
第10回◆業界や国の垣根を越えたプロフェッショナルの連携が半導体業界に新たな変革をもたらす
PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 酒井 健一
半導体業界は今、新たなテクノロジーの台頭や需要のシフト、デジタル化といった急激なビジネス環境の変化への対応を迫られています。とくに、スマートフォン向けから車載向けへのシフトを加速させ、製品・サービスのみならず、プラットフォーム、サプライチェーンに至るまで大胆にデジタル化を推進する先進半導体メーカーの新たな動きは、業界全体の“戦い方”を大きく変えようとしています。これからの半導体メーカーの勝ち筋とは――。PwCコンサルティング ディレクターの酒井健一に、アソシエイトの倉田圭樹がインタビューしました。
登場者
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
酒井 健一
インタビュアー
PwCコンサルティング合同会社
アソシエイト
倉田 圭樹
倉田:
半導体業界のトレンドは今、急速に様変わりしていると聞いています。長年にわたって数多くの半導体メーカーを支援してきた酒井さんは、どのような変化に注目していますか。
酒井:
私はテクノロジー企画を担当するチームに所属し、電子部品などのエレクトロニクス業界を担当してきました。半導体については、素材から設計、製造装置といった製造領域だけでなく、販売までを含めて幅広く支援させていただいています。
その経験を踏まえ、近年の大きな変化として感じるのは「ムーアの法則」や「シリコンサイクル」といった経験則が過去のものになりつつあるということです。ムーアの法則とは、回路の微細化によって、半導体の性能が1年半~2年で2倍になるというものですが、微細化はすでに限界に近づいており、並列処理やインメモリー処理、専用プロセッサーといった新しいハードウェアを用いて処理速度を上げる新たな技術がムーアの法則を打ち破ろうとしています。
半導体価格が3~4年周期で変動するというシリコンサイクルも、半導体業界の再編によって過剰供給が抑制され、デジタル化やEVの増産などを背景に需要が拡大していることから、以前よりも起こりにくくなっています。もはや過去の経験則は、将来の予測に当てはめにくくなっているということを認識する必要があるでしょう。
また、最近の業界トレンドとして注目したいのは、スマートフォン向けから車載向けへの需要のシフトです。スマートフォン需要がすでに頭打ちとなっている半面、車載向けは安定した収益が確保できること、車1台当たりの平均半導体額が約2倍になると見込まれていることが背景にあります。
PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト 倉田 圭樹
倉田:
車載向け半導体としてはどのような技術や取り組みが注目されているのでしょうか。
酒井:
車載向けの中でも、特に注目を浴びているのが、自動運転の実現に欠かせないSoC(システム・オン・チップ:データやプログラムを全てメモリに格納した半導体)です。この領域では、AIやスマートフォンなどで高いシェアをもつ半導体企業の存在感が増しています。
AIで高いシェアを持つ半導体企業の車載向けSoCにはAIの基盤技術が搭載されており、自動運転における大規模で複雑なAI処理を圧倒的なスピードで実現しています。まさに「走るデータセンター」と言えます。一方スマートフォンで高いシェアを持つ半導体企業はモバイル通信で効率的に信号データを処理する技術が高く評価されています。加えて、スマートフォンと同様に、音楽などの再生、ナビゲーション、位置情報サービス、カメラを含むセンサー、ソフトウェアの更新やバッテリーの管理などといった複数の機能を統合できる基盤を提供しており、まさしく「走るスマートフォン」を具現化しています。
これらの会社に共通する取り組みとして、車の設計や生産の支援を行っていることが挙げられます。車の設計・生産を仮想空間でシミュレーションできるプラットフォームを自動車メーカーに提供したり、自社のSoCやそれらを使った開発について活発に情報交換を行うコミュニティーを形成し、自動車メーカーの開発担当者がソフトウェアを効率よく開発できるような支援をしたりといった取り組みが見られます。
AIやスマートフォンなどで高いシェアを持つ半導体企業は高度な処理能力が強みですが、半導体そのものの性能だけでなく、補完するシステムにより存在感を示している半導体企業もあります。例えば高精度の地図生成システムが挙げられますが、このシステムを使った自動車は、車線の監視や、前方車両、歩行者の監視を行うだけでなく、道路状況やランドマークなどの情報をクラウドに送り続けます。そして収集された情報を基に、速度規制や渋滞などの情報をリアルタイムにフィードバックするほか、高精度の3Dマップを自動生成。瞬時に生成される3Dマップを先進運転支援システム(ADAS)が読み取ることで、レベル4の自動運転を可能にしています。また、データを収集、統合、分析、還元するシステムを開発することに加えて、自動車メーカーとの共同事業にする、自社でロボットタクシー事業を開始することなどにより、いち早くデータをスケールさせ、提供価値を飛躍的に高めているのも特徴の1つです。
倉田:
半導体業界が直面しているトレンドがよく分かりました。そうしたトレンドの中で、半導体企業は今後、どのように戦っていくべきなのでしょうか。
酒井:
ムーアの法則やシリコンサイクルが通用していた時代は、とにかく生産規模をスケールアップし、大量生産した半導体を短期間で売り切るのが“成功の法則”でした。しかし、過去の経験則はもはや通用しません。急速に進むデジタル化とAI時代の到来に対応した抜本的なビジネスモデル変革が必須です。
実際、これらの企業は、デジタル化を大きなチャンスと捉え、俊敏かつ積極的な対応によって存在感を高めています。
倉田:
「デジタル化への対応」を自社の強みとすることが重要だということですね。具体的には、どのような取り組みが有効だとお考えですか。
