日本でも見え始めた、サステナブル消費の兆し――“未来の暮らし”を提案し、「顧客至上主義」をアップデートする

2022-10-18

※本稿は日経ビジネス電子版に2022年に掲載された記事を転載したものです。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。

PwC Japanグループは、日本・中国・米国・英国の計1万2000人を対象とする「サステナブル消費者調査」を2022年1月に実施した。日本でもサステナブル消費の兆しは見え始めているが、盛り上がりを妨げる“3つの壁”があることが浮き彫りとなった。

日本の消費者は本当にサステナブル商品を望んでいないのか?

米国・ニューヨーク市では9月19日から25日まで、気候をテーマにした世界最大規模のイベント、クライメート・ウィーク(気候週間)が開催中だ。同イベントのように、SDGs、サステナブル推進のアクション、働きかけが全世界で加速している。

一方、日本国内ではどうだろうか。

「日本企業の経営者の中には、『環境や人権などに配慮したサステナブル商品を販売しても、買ってもらえない』と感じている方が少なくないようです。本当にそうなのだろうか?という素朴な疑問をきっかけに、2020年から『サステナブル消費者調査』を実施しています」と語るのは、PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスでリードを務める磯貝友紀氏である。

(右)PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス リード 磯貝友紀
(左)PwCコンサルティング合同会社 パートナー 屋敷信彦

サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスは、日本企業のサステナビリティ経営を包括的に支援するため、20年に本格的に活動を開始した組織だ。「戦略コンサルティングから税務、法務に至るまで、PwC Japanグループ全体の専門性を総動員して、企業の経済価値と環境・社会価値を同時に向上させるサステナビリティ経営の支援を行っています」(磯貝)

海外での勤務経験が長く、欧米のグローバル企業を数多く支援してきた磯貝氏は、11年に帰国して以来、日本の企業経営者と海外の経営者とのサステナビリティ経営に対する温度感の違いを痛感し続けている。その根底にあるのは、日本の企業経営者が抱く「日本の消費者はサステナブル商品を望んでいない」という先入観ではないかと考え、その実態を消費者調査によって検証することにしたのだ。

「20年に実施した調査は、日本の消費者だけを調査対象にしていましたが、22年の調査では、比較検討できるように中国、米国、英国の消費者も対象に加え、調査結果を公表しました。日本と海外とのサステナブル消費に対する意識の違いが、より鮮明になったのではないかと思います」(磯貝)

調査結果を示すだけでなく、長期的なトレンドの行方も洞察

今回の「サステナブル消費者調査」は22年1月に実施された。4カ国でそれぞれ3000人ずつ、計1万2000人の消費者にウェブアンケート調査を行った。Z世代(18~24歳)、ミレニアル世代(25~38歳)、X世代(39~53歳)、ベビーブーム世代(54~73歳)の4つの世代区分に従い、各国の世代ごとの人口構成比に応じてサンプルを収集している。なお、中国については、都市部居住者を主な回答者としている。

また、この「サステナブル消費者調査」には、現状の調査結果だけでなく、「どんな変化の兆しが見えているのか?」「長期的にはどのようなトレンドが描き出されるのか?」といったPwC Japanグループによる洞察も盛り込まれている。

磯貝氏は、「サステナビリティ経営では、大きな潮流がどこに向かっているか、未来を考えることがとても重要です。PwCは未来の変数として、『規制の動き』『人々の価値観』『テクノロジーの新たな潮流』の3つを見ることが重要だと考えています。このうち『人々の価値観』を見る上では、今回の調査結果が非常に参考になると思います」と語る。

PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス リード 磯貝友紀

他国に比べて、日本ではサステナブル商品の購入経験が少ない

「今回の調査結果で浮き彫りになったのは、日本の消費者は、他の3カ国に比べてサステナブル商品を購入する頻度が低いことです」と語るのは、調査および分析を担当したPwCコンサルティング合同会社 パートナーの屋敷信彦氏である。

