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2017-04-27
本コラムでは、「プライベート・エクイティ業界におけるESG/責任投資の潮流 ~グローバル調査からの示唆~ 第1回」として、中長期的な企業価値向上への関心が高まる中でのプライベートエクイティ業界のESG/責任投資の潮流について説明しました。第2回では、グローバルレベルでプライベート・エクイティ運用会社を対象に、2016年にPwCが独自に実施したESG/責任投資に関する調査結果、および調査結果から得られた示唆について考察します。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。
PwCは、長年プライベート・エクイティ業界におけるESG/責任投資の動向を注視してきました。その中で、2016年に3年ぶりに世界22カ国111社のプライベート・エクイティ運用会社を対象にグローバルレベルでの調査を実施し、調査レポート“Are we nearly there yet? Private equity and the responsible investment journey(※4)”を発表しました。本調査によると、8割近くのプライベート・エクイティ運用会社がESG/責任投資のための方針、活動、および方法を取り入れていると回答し、3年前の調査からこれらの取り組みが大幅に増加していることが分かりました。興味深い点として、2013年と比較して、ESG/責任投資の取り組みの第一の理由である「リスク管理」の割合が増加し、「投資家からの要求」の割合が減少したことが挙げられます。これは、投資家からの要求をきっかけに、ESG/責任投資の取り組みが開始されたという状況から、ESGを適切に管理することにより、リスク管理上の実務的なメリットを享受することができるという認識が広がった結果だと考えられます。
【図1】ESG/責任投資に取り組む理由
上位3位までを含む
上位1位のみ
本調査では、回答の半数以上(60%)が常に投資対象企業のESGリスクを確認しており、回答の84%が重大なESGに関するアクションおよびパフォーマンスに関して投資先企業の取締役会において報告を行っていることが分かりました。また特筆すべき点として、回答の41%が高いESGパフォーマンスを有している企業に対して、プレミアムを支払う意思があると述べています。ESG/責任投資の対応方法は個々の運用会社により異なりますが、組織全体としてESG/責任投資の意義を理解し、投資先選定からイグジットまでの一連の投資プロセスおよびステークホルダーとのコミュニケーションにおいて、体系的にESGを組み込み、投資先企業のリスク管理および価値向上につなげることができるかが重要になります。
さらに本調査では、初めて国連の17の持続可能な開発目標(SDGs)に関するプライベート・エクイティ運用会社の見解を伺いました。SDGsとは貧困、健康、クリーンエネルギー、責任ある消費などの主要な世界的課題を解決するため、2015年に193の加盟国により採択された世界的な開発目標です。従来、プライベート・エクイティ業界は、このような国際的なイニチアチブに対する活動は活発ではないのですが、回答の半数弱(44%)がSDGs対する影響を評価することを計画しており、驚くべきことに、一定数の企業が既に主体的に対応に着手していることが確認されました。本調査の参加者は欧州のプライベート・エクイティ運用会社が多いことを踏まえると、積極的な対応によるビジネス上での利点も多いことが考えられますが、今後、各国政府は法規制や政策を通じて、公的・民間部門における2030年までの15年間にSDGsを推進するためのさまざまな取り組みを促進していくことが予想されます。プライベート・エクイティ業界においても、投資家や取引先・売却候補先となる大手企業の動向により、SDGsと事業との関連性に対する評価および情報開示、新たなファンドの創出など、さまざまな取り組みが推進される可能性を秘めています。
