戦略的社会貢献の実践に向けた課題と対応(前編)

2020-10-06

はじめに

サステナビリティに対する考え方は時代と共に変遷しています。図表1に示す通り、1980年代まで(第一世代)は法令順守やリスク管理、環境保全活動や寄付活動などの社会貢献が主な活動となっていましたが、1990年から2000年ごろ(第二世代)には効率的な操業、説明責任、積極的な情報開示が中心となりました。その後、2000年代から(第三世代)は、自然環境や社会システムの中で企業活動を長期的に持続・成長させる「コーポレートサステナビリティ」の考え方が主流となっています。

本コラムでは、第一世代から現在に至るまで、企業の使命のもとでさまざまな活動が行われている広義の社会貢献活動について、日本の同活動の現状と課題を分析し、戦略的な社会貢献活動の実践に向けて日本企業が何をすべきかを考察します。前編では、グローバル先進企業と日本企業の社会貢献活動に関する取り組みを比較することで、日本企業が直面している課題について説明します。そして後編では、それらの課題への対応策を提示します。

社会貢献活動とは何か

社会貢献活動(「コーポレートコミュニティ投資」、「コーポレートシチズンシップ」などの名称もがありますが、本コラムでは、「社会貢献活動」と同義語として整理しています)は、明確な定義はないものの、一般的には「自らは利益を得ずに社会の利益に貢献する活動」と考えられています。また、150以上の企業から構成されるグローバルネットワークであるLondon Benchmarking Groupは、「コーポレートコミュニティ投資」を「企業が社会に利益をもたらすために行う活動やプログラム」と定義しています。

日本企業の社会貢献活動の現状

では日本企業の社会貢献活動の現状はどうなっているのでしょうか。2017年まで行われていた「社会貢献活動実績調査結果」の2017年度版1によると、社会貢献活動支出額(1社平均)は1997年から2007年までは平均3.88億円でしたが、2008年から2017年までは1社平均5.01億円となっており、過去20年間で社会貢献活動の金額は増加し、経常利益に対する社会貢献活動支出額の比率は2017年で0.89%となっています。また「CSR企業総覧(2020年版)」2の社会貢献活動支出額ランキングによると、2019年の上位100社のうち1社あたりの平均支出額は約19.5億円(2018年は19.8億円)となっています。活動分野は多岐にわたっており、教育、文化・芸術、健康・医学・スポーツ、学術研究、地域社会の活動、環境などに対する活動が実施されています。

日本企業の社会貢献活動の課題

ではここからは、日本企業が社会貢献活動を推進する上でどのような課題を抱えているのかを考えます。「2014年度 社会貢献活動実績調査結果」によると、日本企業が抱える社会貢献活動推進上の課題として「経営への戦略的位置づけ」、「トップの理解」、「社内の推進体制」、「活動の評価」、「パートナーの選択」などが挙げられています3。図表2の通り、これらを企業活動のプロセスに基づいて整理し、日本企業が今なお抱える社会貢献活動の典型的な課題として5つのプロセスごとに分類しました。

そして、これらの課題がいかにして発生しているのか、仮説としてプロセスごとに5つの要因を導き出しました。うち開示情報から調査が可能な「課題特定・戦略策定・資源配分」「目標設定・評価」「施策実行」の各プロセスについて、サステナビリティの取り組みが進んでいるグローバル先進企業(5社)と社会貢献活動の支出額が多い日本企業(20社)の取り組みの比較・分析し、仮説の検証を試みました。

グローバル企業との比較から見える日本企業の課題

課題の要因(1):社会貢献活動の戦略がコアビジネス戦略と結びついていない

まず、社会貢献活動の優先課題とビジネスとの関係性が明示されているかについて調査しました。その結果、グローバル先進企業は日本企業に比べて、社会貢献活動戦略の優先課題とビジネスを関連付け、活動がどのようにビジネスにベネフィットをもたらすのかを示していることを確認しました。


課題の要因(2):目標を設定し、アウトプットおよびインパクトを計測していない

社会貢献活動の各プログラムで社会へのアウトプット・社会へのインパクトおよびビジネスへのインパクトを計測しているかについて調査したところ、グローバル先進企業および日本企業共に多くが裨益者の数や活動の回数など、活動の直接的なアウトプットについて報告しています。一方で、社会へのインパクトを報告している企業は日本では非常に少ないことが分かりました。なお、ビジネスへのインパクトについては、グローバル先進企業と日本企業共に低い数値に留まっています。


課題の要因(3):パートナーと適切に連携していない

多くの企業が社会貢献活動を実施する上で、非政府組織(NGO)をパートナーとして選択しています。企業がNGOと連携することで双方にどのようなメリットがあるのかを、図表5に整理しました。企業はNGOと連携することにより、NGOが持つ知見を学び、企業が持たないNGOのリソースにアクセスすることができ、さらに潜在的な問題を予測することで、不確実な未来に向けた変革の方法を学ぶことができます。また、従業員のエンゲージメントにつながり、企業のブランド価値の向上にも貢献します。

今回、企業がどのようなNGOと連携しているのかを調査しました。NGOは活動領域・地域、規模などさまざまであるため、調査では、NGOを特定の地域のみで活動している小規模な「地元NGO」とグローバルで活動している「国際NGO」に分類しました。グローバル先進企業の活動の9割がNGOと協力して行われている一方で、日本ではその割合が4割と、半分以下に留まっています。特に、グローバル先進企業のプログラムの7割は国際NGOと連携している一方で、日本企業は2割に留まっています。企業は、規模が大きい国際NGOと連携することで、より大きなメリットを享受しようというグローバル先進企業の考えが見て取れます。

次に、企業とNGOとの連携形態について調査しました。企業とNGOとの連携形態を示す“Collaboration Continuum”というフレームワークがあります。このフレームワークでは、連携の形態を3つの段階で分類しています(図表7)。連携の形態が「慈善的協力」から「統合的協力」に向けて移行することで、企業が提供する資源はお金からコアコンピタンスに移行し、一方的な価値の創造から共有価値の創造へと変化することが提唱されています。

グローバル先進企業と日本企業の社会貢献活動のプログラムにおけるNGOとの連携について、Collaboration Continuumの3つの連携形態に基づいて調査を実施したところ、日本企業のプログラムはNGOとの連携そのものが少なく、また連携のうち約半数が「慈善的協力」の段階に留まっていることが分かりました。

まとめ

グローバル先進企業と日本企業の比較を踏まえて、日本企業が社会貢献活動において抱えている課題の要因として、以下3つのを確認しました。

課題の要因(1):社会貢献活動の戦略がコアビジネス戦略と結びついていない

課題の要因(2):目標を設定し、アウトプットおよびインパクトを計測していない

課題の要因(3):パートナーと適切に連携していない

後編では、これら3つの課題の要因への対応案を考察します。

後編はこちら

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