アジアの「脱炭素」に挑む日本企業の強みと課題

2022-12-23

エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム第1回会議を開催

エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム」(発起人:PwC Japanグループ)の第1回会議が2022年11月24日に東京都内で開催され、サステナビリティ経営に取り組む日本企業計11社がアジアの持続的な経済成長を実現するにあたっての課題、アジアにおける「脱炭素」に向けた日本企業の強みや役割などについて議論しました。

当フォーラムは、サステナビリティという目標を国際社会でしっかり共有しつつ、地域の実情に即した対策を講じることがアジアの持続可能な成長に不可欠である、という課題認識のもと発足しました。東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドを含むアジア地域は、人口増を背景に経済成長を続けていますが、脱炭素の潮流が高まるにつれ、企業には既存のビジネスモデルから転換し、温室効果ガス排出量の削減に取り組む責任も増してきています。そのため、サステナビリティと経済成長を両立させ、長期的に企業の競争力を強化していくようなサステナビリティ経営のモデルが求められています。気候変動対策が待ったなしの今、環境関連技術やルール整備を日本が主導し、アジア各地の産官学と手を携えて現実解を探る必要性がますます高まっています。

会議ではまず、PwC Japanグループが「アジアにおける脱炭素化の課題と日本の役割」の調査結果の概要を共有しました。2015年に採択されたパリ協定は「世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べ1.5度に抑える」ことを世界共通の目標に据えました。この目標達成に向けて世界全体で年間12.9%の脱炭素化を進める必要がある一方、20年実績でアジアはわずか0.9%にとどまっているという現実があります。

パリ協定の1.5℃目標達成に必要な 脱炭素化率

アジアでの取り組みの難しさは、需要と供給の両面から整理できます。需要面では、現在アジアは世界の製造工場としての役割を担っていることに加え、将来的にも人口増および経済成長が進むことが予想され、それに伴ってエネルギー需要が増え続けることは明らかです。一方、供給面での課題もいくつかあります。まず、既存の石炭火力発電所の平均築年数がEUや米国の3分の1程度と浅く、減価償却などを考えるとすぐには廃止できない点が挙げられます。次に、再生可能エネルギーに置き換えるにしても、雨季によって降水量が多かったり、風力が不安定だったりと、再エネ資源に乏しい地域特性を持つという点が挙げられます。加えて、省エネを促す国の補助金や税優遇といった政策もまだまだ十分とは言えません。技術革新を促す投資も必要額に対して不足しており、先進国への投資に比べて不十分と言えます。そこで当フォーラムでは、関連技術や資金面のノウハウに強みを持つ日本企業が積極的に関与することで、こうした課題解決の一助につながるのではないか、と問題提起しました。

次に、調査テーマに関連して、各企業が脱炭素への取り組みとアジア市場の展望について語りました。参加企業からは、アジア市場において脱炭素化の取り組みが企業のブランド価値向上につながるとの手応えを感じているとの紹介があったほか、日本発の循環型社会のシステムをアジアに導入していくことなどが提案されました。また、技術やプロジェクトへの投資、M&Aなどを通じた急成長の期待が示されました。

一方で、これらのアイデアを具体化するためには、事業面からはイノベーションとスタートアップの育成、金融面からは伝統的な財務分析に加え、社会インパクトを生み出す技術を適切に評価する力の必要性が指摘されました。また、中堅・中小企業への支援の重要性も挙げられました。そのうえで、産業革命に匹敵するような事業転換が必要であり、事業化には仲間づくりが欠かせないという点で意見が一致しました。

サステナブル成長には、「技術」「資金」「政策」の3つの要素が好循環する必要があります。技術を実装するためには資金が必要であり、資金を適切に循環させるためには政策が必要になります。そしてこの好循環を生み出すために、「①日本が世界に貢献する高いビジョンが必要であること」「②そのビジョンが日本の強みに裏打ちされたものであること」「③技術的な知見やファクトをもって具体的な計画を立てること」「④さまざまなプレーヤーが協働し、それを実装すること」「⑤具体的なパブリックコミュニケーションを積極的に行うこと」が必要であるとの認識が提示されました。

今後のテーマとしては、脱炭素に加え「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」「生物多様性」「格差問題」などが挙がりました。今後サステナビリティと成長の同時実現を目指していくことをあらためて決意したうえで、日本が強みを生かして新たなモデルを構築し、国際的な競争力を強化できるようなテーマを議論していくこと、また地域については今回取り上げたアジアを中心としつつ、その限りではなく検討していくことになりました。

次回の会議に向けては、特に資源が乏しい日本だからこそ可能となるサーキュラーエコノミーのグランドデザインをテーマに、その具体的なアプローチやプラットフォームについて、成長の実現、脱炭素社会、地政学リスクのレジリエンス向上を加味しながら検討していくこと、そして将来的に世界に向けて発信していくことで合意しました。

脱炭素と経済成長を両立させる好循環を実現するには、多様なステークホルダーの知見が欠かせません。当フォーラムは欧米とは異なるアジア特有の事情を考慮しつつ、さまざまな事業を展開する企業の経営者による意見交換を通して世界のサステナビリティの実現に向けた最適解を探り続けていきます。そして、民間企業主導によるサステナビリティ社会の実現を目指し、その決意を世界に向けて発信していきます。

※会社名、役職などは開催当時のものです

主要メンバー

久保田 正崇

代表, PwC Japanグループ

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中島 崇文

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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安間 匡明

執行役員常務, PwCサステナビリティ合同会社

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