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「エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム」(発起人:PwC Japanグループ)の第2回会議が2023年6月2日に東京都内で開催されました。サステナビリティ経営に取り組む日本企業計11社が、日本およびASEAN地域におけるサーキュラーエコノミー(循環型経済)をテーマに、日本企業のこれまでの実績や今後果たすべき役割、普及に向けた課題などについて議論しました。
左上:味の素 藤江太郎社長、右上:国際協力銀行 林信光総裁
左下:第一生命保険 隅野俊亮社長、右下:日本政策投資銀行 木下康司会長
会議ではまず、PwC Japanグループがサーキュラーエコノミーの定義やビジネスとしての可能性、それらをASEANで展開する上での課題などを提起しました。サーキュラリティ(循環性)とは「気候変動」「生態系破壊」「資源枯渇」といった、地球規模で対応すべき課題に対する共通のソリューションであると位置付け、①経済合理性が高い(自動車や航空機など)②経済合理性は見通しにくいが社会の要請は高い(ペットボトルや家電プラスチックなど)③経済合理性は見通しにくいが人類の存続に重要(食品や土壌、森林や海洋など)、の3タイプに分類できると整理しました。
サーキュラリティをビジネスに進化させるには、自社の商品や設備で軽量化などの変革に取り組むことが第一歩となります。次に、顧客企業や消費者が求める保守点検や製品の長寿命化に対応することが重要です。さらに、持続可能な原材料の生産・調達から、廃棄物の再加工や再販売などを通じて再び社会に流通させるまで、バリューチェーン全体で一貫した循環型の経済の流れを整えることが欠かせません。そのうえで、循環型の経済に関わる全ての企業が利益を確保し、ビジネスの機会を得られる新たな市場を整備できるかがカギとなります。
ASEANでこうした取り組みを推進する上で課題は山積しています。例えば、廃棄物の再加工や再販売を手掛ける「静脈産業」では、公的な登録を行っていないインフォーマルな業者が多く存在しており、循環型のバリューチェーンを構築する上で連携することが容易ではないのが実情です。取り組みを大きく広げ、採算性を確保するのが現時点では難しいという、グローバル共通の課題ももちろん残っています。これらの課題に日本企業がどのように関わり、これまで蓄積してきたノウハウを活用できるのか。当フォーラムに課された主要議題の1つであるとの認識を改めて共有しました。
左上:本田技研工業 三部敏宏社長、右上:三井住友トラスト・ホールディングス 高倉透社長
左下:三菱重工業 泉澤清次社長、右下:三菱UFJフィナンシャル・グループ 三毛兼承会長
次に、ユーラシアグループおよびGZEROメディアのプレジデントであるイアン・ブレマー氏が「ASEANにおけるサーキュラーエコノミーの地政学」と題してオンラインで講演を行いました。ブレマー氏は「特にロシアや中国との構造的・地政学的な緊張の高まりを考慮すると、ASEANではより持続可能な形でエネルギーを使うことが安全保障の手段としてみなされるだろう」と指摘。日本企業は水素や太陽光発電などの分野で常に「ハイテクイノベーター」だったとし、「プラスチックポリマーのリサイクルのような日本の先端技術は資産となり、大量のプラスチック廃棄物に苦しむ国々を助ける興味深いニッチな分野だ」と語りました。そのうえで「持続可能性は将来の世界経済の健全性にとって不可欠な要素であり、最優先事項だ」と強調しました。
日本企業がASEANでサーキュラーエコノミーを推進するには、具体的にどのようなビジネスモデルが有効であり、課題になるのでしょうか。「ASEANは大きな成長地域であるが、生活に根ざしたビジネスモデルでないと定着しない」という問題提起に対し、参加企業からは「現地企業や地方政府と組み、リサイクル活用によるポイント付与といった消費者に動機づけを生むようなサービスを展開するのが有効だ」との意見がありました。
ビジネス化に向けては、サーキュラリティに関するデータの信頼性を担保するという観点も欠かせません。リサイクル素材の資源由来を追跡するトレーサビリティをバリューチェーン全体に広げられれば、サーキュラリティの信用と環境価値を高められる可能性が高まります。その実現に向け、日本企業の強みでもあるテクノロジーによって信頼を持たせることができるとの期待も示されました。ASEANから日本企業に期待されているのは技術力とスピードであり、各国のニーズに合わせて役に立つことができる分野はある、との見立ても提示されました。
新たなバリューチェーンをつくるということは、産業構造を転換させるということでもあり、そのためには持続可能な超長期の投融資の仕組みも不可欠です。サーキュラリティを「利益を生むビジネス」へと成長させるにはスケールアップが欠かせません。スケールアップを実現するにはさまざまな企業との連携によってバリューチェーン全体で最適解を目指し、成功モデルを他の地域や業種に横展開する官民との連携も必要になります。一方で、サーキュラーの輪を閉じるには、初期的には対応可能な地域・領域で先行実施していく必要がありますが、最終的にはスケールアップとの両立を図ることは不可欠です。「サーキュラリティの成果をどう測定し、経済価値をどう評価するか。投資へのインセンティブを高めるためにも、投資判断のためにも必要だ」との認識も示されました。
サーキュラーエコノミーへの関心は国際社会でも高まっています。5月に開催された主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の首脳宣言には「国の状況を考慮して、多様かつ現実的な道筋を通じた気候変動に強靭で、循環型で、ネイチャーポジティブな経済及びネット・ゼロGHG排出への移行を支援することを含め、排出削減を加速するために、開発途上国及び新興国に関与する」との内容が盛り込まれました。
ASEAN各国が内包する課題に応じ、優先順位をともに探りながら、日本企業がけん引できる分野で存在感を発揮する。具体的な戦略と明確な目標を立て、力強い行動につなげる。ASEANと日本がサーキュラーエコノミーで共存共栄する道を広げるには、初期段階においては業種の垣根を越えた民間による強力なリーダシップが必要となり、また、将来的には取り組みの拡大のために現地での官民連携が欠かせません。参加企業は、当フォーラムをグローバルとASEAN、そして日本のリーダーをつなぐ「サーキュラービジネスのハブ」に進化させていく目標を改めて確認しました。
PwC 木村浩一郎代表
次回の会議に向けては、ASEANにおけるサーキュラーエコノミー実現に向けた具体的な取り組みのほか、効果的なファイナンスの検討を重ねていきます。また、本フォーラムとの連携に関心を持つASEANのパートナー企業候補の検討も進めていきます。当フォーラムとしてのビジョンの具体化も進め、国際会議などで発信することも含めて検討してまいります。
当フォーラムは、サステナビリティという目標を国際社会でしっかり共有しつつ、地域の実情に即した対策を講じることが日本を含むアジアの持続可能な成長に不可欠である、という認識のもと2022年に発足しました。欧米とは異なるアジア特有の事情を考慮しつつ、さまざまな事業を展開する企業の経営者による意見交換を通じて世界のサステナビリティの実現に向けた最適解を探り続けていきます。
※会社名、役職などは開催当時のものです
※文中の社名、肩書などは2023年6月2日の会議開催当時のものです。なお、今回会議に参加した11社に加え、株式会社JERAが本フォーラムに新たに加盟することになりました。次回より会議にご参加予定です。