シリーズ「価値創造に向けたサステナビリティデータガバナンスの取り組み」

第1回:サステナビリティ情報の開示により重要性が増すデータガバナンス・データマネジメント

  • 2025-02-27

1.サステナビリティ情報開示の必要性

現代のビジネス環境において、企業は単に財務的な成果を追求するだけでなく、社会的責任を果たすことが求められています。この流れの中で、サステナビリティ情報の開示が重要性を増しています。気候変動、環境劣化、社会的不平等などの課題に対処するため、企業の持続可能性に対する取り組みが注目されています。特に、投資家や消費者の意識が変化しており、ESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮した投資が増加しています。以上を背景として、企業は透明性を高め、ステークホルダーとの信頼関係を築くことが、より求められています。

2.サステナビリティ情報の重要性

サステナビリティ情報は、開示目的はもとより、企業の持続可能な成長を支える基盤として、その重要性が増しています。以下に、観点ごとに具体例を交えて説明します。

パフォーマンスの最適化

サステナビリティ情報を活用して、エネルギーや資源の運用効率を向上させることができます。

例えば、製造業ではエネルギー消費データを分析し、ピークシフトを行うことで電力使用を最適化する取り組みがあります。これにより、コストとCO2排出量を抑えることができ、環境への配慮と経済的な利益の両立につながります。

また、複数の企業などで電力需要を制御することができれば、発電側の運用の効率化にも役立つため、社会全体でのエネルギー需給の最適化にもつながっていきます。

リスク管理の強化

サステナビリティ情報を活用し、潜在的なリスクを早期に特定し、適切な対応策を講じることができます。

例えば、農業関連の企業が気候データを活用して異常気象のパターンを予測し、作物の生産計画を調整する取り組みがあります。これにより、天候に起因する収穫の失敗リスクを低減し、事業の安定性を保つことができます。

価値創造と新たなビジネスチャンス

サステナビリティ情報は、企業のブランド価値を高め、新たなビジネスチャンスを創出するために利用されます。

例えば、消費財メーカーが製品ライフサイクル全体における環境への影響を分析し、再利用可能なパッケージを開発した例などがあります。こうした取り組みにより、環境に配慮する消費者層から支持され、売上高の増加につながったり、企業の持続可能性への取り組みが評価され、ESG投資ファンドからの資金調達が円滑に行えるようになったりするケースが生まれています。

3.サステナビリティ情報の活用と開示における課題

サステナビリティ情報の活用と開示には、いくつかの課題が存在します。これらの課題を以下に示します。

データの一貫性と標準化

  • 異なる基準の統合:企業は、異なる部門や地域で収集されたデータを統合する際、基準の違いが障害となることがあります。これにより、データの一貫性と整合性を保つことが難しくなります。
  • 国際基準への適合:国際的な報告基準(GRI、SASBなど)に基づく情報開示が必要ですが、企業にとって基準の違いを理解し、適用することが負担となることがあります。

データの正確性と信頼性

  • データの精度:サステナビリティ情報の収集過程で、データの精度を保つことが難しい場合があります。特に、手作業でのデータ入力や異なるフォーマットによるデータ変換において、誤差が生じる可能性があります。
  • 情報の信頼性:開示する情報の信頼性をどのように保証するかは、ステークホルダーの信頼を得るために重要です。データの監査や第三者による検証が求められる場合もあります。

コンプライアンスと報告の複雑性

  • 規制遵守の負担:各国や地域で異なる規制や基準が存在し、グローバルに事業を展開する企業は、これらの多様な要件に対応する必要があります。
  • 報告の透明性と詳細度:企業は、どの程度詳細に情報を公開するかについての判断を迫られます。過度の情報開示は競争上の不利を招く可能性がある一方、不十分な情報開示はステークホルダーの信頼を損ねるリスクがあります。

4.データガバナンスとデータマネジメントの必要性

前述した課題に対処するためには、企業全体でのデータガバナンスとデータマネジメントの強化が不可欠です。これらは、データの品質、セキュリティ、プライバシーを確保し、企業全体でのデータの一貫性と信頼性を保証する枠組みを提供します。

データガバナンス

データガバナンスでは、明確なポリシーとプロセスを策定し、データオーナー、アクセス権限、セキュリティ対策を適切に管理することが重要です。これにより、組織的な取り組みとして、データの誤用や漏洩を防ぎ、ステークホルダーからの信頼の強化につながります。

データマネジメント

データマネジメントでは、データの収集、保存、分析、報告のプロセスを最適化し、データの価値を引き出すための戦略的な取り組みが求められます。効率的なデータマネジメントにより、企業はデータから得られるインサイトを最大化し、持続可能なビジネスモデルの構築を実現できます。

例えば、AI技術を活用して大量のデータから有用な情報を抽出し、戦略的な意思決定に役立てることができます。

5.今後の展望とさらなる詳細解説

サステナビリティ情報の重要性は今後さらに高まることが予想されます。技術革新とデジタル化の進展により、企業はデータをより効果的に収集・分析し、持続可能な社会の実現に向けたリーダーシップを発揮することが期待されます。

今後のコラムでは、以下のテーマについて、より詳細に解説していきます。

  • データの信頼性と正確性:法規制における開示にあたって、サステナビリティ情報の信頼性と正確性に求められることを考察します。
  • サステナビリティ情報の活用:パフォーマンスの最適化、リスク管理の強化や価値創造などのサステナビリティデータの活用について事例を交えながら考察します。
  • 統合管理を含めたデータガバナンスとマネジメント:データの一貫性と効果的な活用を保証するための統合管理の重要性について詳しく解説します。
  • 上記を支えるシステムアーキテクチャと推進体制:効率的なデータ管理を支える技術基盤と組織体制の構築に焦点を当てます。

企業はこれらの要素を取り入れ、サステナビリティ情報を活用し、持続可能性を中核に据えた経営を行うことで、社会的責任を果たしつつ、経済的な成果を達成することが可能です。また、これにより企業は、ステークホルダーからの信頼を獲得し、長期的な成長を実現するための基盤を築くことができるでしょう。

執筆者

田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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高橋 功

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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横田 智広

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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浅水 賢祐

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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鮫島 洋一

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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林 勇希

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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