きています。社会に対して正しい事業とは何なのかという戸惑いを感じている企業もあります。
亀澤:国の成熟度や社会の意識によって、価値基準は異なります。そういう意味で、冒頭に申し上げた自分たちの存在意義、パーパスが非常に重要だと思います。私たちも新たな中期経営計画を立てる中で、パーパスについて議論しました。
融資や決済などの安心・安全な金融サービス、あるいはソリューションを提供することが私たちの主たる事業ですが、突き詰めると自分たちがよって立つ環境や社会に貢献する志がないと、企業としての存在意義は半ば失われてしまいます。
どんな企業でも、もともとは利益だけを目的に起業したわけではなく、パーパスがあるはずです。そこに立ち返ることが重要ですし、私たちMUFGもそうあらねばなりません。
磯貝:サステナブルビジネス投資戦略には、社会・環境の持続可能性を高めるイノベーションや新領域への投資、いわゆるインキュベーション投資も含まれるのでしょうか。
亀澤:三菱UFJ銀行は2020年2月、東南アジアの配車サービス大手で、スーパーアプリ事業を展開するGrab(グラブ)と資本業務提携し、同社に出資しました。Grabの2人の若い創業者は、スマートフォンアプリによる配車サービスの普及で雇用や収入を創出するだけでなく、銀行口座の開設や金融サービスの提供によって、東南アジアの国々を良くしたい、貧困や暴力をなくしたいという理念を強く持っています。イノベーションを促進し、ファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)を実現するという彼らの考え方に共鳴したことが、資本業務提携につながりました。
資本業務提携後、創業者の1人とオンラインで対談した際には、「貧しい人たちに魚を与えるのではなく、魚の釣り方を伝えたい」と語っていました。彼らは社会の役に立ちたいと真剣に考えており、私たちもそこに立ち返らなくてはいけないという思いを強くしました。
出資を決めたのは、デジタルによってSDGsの達成を加速させる必要があると考えたからです。日本はすでにさまざまなインフラが整っていて、日常生活で特に不便を感じることはありません。それゆえに、イノベーションが起こりにくい。いわばイノベーションのジレンマがあります。
一方で、東南アジアなどの新興国はインフラが未整備なため、コストの安い最先端のデジタル技術を活用して旧来型のインフラ整備を飛び越え、革新的なサービスを実現する、いわゆる「リープフロッグ(かえる跳び)現象」が起きています。その要素を日本にも取り込んでいくのが、今回の出資の目的です。
磯貝:原点に立ち返りながら、未来の変革に向けてイノベーションを加速させる。そうした投資は今後も続けていくお考えですか。
亀澤:そうですね。SDGsの達成は、イノベーションが一番の鍵となります。デジタルに限らず、いろいろなテクノロジーを生かすことが重要で、イノベーションに対して、投資を呼び込むことが必要です。
イノベーションが起きる背景には、何らかの必然性があります。それを受け身ではなく、プロアクティブに取り込んでいくために、私たちは投資をします。最初は多少強引と思える投資でも、資金が集まることでイノベーションが促進され、新たなマーケットが生まれます。それが、財務的なリターンにつながっていきます。
当社のお客さまも、そういうプロアクティブな方向に変わっていくように、私たちが金融機関としてどう貢献するかが問われています。産業構造が変わっていく中で、資金やソリューションを提供することで、お客さまを支援するのは私たちがもともと得意とするところですし、最も大きな役割を果たせる領域です。
坂野 俊哉
坂野:MUFGなどの金融機関は、産業構造の転換というトランジションのプロセス全体を、経済の血液であるお金の流れを通して見ることができます。どのプレーヤーが、どこからどこへトランジションしていくのか。どのプレーヤー同士を組み合わせればイノベーションを起こせるのか。それを最もうまく促進できる立場にあるのではないでしょうか。
亀澤:銀行は、預金としてお金を預かり、それを必要とする企業や人に貸し出すという仲介機能から始まり、信用やリスクを仲介する機能へと発展していきましたが、今はお客さまの課題に応じてソリューションを提供することが大きな役割になっています。
例えば、後継者がいなくて事業承継がままならない、いい製品を持っているがどうやって販路を開拓すればいいのか分からない、素晴らしい技術者はたくさんいるがしっかりとしたガバナンスが機能していないなど、企業によっていろいろな課題があります。
そうした課題を伺っている中で、私たちが資金を提供するよりも、優秀な人事部長を紹介したほうが、その企業の課題を解決できるということもあります。販路開拓の方法が分からないお客さまや、技術パートナーを探したいといったお客さまは、私たちが開催している大規模商談会に参加していただければ、販売先や提携先が見つかるかもしれません。ベンチャー企業向けの商談会やサポートプログラムもあります。今は資金を提供することだけが、私たちのソリューションではないのです。
