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2018-07-09
欧米諸国に続き、日本においてもサステナブル/ESG投資(以下、サステナブル投資)が盛り上がりを見せつつあります。国内32の機関投資家から昨年9月に寄せられた情報によると、日本のサステナブル投資の合計額は前年比2.42倍の約136兆6000億円に達し、各機関における総運用資産残高に占めるサステナブル投資の割合は前年の16.8%から35.0%に増加しました1。これは企業側の実感とも一致しており、2017年の春にPwC Japanグループ(以下、PwC)が開催したセミナー参加者の88%が、3年前に比べて株主・投資家のESGに対する関心が高くなったと述べています2。
今回のコラムでは、グローバルに拡大するサステナブル投資について概説した後、企業と投資家に活用されているサステナビリティ格付けについて考察したいと思います。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします。
【注記】
1 日本サステナブル投資フォーラム(2017). 第3回サステナブル投資残高アンケート調査
2 PwC調べ(調査期間は2017年3月(n=125))。PwCのセミナーの参加者(企業のサステナビリティ/CSR部、経営企画部、IR部、広報部、総務部、環境管理部所属の方)にお答えいただいた。
サステナブル投資の拡大の背景には、国際機関や各国政府に取引所、投資家(個人投資家3、4を含む)、消費者・顧客をはじめとするステークホルダーからの要請があります。また、米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)、国際統合報告評議会(IIRC)などの基準策定機関の取り組みにより、サステナブル投資のための環境が整備されると同時に、サステナブル投資の経済合理性に関する研究も進んでいます。
【図表1】サステナブル投資をめぐる企業と機関投資家に対するドライバーのイメージ
出典:各種資料を参考にPwC作成
世界のサステナブル投資の残高は、2014年から2016年にかけて25.2%(年平均11.9%)増加し、総資産運用残高の約4分の1に相当する22兆8,900億米ドル(約2600兆円)に達しています5。特に欧州、オーストラリアおよびニュージーランドにおいては資産運用の過半がサステナブル投資となっています。
【図表2】サステナブル投資残高と総運用資産額に占めるサステナブル投資の割合
出典:Global Sustainable Investment Alliance (2014; 2016)を参考に作成
国内では、昨年7月に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が「長期的な企業価値向上」と「日本株のパフォーマンス向上」を目的として、サステナブル投資を開始しました6。英 Financial Times紙は、“The ethical investment boom”と題した全面記事7の中で、サステナブル投資をめぐる世界の代表的なニュースとしてGPIFの動きを伝えました。
GPIFの発表から3カ月間に、日本経済新聞に掲載された「ESG投資」という用語を含む記事は前年同時期の3倍を超える約70となりました。2015年にGPIFが国連責任投資原則(PRI)に署名する前までは、国内の一般紙がサステナブル投資について報じることはほとんどなかったように思います。
なお、サステナブル投資の起源と発展の経緯については、コンサルタントコラムのバックナンバーをご覧ください。
【注記】
3 Morgan Stanley (2017). Morgan Stanley Survey Finds Interest in Sustainable Investing Stronger than Ever
4 Povaddo (2017). Corporate America’s Point of View
5 Global Sustainable Investment Alliance (2014; 2016). Global Sustainable Investment Review(欧州については、2014年から2016年にかけて用語の定義が異なる点に留意が必要)
6 GPIF (2017). ESG指数を選定しました[プレスリリース]
7 James Kynge (2017). The ethical investment boom, Financial Times
ここでは、第三者が一定の基準に沿って企業のサステナビリティに関する情報を抽出・分析し、投資家や一般消費者に伝えるものを「サステナビリティ格付け」と総称します。リサーチ会社、指数会社、シンクタンク、証券取引所などが関与し、数多くのレーティング(点数付け)、そして(そのレーティングに基づいて)さらに多数のインデックス(指数)やランキング(順位付け)が開発されています。
