エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム第4回会議を開催

サーキュラーエコノミーの実現に向け活動強化

  • 2024-10-16

サステナビリティ経営に取り組む日本企業13社が参画する「エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム(以下、当フォーラム)」(発起人・事務局:PwC Japanグループ)の第4回会議が2024年6月26日、7月12日の両日、参加者を入れ替えて東京都内で開催されました。机上調査から現地での情報収集などに活動の軸足を移すなか、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に向けた課題を議論したほか、今後の活動の方向性についても話し合いました。

左上:味の素 藤江太郎社長、右上:JERA 可児行夫会長  左下:帝人 内川哲茂社長、右下:三井住友トラスト・ホールディングス 高倉透社長

左上:味の素 藤江太郎社長、右上:JERA 可児行夫会長 
左下:帝人 内川哲茂社長、右下:三井住友トラスト・ホールディングス 高倉透社長

2024年上半期の取り組み 国内外の3イベントに参画

2022年11月に第1回会議を開催して以降、当フォーラムはサーキュラーエコノミーの概念やASEAN(東南アジア諸国連合)における課題の整理といった机上調査を中心に活動してきました。2023年の後半からは、実際にASEANでサーキュラーエコノミーの活動に携わる企業や団体と交流して現地の声を聞き、地域のニーズに沿ったソリューションの検討・分析というフェーズに入りつつあります。

企業や団体との交流や情報収集の場として位置づけたのが、2024年1~6月に国内外で参加した3つの大きなイベントです。1月にスイスで開かれた「世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)」では、サーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルについての共同宣言を発表。4月にシンガポールで開催されたアジアでも大規模なサステナビリティ関連のイベント「Ecosperity week 2024」では、当フォーラム主催でのイベントを開催し、ASEANでサーキュラービジネスに取り組む企業とパネルディスカッションも実施したほか、ASEANにおけるサーキュラーエコノミーの実態や進捗について情報を収集しました。5月に東京で行われた日経フォーラム第29回「アジアの未来」でも、ASEANにおけるサーキュラーエコノミーの重要性を議論しました。

これら3つのイベントを振り返って、「世界、アジア、日本のイベント参加者からフィードバックをいただきながら建設的な議論ができた」「ASEANのサステナビリティ領域において中心的な役割を果たす方々と共通の認識を持ち、協力の輪を広げられた」「アジアのプレーヤーが、アジアにおけるサーキュラーエコノミーの課題を議論できる場としての重要性を認識できた」一方で、「日本がもう少し果たすべき役割があるのではないか」といった声が参加企業から上がりました。

左上:国際協力銀行 林信光総裁、右上:第一生命保険 隅野俊亮社長 左中段:日本政策投資銀行 太田充会長、右中段:富士通 時田隆仁社長

左上:国際協力銀行 林信光総裁、右上:第一生命保険 隅野俊亮社長
左下:日本政策投資銀行 太田充会長、右下:富士通 時田隆仁社長

エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラムの重点8領域 具体化に向け議論

当フォーラムは第1~3回の会議における議論や調査を踏まえて、サーキュラーエコノミーの概念の整理、そしてASEANおよび日本企業にとってサーキュラーエコノミーの領域で重要性が高い8つの重点領域を抽出してきました。第4回会議では、このうちASEANのみならずグローバルな課題でもある「プラスチック製品の循環型バリューチェーンの構築」について、参加企業である帝人から、素材のリサイクルの先進的な取り組みの紹介とともに、付随する課題についての共有がありました。その課題提起に対して、参加企業間で具体化に向けた意見を出し合いました。

図表 8つの重点領域

帝人の内川哲茂社長が課題に挙げたことは大きく2つあります。一つは環境価値に対する対価の受け取りの偏りです。例えば同社を含む川上産業が環境負荷の低減に貢献する素材を開発しても、温室効果ガスの排出量削減といった価値の多くは最終製品を製造したり使用したりする川下産業が享受している点を指摘しました。具体例としては、同社の製造する炭素繊維素材は、その製造過程で大量の二酸化炭素(CO2)を排出する一方、軽量化により航空機などのCO2排出を削減できる価値を持っていますが、その炭素繊維素材を使用するのは川下の輸送機メーカーで、素材による削減分も川下メーカーが享受(例えば飛行機の場合、約10年で10%近くのCO2を削減)するという受け取る価値の偏りがあることに言及しました。

また、グローバルにおいても、欧州が化学産業から撤退し川下産業へと移行することで環境負荷の低減を目指す一方、その削減分をカバーするために川上産業が集積する新興国に厳しい視線が注がれがちです。こうした「しわ寄せ」を解消し、川下での環境負荷低減に貢献する川上産業の素材のイノベーションを起こすためにも、バリューチェーン全体で価値が適切に配分される仕組みの構築が必要だと提起しました。

