
第10回◆業界や国の垣根を越えたプロフェッショナルの連携が半導体業界に新たな変革をもたらす
PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 山田 祐三
近年は医療分野のデジタル化やIT活用が進んでおり、医療機器のグローバル市場における成長率は今後も高水準のまま推移すると見込まれています。そうしたトレンドの中、医療機器業界と各企業が市場シェアを超えてさらに成長していくためには、既存デバイスのアップデートに留まらない新たな価値創造が必要となります。これからの医療機器業界に求められる成長戦略とは――。PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)パートナーの山田祐三に、シニアアソシエイトの洪千奈津がインタビューしました。
登場者
PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー
ヘルスケア・医療ライフサイエンス事業部
山田 祐三
インタビュアー
PwCコンサルティング合同会社
シニアアソシエイト
洪 千奈津
洪:
山田さんは、IT分野における戦略立案や業務プロセス改革などを手がけています。これまでの経歴を教えてください。
山田:
私はITスタートアップでキャリアをスタートしました。その後、ITの知見をより広範囲に生かしたいと考えてコンサルティングファームに転職し、2014年にPwCの一員となりました。
これまでの実績としては、製造、消費財、製薬など幅広い業種に向けた業務系コンサルティングの他、大規模ITシステムの導入プロジェクトの構想立案や導入支援に関するコンサルティングに携わってきました。
洪:
現在はPwC Japanグループのヘルスケア・医療ライフサイエンス事業部にてメドテックチームのリーダーを務めていますね。
山田:
はい。2019年から現在の部門に所属し、医療機器や製薬関連の企業を支援しています。
洪:
近年は医療分野のデジタル化やIT活用が進んでいます。その中心的な存在である医療機器業界の現状とトレンドについて教えてください。
山田:
グローバル市場における医療機器の需要は、半導体、情報サービスに次いで高く、2030年までの市場成長率も高水準であると見込まれています。先進国を例にすると、高齢者人口の増加によって医療需要が増大していることが一因で、それに合わせて各医療機器の販売やサービス提供が伸びています。
国内市場では、2020年からのコロナ禍で一時的に手術を延期したり、受診を抑制したりする傾向がありましたが、ウィズ/アフターコロナになってからはその影響が薄まり、医療需要はコロナ禍以前のトレンドに近い伸び率に戻ってきています。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 洪 千奈津
洪:
医療機器業界のさらなる成長に向けて、どのような課題がありますか。
山田:
現在のメドテック企業の成長は主要製品の改善や改良によってもたらされていると考えています。例えば、2021年に米国市場で認可された医療用デバイスのうち、新規で市販前承認を受けたものは約1%で、残りの約99%は510(k)経路で認可されているものです。
洪:
510(k)は、米国内で販売予定の医療機器などの認証に必要な申請ですね。つまり新たに販売されたデバイスのほとんどが、市販されている既存の機器と同等であったということでしょうか。
山田:
そういうことです。既存デバイスと実質的に同等か、アップデート版であるということです。医療機器業界と各企業が市場シェアを超えて成長していくためには、既存デバイスの枠にとらわれない新たな価値創造が必要だと考えています。
洪:
そのためにはどのような戦略が求められるのでしょうか。
山田:
3つの戦略があると考えています。1つ目はイノベーティブなアプローチでHPCおよび患者のニーズを満たすこと。2つ目は新しい製品とソリューションを世の中に広めていくこと。3つ目はエコシステムを形成することです。
洪:
3つの戦略について具体的に教えてください。1つ目に挙げた「イノベーティブなアプローチでHPCおよび患者のニーズを満たす」ためには、どのような取り組みが有効なのでしょうか。
山田:
メドテック企業の成長は、最新テクノロジーを活用したイノベーションへの挑戦から生まれると考えています。一例を挙げると、ある整形外科用機器の製造企業は、材料の改善や改良を目指す事業方針を変えて、手術用ロボットと3Dプリンティングを活用する膝インプラントを実用化させました。膝の損傷部分を補うパーツを3Dプリンターで作り、それをロボットで移植するわけです。
洪:
「メドテック」という言葉にもあるように、テクノロジーの新たな活用によって事業を伸ばしているわけですね。この取り組みによってどのような価値が生まれたのですか。
山田:
医療現場では手術の効率化を実現し、手術を受ける患者の負担も軽減しています。ある研究*1によれば、ロボット技術を活用する手術は人による手術より傷口が小さくなるため、患者の術後の回復が早く、患者が病院に滞在する時間も短縮できます。
洪:
医療現場だけでなく、患者視点の課題もテクノロジーによって解決しているのですね。
山田:
近年活用が進んでいるAIによる画像診断なども、医療従事者のニーズを満たしている事例の1つですよね。従来、レントゲン画像などは医師が目で見て確認していたわけですが、AIを活用すればその業務負担を軽減できます。患者視点のニーズとしては、医師によって異なる診断のムラを抑えることにつながりますし、AIが高度化することで病気の早期発見もできるようになるでしょう。このような体験が業界他社に対する差別化要因になるのです。
*1 Kayani, Konan, Pietrzak, Hadded, 2017. "Robotic-arm assisted total knee arthroplasty is associated with improved early functional recovery and reduced time to hospital discharge compared with conventional jig-based total knee arthroplasty: a prospective cohort study" Accessed December 15, 2023.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29954217/.