サステナブル投資の現場でサステナビリティ格付けがどのように使われているかについては、投資家の種類(アセットオーナーかアセットマネージャーか)や投資のスタイル(アクティブかパッシブか、短期保有か長期保有かなど)によってさまざまです。アセットマネージャーは複数のサステナビリティ格付けを組み合わせて企業分析や企業との対話に用いることが多いようです。GPIFは、サステナビリティ格付けをパッシブ(インデックス)投資のベンチマークに使用しています。また、先日お話ししたある海外のアセットオーナーは、投資先企業のサステナビリティ格付け結果について、委託先のアセットマネージャーと議論したというエピソードを教えてくれました。なお、資本市場全体の動向として、近年多額の投資資金がアクティブ投資からパッシブ投資に流入していますが8、パッシブ投資においてはサステナビリティ格付けに依拠する場面が多くなるとする見方もあります。
【注記】
8 Moody’s Investor Service Inc. (2017). Passive investing to overtake active in just four to seven years in US; global traction to pick up
ここでは、世界で最も認知度と信頼性が高いといわれる9サステナビリティ格付けである「Dow Jones Sustainability Index(以下、DJSI)」を例に見ていきたいと思います。
多くの指数における企業評価は、専ら公開情報に基づく明快なものです。一方、RobecoSAMが実施するDJSIの評価には、公開情報に加えてイノベーションマネジメントなどの非公開情報も含まれます10。どちらにも利点はありますが、RobecoSAMが非公開情報を扱う理由として、同社のエドアルドガイ氏(Head of Sustainability Services)は、「当社の評価のアプローチは、企業の財務分析と同じである。公開情報やアナリストレポートを見るだけでは投資判断はできない。個別の質問に対する回答を得て初めてその企業を評価することが可能になる。」と説明しています。
また、機会や価値創造を主眼に一部の厳選された先進企業(ベストインクラス)を組み入れる指数であるDJSIのWorld Index には、原則としてユニバースの10%、Asia Pacific Indexには20%が選定されます(日本企業に限ると、2017年の選定率はそれぞれ10.4%と18.9%)。
【図表3】DJSIとGPIF選定の3指数それぞれのユニバース企業数と構成銘柄数
出典:RobecoSAM、FTSE Russell、MSCIの各種資料を参考に作成
DJSIに参加する日本企業の方から得た「取り組む主な理由」についての回答は、多い順に下記4つに分類することができます11。
前年に続き、「サステナビリティマネジメント」が最大の動機づけとなっています。具体的には、全体の約80%の方が「目標値の設定や他社比較」や「最新のサステナビリティのテーマやトレンドの把握」などのサステナビリティマネジメントに活用することを目的にDJSIに取り組んでいます。
特筆すべき変化に「株主・投資家対応」あげられます。同回答は前年から大きな伸びを見せ、「企業イメージ・ブランディング」を抜いて2番目となりました。実際、前年の40%に対し、直近では半数以上の方が、株主・投資家や運用会社とサステナビリティ格付けについて対話したと回答しました12。
【図表4】日本企業がDJSIに取り組む主な理由の推移(各社上位3つ)
出典:PwCの調査結果13を参考に作成
さらに、DJSIに取り組んだことによって実際に得られた効果については、前年に続き90%近くが「取り組みや情報開示の向上の参考にすることができた」と回答しました。2番目に多かったのは、「サステナビリティマネジメントの目標値の設定や他社比較に活用できた」という意見でした。
興味深いのは、次に多い「社内におけるサステナビリティへの理解が向上した」(42%)と「部門間の連携や情報共有が促進された」(37%)という回答です。DJSIの回答準備は多くの人員と時間を要する大変な作業ですが、そのプロセス自体がもたらす効果を実感している方もいるようです。
【図表5】DJSIに取り組んだことによって得られた効果
出典:PwCの調査結果14を参考に作成
【注記】
9 GlobeScan and SustainAbility (2013). The 2013 Ratings Survey Polling the Experts
10 ただし、いずれの指数も、深刻な不祥事が発生していると判断される企業は組入れの対象外となる場合や減点を受ける場合がある。
11 PwC調べ(調査期間は2016年10月(n=85)と2017年10月(n=84))
12 PwC調べ(調査期間は2016年10月(n=76)と2017年10月(n=96))
13 PwC調べ(調査期間は2016年10月(n=85)と2017年10月(n=84))
14 PwC調べ(調査期間は2017年10月(n=84))
全ての企業に有用な唯一の最善策はありませんが、多くの日本企業が実際にサステナビリティ格付けを基準としてベンチマークや新しいトレンド把握に活用しています。トレンドの把握については、例えばDJSIは、過去にはサプライチェーンマネジメント、その後は税務戦略、最近ではSDGs(持続可能な開発目標)や政策立案への関与を評価項目に追加しています。
世界には数百のサステナビリティ格付けが存在しますが、それぞれの評価の特徴や着眼点(リスクマネジメントなのか価値創造なのか)を理解することが基準として活用する際の使い分けと使い方のポイントになると思います。