酒井:
半導体企業が「デジタル化への対応」を差別化要素とするためには、以下に述べる3つの総合戦略(図表1)に取り組むのが有効だと考えます。
1つ目は「製品・サービスのデジタル化戦略」です。ビッグデータを収集・分析する仕組みによって半導体の価値を高めるといった取り組みです。自社の製品を単なるコンポーネントとして売るだけでなく、モジュール、システム、サービスの視点で捉え直し、デジタルを使っていかに提供価値を高めるのかを検討すべきでしょう。
2つ目に取り組みたいのが「デジタルプラットフォーム戦略」です。先ほども述べたように、AIやスマートフォンなどで高いシェアをもつ半導体企業は顧客に対して、自社製品を使ったソフトウェアの開発を支援するためのプラットフォームを提供しています。プラットフォームを活用すると、顧客は開発リードタイムや開発コストを低減できるので、スイッチングコストが上昇し、受注の継続につながりやすくなります。
このようなデジタルプラットフォーム戦略は、ファブレスだけでなく、ファウンドリーも実践しています。情報共有基盤上で特定の顧客と設計情報を共有し、顧客が自社の半導体を使ってより差別化できる製品・サービスを比較的短期間で開発できるよう支援する取り組みなどが行われています
顧客との関係性強化や、継続的な受注確保のため、デジタルプラットフォームの構築は、ぜひとも検討したいところです。
倉田:
3つ目の戦略は何でしょうか。
酒井:
「サプライチェーンのデジタル化戦略」です。今、多くのクライアントが最も頭を悩ませているのは「半導体サプライチェーンをいかにして強靱化すべきか」という課題です。
クラウド、5G、AI、自動運転、EVなど、現在S字カーブの急上昇局面に差しかかっている技術の多くは、さらなる進化のために、より高性能な半導体の供給を待ち望んでいます。
しかし、何年後に、どのような半導体が、どれくらい求められるのかという長期的な半導体需要を高い精度で予測するのは簡単なことではありません。半導体メーカーは、最新の予測に基づいて何度も投資の調整を行いますが、それでも過剰投資リスクや販売機会損失リスクのバランスを取るのは困難です。
一方でクライアント側も、コロナ禍や地政学リスクの高まりとともに、半導体をジャスト・イン・タイムで確保するのは困難になったと感じており、調達リスクを重く受け止めてサプライチェーンの見直しに取り組んでいます。
こうした両者の利害を一致させ、互いにウィンウィンになれる方法として、クライアントやサプライヤーなどを巻き込んだサプライチェーンのデジタル化を推進するのです。
例えば、ブロックチェーンやクラウドを活用し、サプライチェーンの全てのステークホルダーが生産リソース計画や生産・販売・在庫計画、実績などの最新情報を可視化できるようにする。あるいは、AIを活用して自社製品に関連性の高いシグナルを特定し、投資や生産調整、価格見直しなどの対応策を検討できるようにする。さらには、大手企業の動きやサプライチェーンからのシグナル、関連ニュースなど、エコシステムから需要シグナルを収集し、その影響を分析して供給スケジュールを調整するといったことが実現できるはずです。
ステークホルダー間の情報共有が実現できれば、過剰投資リスクと販売機会喪失リスクの両方を低減するのに役立つと確信しています。
倉田:
3つの「デジタル化戦略」を成功させるためのポイントは何でしょうか。
酒井:
ステークホルダー間の情報共有を促すためには、クライアントとのパートナーシップを構築し、深化させる必要があります。これまで、多くのクライアントは半導体企業を他のサプライヤーと同等に見ていましたが、近年の半導体不足を受けて意識が変化しています。これは、クライアントとの関係を深化させる大きなチャンスと言えそうです。
関係深化のためのポイントは、双方の期待とロードマップを共有し、将来の市場シナリオの機会とリスクの両方を共有する方法を一緒に検討すること。ヒト・モノ・カネ・データといったリソースの連携も図りたいところです。
クライアントとのパートナーシップを構築する上では、しっかりとしたデータとアナリティクスの後ろ盾も不可欠です。半導体業界は、データの取り扱いについて非常に保守的な傾向がありますが、安全性を担保しつつ、いかにクライアントにベネフィットを提供できるかが成功のカギを握るでしょう。
倉田:
半導体企業の「デジタル化戦略」を実現するため、PwCコンサルティングはどのような支援サービスを提供できるのでしょうか。
酒井:
当社のコンサルタントは、ハイテク業界、IT業界、エレクトロニクス業界の主要企業に対する支援実績を豊富に有しています。
半導体業界はグローバルでデジタル世界を創造するリーディング企業の集まりですが、その中でビジネスチャンスをつかんでいただくため、PwCコンサルティングは、日本企業特有の高コスト体質に対する抜本的な改革と、踏み込んだデジタル化の両方を支援し、収益力の向上と成長を同時に実現することをお手伝いしています。
このように、収益力の向上と成長を同時に実現させるアプローチを、当社では「Fit for Growth」と呼んでいます。数々の実績によって効果の高さが実証されたアプローチです。
成長に向けたデジタル化に関しては、現在、先進的な半導体企業のデジタルプラットフォーム構築を支援しています。また、顧客との関係性の深化に向け、自社データの価値最大化、社外データ活用、デジタルトラストなどの包括的な議論も進めています。
倉田:
ありがとうございます。最後に、大きな変化に向き合っている半導体企業に向けてメッセージをお願いします。
酒井:
半導体企業は、今後の新しいデジタル世界を構築する重要なプレーヤーです。PwCコンサルティングは、グローバルネットワークと業界横断の知見に基づき、半導体企業に伴走しながら、世界を切り拓く活動を支援させていただきます。
酒井 健一
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社
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