Kayani, Konan, Tahmassebi, Pietrzak, Hadded, 2018. “Iatrogenic Bone and Soft Tissue Trauma in Robotic-Arm Assisted Total Knee Arthroplasty Compared With Conventional Jig-Based Total Knee Arthroplasty: A Prospective Cohort Study and Validation of a New Classification System” Accessed December 15, 2023.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29699827/.
洪:
2つ目の戦略は「新しい製品とソリューションを世の中に広めていくこと」です。これはどのような取り組みでしょうか。
山田:
病院を訪れる人たちは、病気やケガの治療を受けるだけではなく、健康維持や健康促進のソリューションにも興味を持っています。そこに焦点を当てて、ソリューションベンダーとしてアプローチしていくところに成長の可能性があると考えています。
例えば、米国のとある企業は、脈拍、呼吸、血圧、体温といったバイタルサインを継続監視するコインサイズのヘルスモニタリングデバイスを開発し、このデバイスで測定したデータをクラウドで一元管理しています。
洪:
テクノロジーを活用した新しいソリューションの一例ですね。このソリューションによってどのような価値が生まれたのですか。
山田:
患者側では、バイタルを継続的に監視することで、例えば平時との変化から身体の異常を検知したり、新型コロナウイルス感染症の初期兆候などを早期検知したりすることができます。また、検査などによる負担の軽減にもなります。例えば、健康診断の際には採血をしますが、このようなデバイスを活用することで体を傷つけることなくデータが取得できるようになります。一方の医療機関側では、スタッフ不足の解消に貢献します。医療機関では看護師などが定期的に患者の体温を測りますが、その業務の負担を軽減することでスタッフ不足という課題に対応できるようになります。
洪:
治療以外に目を向けると、メドテック企業が貢献できる分野が広がりますね。
山田:
そう思います。健康維持の観点では予防医療のソリューションもニーズがありますし、冒頭で触れた先進国の高齢化問題を踏まえると、介護分野のソリューションも重要になっていくでしょう。便利なソリューションが普及することで、高齢者はわざわざ通院しなくても自分の健康状態を把握できるようになります。少し大きな視点で見れば、医療費負担は国の財政の大きな負担ですから、健康維持や予防の仕組みをテクノロジーで代替することは医療制度を支えることにも通じます。
洪:
最近はハイテク企業もヘルスケア領域に進出しており、スマートウォッチなどウエアラブルデバイスでバイタルデータを測定することで健康管理するソリューションなどが生まれています。ハイテク業界の成功のアプローチをモデルとすることで、医療機器業界もヘルスケア領域において便利なソリューションを創出できそうですね。
山田:
ソリューションベンダーのアプローチは、ハイテク業界で普及しているソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)のコンセプトに似ています。治療とその周辺のニーズを捉え、新しい製品やソリューションで応えていくメドテック企業が大きく成功する可能性があると考えています。
洪:
3つ目の戦略は「エコシステムの形成」です。これはどのような戦略でしょうか。
山田:
医療分野のバリューチェーンを超えて利害関係者が結集し、複雑化する医療やヘルスケアの課題を解決していくこと、また、そのために協力し合える仕組みを作ることです。
ハイテク企業は自社のプラットフォームで他社製のアプリを提供したり、他社が商品販売する仕組みをつくったりするなどしてエコシステムを形成しています。メドテック企業ではこのような成功例が少ないため、各社の事業や業界の発展に資する学びを得られるのではないかと考えています。
洪:
エコシステムの形成によって、ソリューションの幅を広げたり、リーチできる対象者を拡張したりしていくことができますね。
