テクノロジー業界のコンサルタントが語る テクノロジー業界の未来トレンド予測から導出する業界課題とその対策

第2回◆スマートフォン向けから車載向けへと重点がシフト、デジタル化の取り組みに迫られる半導体業界

  • 2023-11-28

倉田
半導体業界が直面しているトレンドがよく分かりました。そうしたトレンドの中で、半導体企業は今後、どのように戦っていくべきなのでしょうか。

酒井
ムーアの法則やシリコンサイクルが通用していた時代は、とにかく生産規模をスケールアップし、大量生産した半導体を短期間で売り切るのが“成功の法則”でした。しかし、過去の経験則はもはや通用しません。急速に進むデジタル化とAI時代の到来に対応した抜本的なビジネスモデル変革が必須です。

実際、これらの企業は、デジタル化を大きなチャンスと捉え、俊敏かつ積極的な対応によって存在感を高めています。

デジタル化に対応するための3つの総合戦略

倉田:
「デジタル化への対応」を自社の強みとすることが重要だということですね。具体的には、どのような取り組みが有効だとお考えですか。

酒井:
半導体企業が「デジタル化への対応」を差別化要素とするためには、以下に述べる3つの総合戦略(図表1)に取り組むのが有効だと考えます。

1つ目は「製品・サービスのデジタル化戦略」です。ビッグデータを収集・分析する仕組みによって半導体の価値を高めるといった取り組みです。自社の製品を単なるコンポーネントとして売るだけでなく、モジュール、システム、サービスの視点で捉え直し、デジタルを使っていかに提供価値を高めるのかを検討すべきでしょう。

2つ目に取り組みたいのが「デジタルプラットフォーム戦略」です。先ほども述べたように、AIやスマートフォンなどで高いシェアをもつ半導体企業は顧客に対して、自社製品を使ったソフトウェアの開発を支援するためのプラットフォームを提供しています。プラットフォームを活用すると、顧客は開発リードタイムや開発コストを低減できるので、スイッチングコストが上昇し、受注の継続につながりやすくなります。

このようなデジタルプラットフォーム戦略は、ファブレスだけでなく、ファウンドリーも実践しています。情報共有基盤上で特定の顧客と設計情報を共有し、顧客が自社の半導体を使ってより差別化できる製品・サービスを比較的短期間で開発できるよう支援する取り組みなどが行われています

顧客との関係性強化や、継続的な受注確保のため、デジタルプラットフォームの構築は、ぜひとも検討したいところです。

倉田:
3つ目の戦略は何でしょうか。

酒井:
「サプライチェーンのデジタル化戦略」です。今、多くのクライアントが最も頭を悩ませているのは「半導体サプライチェーンをいかにして強靱化すべきか」という課題です。

クラウド、5G、AI、自動運転、EVなど、現在S字カーブの急上昇局面に差しかかっている技術の多くは、さらなる進化のために、より高性能な半導体の供給を待ち望んでいます。

しかし、何年後に、どのような半導体が、どれくらい求められるのかという長期的な半導体需要を高い精度で予測するのは簡単なことではありません。半導体メーカーは、最新の予測に基づいて何度も投資の調整を行いますが、それでも過剰投資リスクや販売機会損失リスクのバランスを取るのは困難です。

一方でクライアント側も、コロナ禍や地政学リスクの高まりとともに、半導体をジャスト・イン・タイムで確保するのは困難になったと感じており、調達リスクを重く受け止めてサプライチェーンの見直しに取り組んでいます。

こうした両者の利害を一致させ、互いにウィンウィンになれる方法として、クライアントやサプライヤーなどを巻き込んだサプライチェーンのデジタル化を推進するのです。

例えば、ブロックチェーンやクラウドを活用し、サプライチェーンの全てのステークホルダーが生産リソース計画や生産・販売・在庫計画、実績などの最新情報を可視化できるようにする。あるいは、AIを活用して自社製品に関連性の高いシグナルを特定し、投資や生産調整、価格見直しなどの対応策を検討できるようにする。さらには、大手企業の動きやサプライチェーンからのシグナル、関連ニュースなど、エコシステムから需要シグナルを収集し、その影響を分析して供給スケジュールを調整するといったことが実現できるはずです。

ステークホルダー間の情報共有が実現できれば、過剰投資リスクと販売機会喪失リスクの両方を低減するのに役立つと確信しています。

倉田:
3つの「デジタル化戦略」を成功させるためのポイントは何でしょうか。

酒井:
ステークホルダー間の情報共有を促すためには、クライアントとのパートナーシップを構築し、深化させる必要があります。これまで、多くのクライアントは半導体企業を他のサプライヤーと同等に見ていましたが、近年の半導体不足を受けて意識が変化しています。これは、クライアントとの関係を深化させる大きなチャンスと言えそうです。

関係深化のためのポイントは、双方の期待とロードマップを共有し、将来の市場シナリオの機会とリスクの両方を共有する方法を一緒に検討すること。ヒト・モノ・カネ・データといったリソースの連携も図りたいところです。

クライアントとのパートナーシップを構築する上では、しっかりとしたデータとアナリティクスの後ろ盾も不可欠です。半導体業界は、データの取り扱いについて非常に保守的な傾向がありますが、安全性を担保しつつ、いかにクライアントにベネフィットを提供できるかが成功のカギを握るでしょう。

倉田:
半導体企業の「デジタル化戦略」を実現するため、PwCコンサルティングはどのような支援サービスを提供できるのでしょうか。

酒井:
当社のコンサルタントは、ハイテク業界、IT業界、エレクトロニクス業界の主要企業に対する支援実績を豊富に有しています。

半導体業界はグローバルでデジタル世界を創造するリーディング企業の集まりですが、その中でビジネスチャンスをつかんでいただくため、PwCコンサルティングは、日本企業特有の高コスト体質に対する抜本的な改革と、踏み込んだデジタル化の両方を支援し、収益力の向上と成長を同時に実現することをお手伝いしています。

このように、収益力の向上と成長を同時に実現させるアプローチを、当社では「Fit for Growth」と呼んでいます。数々の実績によって効果の高さが実証されたアプローチです。

成長に向けたデジタル化に関しては、現在、先進的な半導体企業のデジタルプラットフォーム構築を支援しています。また、顧客との関係性の深化に向け、自社データの価値最大化、社外データ活用、デジタルトラストなどの包括的な議論も進めています。

倉田:
ありがとうございます。最後に、大きな変化に向き合っている半導体企業に向けてメッセージをお願いします。

酒井:
半導体企業は、今後の新しいデジタル世界を構築する重要なプレーヤーです。PwCコンサルティングは、グローバルネットワークと業界横断の知見に基づき、半導体企業に伴走しながら、世界を切り拓く活動を支援させていただきます。

主要メンバー

酒井 健一

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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