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2022年6月に公表された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」において、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」や「コーポレートガバナンスに関する開示」などに関して制度整備を行うべきとの提言がなされたことを受け、2023年1月に、「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正されました。
これにより、2023年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書より「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設することが求められ、「従業員の状況」において、「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金差異」といった女性活躍推進法などに基づく人的資本指標の開示の拡充が要請されることとなりました※1。新設された記載欄「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や、社内環境整備の方針、当該方針に関する指標の内容などの記載も求められています。
上記の開示要請は、昨今の非財務情報への関心の高まりを背景に、金融庁が2023年1月に公表した「企業内容等の開示に関する内閣府令」などの改正(以下、「本改正」)を受けたものになります。本改正では、「企業内容の開示に関する内閣府令(以下、開示府令)」と「企業内容等の開示に関する留意事項について(以下、開示ガイドライン)」が改正されるとともに、「記述情報の開示に関する原則」の別添資料が公表されています※2。
PwCあらた有限責任監査法人では、2022年12月期の有価証券報告書に基づき、これらの指標を開示している企業の開示状況を分析・調査しました。
今回の調査は、東証プライム市場に上場している企業のうち、12月期決算企業188社※3の有価証券報告書を対象としました。有価証券報告書における「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金差異」の開示状況、ならびに2022年8月に内閣官房が公表した「人的資本可視化指針」(以下、可視化指針)※4で示された人的資本に関する具体的な指標や環境整備(取り組み内容)などについて解説します。
なお、本稿における基礎情報は掲載当時のものであり、意見にわたる部分は筆者の見解であることをあらかじめ申し添えます。
今回の調査において、「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金差異」の3指標のいずれかを開示していた企業は、調査した188社のうち23社でした。本稿では、この23社の有価証券報告書における人的資本に関する開示の分析結果について解説します。
調査対象とした2022年12月期有価証券報告書提出企業23社のうち、「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金差異」の3指標全てを開示している企業は11社でした。3指標の定量情報の開示状況は以下のとおりです。
23社のうち、定量情報として「女性管理職比率」を開示している企業は18社、「男性育児休業取得率」を開示している企業は11社、「男女間賃金差異」を開示している企業は12社でした。
「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金差異」について、記述情報の開示に関する原則の別添資料では、「連結ベースでの開示に努めるべき」とされています。
そこで、3指標の開示範囲(「提出会社のみ」「連結子会社も開示」「連結ベースで開示」)と開示期間(「単年度開示」「複数年度開示」)について分析しました。また、調査対象の有価証券報告書で開示されている追加的な指標やと定性的なその詳細・補足情報の具体例についても紹介します。
調査対象とした2022年12月期の有価証券報告書で開示されている「女性管理職比率」の開示範囲および開示期間は以下のとおりです。
女性管理職比率を開示している18社のうち、13社は提出会社のみの情報を開示しており、推奨されている「連結ベース」での開示を行っている企業は4社のみでした(うち1社は目標のみの開示)。また、連結ベースで開示している企業4社のうち、3社は海外子会社を含めた国内外連結ベース、1社は国内連結ベースでの開示を行っていました。開示期間については、多くの企業が単年度(当会計期間)でした。
また、有価証券報告書において、女性管理職比率に関連した追加的な指標や定性的な情報を開示していた具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
調査対象とした2022年12月期の有価証券報告書で開示されている「男性育児休業取得率」の開示範囲および開示期間は以下のとおりです。
男性育児休業取得率を開示している11社のうち、9社は提出会社のみの情報を開示しており、推奨されている「連結ベース」での開示を行っていた企業は1社のみでした。その1社は、「女性管理職比率」「男女間賃金差異」についても連結ベースでの情報開示を行っています※6。
開示期間については、女性管理職比率と同様に、多くの企業が単年度(当会計期間)のみの実績を開示していました。
また、2022年12月期の有価証券報告書において、男性育児休業取得率に関連した追加的な指標や定性的な情報を開示していた具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
「男性育児休業取得率」および「男女間賃金差異」については、開示ガイドラインにおいて、割合を記載する場合には算出方法を注記することが求められています。今回の調査において、先行して任意で「男性育児休業取得率」を開示していた企業のうち、算出方法を注記している企業は11社中5社でした。