山田:
そうですね。患者、医療従事者、医療機器のサプライヤー、地方自治体など多様な関係者を巻き込みながら、より複雑な課題を解決できるようになると考えています。
洪:
メドテック企業はどのような立ち位置でエコシステムに関わっていくのが良いのでしょうか。
山田:
解決したい課題に応じて変わるとは思いますが、例えば、メドテック企業がプラットフォームを作るなどしてエコシステムを作る中心的存在になっても良いでしょうし、エコシステムを構想して関係者を巻き込んでいくという役割を担うこともできるでしょう。
洪:
テクノロジーの観点では、ハイテク企業をはじめとする、他の産業との連携が重要といえます。
山田:
課題が複雑化する社会では、医療機器という1つの枠組みの中で解決策を考えるのではなく、ハイテク企業の成功事例から学ぶような取り組みも含めて、他業界の知見を生かしたり、異業種の企業をエコシステムに巻き込んだりしていくことが求められると考えています。私たちPwC Japanグループもエコシステムに加わることができます。例えば、PwC JapanグループはTechnology Laboratoryを設立し、最先端のテクノロジーについての情報やインサイトを蓄積していますので、そこで得た知見を活用することも業界の成長につながるだろうと思います。
洪:
PwCコンサルティング、そしてPwC Japanグループは、医療機器業界にどのような価値を提供できるでしょうか。
山田:
業界や個社の成長という観点では、PwC Japanグループは医療業界に向けたコンサルティングの実績があり、テクノロジー分野にも豊富な知見があります。戦略立案からテクノロジーの実装までを一貫して支援できることが提供価値になると考えています。
また、専門性という点では、私たちのヘルスケアチームには130名のプロフェッショナルが在籍し、その中には医師や看護師の資格を持つメンバーや、技師または技術者として医療機器の開発などに携わってきた経験を持つメンバーもいます。高度な専門性を発揮しながら支援できることは、私たちの強みの1つだと考えています。
洪:
PwC Japanグループは医療機器企業のみならず、製薬会社、医療機関などの支援も行っています。このような実績も、高度な支援を実現していくための重要なポイントと言えますね。
山田:
そうですね。医療機器は患者の治療や健康維持に用いられるわけですが、その過程では製薬が関係しますし、治療などは地域のインフラである医療機関を通じて行われます。その点で、私たちは病院支援に特化したチームを持っていますし、地域医療の分野にも関わっています。医療全般に幅広く関わっていることは重要なポイントだと思います。
洪:
業界外の知見を結集するという点では、PwC Japanグループは部門や事業領域の枠を超えた連携に力を入れています。
山田:
課題を共有して、社内外の専門家を積極的に巻き込んでいくインクルージョンファーストの考えがPwC Japanグループの特徴の1つです。これは他のファームとの違いの1つで、例えば、テクノロジーに関する深い知見が必要な場合には、その分野で高度な専門性を持つプロフェッショナルがメンバーに加わることもありますし、グループ外から専門家を呼んで課題解決に取り組むこともあります。私たちが持つネットワークを活用することにより、医療分野内外の企業をつなぎ、エコシステムの形成に貢献することもできます。
洪:
最後に、テクノロジー活用の推進やメドテック企業の支援を通じて、これから実現していきたいことについて教えてください。
山田:
病気は誰も幸せにしませんし、健康維持は多くの人が関心を持つ大きなテーマです。この課題の解決策を創造し、医療機器業界を支援することは社会課題の解決につながりますし、社会的インパクトが大きい私たちの重要な役割だと思います。私たちPwC Japanグループは「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」ことをパーパスに掲げて支援に取り組んでいます。今後も医療機器業界と業界各社の成長を支えながら、関係企業や関係者と一緒により良い社会の実現を目指します。
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