「過去1年間で、サステナブルな商品を購入した経験があるか?」との問いに対し、「購入したことがあり、今後も継続したい」と回答した人は中国で70%、英国で65%、米国では57%に上ったが、日本は24%にとどまった。

「過去1年間で、サステナブルな商品を購入した経験があるか?」との問いに対し、「購入したことがあり、今後も継続したい」と答えたのは、中国が70%、英国が65%、米国が57%に対し、日本は24%と大きな差が表れた。「購入したことがない」は、日本では4割以上にも及ぶ(出所:PwC Japanグループ「サステナビリティに関する消費者調査 2022」、2022年9月)

ただし、「これが『日本の消費者はサステナブル商品を望んでいない』という先入観の裏付けになるとは言えません。なぜなら、日本の回答者の44%は『商品購入時に、サステナビリティを考慮している』と答えているからです。意識は持っているけれど、目にしたり、手に触れたりする機会がない。あるいは『どれがサステナブル商品なのか分からない』といったことが、購入頻度の差に結びついているのではないでしょうか」と屋敷氏は話す。

実際、今回の調査でサステナブル商品の購入経験がない人が、「身近に売っていない」ことを理由に挙げた割合は、英国が5%、米国は13%に対し、日本は19%に上った。

「サステナブル認証を受けてラベルやパッケージに表示しても、日本の消費者にはなかなか気づかれないことが多いようです。目立つ場所に掲げ、認証の価値をしっかりアピールするといった企業努力が求められる一方で、消費者側も、どのようなマークが付いているのがサステナブル商品なのかといった知識をもっと深める必要がありそうです」(屋敷)

PwCコンサルティング合同会社 パートナー 屋敷信彦

日本のサステナブル市場の成熟を妨げる“3つの壁”

一方、他の3カ国に目を転じると、中国の消費者のサステナブル意識が英国や米国よりも高いことは注目に値する。「環境・社会課題に取り組む必要性を理解・共感し、行動を実践している」と回答した割合は、英国が66%、米国が57%に対し、中国は69%に上った。ちなみに日本は、わずか21%である。

「中国の回答者は都市部に集中しているので国全体の実態よりも高水準となっているのかもしれませんが、PwCの他の調査でも、中国のみならず、インドネシア、ベトナム、エジプトといった新興国の消費者は、サステナビリティに高い関心を示しています。法律やインフラの整備の遅れによって、道路脇のゴミや用水路の汚濁といった環境汚染が身近にあることも理由かもしれません。新興国でビジネスを展開するグローバル企業は、日本以上にサステナブル消費を意識した取り組みが求められそうです」(屋敷)

また、世代別(4カ国合計)では、Z世代の59%、ミレニアル世代の60%が「環境・社会課題に取り組む必要性を理解・共感し、行動を実践している」と回答し、X世代(48%)、ベビーブーム世代(49%)を大きく上回っている。

「若い世代ほど環境問題や人権問題への関心が高く、今後のサステナブル市場をけん引していく潜在性を秘めています。これはどの国にも共通する傾向です」と屋敷氏は見る。

調査結果から見えてきたのは、日本のサステナブル市場は世界と比べるとかなり未成熟であるという点だ。そこには“3つの壁”があるとPwCは分析する。

1つ目の壁は、「価格とアクセシビリティが障害となっている」こと。日本の回答者の30.7%は、サステナブル商品を購入しない理由として「価格が高すぎる」を挙げている。

「とはいえ、日本の場合はサステナビリティ活動によるコストを価格転嫁しづらいのが実情です。安くするために品質や機能を犠牲にすると、ますますサステナブル商品が敬遠されるという悪循環につながりかねません」(屋敷)

結果的に日本のサステナブル商品の種類と量はなかなか増えず、アクセシビリティが向上しないというジレンマを抱えている。

2つ目の壁は、「消費者がサステナビリティに関する情報を得るための媒体が限られている」こと。他の3カ国ではSNSなどの様々な媒体から情報を得ているのに対し、日本ではテレビからの情報に偏っている。

