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企業が持続可能性を実現しながら長期的に成長するためのサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)は、気候変動、生物多様性、人権、サーキュラーエコノミーだけでなく、人的資本や価値創造経営も含め、経営戦略に直結する重要テーマだ。しかし、包含する経営課題が広範に及ぶがゆえに、SXに関連するすべての経営アジェンダを網羅できている企業は多くはないのが現状である。「真の“SX”に挑む企業たち ~Striving for a sustainable future~」特設サイトでは、真のSXの実現に挑む企業と、それらの企業を支援するPwC Japanグループとの対話を通して、SXを実現する上でのチャレンジや、その乗り越え方、SXに向けた取り組みのあるべき姿を探る。今回は、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)が人材サービス大手のパーソルグループと議論を深めた。
(左から)坪井 千香子、小野 陽一 氏、村澤 典知 氏、東條 敦 氏、伊賀 泰佑
(左から)小野 陽一 氏、村澤 典知 氏、東條 敦 氏
パーソルホールディングス株式会社
グループサステナビリティ本部 兼 グループコミュニケーション本部 本部長
村澤 典知 氏
パーソルホールディングス株式会社
グループ総務購買本部 本部長
東條 敦 氏
パーソルプロセス&テクノロジー株式会社
執行役員
ビジネスエンジニアリング事業部 事業部長
小野 陽一 氏
(左から)坪井 千香子、伊賀 泰佑
PwCコンサルティング合同会社
マネージャー
坪井 千香子 氏
PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー
伊賀 泰佑 氏
※本稿は日経ビジネス電子版に2024年6月に掲載された記事を転載したものです。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
※2024年9月1日、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社はパーソルビジネスプロセスデザイン株式会社に商号変更しました。
人材サービス大手のパーソルグループが取り組むSXの原点は、グループビジョンの「はたらいて、笑おう。」だ。
「誰もが幸せや満足感を得ながら、自分らしくはたらける社会を目指すことを意味します」と語るのは、パーソルグループ全体のサステナビリティ経営推進を統括する村澤典知氏である。同グループはサステナビリティの取り組みをどのように進めてきたのか――。まずはその経緯を聞いた。
村澤氏:「パーソルグループでは、経営方針や業務執行について協議するHMCという会議体を設置しています。この下部組織として2022年3月にサステナビリティ委員会を設置し、翌月には担当部署としてサステナビリティ本部を発足させました。サステナビリティ本部では、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同、人権方針の発表などを行い、26年3月期までのグループ中期経営計画に合わせて、8つのマテリアリティ(重要課題)を設定しました」
村澤氏によると、8つのマテリアリティは大きく2つのカテゴリーに分類され、「事業を通じた社会課題の解決」として4つ、「持続的成長を実現するための基盤」として4つが選定されたという。前者のマテリアリティは「はたらく機会の創出」「多様なはたらき方の提供」「学びの機会の提供」「企業の生産性向上」であり、後者にはその基盤として「多様な人材の活躍」「データガバナンスの強化」「人権の尊重」「気候変動への対応」という、社会的責任を果たして企業価値を高めようとする項目が並ぶ。
(パーソルグループ提供)
8つのマテリアリティの分類は、「多様な人材の活躍」「データガバナンスの強化」「人権の尊重」「気候変動への対応」の4つが基盤として位置付けられ、「はたらく機会の創出」「多様なはたらき方の提供」「学びの機会の提供」「企業の生産性の向上」の4つが社会課題の解決として設定されている。
PwCコンサルティングで、5年ほど前から人材サービス業界の担当者としてパーソルグループの支援に当たっているのが、シニアマネージャーの伊賀泰佑氏だ。
伊賀:「私がパーソルグループの支援に携わり始めた当時は前の中計の策定期間で、SDGs(持続可能な開発目標)を価値創造ストーリーにどうつなげていくかを模索されていました。その後、社内外のステークホルダーの声を取り入れながら、グローバルスタンダードに照らしてカーボンニュートラルや人権など、様々な課題テーマを候補に挙げ、8つのマテリアリティに絞られました。これにより、SXに向けたグループの取り組みの方向性が明確化されてきたと感じています」
こうして選定された8つのマテリアリティの中でも、とくに大きなハードルとなったのが「気候変動への対応」だという。
村澤氏:「当グループは人材サービス事業を主軸としているので、製造業や流通業などに比べてCO2排出量はさほど多くなく、ダイナミックな取り組みをすることはできません。そこで、自社でのカーボンニュートラルへの取り組みと並行して、社会課題解決への貢献のためにグループ会社のパーソルプロセス&テクノロジー(以下、パーソルP&T)によるグリーン・トランスフォーメーション(GX)ビジネスを推進しています」
パーソルグループでは、自社のカーボンニュートラルの取り組みを「守り」、対外的に提供するGXビジネスを「攻め」と位置付けている。総務購買本部長としてカーボンニュートラルを推進する東條敦氏は、「守り」の施策とその進捗についてこのように語る。
東條氏:「当社の事業は人材サービスなのでもともとスコープ1は多くありませんが、自社事業に関連するスコープ2では徹底した省エネに取り組み、CO2排出量の削減が徐々に進んでいます。また、サプライチェーンも含めたスコープ3では、これから何を下げていくのかを詰めていくという段階です」
カーボンニュートラルに関連して、東條氏がもう1つのポイントとして挙げたのが、業界ぐるみの取り組みだ。