投資家が非財務情報をますます重視するようになっている15一方、多くの企業が投資家の求める情報を開示できていない16のが現状です。そんな中、主なサステナビリティ格付けは、いずれも対外的な情報開示を企業に促すよう設計されています。質の高いサステナビリティ格付けの評価項目に沿って企業の情報開示が向上すれば、投資家はより包括的な情報に基づいた投資判断をすることが可能になり、好循環が生まれます。しかし、サステナビリティ格付けの評価項目が定型的なチェックリストになってしまうことがないよう、注意が必要です。
また、FSB(金融安定理事会)が設置したTCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)がまとめた提言や、パブリックコメントを経たSASBのスタンダードは、既に一部のサステナビリティ格付けにも反映され始めており、企業に期待される取り組みと情報開示に影響を及ぼすものとしても注目に値するでしょう。
1970年以降に発表された2,000超の学術調査に基づくメタ分析によると、高いサステナビリティパフォーマンスは、(特に長期的には)「財務的なパフォーマンスとプラスの関係にある」と半分以上の研究が結論づけています17。国内でも「ESGファンドに組み入れられた日本企業の株の値動きは08年の金融危機以降、市場平均を上回っている18」といった報道を目にします。
しかしながら、相関関係は証明されても因果関係の研究はまだ少ないこと、そもそも前提となる「サステナビリティ」の定義や分析の時間軸についてなど不明瞭な要素がいまだ多く残っています。それでも、オックスフォード大学とハーバード大学のビジネススクールによる調査19においては、投資プロフェッショナルがESGデータを使用する最大の理由は、「投資パフォーマンスに影響を及ぼすため」であることが明らかになりました。
GPIFなどのアセットオーナーのみではなく、例えば、世界最大のアセットマネージャー BlackRock のCEO兼会長は、5年程前から世界の大企業数百社のトップに向けて、長期思考とサステナビリティへの注力を呼びかけています。
サステナビリティ格付けが誕生してから数十年、少なからず知見は集積されています。まずは企業価値の向上を求める投資家の期待値を知るためのレンズの一つとして、サステナビリティ格付けを活用することを推奨したいと思います。
最後に、サステナブル投資の手法は発展途上であることはいうまでもありません。多くの投資家が企業から提供される情報に不満を持ちつつ、手探り状態でサステナブル投資を推進する中、サステナビリティ格付けは企業評価のツールとして一般的になりました。
ある海外の調査によると、80%超の企業がサステナビリティ格付けなどの対応に年間100人日(フルタイム勤務者1人の半分近くの時間に相当)以上を費やしています20。サステナビリティ格付けが企業に大きな負担をかけているとすれば本末転倒であり、深刻な問題だと思います。
一方、企業の方からは、サステナビリティ格付けに取り組む過程で社内のサステナビリティに関する理解や部門間の連携が進んだという実体験も報告されており、使い方によってはコーポレートサステナビリティや統合思考を促進する効果もあるようです。いずれにしても、やはり取り組む価値のある格付けを見極めることが求められます。
近年、サステナビリティ格付けに関わる評価機関、NGO、指数会社などの統合やパートナーシップの発表が相次いでいます。直近では、oekom research が 議決権行使助言会社大手のISS傘下に入ったことが投資家の間で大きな注目を集めています。このような再編が進む中、評価機関は、投資家(と時には評価対象となる企業)に選ばれ続けるために常に最新で最善の評価手法を開発することが求められます。企業の方々には、評価を一方的に受けるのではなく、評価機関、そして投資家との対話を通して市場の発展の一翼を担っていただきたいと考えています。
【注記】
15 Baruch Lev, Feng Gu (2016). The End of Accounting and the Path Forward for Investors and Managers
16 PwC (2014). Corporate performance: What do investors want to know?
17 Gunnar Friede, Timo Busch & Alexander Bassen (2015). ESG and financial performance: aggregated evidence from more than 2000 empirical studies, Journal of Sustainable Finance & Investment
18 日本経済新聞(2017). ESG投資、市場の3割に 環境配慮や社会性を評価(2017年10月18日朝刊)
19 Amir Amel-Zadeh & George Serafeim (2017). Why and How Investors Use ESG Information: Evidence from a Global Survey. Financial Analysts Journal.
20 oekom research (2013). The Impact of SRI
福田 愛奈
PwCあらた有限責任監査法人 マネージャー
※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。