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2022-12-27
生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の第2回会合が2022年12月7日から19日までカナダのモントリオールで開催され、PwC Japanグループからは4名のコンサルタントが現地に参加してきました。本コラムでは、COP15で決定された「昆明-モントリオール生物多様性世界枠組」について、ビジネス観点からポイントを絞って解説します。
今回開催されたCOP15とは、生物多様性条約(Convention on Biological Diversity:CBD)の締約国による会議のことです。CBDは1993年に発効した国際条約で、以下の3つを目的としています。
生物多様性条約締約国会議(COP)では、これらの目的に係るさまざまな課題が議題として話し合われます。今回は第15回目の締約国会議となり、その最大の議題は2020年までの世界目標であった「愛知目標」に代わる「ポスト2020生物多様性枠組」の策定でした。2010年以来となる世界の目標策定ということもあり、世界的に注目される会議となりました。
それでは、採択された「昆明-モントリオール生物多様性世界枠組」の主にゴールやミッションターゲットについて、基本的な構造からみていきましょう。
出典:Kunming-Montreal Global biodiversity framework(https://www.cbd.int/doc/c/e6d3/cd1d/daf663719a03902a9b116c34/cop-15-l-25-en.pdf)をもとにPwC作成
枠組の中では、今後2030年、2050年に向けて世界が目指すべき方向性が大きく4つの構造で示されています。まずは2050年までに目指すべき姿を示す「2050年ビジョン」。そしてそのビジョンを達成するための4つの「2050年ゴール」。さらにそれらのゴールを達成するために2030年までに目指す姿である「2030年ミッション」。そして最後に2030年ミッション実現のための具体的アクション目標である23の「2030年ターゲット」です。「2030年ターゲット」は大きく3つのパートに分けられており、1つ目の(a)は「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)が示した主要な脅威への対策に関するターゲット1~8で構成されています。(b)は、自然の恵みを人々が持続可能に利用していくことを促す目標群で、ターゲット9~13で構成されています。最後の(c)は、実装と主流化に向けて国・企業・消費者などに対して解決策を示すものとなっており、ターゲット14~23で構成されています。
国家や自治体を意識したターゲットが中心であった愛知目標に比べ、「昆明-モントリオール生物多様性世界枠組」の(c)パートにみられるように2030年ターゲットは民間を意識した目標が多くなっています。また、具体的な定量目標も多く示されていることから、企業にとっても目指すべき姿と取り組みがイメージしやすい枠組みになったのではないでしょうか。
「2030年ミッション」は以下の形で採択されました。
2030年ミッション 生物多様性の保全と持続可能な利用、および遺伝資源の利用から得られる利益の公正かつ衡平な配分を確保することにより、人と地球の利益のために自然を回復軌道に乗せる。そのために生物多様性の損失を止め、逆転させる緊急行動を起こすとともに、必要な実行手段を提供する。 [原文] To take urgent action to halt and reverse biodiversity loss to put nature on a path to recovery for the benefit of people and planet by conserving and sustainably using biodiversity, and ensuring the fair and equitable sharing of benefits from the use of genetic resources, while providing the necessary means of implementation. |
出典:Kunming-Montreal Global biodiversity framework(https://www.cbd.int/doc/c/e6d3/cd1d/daf663719a03902a9b116c34/cop-15-l-25-en.pdf)をもとにPwC作成
2050年を見据えた2030年ミッションでは、「自然を回復軌道に乗せるために、生物多様性の損失を止め、逆転させる緊急行動を起こす」と明記されており、直接的に言及されていないものの、まさに「ネイチャーポジティブ」の考え方が盛り込まれた形となっています。
このミッションを達成するための具体的な目標が23のターゲットです。生態系保全関連はもちろん、遺伝資源の管理と利用、ジェンダーや先住民、健康など多くの重要な観点が至るところに盛り込まれています。どれも達成しなければならない重要なターゲットですが、ここではビジネスの観点から3点ほどピックアップして紹介します。
出典:Kunming-Montreal Global biodiversity framework frameworkhttps://www.cbd.int/doc/c/e6d3/cd1d/daf663719a03902a9b116c34/cop-15-l-25-en.pdf
NACS-J https://www.nacsj.or.jp/2022/12/33437/?fbclid=IwAR2zB9awIfkDLgIAMpa_sBpKICgPlX6OPE9W52yX-XIyhCSO2lN-I-j3nuo
ターゲット3では、世界の生物多様性と生態系サービスにとって特に重要である「陸域」「淡水域」「海域」の30%を効果的に保全・管理するという目標が盛り込まれました。愛知目標での陸の17%、海の10%という目標から大きく引き上げられた形です。日本ではすでに30by30ロードマップが策定されており、国立公園の拡張やOECMの認定により確立するとされています。加えて、単純に保護地域として指定するだけでなく、先住民や地域社会の権利を認識し、尊重することを求めている点もポイントです。OECMなどの議論が深まれば、企業にとっても所有地の管理などを行うインセンティブとなり、保全の推進力になることが予想されます。
