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2020-11-13
近年、豪雨による店舗・工場の水没や地震による物流・交通網の遮断など、自然災害が企業活動を脅かすリスクとなっています。また、企業活動のグローバル化による負の側面として、サプライチェーンにおける児童労働や奴隷労働などの人権問題が顕在化し、その結果不買運動に発展する事例が多数報告されるなど、グローバル企業には「負の影響」を適切に管理・対応することが求められています。
そうした背景から、気候変動や自然災害による「環境リスク」や人権問題の発生といった「社会リスク」に対して多くの人が従前の認識をあらため、世界的に高い関心を集めています。
それは、世界経済フォーラム(通称:ダボス会議)の中で紹介される「グローバルリスク意識調査」においても明確に表れています。2000年代後半から2010年代前半にかけては、世界の考える「リスク」は国家間の紛争といった「地政学的リスク」や、グローバル化の停滞といった「経済的リスク」が中心でしたが、2010年以降は「社会リスク」の重要性が高まり、2010年代後半以降は「環境リスク」が常に上位を占めるようになっています。
出典:World Economic Forum 2020 Global Risks Reportsを基にPwCが加工
上記に例示したような、自然災害や人権侵害が発生する背景には、人口の増加、グローバル化、格差の拡大、気候変動の進行など、地球規模での構造的な変化があり、こうした変化は、今後も中長期的に継続することが見込まれます。現在そして未来の事業環境において、前述のような環境・社会リスクが最重要課題の一つであり続けることは明らかでしょう。
本稿では、上記に挙げるような環境、社会に関係するリスク(≒サステナビリティリスク)の重要性の高まりを受けて、リスクマネジメントの役割にどのような変化が起こっているか、そして企業はどのようなアクションが求められているかを解説します。
企業におけるリスクマネジメントの役割は、個別のオペレーショナルリスクや危機管理を中心とする従来のリスクマネジメントから、経営戦略の実現性を高めることを狙いとした全社的リスクマネジメント(ERM)へと広がってきました。
そして、サステナビリティリスクの発生が増加の一途をたどる今、企業は幅広いリスクに対応する包括的な管理が求められるようになっています。
例えば、前述した「人権問題」を例に挙げます。企業による人権侵害が不買運動に発展する可能性を考慮すると、「自社」にとどまらず「サプライチェーン全体」に視点を広げこること、また「法令順守」のみならず「評判リスク」「調達リスク」などにまで視点を広げてリスクを管理することが求められています。
しかしながら、このような新たなリスクは、既存のリスクレジスターには適切に取り込まれていないため、企業は、従来とは異なる新たな手法でこれらのリスクを識別・評価・対応していくことが必要です。
ここまでサステナビリティリスクについて負の影響をもたらす「脅威」の側面に焦点を当てて説明してきましたが、サステナビリティリスクは一方で正の影響を生む「機会」ともなり得ます。なぜなら、サプライチェーンの透明性が付加価値となる中において、「人権管理が徹底できている」という点が他社との差別化要因となるためです。
したがって、企業は経営戦略の達成を促進する「サステナビリティ機会の最大化」という側面と、経営戦略達成を阻害する「脅威の低減」という側面の両側からサステナビリティリスクを管理(特定・評価・対応)することが肝要です。
サステナビリティリスクを適切に管理し、機会の最大化と脅威の低減を同時に達成していくためには何が必要なのでしょうか。
それは、社会・環境問題に起因するサステナビリティリスクが、どれくらいの時間軸で発生し、どのような経路をたどり自社および関係するステークホルダーに影響を及ぼすのかを具体的に描き、適切に評価することです。
しかしながら、「サステナビリティリスク」は、自然災害や人権侵害などの概念としては理解しやすいのですが、自社の経営や日々の業務に及ぼす影響や求められる具体的な対応を想起することが難しいというのが実態です。
そのため、「サステナビリティリスク」の重要性を事業部門に伝達しても、「抽象的で自分事としてイメージできない」「テーマが大きすぎて実際に何をすればいいのかわからない」というような反応が起こり得ます。
なぜならば、サステナビリティリスクは従来のリスクとは大きく異なる特徴があり、従来の評価尺度や評価手法では適切な分析・評価が困難であるためです。
正確な予測が不可能であり、長期または不確実な時間軸で顕在化する可能性がある。そのため、従来の数年単位での評価尺度では発生可能性を適切に分析・評価することができない。
環境・社会課題などの外部環境に起因して発生するため、従来とは異なる経路で企業に影響を及ぼす。そのため、リスクの影響度を見積もる際に過去のデータなどを参照できないことが多い。
サステナビリティリスクは、人類共通の課題であり、関係するステークホルダーが多岐にわたる。そのため、「株主・投資家」「取引先・消費者」「従業員」など、従来の主要なステークホルダーにとどまらず、「サプライヤー」「政府」「NPO・NGO」「国際機関」などからの要請にも配慮する必要が出てきている。