一方、課題として25%のプライベート・エクイティ運用会社は、ESGに対応するリソースを内部に有しておらず、ESGに関する研修・教育を提供できていないと回答しています。適切に人材、手順、ツールを整備することにより、投資先企業に対するエンゲージメントやモニタリング、また投資先企業の取締役会や投資家への報告を確実に実行することが可能となります。今後、中長期的な企業価値の向上という観点から、GPIFをはじめとした機関投資家、政府機関、および一般社会からのESG/責任投資の対応に関する圧力はより一層高まることが予想されます。プライベート・エクイティ業界においても、適切なESG方針・管理体制の構築および運用することにより、円滑な投資先企業の選定、買収、企業価値向上、そしてイグジットが可能となるという合意形成がステークホルダー間で認識されつつあります。特にプライベート・エクイティ業界では、このようなESG活動全般を公表している会社は非常に限られていることから、今後外部ステークホルダーとの対話を通じた透明性の確保が必要となります。
それでは、プライベート・エクイティ投資において、具体的にどのようにESG/責任投資を組み込むべきなのでしょうか。前述の調査結果では、ESG/責任投資を行うドライバーとして、リスク管理やオペレーションの効率化などの実質的な理由が挙げられました。
ESG/責任投資は、単にレピュテーションの維持・向上に寄与するものだけではなく、投資プロセスにおいて、実質的な価値につながるアプローチを行うことが可能です。
前述のように、多くのプライベート・エクイティ運用会社は、一連の投資プロセスにおいてESGをどのように統合するかを規定したESG方針の策定・運用をはじめています。加えて、先進的な会社は、ESG方針を適切に運用するためのESGの管理体制(例:ESG委員会や専任者の設置など)も同時に構築し、ESGを含めた非財務側面におけるKPIを設定し、どのように財務パフォーマンスに影響を及ぼしているかの分析もはじめています。
このように適切なESG方針・管理体制の構築および運用することにより、以下のようなメリットを生み出すことが可能となります。
【図2】ESG対応によるメリット
上述した先進的なプライベート・エクイティ運用会社がESG方針を策定し、投資先企業に対してESGの取り組みを行うのもこのようなメリットを理解しているからに他なりません。事実、ESGを含む非財務要因に対するデューデリジェンスおよび買収後の投資先企業のリスク管理の対象は、従来のスコープであった土壌地下水汚染やアスベスト・PCBの処理・対策費用の算定だけではなく、将来の環境・社会面の規制の強化や動向、気候変動にかかわる物理面・財務面のリスク、国内外の従業員やサプライチェーンにおける労務問題、人権問題など多岐にわたります。これらの問題に関しては、一般的なデューデリジェンスのパッケージでは対象となっていないものがほとんどです。投資先企業のイグジットが5~7年後と想定すると、売却候補先となる政府ファンド、上場企業、海外ファンドはより一層ESG対応を強化するものと考えられます。
主に未上場企業の株式への投資を行うプライベート・エクイティ・ファンドは、このようなESG/責任投資の潮流からの影響は少ないという印象を受けますが、むしろ投資先企業の株式の半数以上を取得して経営に深く関与するハンズオン型投資ではESGの統合によるリスク管理やバリューアップの施策を実行しやすい状況にあると言えます。しかしながら、日本においては投資先企業が中小企業であることがほとんどであるため、ESG/責任投資という概念は理解されないことが多いのが現状です。ESG/責任投資という専門用語をそのまま使うのではなく、個々の事業、サプライチェーン、取引先との関係において、ESGがどのように関係しているか十分に咀嚼して説明し、双方が合意可能かつ具体的なKPIとして設定することが、企業価値の向上につなげる鍵となります。日本のプライベート・エクイティ業界において、ESGの統合への取り組みは発展途上ですが、今後もプライベート・エクイティ業界における新しい動きや国内外の投資家の意識の変化を注視していきたいと思います。
堀江 雄太
PwCあらた有限責任監査法人
マネージャー
地球環境戦略研究機関(IGES)に入所し循環型ビジネスモデルに関する政策研究に従事。その後外資系環境コンサルティング会社にて、投融資やM&Aにおける環境社会デューデリジェンスを担当。2011年より現職。主にプライベート・エクイティ(PE)運用会社、大手金融機関および商社向けのESGアドバイザリー業務に従事。米国ミシガン大学大学院自然資源環境学修了。