23のターゲットの中でも、ビジネスに直接的に言及している目標が「ターゲット15」です。
ターゲット15 ビジネスを推進するため、特に大企業や多国籍企業、金融機関に対し、法的、行政的、政策的措置を講じる。 (a) 生物多様性へのリスク、依存、影響をすべての大企業および多国籍企業、金融機関の事業、サプライチェーン、バリューチェーン、ポートフォリオに沿った要件を含めて、定期的に監視、評価し、透明性をもって開示する (b) 消費者に必要な情報を提供する (c) アクセスと利益配分の規制および対策を遵守しているか、適宜、報告する [原文]Take legal, administrative or policy measures to encourage and enable business, and in particular to ensure that large and transnational companies and financial institutions. (a) Regularly monitor, assess, and transparently disclose their risks, dependencies and impacts on biodiversity, including with requirements for all large as well as transnational companies and financial institutions along their operations, supply and value chains and portfolios; (b) Provide information needed to consumers to promote sustainable consumption patterns; (c) Report on compliance with access and benefit-sharing regulations and measures, as applicable; in order to progressively reduce negative impacts on biodiversity, increase positive impacts, reduce biodiversity-related risks to business and financial institutions, and promote actions to ensure sustainable patterns of production. |
出典:Kunming-Montreal Global biodiversity framework(https://www.cbd.int/doc/c/e6d3/cd1d/daf663719a03902a9b116c34/cop-15-l-25-en.pdf)をもとにPwC作成
ターゲット15ではサプライチェーン、バリューチェーン、ポートフォリオなどにおける影響・依存・リスクを監視、評価、開示することが求められています。TNFD同様、影響だけでなく依存の観点も含めるということとされています。
生物多様性にかかる資金フローに関しても目標に盛り込まれました。ターゲット18においては、「2025年までに生物多様性に有害な補助金を含むインセンティブを特定し、公正、公平、効果的な方法で廃止、段階的廃止または改革する」という内容が盛り込まれています。ここでいう「有害な補助金」とは、例えば農地開発や鉱山開発によって森林伐採を誘発するものなどが該当します。また、2030年までにこの有害な補助金を年間5,000億米ドル削減していくことも示されています。
ターゲット19では、資源(資金)動員を年間2,000億米ドルに増加させること、途上国向け資金を2025年までに年間200億米ドル、2030年までに少なくとも年間300億米ドル増加させることを目指すとされています。
この有害な補助金の削減と新しい資金の増加により、毎年7,000億米ドルといわれる生物多様性回復のために必要な資金ギャップを埋めることを目指しています。この合意は、ネイチャーポジティブな資金フローを世界的に実現していくための大きな推進力となりそうです。
生物多様性・自然資本領域は、国際イニシアティブが評価や開示のガイドラインなどを構築している段階ですが、今回のCOP15での世界目標の採択により、生物多様性に関わる重要課題の2030年までの大きな方向性が定まりました。23のターゲット全てに一企業として貢献することは難しいかもしれませんが、この新しい枠組みは自社のビジネスがどのように変化すべきかを検討するにあたっての、世界共通のフレームワークとして大いに役に立つでしょう。
2030年までのネイチャーポジティブ経済実現に向けては、まずは違法・過剰な生物捕獲、プラスチック汚染の防止、過剰消費・廃棄物発生の大幅削減、食料廃棄・過剰栄養流出・殺虫剤・危険化学物質の半減、グローバルフットプリントの削減、持続可能な農林水産の実施と消費者への情報提供、定期的なモニタリングと開示などが重要なアクションとなると言えそうです。また、サプライチェーン上の地域コミュニティ、先住民族・女性・若手・NGOなどのコミュニティを尊重することも忘れてはいけません。たくさんの行動目標の優先順位をつけるためには、自社の自然への影響と依存、自然関連リスクを把握し、現在地および目標に向けての機会を確認することが必要です。そのうえで、事業特性などに鑑みて、2030年までのネイチャーポジティブ経済実現の戦略とロードマップを描いていくことが、バリューチェーンのサステナビリティ、さらには世界目標の実現への貢献への一歩となることでしょう。
PwCでは生物多様性・自然資本に関する経営支援サービスを、評価から目標の設定および開示、方針や戦略の策定まで、最新の国際動向に沿って幅広く提供しております。詳しくは、「生物多様性・自然資本に関する経営支援サービス」をご覧ください。