調査対象とした2022年12月期の有価証券報告書で開示されている「男女間賃金差異」の開示範囲および開示期間は以下のとおりです。
男女間賃金差異を開示している12社のうち、10社は提出会社のみの情報開示であり、多くの企業が単年度(当会計期間)の実績のみを開示していました。推奨されている「連結ベース」での開示を行っていた企業は1社のみでした。
先行して任意で「男女間賃金差異」の指標を開示していた企業のうち、開示ガイドラインで求められている算出方法を注記している企業は12社中3社でした。
有価証券報告書において人的資本に関する開示が義務化される以前に、先行して開示を行っていた今回の調査対象企業について、「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金差異」以外にどのような開示を行っているかを調査し、可視化指針で紹介されている項目に従って分類しました。
調査対象とした2022年12月期の有価証券報告書における人的資本に関する指標の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
上記の指標以外で、人的資本に関する定性的な情報(具体的な取り組み内容や環境整備に関する内容)として開示されていた内容としては、主に以下のようなものが挙げられます。
また、多様性(ダイバーシティ)や健康、安全に関する非財務目標を役員報酬の業績連動評価の一部に反映させていることなど、人的資本に係るKPIを設定して取り組みの実効性を開示している企業も見られました。
2023年3月期の有価証券報告書から新設された「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄においては、人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や、社内環境整備の方針、当該方針に関する指標の内容などの開示が必須となり、「記載欄」の「戦略」と「指標及び目標」において開示することが求められています。
調査対象の23社について、人的資本に係る指標(定量情報)を開示している企業数や、社内環境整備に係る具体的な取り組み内容を紹介します。
人材育成に係る指標(定量情報)、社内環境整備に関する情報は以下のとおりです。23社中20社が人材育成方針を開示しており、そのうち4社が対応する指標を開示していました。
多様性に係る指標(定量情報)、社内環境整備に係る情報は以下のとおりです。23社中21社が多様性に関する考え方を開示しており、そのうち6社が対応する指標を開示していました。
健康・安全に係る指標(定量情報)、社内環境整備に係る情報は以下のとおりです。23社中12社が健康・安全に関する考え方を開示しており、そのうち4社が対応する指標を開示していました。
コンプライアンス・労働慣行に係る指標(定量情報)、社内環境整備に係る情報は以下のとおりです。23社中18社がコンプライアンス・労働慣行に係る考え方を開示しており、そのうち3社が対応する指標を開示していました。
本稿では、2023年3月期より有価証券報告書の「従業員の状況」において開示が義務付けられる「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金差異」について、2022年12月期の有価証券報告書において、任意で先行して開示を行っている企業の開示状況について分析し、解説しました。記述情報の開示に関する原則の別添資料では、「連結ベースでの開示に努めるべき」とされていますが、連結ベースの開示を行っている企業はまだまだ少ない現状が浮き彫りとなりました。今後は、連結ベースで財務情報を開示することに合わせて、連結ベースでサステナビリティ情報も積極的に開示することが、投資家含め広くステークホルダーから期待されているところです。
また、開示の有用性、比較可能性を高めるという観点からは、人的資本に関する指標(定量情報)を拡充し、開示することが望ましいと考えられます。有価証券報告書に新設される「記載欄」において、企業が人的資本に係る考え方や取り組み内容を積極的に開示することを通じて、投資家との対話が促され、長期的な企業価値向上につながる好循環が生まれることが期待されます。
本稿の有価証券報告書における人的資本に関する開示分析が、人的資本に関する開示を検討する際の参考となれば幸いです。
※1 開示が義務付けられているのは、女性活躍推進法などの規定に基づいて当該指標を開示している会社のみです。
※2 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について(2023年1月、金融庁)
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230131/20230131.html
※3 東証プライム市場上場企業のうち、大手の「EY新日本有限責任監査法人」「有限責任監査法人トーマツ」「有限責任あずさ監査法人」「PwCあらた有限責任監査法人」が監査している企業は、1,429社(金融企業108社、非金融企業1,321社)であり、そのうち12月決算企業は、189社(金融企業1社、非金融企業188社)です(2023年4月時点)。
※4 「人的資本可視化指針」(案)に対するパブリックコメントの結果の公示及び同指針の策定について(2022年8月、内閣官房)
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/20220830jintekisihon.html
※5 1社は、女性管理職比率ではなく、男女別の管理職人数を開示しています。
※6 3指標全てを連結ベースで開示している1社は「女性管理職比率」「男女間賃金差異」は海外子会社を含む連結ベース、「男性育児休業取得率」は国内子会社の連結ベースで開示しています。
※7 2022年12月期の有価証券報告書においては、「離職率」を開示している企業がなかったため、流動性の指標例として、採用比率を記載しました。
※8 環境整備についての記載とは、各戦略、指標、目標を実施・達成するための風土醸成、制度設計などを指します。各項目に対し、横断的に整備されている例が多く見られました。