EUDR(欧州森林破壊防止規則)の概要と要求事項

―2024年12月に迫る適用期限に日本企業はどう対応すればよいのか

  • 2024-05-28

欧州連合(EU)は、森林の破壊と劣化を防ぐための新たな規制、「EU森林破壊防止規則」(以下、EUDR)を2023年6月29日に発効しました。EUDRは木材のほか、パームオイル、コーヒー、カカオ、牛、大豆、天然ゴムまたその派生品など、世界の森林劣化・減少に大きな影響を与える品目を対象に、原産地の地理的情報と森林破壊フリーであることの証明を求めている規則です。大企業においては2024年12月30日、中小企業においては2025年6月30日から適用が始まります。

EUDR発効の背景

EUDRの前身となる規則として2013年に発効されたのが「EU木材規則」(EU Timber Regulation、EUTR)ですが、同規則は木材の違法伐採を対象としており、違法伐採以外の森林劣化・減少は十分に対応できていないという議論が以前よりありました。そこでEUはEUTRを廃止し、森林劣化・減少につながる特定製品の市場流通・輸出を対象としたEUDRを新たに発効するに至ったのです。

図表 1

EUDRの3つの要求事項

それでは、具体的にEUDRはどのようなことを求めているのでしょうか。EUDRでは大きく3つの要求事項が定められています。

図表 2

1点目は、「森林破壊がないこと」です。これは商品の原産地に関する地理的情報、そして2020年12月31日以降は森林の破壊または劣化の起きた場所で生産されたものではないことを保証によって示す必要があります。

2点目は、「生産国の関連法令に従い、生産されたものであること」です。これは森林管理や生物多様性保全を含む森林関連法のみならず、土地使用権、環境保護、労働権、人権など幅広い領域の法制度が対象となります。

最後に3点目が「コンプライアンス違反がないことを示すデューデリジェンス声明があること」です。デューデリジェンス声明には、商品の名前や数量、生産国などの基本的な情報はもちろん、生産地の地理情報や生産された日付、期間、また森林破壊を行わずに生産国の法令に従って生産されたものであることを示す十分かつ決定的で、検証可能な情報などの提供が求められています。

EUDRの対象品目

EUDRでは、カカオ、コーヒー、パーム油、大豆、天然ゴム、牛、木材の7品目が対象とされています。EUDRの条文においては、「商品の名称及び分類についての統一システム(Harmonized Commodity Description and Coding System)に関する国際条約」(HS条約)において定められているHSコードの区分に従って対象品目が定められています。一部カカオを原料としたチョコレートや、天然ゴムを原料とするゴム製空気タイヤなど、加工された派生品も対象となっているため注意が必要です。

EUDR対応における課題

EUDRに対応する上で、企業は多くの課題に直面することが考えられます。まず、1つ目の課題として地理的情報の取得が挙げられます。対象品目にかかわるサプライチェーンを完全に把握し、原産地の地理情報を取得する必要があり、これは多くの企業にとって課題になると考えられます。特に4ヘクタール以上の土地である場合は、ポイントではなくポリゴン(多角形)で敷地の境界も示す必要があります。

2つ目としては、生産国における関連法を順守していることの確認です。これは前述のとおり、森林関連法に限らず幅広い法令が対象となるため、環境だけでなく社会面での対応も織り込んだ統合的な対応が必要となります。

3つ目としては、それらのモニタリング体制を整備する必要があるということです。EUDRでは、デューデリジェンス声明の情報を更新していく必要があります。必要となる情報を現地にまでその都度赴いて収集することは現実的ではないため、正確かつ効率的にサプライチェーン情報を収集していく体制やシステムを構築・導入する必要があります。

このように、EUDR対応においては、サプライチェーンの完全なトレーサビリティと十分な対応を行うための体制や仕組みが不可欠となります。

日本企業にとってのEUDR

EUでビジネスを行う日本企業はEUDRの対象となる可能性があります。EUにおいて対象産品を販売・流通させる大企業(非中小企業)および中小企業は品目の市場流通量などにかかわらず、全ての企業がEUDRの対象となります。ただし、大企業(非中小企業)と中小企業、また事業者1および取引業者2という区分において、それぞれ要求レベルは異なります。

大企業(非中小企業)は、対象品目を販売流通させる事業者および取引業者はEUDRの定める義務(第8条に記載)の全てが課されます。一方で、中小企業の事業者は、既に他社によりデューデリジェンス対象となっている製品については、デューデリジェンス義務が免除され、他社のデューデリジェンス手続きでカバーされていない製品の一部についてのみ、完全なデューデリジェンス要件が課されることとなっています。同じく中小企業の取引業者においてはデューデリジェンス義務が免除されます。

違反した場合の罰則

大企業は2024年12月30日以降、中小企業は2025年6月30日以降、EUDRの定める義務に違反すると罰則が科される可能性があります。違反した場合、EU域内の年間総売上額の4%以上の罰金のほか、重大な違反があった場合には、EU域内での市場投入や供給、EU域内から輸出が一時的に禁止されるなど、ビジネスに大きなインパクトをもたらしうる罰則が規定されています。

図表 3

今後に向けて

EUDRは世界的な森林劣化・減少への対応として画期的な規則である一方で、対応する企業にとっては難しい対応が求められることになります。しかし、サプライチェーンのトレーサビリティ強化や生産国における関連法令への対応、そしてそのモニタリングという一連の対応は、森林劣化・減少へ対応することに限らず、企業のサプライチェーンを持続可能なものにするということにもつながります。法規制への対応にとどまらず、これを大きな機会としてとらえ、地政学リスクにも対応したサステナブルかつレジリエントなサプライチェーンを構築することは、事業競争力を強化する契機となりうると考えられます。

EUDRは情報提供のためのシステムの準備など、実際に施行に向けて必要な準備が現在進められています。当初は生産国それぞれに対してリスクレベルを設定することとなっていましたが、規制が施行されるタイミングでは暫定措置として、欧州委員会が全ての国に標準的なリスクレベルを割り当てる予定とのことで、現在も各国の評価が進行中です。

PwCのEUDR対応支援

PwCではそのメンバーファームが互いに連携し、法律やサステナビリティを専門とするプロフェッショナルがEUDR対応を支援しています。またPwCのグローバルネットワークと連携し、グローバルの専門家の知見を最大限活用して支援を提供しています。詳しくはこちらにお問い合わせください。

1 商業活動の過程において、関連製品を市場に流通させ、または輸出する自然人または法人を指す

2 商業活動の過程において、関連製品を市場に流通させる、事業者以外のサプライチェーンにおける、いかなる個人を指す

執筆者

齋藤 隆弘

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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甲賀 大吾

ディレクター, PwCサステナビリティ合同会社

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小峯 慎司

マネージャー, PwCサステナビリティ合同会社

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中尾 圭志

シニアアソシエイト, PwCサステナビリティ合同会社

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