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2022-12-16
昨今、ネイチャーポジティブエコノミーの実現について企業の関心も高まってきております。そこで本連載コラムでは、ネイチャーポジティブエコノミーへ向けた生物多様性を含む自然資本の最新動向やデータを活用した各社の取り組みについて、有識者や関連企業の方々とのディスカッションなどを交えながら紹介していきます。第1回は、生物多様性をめぐる国際的な動向と、情報開示に向けたデータの活用について取り上げます。
2010年に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、愛知目標が採択されました。愛知目標は、2050年までに「自然と共生する」世界を実現するというビジョン(長期目標)を持って、2020年までにミッション(短期目標)および20の個別目標の達成を目指すものとして設定されました。その後、2022年12月開催の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)に向けて、「ポスト2020生物多様性枠組(Post-2020 Global Biodiversity Framework:GBF)」の検討が進められてきました。GBFでは、重点的に取り組む行動目標が22個設定されており、その中で企業・事業者に関連するものとして「実施と主流化のためのツールと解決策」に関する行動目標15があります。行動目標15では、ビジネスに対して、バリューチェーン上の生物多様性への影響について定期的に観測・評価・開示することを法的に定め、負の影響を削減し、正の影響を増加することを定めています。2022年9月時点の案では、どのようなビジネスにおいて情報開示を義務化するのか、負の影響をどの程度削減するのかなど、まだ合意できていない部分も多く残っており、COP15における議論が注目されてきました。
また、大手金融各社が署名している「生物多様性のためのファイナンス協定(Finance for Biodiversity Pledge:FfB)」が2022年9月2日に発行した「Guide on biodiversity measurement approaches - 2nd edition1」では、重点分野ごとにどのツールで評価できるかを整理しています。このガイドでは、どのくらいの数の企業がそのツールを実際に活用しているかが分かるため、今後、生物多様性をデータの観点で見ていく際には有用と考えられます。
GBFの中で、生物多様性に関する情報について企業に開示を求める動きが明らかになってきたことから、ネイチャーに対してプラスの価値を出している企業への投資が増えると考えられます。そのため、既存の事業の変革においては、自然をよりポジティブな状態にして、持続可能性を担保できるかという観点で考えていくことも重要になります。
また、場所と紐づけて生物多様性を考える上で、グリーンインフラの概念が重要になりつつあります。グリーンインフラは、米国で発案された社会資本整備手法で、自然環境が有する多様な機能をインフラ整備に活用するという考え方を基本としており、近年欧米を中心に取り組みが進められています。国土交通省が公表している「国土強靱化年次計画2021」(令和3年6月17日)には、「生物多様性の確保や生態系ネットワークの形成等に寄与する『グリーンインフラ』の社会実装を推進する」と記載されていることから、日本においても、グリーンインフラを適切に維持することで、生物多様性を守り、その場所の価値向上につなげることができると考えられます。
場所の価値に密接に関連がある業界としては、不動産業やリゾート業、旅行業が挙げられます。これらの業界においては、昨今、スマートシティやスマートエリアといった取り組みが進められています。
一方、現在はまだネイチャーに関するデータが世の中に広く普及していないため、スマートシティやスマートエリアを考える際の情報基盤の中に、ネイチャーに関するデータを考慮していないケースが多く見られます。ネイチャーに関するデータを踏まえて、自然資本を増やすことは、都市の再生につながり、最終的には経済的な価値を生む可能性もあるため、今後は、スマートシティやスマートエリアといった取り組みの中でも、生物多様性や自然資本という考え方が重要になってくるでしょう。
企業が生物多様性に関する情報を開示するためには、データに基づいたネイチャーの見える化、費用対効果等の検証が必要となります。そうした取り組みを支援する企業も出てきています。
研究者スタートアップとして先端技術を活用したサステナビリティソリューションを提供する株式会社シンク・ネイチャーは、日本に分布する植物や動物(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・魚類・サンゴ・昆虫類など)の種の空間分布を予測するシステムを完成させ、さらに、同様な情報整備をアジアや全球スケールでも推進しています。
データに基づいた生物多様性や関連した生態系サービスの可視化は、企業がアクションプランや戦略を考える際の参考になるため、できるだけ解像度と精度の高いデータを提供していくことが求められます。シンク・ネイチャーがビッグデータと機械学習を駆使して作成した生物多様性デジタルツインでは、空間解像度は20mスケール、時間解像度は3カ月単位となっており、植物や動物の種の分布を詳細なエリアで見ていくことが可能となっています(図表1参照)。
