{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2022-03-11
2022年にカナダのモントリオールで開催される生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)第2部では生物多様性に関する国際的な目標の採択が予定されるなど、生物多様性への関心はますます高まりを見せています。生物多様性の保全を含む自然資本の回復、すなわち「ネイチャーポジティブ」というコンセプトが環境サステナビリティの分野で注目されており、2023年以降にはネイチャーポジティブの実現に向け、企業への要請も強まると予想されています。本連載では、生物多様性の保全とネイチャーポジティブに関する動向や、企業がとるべき戦略について考察します。
生物多様性とネイチャー(自然資本)は、混同されがちですが、異なる概念です。生物多様性はその定義にある通り、「生物」が多様で豊かであることを示すものですが、自然資本には「非生物」も含まれます。つまり、大気や水、土なども含む、より広い概念と言えます。
一方で、大気や水を含む自然資本と生物多様性は相互に深く関連し合っており、豊かな生物多様性なしに健全な自然資本は維持できません。こうした生物多様性と自然資本から生み出されるさまざまな恩恵(生態系サービス)は社会や経済の基盤であり、さまざまな業界の企業やビジネスはこの生態系サービスに大きく依存しています(図表2)。
例えば、米国で最も処方されている薬剤150種のうち118種が天然由来です。また、世界中の自然保護区には毎年約80億人が訪れ、最大6,000億米ドルを消費しています1。そして、世界の食物のうち最大5,770億米ドル分は直接的にハチなどの花粉媒介者に依存していると言われています2。こうした生態系の恩恵に支えられた経済活動による価値創造は年間44兆米ドルと言われており、これは世界の総GDPの半分以上にあたります3。
出典:World Economic Forum (WEF) (2020) “Nature Risk Rising: Why the Crisis Engulfing Nature Matters for Business and Economy”
世界の経済が生物多様性に支えられていることは上述のとおりですが、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム」(IPBES)が発行している「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」(2019年)によると、生物多様性は1970年から2016年の間に平均68%減少しており、陸地の75%は改変され、海洋の66%は累積的な影響下にあり、湿地の85%が消失したとされています。
こうした生物多様性の危機的な状況を踏まえ、2022年にカナダのモントリオールで開催予定の第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)第2部では、2020年までの生物多様性保全の世界目標であった「愛知目標」に代わる「ポスト愛知目標」(Post 2020 Global Biodiversity Framework)の採択が予定されています。ポスト愛知目標の1次ドラフトでは、2050年ビジョン「自然と共生する世界」への道筋(案)を示しています(図表3参照)。2020年を基点として、生物多様性の指標群を改善していき、2030年にノーネットロスまたはネットゲインを達成し、2050年ビジョンを達成することが示されています。
ここでいう自然のノーネットロスとは、自然への負の影響を自然再生などの正の影響によって相殺し、総合的に見ると自然が失われていない状態のことを指し、自然のネットゲイン(またはネットポジティブ)は、自然への負の影響を正の影響が上回り、総合的に見ると自然が増加・回復している状態のことを指します。
出典:CBD/SBSTTA/24/3/Add.2/Rev.1,2021.”POST-2020 GLOBAL BIODIVERSITY FRAMEWORK: SCIENTIFIC AND TECHNICAL INFORMATION TO SUPPORT THE REVIEW OF THE UPDATED GOALS AND TARGETS, AND RELATED INDICATORS AND BASELINES”. を基にPwC作成。 https://www.cbd.int/doc/c/e823/b80c/8b0e8a08470a476865e9b203/sbstta-24-03-add2-rev1-en.pdf(2022年1月12日閲覧)
2050年までの自然の完全回復、すなわち「自然と共生する世界」というビジョンを達成するためには、「今までどおり(business as usual:BAU)」から脱却する社会変革が必要です。BAUシナリオの下では、生物多様性の傾向は低下し続けると予測されていますが、保全・再生、気候変動対策、持続可能な生産、消費の削減といったさまざまな行動分野を組み合わせることで、生物多様性の喪失の速度を遅らせ、トレンドを変えられる可能性が示されています。
出典:生物多様性条約2020「地球規模生物多様性概況第5版」(2022年1月12日閲覧)https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/aichi_targets/index_05.html
自然の回復、そして「自然と共生する世界」を目指すために、より具体的な動きも活発化してきています。「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の自然資本版である「自然関連財務情報開示タスクフォース」(TNFD:Task Force on Nature-related Financial Disclosures)が2023年末までに枠組みの公開を予定しており、さらに「自然に関する科学に基づく目標設定」(Science Based Targets for Nature)も2022年に手法を公開予定です。生物多様性や自然資本に関する枠組みの整理とソフトロー化は、今後急激に進んでいくと考えられます(TNFDについてはこちらの記事も参照)。
また、世界経済フォーラム(WEF)は、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)に向けた提言として「New Nature Economy Report II The Future Of Nature And Business」(2020年7月14日発行)をまとめ、ネイチャーポジティブエコノミーを提唱しています。具体的には、以下のとおり述べています。
これらの動向を踏まえると、2030年に向けて生物多様性を回復させ、ネイチャーポジティブへの取り組みを進めていくことが国際的にも求められていることが分かります。日本においても、各企業がビジネスの中で生物多様性に適切に配慮し、ネイチャーポジティブエコノミーの実現に向けた取り組みを実践していくことが重要と考えられます。
1:PwC WWF (2020) “Nature is too big to fail”
2:IPBES (2016) “The assessment report on POLLINATORS, POLLINATION AND FOOD PRODUCTION”
3:WEF (2020) “Nature Risk Rising: Why the Crisis Engulfing Nature Matters for Business and Economy”