上記のような、サステナビリティリスクの評価・管理の難しさは2017年の世界経済フォーラムで紹介された「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」のレポートでも指摘されています。
リスクマネジメントやサステナビリティ活動の担当者のうち、89%が「サステナビリティリスクはビジネスに甚大な影響を与え得る」と答えているのにも関わらず、70%もの回答者が「既存のサステナビリティリスクに十分に対応できていない」と感じています。
重要だと感じているが対処できていない、というジレンマに陥っている理由としては、下記のようなものが特定されています。
引用元:Sustainability and enterprise risk management : The first step towards integration
このような状況を踏まえて、WBCSDは2018年10月に「サステナビリティ活動と全社的リスクマネジメントの統合に向けたガイダンス」(Applying Enterprise Risk Management to Environmental, Social and Governance-related Risks:以下 ESG ERMガイダンス)を策定しました。
このガイダンスは、サステナビリティリスクの特性を考慮したリスクマネジメントの手法を実践に生かすためのポイントと、具体的な方法論をまとめています。例えば、外部環境を把握するためのメガトレンド分析、マテリアリティ分析の手法や、新たなリスク評価の基準として「顕在化スピード」「持続性」「複雑性」などを紹介しています。
また、このガイダンスは世界的に活用されているERMフレームワークの発行体であるCOSO(Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission:米国トレッドウェイ委員会組織委員会)が共同発行者となっています。そのため、ガイダンスの内容もCOSO ERMの内容に即した形式が取られており、既存のリスクマネジメントの高度化と、サステナビリティリスクの適切な管理に向けたフレームワークの導入の両方に対応できる内容になっています。
上記ガイダンスの内容を理解し、自社のアクションプランまで落とし込むことが、企業にとってサステナビリティとリスクマネジメント(ERM) の統合、そしてサステナビリティリスクの適切な管理・対応に向けた第一歩になることでしょう。
サステナビリティとリスクマネジメントを統合するにあたって、WBCSD発行のESG ERMガイダンスを活用することが非常に有用です。
では、ESG ERMガイダンスを活用したサステナビリティとリスクマネジメントの統合は、どのように進むのでしょうか。
一般的に、リスクマネジメントは、対象とする管理範囲が非常に多岐にわたり、さまざまな社内ステークホルダーを巻き込みます。そのため、サステナビリティとリスクマネジメントの統合にあたっては、優先順位を付けつつ、さまざまなステークホルダーとの調整を行いながら中長期的に対応していくことが想定されます。
サステナビリティとリスクマネジメントの統合に向け、中長期的に計画を策定・実行に移していく際、PwCは以下の3ステップを推奨します。
リスクマネジメントとサステナビリティの両面で、自社の成熟度を可視化/診断
ESG ERMガイダンスの5要素である「ガバナンスとカルチャー」「戦略・目標の設定」「パフォーマンス(リスクの識別・評価/優先順位・対応)」「リスクの見直し・改訂」「コミュニケーション&レポーティング」のそれぞれにおける、自社の取り組み状況を整理のうえ、サステナビリティとリスクマネジメントの統合度合い(成熟度)を可視化します。
例えば、「ガバナンスとカルチャー」においては、サステナビリティリスクの所管部署と役割・責任、管理方針・管理プロセスが明確化されているか、「パフォーマンス」においては、サステナビリティリスクの特性を踏まえた識別・評価・対応がなされているかなどを確認します。
ステップ1の診断結果を踏まえ、リスクマネジメントとサステナビリティの目指すべき姿・方向性を検討し、その実現に向けた課題への取り組み方針を設定
経営層の意向や自社の理念などと照らし合わせつつ、ESG ERMガイダンスの5要素のそれぞれにおける状態目標を設定します。
例えば、ステップ1の結果を踏まえて、「ガバナンスとカルチャー」においては、サステナビリティリスクの種別ごとの所管部署と各部署の連携体制の構築や、「パフォーマンス」においては、サステナビリティリスクの ①時間軸の不確実さ ②影響経路の特殊さ ③影響範囲の広さ という特徴に適合する評価手法の確立を目標として設定します。
統合に向けたタイムラインや、具体的なアクションプランを検討し、ステップ2で策定した統合方針を具体化・実行
ステップ2の目標達成に向けた具体的なアクションを洗い出し、実行に向けたタイムラインを具体化。その上でロードマップを策定し、実行に移ります。
この段階ではサステナビリティとリスクマネジメントの双方を理解する専門性、そしてコーポレート部門(経営企画・リスク管理・サステナビリティ)と事業部門を取りまとめて部門横断的に連携を進める高い推進力が求められます。
こうしたプロセスを通じることで、サステナビリティリスクの特性を理解したリスクマネジメントの実践が可能となります。ますます重要となるサステナビリティリスクへのタイムリーかつ適切な対応のために、サステナビリティとリスクマネジメントの統合は、今後の経営にとって必須のものとなるでしょう。