ただ、ソリューションの幅が広がるにあたり、⼀つ⾜りないと感じるのは、その付加価値を測る指標のようなものです。お客さまや社会に対して正しいことをすることが、どのような経済価値を⽣み、持続的な成⻑につながっているのか。それが、非財務資本が生む財務的価値を示す指標なのか、何か別のものなのかは、まだはっきりしません。産業構造改革へ向けた投資の歯車は回り始めていますが、まだピースが一つ欠けているのです。
しかしながら、みんなが納得できる要素、例えば非財務資本が生み出す価値を可視化する指標が整うまで何もしないという姿勢ではいけません。これは社会に対して正しいことだと判断して、自分たちにできると思えるところから、どんどん始めるべきです。それによってお金の流れが変わってくれば、やがて経済価値にも直結するようになるはずです。
磯貝:サステナビリティは企業の競争力の根源ですが、それをどのように外部とコミュニケーションしていくか、外部からの評価につなげていくかは大きな課題です。PwCも、本質的なサステナビリティ経営が、結果としてきちんと外部評価につながるような「非財務要素の新しい評価方法」の確立に貢献していきたいと考えています。
亀澤:そういう評価方法を確立できれば、お金の流れが変わり、産業構造改革の歯車がもっと速く回ると思います。
坂野:戦略立案に際して、直面する社会課題を先に置いて、その課題解決にビジネスでどう貢献できるかという発想の転換が必要だというお話がありました。トップのそうした発想の転換を社内に浸透させ、どう実行に移していくということに悩んでいらっしゃる経営者も多いと思います。何かアドバイスはありますか。
亀澤:アドバイスというわけではありませんが、私は経営方針の一つとして、「エンゲージメント重視の経営」を掲げています。会社も社員も大きな変革が求められる中、変革の方向性に対する共感を大切にし、社員間や部門間、あるいはお客さまや社会とも共感できる、みんなが参画意識を感じられる会社にしていきたいと考えているからです。
中期経営計画を策定するに当たっても、課長クラスの人たちにアンケートを採りました。SDGs関連の重点課題を100項目ぐらい挙げて、MUFGとして取り組むべきものは何か、個人として関心が高いのは何かといった質問に答えてもらいました。
その結果を経営陣で共有したうえで、議論しました。MUFGの経営会議は、事業本部長やCFO、CROなど15、6人のメンバーで構成されています。そのメンバー全員の意識を合わせるための材料として、アンケート結果を活用したのです。
「自分はこの重点課題が優先だと思っていたけど、課長クラスはこっちなのか」といった気づきがあり、それを踏まえて自分が担当している事業本部では何ができるかを議論しました。今回、新型コロナウイルス感染症によってみんなが社会のことを真剣に考えるようになったので、こうした議論の進め方に誰も抵抗感はありませんでした。
坂野:経営者が方針を決めて、トップダウンで事業計画の数値に落とし込んでいくだけでは、みんなが自分事として捉えられません。一方、社内を巻き込むためにたくさんの人の意見を聞くだけだと、話の収拾がつかなくなって方針が定まらない。エンゲージメントを重視する御社のやり方なら、トップの方針に沿って現場の意見を吸い上げながら、それを考慮して部門の責任者が事業計画の数値に落とし込むことで、経営ビジョンと計画数値に整合性を持たせることができますね。
亀澤:数字に落とし込む段階になると、ビジョンやパーパスの議論が途端にどこかに飛んでいってしまいかねないので、計画をまとめるときに「もう一度、環境・社会課題の解決という原点に立ち返ろう」と念を押しました。原点回帰を自然なサイクルとして回るようにしていくのが、私の役目だと思っています。
坂野:そこはまさにトップの仕事ですね。本日はありがとうございました。
磯貝 友紀
金融機関は、企業に投融資をする主体であることから、他業界に及ぼす影響も大きいものがあります。MUFGではサステナビリティ・リンク・ローンをはじめ、サステナブルビジネス投資戦略やインターナルカーボンプライシングの採用など、サービス、ガバナンス共にサステナビリティ経営の実現に向けて取り組まれています。これは、 社会的にもインパクトがあることです。対談を通じて、環境・社会への課題をしっかりと認識し、自社のビジョンとリンクさせる形で業務につなげること、そして各部門が認識を合わせて取り組んでいくこと、実現のためにはトップのコミットメントが重要であるということを改めて認識しました。
『SXの時代 究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営』(日経BP刊)では、経営者インタビューとともにサステナビリティ経営実現に向けた実践的な内容をご紹介します。