もう一つの課題は、資源循環(リサイクル)と炭素循環(燃料や原料の転換)の比較検証です。世の中に散らばった素材の回収を含めリサイクルには多大な手間とコストがかかる一方、燃料や原料をクリーンなものに転換することで生産にかかる環境負荷を大幅に低減する手法もあります。「リサイクルは環境面や社会面でのプラスはあるが、経済面ではマイナスも少なくない。本当にサーキュラリティが最も合理的なのか、そもそも素材やエネルギー転換ができれば、そちらの方が、環境にも経済的にもより合理的なのではないか、という根本的な問いを持ち続けている」と内川社長は語りました。

これらの課題に対して、ある参加企業は「環境や社会のために本当によいことをしようと考えるならば、市場原理に任せておくという従来のビジネスモデルや勝ち筋を見直す必要がある」と発言。「バリューチェーン全体のR&D(研究開発)を含めた価値創造戦略をつくり直さなければいけない」と内川社長の問題意識に賛同しました。

金融機関の参加者は、価値と負担の分配の参考事例として投資信託の仕組みを挙げました。資金を持っている人、運用する人、運用管理をする人、ルール通り仕組みが回っているかを監視する人などに役割を分けて管理するシステムとなっており、それぞれが報酬をどう受け取るかも当初取り交わす約款で全て決まっていると説明。バリューチェーン上で価値や負担を分配する仕組みの参考になることを紹介しました。

リサイクルが抱えるプラスとマイナスの側面については、「外部経済性や環境負荷を勘案する中で、循環させた方がよいものもあれば、燃やしきってしまった方がよいものもありうる。(すべてリサイクル前提ではなく)ケースバイケースで考えてもよいのでは」と複数の参加企業の間で認識が一致しました。

このほか、自動車や航空機の最終的な所在を把握して確実にリサイクルの輪の中に組み込むにあたって、「製品の長いライフサイクルを管理・把握しているリース会社は大きな力を発揮するのではないか」といった意見も聞かれました。

ASEANに根差した循環型経済 実現に向け活動強化

会議の後半では、当フォーラムの今後の活動について意見を交換。グローバルやASEANを念頭にさまざまな課題の検討を行っていくほか、サーキュラーエコノミーを推進・実装するためのビジネス創出につながる検討会の設置なども含め、今後も議論を継続することで一致しました。

また、この先検討すべき主要なテーマの一つとして「システミック投資」についても意見を交わしました。多様かつ多数の事業に資金を振り分けて分散投資することでリスクを最小化するのが現代の投資理論の常道とされています。これに対してシステミック投資は、それぞれが独立して見える投資案件の中からつながりを見出だし、新しいビジネスシステムの構築の構造を明らかにします。そのうえでシステム全体を機能不全に陥れかねないリスクを除去したり、収益性を高める要素を成長させたりするために複数の事業に同時に投資する手法です。

システミック投資によって収益を上げる考え方は2種類あります。一つは単体では利益を上げにくくてもエコシステムとして集合的にとらえて集中投資する「空間的拡大」です。電車やバスの路線を引くといった輸送システムだけではなく、沿線に住宅街を造成したり、エンターテイメント関連の施設を設けたりすることで人の移動を生み出す土地開発が一例と言えるでしょう。

もう一つの考え方は、まだ完成していない特定の技術が確立したら成り立つシステムの青写真を初期段階から描き、その将来像に向けてリスクを最小限に抑えながら適切な順序で投資をしていく「段階的拡大」です。蒸気機関が生まれたことを発端にさまざまな資金が流入し、大きな構造転換が進んだ産業革命に近いものがあります。

サステナビリティ関連のビジネスは常に収益性の問題を抱えてきました。その課題を乗り越えるため、システミック投資を含めたさまざまな手法を今後も継続的に議論し、産業横断型のサステナビリティトランスフォーメーション(SX)を成功させる要諦について検討していく方向で参加企業の認識が一致しました。

当フォーラムはサステナビリティ経営の実現という目標を国際社会で共有しつつ、地域の実情に根差した対策を講じることが日本を含むアジアの持続可能な成長に不可欠という認識のもと2022年に発足しました。欧米とは異なるアジア特有の事情を考慮しながら、さまざまな事業を展開する企業の経営者による意見交換や各社の交流を通じて、世界のサステナビリティの実現に向けた現実解を引き続き模索していきます。

※会社名、役職などは開催当時のものです

主要メンバー

久保田 正崇

代表, PwC Japanグループ

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中島 崇文

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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安間 匡明

執行役員常務, PwCサステナビリティ合同会社

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