そして3つ目の壁は、「身の回りのサステナブル行動は実践しているものの、サステナブル行動は実践していない」ことだ。日本は、「買い物のときにエコバッグを持参する」(60%)、「日常生活の中で節電や省エネを心掛ける」(42%)といった行動については他の3カ国よりも高い回答割合を示しているものの、「社会や環境に配慮して作られた商品を買う」との回答は、わずか7%と低い。屋敷氏は、「身の回りの行動のほうが効果的だと考えており、商品購入を通じた貢献が理解されていないことがうかがえます」と分析する。

日本の回答者がサステナブルな商品を購入しない/できない理由は、「価格が高すぎる」が30.7%で最も高く、「身近に売っていない」(19.6%)、「商品の選択肢・種類が少ない」(13.6%)と、アクセシビリティを理由に挙げる回答が続いた(出所:PwCグループ「サステナブル消費者調査」、2022年9月)

消費者の変化を待つのではなく、企業が自ら市場を創り上げる

だが、調査結果を時系列で見ると、日本の消費者のサステナブル意識にも変化の兆しは表れ始めているという。

「20年の調査と比べると、サステナビリティ関連用語の認知度・理解度は4~5倍以上に高まっています。Z世代やミレニアル世代などの若年層は、自らネットで情報を調べ、店員にどれがサステナブル商品なのかを確認するなど、情報やアクセシビリティの壁を越えて、能動的にサステナブル消費を行おうとしているのです。この変化の兆しを見過ごすことなく、より幅広い層にサステナブル消費を促すような取り組みを行っていくべきです」と屋敷氏は提言する。

SDGsについて、「人に説明できる」「大まかな意味はわかる」と回答した日本の消費者の割合は、過去3年間で4~5倍以上に拡大している。サステナビリティ関連用語の認知度・理解度は高まっており、これをいかにサステナビリティ市場の形成に結びつけられるかが問われている(出所:PwCサステナビリティ合 同会社「サステナブル消費者調査 2019」、PwC Japanグループ「サステナビリ ティに関する消費者調査 2022」、2022年9月)

磯貝氏は具体的な取り組みとして、「ただ消費者の変化を待つのではなく、企業が自らサステナブル市場を創り上げていくことが必要です」と述べる。

「サステナブル市場が成熟している欧州では、NGOの積極的な活動によって市民の意識が高まり、それを受けて規制が整備され、企業が規制に沿った商品を開発するというサイクルによって市場が形成されてきた歴史があります。日本では欧州ほどNGOの発言力が強くないので、同じモデルは期待できませんが、逆に日本の消費者は大企業に対する信頼性が高いので、企業が率先してサステナブル市場づくりに取り組めば、消費者の意識と行動を変えることができるはずです」(磯貝)

「顧客至上主義」の概念をアップデートする

企業主導によるサステナブル市場づくりのポイントとして、磯貝氏は「『顧客至上主義』の概念をアップデートすること」を挙げる。

「従来の『顧客至上主義』は、とにかく消費者のニーズに応えることでした。しかし、気候変動をはじめとする中長期の環境・社会課題は、自分たちの未来の暮らしを脅かすリスクであるということを、消費者はまだ必ずしも認知できていません。それに気づいてもらうため、企業が先回りして環境・社会課題に対応し、“未来の暮らし”を提案することが、これからの『顧客至上主義』と言えるのではないでしょうか」(磯貝)

さらに、屋敷氏は、「企業が自らサステナブル市場づくりに取り組むことは、自社のブランド力強化にもつながります」と指摘する。

PwCの調査・分析によると、サステナビリティ活動によって得た消費者からの好感や信頼は、「他商品よりも、あの会社の商品を選びたい」という選好プレミアムを生み出す効果が大きいことが明らかになっているのだ。

屋敷氏は「ただし、サステナビリティ活動によってファン層を形成するまでには、相当の時間がかかります。消費者の意識が高まるのを待ってからでは間に合わないので、今からでも活動を始めたほうがいいでしょう。PwCはその取り組みを全面的にサポートいたします」と語った。

主要メンバー

磯貝 友紀

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

Email

屋敷 信彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}