図表1:生物多様性ビッグデータを基にした、横浜市の保全優先エリアの可視化の事例
出典:株式会社シンク・ネイチャーより提供。赤いエリアほど、保全優先度が高いことを意味する。生物分布等のグランドトゥルースデータと、人工衛星データを統合して、生物種分布を20m解像度で予測し、最適化分析で生物多様性消失リスクを最小化するための重要エリアをスコアリングしている。
この可視化システムを活用することで、土地の開発による生物多様性への影響を事前に把握することができ、ネイチャーに対するネガティブインパクトを最小化するための開発場所の選択や、ネイチャーポジティブ事業を実施する上で費用対効果の高い土地を特定することも可能となります。このようなデータに基づいた生物多様性事業戦略を設定し、企業にとっても社会にとってもプラスになるアクションを推進することが重要となります。具体的には、
等といった科学的な枠組みに基づいて、ネイチャーポジティブ達成のために、より実効性の高い事業を作っていくことができると考えられます。
また、企業がデータを活用して、科学的なエビデンスに基づいたブランディング(以下、「科学的ブランティング」という)を行うことで、企業価値を向上させる目的から、自然にとってのリスクを低減し、ネイチャーポジティブにしていく戦略を推進することも可能です。データを活用して、投資家に自社の活動をアピールするとともに、消費者に向けてどのようなメッセージを伝えていくか、という観点も非常に重要になります。
株式会社シンク・ネイチャーの代表・久保田康裕氏は、ネイチャーポジティブに向けたデータ活用について以下のように述べています。
「生物多様性に取り組んだとしても、結果が出るまでは5~10年程度の期間が必要となります。その期間中であっても、データを活用して、事業成果を見える化するなど、消費者が企業の取り組みの価値を体験できるような働きかけ・工夫、すなわちIRやPRの観点でのネイチャーポジティブアクションが重要になってくるでしょう」
生物多様性を保全するために、企業はさまざまな取り組みを消費者に向けて実施してきました。例えば、環境や持続可能性に関する寄付を商品価格の中に設定し、消費者が商品を買うことによる寄付への参画を促したり、環境や持続可能性にプラスになることを行っていると認証ラベル等を通して消費者に周知したりといった取り組みです。欧州では、認証ラベル以外にも、森林コモディティ規制法等の法制度を整備することで、消費者への啓蒙を強化していますが、日本は欧州のようなルール策定への抵抗感が強いため、個々人に働きかけていくことが重要になると考えられます。現在、環境省では、省エネ行動の促進について消費者の行動変容を促す情報発信(ナッジ)を行っていますが、省エネだけではなく生物多様性についても同様の方法で行動変容を促すことも今後の取り組みとして考えられます。
また、ブランディングの観点では、「製品やサービスの価値は受け手が決める」という考え方が主流となっているため、製品やサービスの受け手である消費者が気づくことで、製品やサービスの価値が認められる傾向にあります。そのため、消費者が生物多様性による価値に気づくことができるように、自然の価値を見える化したり、消費者との対話を重視したりすることも企業には求められるでしょう。
そのほか、企業は、さまざまなサプライヤーとのつながりの中で製品やサービスを提供していることから、自社が関わる部分だけではなく、サプライチェーン全体を通して生物多様性への影響を考えていくことも重要と考えられます。
環境コンサルタントの宮本育昌氏(JINENN代表)はサプライチェーンを通した生物多様性の取り組みについて、以下のように述べています。
「米国証券取引所による紛争鉱物に関する開示規制への対応の際には、電機・電子業界が連携して精錬所まで確実にサプライチェーンを追跡できるシステムを作りました。自然に関しても最近サプライチェーンの追跡への要求が急速に高まっており、企業にはその対処が求められています。例えば、パーム油では、数多くの農家からアブラヤシが集められ、1つの工場でパーム油が作られるため、どこの農家からとれたパーム油かを特定することができていません。そのため、パーム油のサプライチェーン追跡においては、紛争鉱物の事例も参考に、地域の自治体・行政を巻き込んでコンソーシアムのような形でアプローチしていくことで、企業にとってのメリットが生まれ、かつ生物多様性の保全にもつながるでしょう」
今後、国際的な動向を踏まえて、生物多様性に関するデータの開示が企業に求められるようになると考えられます。その際、企業単体ではなく、取引先を含めたサプライチェーン全体で、地球規模で生物多様性を保全していくことも必要と思われます。また、企業の製品・サービスの受け手である消費者に受容されるためには、データを活用して見える化することで、消費者にとって分かりやすい形で情報を伝え、ブランド力を強化していくことが必要になるでしょう。
なお、本コラムにコメントをいただい久保田氏、宮本氏と実施した座談会の内容も後日ご紹介する予定です。
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