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2022-11-10
企業価値において無形資産の重要性が高まる中、企業活動の基盤となる「人的資本」への投資がこれまで以上に重要視されてきています。同時に、投資家を中心としたステークホルダーからの強い要請を受け、国内外の各種機関は近年、人的資本情報の開示ルールの整備を加速させています。本コラムでは人的資本の情報開示に関する動向や、企業が取るべき対応について解説します。
企業の競争力の源泉や、持続的な企業価値向上の推進力は、無形資産にある――。このような認識が企業経営者や投資家の間で広まっています。米国市場(S&P500)の時価総額に占める無形資産の割合は2020年に90%に達しているほか、国内の投資家へのアンケートでは、中⻑期的な投資・財務戦略において⽇本企業は人材投資を最も重視すべきと考える割合が67%に達しています。また、 ⽇本の上場企業のCFOに対するアンケートにおいても、サステナビリティ関連課題のうち企業価値に影響を与えるものとして、回答者の77%が「⼈的資本の開発・活⽤」を選び、最も⾼い割合を示しました。
注記:内閣官房「非財務情報可視化研究会」第4回配布資料、経済産業省「第3回 非財務情報の開示指針研究会」事務局資料をもとにPwC作成
投資判断を行うにあたって人的資本を重要視する投資家からの強い要望により、人的資本に関する情報を開示するルールの整備が近年加速しています。
注記:内閣官房「非財務情報可視化研究会」第4回配布資料、経済産業省「第3回 非財務情報の開示指針研究会」事務局資料をもとにPwC作成
2018年12月に国際標準化機構(ISO)が「人的資本の情報開示に関する国際的なガイドライン」(ISO30414)を発表したことを皮切りに、2020年8月には米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して人的資本に関する開示を新たに義務化し、2021年4月には欧州委員会が「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」案の中で、人的資本に関する開示を推奨しました。
注記:内閣官房「非財務情報可視化研究会」第4回配布資料、経済産業省「第3回 非財務情報の開示指針研究会」事務局資料をもとにPwC作成
国内では2021年6月に東京証券取引所が上場企業に対するルールである企業統治指針「コーポレートガバナンス・コード」を改訂し、人的資本に関する情報開示項目を追加しました。2022年6月には金融庁のディスクロージャーワーキンググループにおいて、人材育成方針や社内環境整備方針などの人的資本に係る情報を、有価証券報告書の開示項目に追加する方針が示されました。金融庁は2023年にも上場企業に情報開示を義務化する方向で検討を進めています。これらの動きを受け、2022年8月には内閣官房の非財務情報可視化研究会が、人的資本の情報開示の在り方を示す「人的資本可視化指針」を公表しました。
注記:内閣官房「非財務情報可視化研究会」第6回配付資料、経済産業省「人的資本コンソーシアム設立趣意書」をもとにPwC作成
企業が人的資本経営を推進するためのガイドラインを公表したり、コンソーシアムを立ち上げたりする動きも出てきています。2022年5月に「人的資本経営の実現に向けた検討会」が発表した「人材版伊藤レポート2.0」では、人的資本経営の実現のために経営戦略と連動した人材戦略をどのように実践するかが具体的に示され、企業にとって参考となるガイドラインとなっています。また2022年8月には、人的資本の先進事例を共有し、情報開示について議論を行うほか、投資家との対話の推進を目的とする「人的資本コンソーシアム」も官民共同で設立されました。
このように、人的資本経営や情報開示の拡充についての議論が加速していることから、企業は開示に向けた準備を進める必要があります。企業は人的資本に関する指標を開示するだけでは不十分であり、人的資本が中長期的な企業価値や将来財務につながるストーリーを提示し、それに沿った具体的な取り組みを中長期的目標や定量的KPIとともに開示する必要があります。すなわち、開示にあたっては、人的資本経営の実践が重要となります。ストーリーを考える上では、特に「なぜ」「何を」を説明する必要があり、そのためには人的資本に関する取り組みが具体的にどのように将来財務に影響を与えるかを可視化し、その影響の相関関係や因果関係を示すことが有効です。さらに、KPIの達成に向けては、自社のデータを蓄積し、PDCAサイクルを適切に管理することで人事・人材戦略を高度化していくことも重要です。
では、自社の人的資本の将来財務へのインパクトは、具体的にどのように可視化すれば良いのでしょうか。PwCでは、サステナビリティ活動が将来の財務に及ぼす影響の経路(インパクトパス)を特定し、将来財務インパクトを可視化するツール「Sustainability Value Visualizer (SVV)」を利用することで、その可視化を支援しています。インパクトパスとは、サステナビリティ経営に重要な非財務資本である6つの資本が、サステナビリティ活動を通じて6つのプレ財務ドライバ(※)に変換され、財務インパクトを創出することで再び6つの資本の増強へつながる、というものです。プレ財務ドライバごとにインパクトパスを洗い出すことで説得力の高い、網羅的なインパクトパスを導出することが可能です。
人的資本のインパクトパスの一例をみていきましょう。例えば、企業が人事・人材戦略として働き方改革に取り組んでいるケースにおいては、その取り組みが従業員のエンゲージメント(働く意欲)向上につながる可能性があります。エンゲージメントが向上することで労働生産性が向上し、長期的に利益向上にもつながると考えられます。また、離職率低下にも効果を発揮し、採用コストの増加を抑えることにも寄与すると考えられます。
このように人的資本に関する取り組みが企業の「人材力」をどのように高めるのかを可視化することで、自社の経営戦略を実現するための人材の獲得や動機づけなど、人事課題解決に対する施策が十分に実行されているか、足りない施策はないか、といったことを検証することができます。さらに、将来財務へのつながりを可視化するのみではなく、インパクトパスに関連する指標やデータをプロットすることで、インパクトパスの相関関係や因果関係を明らかにしながら、人事・人材戦略の重要な取り組みやKPIの検討などに活用できます。
※プレ財務ドライバ:IIRCにおける6つの資本の考えに基づいてPwCが独自に設定した、サステナビリティ経営力(資金調達力、人材力、オペレーション力、創発・技術開発力、評判形成力、原材料調達力)
人的資本経営を推奨する潮流が強まっていますが、「企業価値の向上を見据えて具体的に何をどの程度取り組むべきか」「経営戦略と連動した人事・人材戦略を策定していることをどのように示すべきか」という点については、多くの企業は手探りという状況です。また、投資家の立場から企業の人的資本経営の良し悪しを評価するニーズが高まることも予想されますが、その評価方法もまだ確立されていません。PwCでは、人的資本経営に関するガイドラインに依拠しつつ、統合思考経営やSVVの考え方も包含した、人的資本経営の成熟度評価をできるフレームワークを策定し、開示情報に基づいた評価を行っています。
人的資本の観点で企業の人事・人材戦略が近年注目されており、戦略的人事の実現はこれまで長い間議論されたものの、実現はいまだ困難です。今後は投資家を中心に、人的資本経営への注目と重要性が一層高まることが予想されます。企業においても人事部門を中心に人的資本に係る議論が活発化していると思われますが、開示する項目や手法だけでなく、経営戦略と連動した人事・人材戦略を考えることが非常に重要です。また、真に企業価値向上に資するものとするためにも、自社の人事・人材戦略を積極的に対外的に開示し、投資家を中心としたステークホルダーと対話を推進することで、目指すべき姿や取り組むべき課題を明確にしていくことが肝要です。
SVVに関するサービスの詳細は以下のページをご覧ください。
https://www.pwc.com/jp/ja/services/sustainability-coe/sustainability-management/finance-impact.html