COP15で2030年までの生物多様性世界目標が採択―ビジネスの観点から概要とポイントを解説

2022-12-27

生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の第2回会合が2022年12月7日から19日までカナダのモントリオールで開催され、PwC Japanグループからは4名のコンサルタントが現地に参加してきました。本コラムでは、COP15で決定された「昆明-モントリオール生物多様性世界枠組」について、ビジネス観点からポイントを絞って解説します。

企業と金融機関の影響、依存、リスク評価と開示(ターゲット15)

23のターゲットの中でも、ビジネスに直接的に言及している目標が「ターゲット15」です。

ターゲット15

ビジネスを推進するため、特に大企業や多国籍企業、金融機関に対し、法的、行政的、政策的措置を講じる。

(a) 生物多様性へのリスク、依存、影響をすべての大企業および多国籍企業、金融機関の事業、サプライチェーン、バリューチェーン、ポートフォリオに沿った要件を含めて、定期的に監視、評価し、透明性をもって開示する

(b) 消費者に必要な情報を提供する

(c) アクセスと利益配分の規制および対策を遵守しているか、適宜、報告する

[原文]Take legal, administrative or policy measures to encourage and enable business, and in particular to ensure that large and transnational companies and financial institutions.

(a) Regularly monitor, assess, and transparently disclose their risks, dependencies and impacts on biodiversity, including with requirements for all large as well as transnational companies and financial institutions along their operations, supply and value chains and portfolios; 

(b) Provide information needed to consumers to promote sustainable consumption patterns; 

(c) Report on compliance with access and benefit-sharing regulations and measures, as applicable;

in order to progressively reduce negative impacts on biodiversity, increase positive impacts, reduce biodiversity-related risks to business and financial institutions, and promote actions to ensure sustainable patterns of production.

出典:Kunming-Montreal Global biodiversity framework(https://www.cbd.int/doc/c/e6d3/cd1d/daf663719a03902a9b116c34/cop-15-l-25-en.pdf)をもとにPwC作成

ターゲット15ではサプライチェーン、バリューチェーン、ポートフォリオなどにおける影響・依存・リスクを監視、評価、開示することが求められています。TNFD同様、影響だけでなく依存の観点も含めるということとされています。

生物多様性回復のための資金ギャップを埋める資金フロー(ターゲット18、19)

生物多様性にかかる資金フローに関しても目標に盛り込まれました。ターゲット18においては、「2025年までに生物多様性に有害な補助金を含むインセンティブを特定し、公正、公平、効果的な方法で廃止、段階的廃止または改革する」という内容が盛り込まれています。ここでいう「有害な補助金」とは、例えば農地開発や鉱山開発によって森林伐採を誘発するものなどが該当します。また、2030年までにこの有害な補助金を年間5,000億米ドル削減していくことも示されています。

ターゲット19では、資源(資金)動員を年間2,000億米ドルに増加させること、途上国向け資金を2025年までに年間200億米ドル、2030年までに少なくとも年間300億米ドル増加させることを目指すとされています。

この有害な補助金の削減と新しい資金の増加により、毎年7,000億米ドルといわれる生物多様性回復のために必要な資金ギャップを埋めることを目指しています。この合意は、ネイチャーポジティブな資金フローを世界的に実現していくための大きな推進力となりそうです。

ビジネスはどう貢献できるか

生物多様性・自然資本領域は、国際イニシアティブが評価や開示のガイドラインなどを構築している段階ですが、今回のCOP15での世界目標の採択により、生物多様性に関わる重要課題の2030年までの大きな方向性が定まりました。23のターゲット全てに一企業として貢献することは難しいかもしれませんが、この新しい枠組みは自社のビジネスがどのように変化すべきかを検討するにあたっての、世界共通のフレームワークとして大いに役に立つでしょう。

2030年までのネイチャーポジティブ経済実現に向けては、まずは違法・過剰な生物捕獲、プラスチック汚染の防止、過剰消費・廃棄物発生の大幅削減、食料廃棄・過剰栄養流出・殺虫剤・危険化学物質の半減、グローバルフットプリントの削減、持続可能な農林水産の実施と消費者への情報提供、定期的なモニタリングと開示などが重要なアクションとなると言えそうです。また、サプライチェーン上の地域コミュニティ、先住民族・女性・若手・NGOなどのコミュニティを尊重することも忘れてはいけません。たくさんの行動目標の優先順位をつけるためには、自社の自然への影響と依存、自然関連リスクを把握し、現在地および目標に向けての機会を確認することが必要です。そのうえで、事業特性などに鑑みて、2030年までのネイチャーポジティブ経済実現の戦略とロードマップを描いていくことが、バリューチェーンのサステナビリティ、さらには世界目標の実現への貢献への一歩となることでしょう。

PwCでは生物多様性・自然資本に関する経営支援サービスを、評価から目標の設定および開示、方針や戦略の策定まで、最新の国際動向に沿って幅広く提供しております。詳しくは、「生物多様性・自然資本に関する経営支援サービス」をご覧ください。

執筆者

服部 徹

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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小峯 慎司

マネージャー, PwCサステナビリティ合同会社

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中尾 圭志

マネージャー, PwCサステナビリティ合同会社

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花井 香奈子

シニアアソシエイト, PwCサステナビリティ合同会社

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