東條氏:「単独の企業では難しくても業界として取り組めば効果も出やすいですし、CO2排出量を削減しにくい人材サービス業界で成果が上がればインパクトも大きいと考えています」
PwCコンサルティングでカーボンニュートラル分野を中心に企業のSXアドバイザリーを務める坪井千香子氏も、東條氏の意見に賛同する。
坪井:「資源も人材も有限の中、各社がバラバラで取り組むと大きな成果は得にくいですし、1社の取り組みには限界があります。業界全体の課題としてパーソルグループがリードしていただければ強いメッセージになりますし、成果をしっかり発信することで業界以外でも多くの人が注目すると思います」
伊賀氏も、「“2050年にカーボンニュートラルの実現”という社会全体の共通目標があるので、業界として共創関係を築きやすいのではないでしょうか」と続ける。
一方、「攻め」のGXビジネスをけん引するパーソルP&Tは、パーソルのグループ企業としてITやエネルギーなどのアウトソーシング事業に取り組みながら、エネルギーマーケットでの知見を蓄積してきた。同社執行役員の小野陽一氏は、GXサービスを立ち上げた経緯をこう説明する。
小野氏:「私たちは業務プロセスを効率化するための実行支援を得意としています。脱炭素の取り組みを進める際には、情報の開示やサプライチェーンの変化といった業務プロセス上の課題が出ることが予想されたため、エネルギー関連の知見と実行支援の強みを掛け合わせたGXサービスを20年からスタートさせました」
GXビジネスではデータをいかに収集するかが重要なポイントだが、営業所の多い企業がデータを収集するためには、大規模な業務設計が必要になる。小野氏によると、この実行部分を担えるプレーヤーが現在は手薄で、パーソルP&Tが存在感を示せているという。PwCコンサルティングの伊賀氏も、パーソルP&Tの実行力に大きな期待を寄せている。
伊賀:「PwC JapanグループもGXビジネスを展開しており、一見すると競合関係に思えますが、当社は戦略策定を得意としているので、実行支援に実績を持つパーソルP&Tとは共創関係として補完し合えると考えています」
さらに、パーソルP&TがGXサービスを構築し、実績を積む中で、より大きな価値創造につながることに気づいたと小野氏は話す。
小野氏:「GXサービスのスタート時には、脱炭素やGXに関連する業務プロセス変革の支援を行う際に、ビジネスを作ることだけを想定していました。しかしより広く社会を見ると、サプライチェーンや産業構造が変わるということは、労働移動が起きることと相関します。パーソルグループは人材サービス事業が主軸なので、これに対してしっかりと向き合い、気候変動のマテリアリティに取り組むことが、カーボンニュートラルに関連する新たな雇用の創出や人材育成にもつながります。そういう意味では、8つのマテリアリティの1つとして『気候変動への対応』を選定していたことは、当グループにとって大きかったと思います」
パーソルグループは人的資本の方針として「多様な人材が“はたらくWell-being”を体現」することを掲げている。8つのマテリアリティにも「多様なはたらき方の提供」や「多様な人材の活躍」が含まれており、人材サービス事業を展開する同グループのSXへの取り組みにおいて、各マテリアリティが相互にリンクしていることが分かる。
パーソルグループの取り組みに続いては、SXの今後について議論が進んだ。村澤氏がポイントとして挙げたのは2点だ。
村澤氏:「1つは時間軸です。基本的には、長期ビジョンからのバックキャストで中期や短期の施策を判断するという考え方ですが、社会課題や法制度の変化が加速しているので、当グループとしての社会課題の捉え方も定期的なアップデートが必要だと考えています。もう1つは、ステークホルダーの拡大です。サステナビリティは未来のためのものなので、投資家や取引先だけでなく、将来の社会の担い手である子どもたちに向けたキャリア支援なども模索できればと考えています」
多くのSX案件に携わる坪井氏も、「投資家だけでなく、幅広いステークホルダーとのコミュニケーションやフィードバックの仕組み作りは重要ですね。また、未来のステークホルダーを重視するという考え方は、バックキャストを行う上でも有効ですし、若い世代はサステナビリティに対する感度が高いのでメッセージが届きやすいと思います」と評価する。
もちろん、課題も少なくない。東條氏や小野氏もホールディングス側と事業側、パーソルグループと投資家との間に意識のギャップがあることを感じているという。
東條氏:「サステナビリティは中長期的な価値創出のための活動なので、ここに注力しなければ責任ある企業として認められない時代だという意識付けをして、ギャップを埋めていく必要があります」
小野氏:「社会貢献であるGXがビジネスとして利益を上げることは会社の持続的な成長にもリンクしますし、産業構造の変化でニーズが生まれるのが人材サービス事業の強みなので、人的資本と絡めて成果を出せるという点は社内外に向けて発信していくべきだと思います」
これを受け、坪井氏はリスク管理の観点からもサステナビリティの重要性を指摘する。
坪井:「SXで後れを取ると、取引がなくなったり規制強化でペナルティーが大きくなったりするリスクがあります。逆にSXを進めることで、企業の事業自体のレジリエンスが高まるほか、投資家や雇用マーケットの評価も上がるため、企業価値の向上につながることは知っておくべきです」
最後に、パートナーとしてのPwC Japanグループに期待することをパーソルグループの3人に語ってもらった。
東條氏:「他業界の事例や海外での取り組みなど、専門的かつフレッシュな知見でアップデートのお手伝いをしていただけると助かります」
小野氏:「世の中の仕組みやフレームづくりで力を発揮していただきたいです。私たちも実行支援の面から共創させていただければと思います」
村澤氏:「様々な業界や自治体などとも接点を持つPwC Japanグループが、ハブのような役割を果たしていただけるとありがたいですね」
このような期待に対して、伊賀氏も「パーソルグループとの共創スキームや業界・企業横断のハブとして役割の型化ができれば、他の社会課題の取り組みにも転用できると考えています。カーボンニュートラルに限らず、様々なテーマで企業や社会の持続性に貢献していければと思います」と応え、今回の座談を締めくくった。