
第10回◆業界や国の垣根を越えたプロフェッショナルの連携が半導体業界に新たな変革をもたらす
PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
(左から)田中翔子、方雪瀅、山口凱之
PwCは、気候変動、テクノロジーによるディスラプション、人口動態の変化、世界の分断化、社会の不安定化の5つをグローバルのメガトレンドと特定しています。これらは海外に拠点を持つグローバル企業のリスク要因である一方で、スピード感を持って的確に対応すれば事業を成長させる機会になります。
では、このような環境下でグローバル企業はどのような施策を推進していく必要があるのでしょうか。PwCシンガポールにて企業の市場参入などを支援する田中翔子と、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング) で海外でのサプライチェーン構築プロジェクトなどに携わる山口凱之の2人に、PwCコンサルティングの方雪瀅が話を聞きました。
登場者
PwCシンガポール マネージャー
田中 翔子
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
山口 凱之
インタビュアー
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー(PwC英国からの出向者)
方 雪瀅
方:
PwCが特定した5つのメガトレンドは、グローバル展開する企業が対応しなければならないリスク要因です。田中さんがPwCシンガポールにてサポートしている企業はどのような課題に関心を持っていますか。
田中:
私が所属するPwCシンガポールのInternational Growth Practice(IGP)は、日本を含むアジア系企業の他、欧米の企業に向けた支援も行っているため、国や地域によって課題の捉え方に違いがあります。その中でも、多くの企業に共通する課題として挙げられるのは、グローバルサプライチェーンのリコンフィギュア(再構築)です。既存のサプライチェーンの課題を特定して解決するとともに、新たな国や地域への戦略的な進出も検討しながら、テクノロジーの進化や世界の分断が進む社会を想定したサプライチェーンの最適化に取り組む企業が多いといえます。
方:
山口さんは、グローバル展開する企業のコストの見直しや調達方法の改革などに携わってきた経歴があります。その分野において、各企業はどのような取り組みに関心を持っていますか。
山口:
日本企業を例にすると、従来は国内やアジアで生産したものを海外その他の地域に輸出するビジネスが多く見られましたが、昨今の原油高騰やインフレの影響などによって輸送にかかる各種コスト負担が大きくなりました。その対応策として、アフリカや南米、中東などのエマージング市場を販売拠点とする企業を中心として、生産拠点や物流拠点の見直しに着手する企業が多いですね。
方:
気候変動の関連では、EUのサステナビリティ開示規制であるCSRDが順次適用され、EU企業のみならず、同地域に拠点を持つ他国の企業も対象に含まれます。このような変化にも細かく対応していく必要がありますね。
田中:
そうですね。ASEANにおける規制整備は国によっては発展段階で、欧米をベンチマークにしている側面もあり、特に環境関連の規制は注意深く見ていく必要があります。これらの規制の内容は複雑であることが多いため、情報を収集し、自社のビジネスへの影響を特定しながら対応の準備を進めていくことが重要です。また、規制に対応する一方で、成長のためのアクセルを踏み続けていくためのコントロールが重要です。
山口:
欧州では消費者の環境意識が高いため、気候変動は現地で事業展開する企業が競争力を維持していくための重要な課題です。また、近年は気候変動の影響とされる自然災害が企業の活動に影響を与えるケースも増えています。そのような点も含めて、事業ポートフォリオの見直しやグローバルサプライチェーンのレジリエンス向上を推進していくことが求められています。
PwCシンガポール マネージャー 田中 翔子
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー山口 凱之
方:
サプライチェーンの再構築にあたり、企業はどのようなことに取り組んでいますか。
田中:
特定の国への過度な依存から脱却するという点では、当該国の生産拠点をゼロにするのは現実的ではありませんが、比重を下げる傾向はあります。例えばサプライヤー側がプラスチック系の素材などを中国から輸入している場合に、その比重を下げて他のアジアの国で調達先となる企業を探す支援をさせていただいたこともあります。
方:
拠点の移転によりサプライチェーンの再構築を進める場合、どのような国・地域に目を向ける企業が多いのでしょうか。
田中:
最終製品をどこで売るかによって戦略は変わってきます。最近では、中東、アフリカ、南米といったエマージング市場への進出を検討するケースも増えてきています。現地での生産を検討する場合、業界によっては、ローカルでの生産比率が一定以上であることが求められるケースがあり、現地に工場を建てるなどして投資をすることが市場へのコミットメントを示すことになり、営業に効いてくる分野もあります。そのような点を複合的に考えながら進出する国や地域を選定していくことが重要です。
山口:
現地で事業を行うため際にはローカルのスタッフの雇用が必要になります。そのため、事業に必要なスキルを持つ人材がいるか、この先の賃金水準はどう変わっていくかといった見通しも踏まえて判断する必要があります。
方:
地域の選択、投資判断、リスクアセスメントなどさまざまな要素を同時進行で計画し、実行していくスピード感も重要ですね。
田中:
はい。GTM(Go To Market)の観点では、進出する国や地域の市場をよく知るビジネスパートナーやサプライヤーを探す必要があります。市場によっては企業の数が限られ、現地の優良企業とのパートナーシップを世界中の企業が取り合う状況になるため、そのための交渉には速さが求められます。
方:
拠点の見直しと整理を行う一方で、各拠点をつなぎ、グローバルで情報共有するためのシステム構築も重要ですね。
山口:
はい。海外での売り上げが大きい企業グループでは、CRMなどのシステムで各拠点とのデータ共有を図り、売上や営業状況を可視化しています。営業の情報を本社が把握できれば、必要なサポートを提供したり人員や商品といったリソース配分を見直したりすることができます。スピードやタイミングという点では、そのような情報をタイムリーに把握することが重要です。また、日々の事業活動を通じて蓄積していくデータを次世代の商品開発や生産設備の投資戦略などに生かすこともできるため、私たちはデータドリブン経営の実現も支援しています。
田中:
システム統合の課題はM&Aなどによって規模を拡大している企業でよく見られますよね。それぞれにレガシーシステムがあり、データ活用の文化も異なる中で、現場の負担を増やさずにグローバルでの情報の共有と吸い上げを可能にしていくことは、統合によるシナジーを創出するためのポイントになります。
方:
グループ内でのデータ共有は、従来からその重要性が認識されてきました。CRMなどによるデータ活用も進んでいるのでしょうか。
山口:
企業により差があります。例えば、グローバル拠点の一部が独自のシステムを使っている場合、グループ全体でのデータ共有が実現できていないケースや、データの内容が乏しく、販売先と商品名しか登録していないケースがあります。データは貯めるだけでなく、それを分析することによって改善などに結びつけることが重要です。そのためには、顧客への訪問回数や商談の内容など営業プロセスをできる限り細かく情報として残す必要があります。より多くの情報が取れるシステムのセットアップや、データの入力や活用を推進するための取り組みはニーズが大きいですね。
方:
データの蓄積と活用を推進していくためにはどのようなポイントが重要になりますか。
山口:
業務の内容やプロセスは拠点ごとに異なることが多いため、共通のシステムを入れるだけではなく、並行して業務の共通化や標準化を進めていく必要があります。また、日系企業は優良顧客への特別対応によって関係性を強化していることが多く、それが日系企業の競争力の源泉にもなっています。データ共有による営業活動の効率化と、特別対応を軸とする営業活動には相反する部分があるため、そのバランスを取りながら全体最適を目指して舵取りしていくことが今後の課題です。
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー(PwC英国からの出向者) 方 雪瀅
方:
このような課題を解決していくためにPwCではどのような価値を提供できるでしょうか。
山口:
PwCの強みの1つはコラボラティブな組織風土だと思っています。例えば、私は2023年に南アフリカのクライアントを支援しました。このプロジェクトが円滑に実行できた理由の1つは、現地の企業や働く人たちの文化や慣習を理解しているメンバーと協業できたことだと思っています。PwCグローバルネットワークの各地域に、あらゆる業務のプロフェッショナルがいること、また、リスクの特定や、それを踏まえた戦略の策定、実行への落とし込みといった各レイヤーで求められる機能に応じてメンバーを結集し、クライアントの課題解決に貢献できることが私たちの強みだと思います。
方:
そうですね。私の出向元であるPwC英国でもファーム内外のメンバーと連携することが多く、グローバルネットワークの強さを感じます。
田中:
さまざまな連携が生まれる背景には、「One PwC」の意識を持っている人が多いことが挙げられます。これはPwCクローバルネットワークの各メンバーファームが、組織、部門、国、地域を問わずに一丸となってクライアントの課題解決に尽くすという意味です。
実際、声を掛ければ快くサポートしてくれますし、メンバーファームそれぞれが築いているレピュテーションや、政府や企業など関係者とのつながりを活用して協力してくれます。その機動力はPwCの重要な提供価値ですよね。また、PwCの看板もグローバルで共通であるため、紹介してほしい人や話を聞きたい人などとのつながりが作りやすいことも私たちの特長だと思います。
方:
PwCが大切にしている5つの価値観と行動指針(Values & Behaviours)の中にも「Work together」と「Care」があります。
田中:
そうですね。研修では「One PwC」や行動指針などについて学ぶ機会があり、おそらく採用の選考でも、私たちがこのような働き方を長所としていることと伝え、共感してくれる人をメンバーに迎え入れているのだと思います。現場でも、私を含めて、多面的な支援がクライアントの幸せにつながり、巡り巡って自分たちの幸せにもなることや、より良いサービスを提供していくためには1人で抱え込まずに協力を得た方が良いといったことを感覚的に理解していることが大きいのだと思います。
方:
社外との連携という点では、テクノロジー系では米国のITジャイアントやCRMの世界的なベンダーなどとのアライアンスを構築しています。このようなパートナーシップをサービスに反映できることも強みですね。
山口:
IT大手との協業を通じて蓄積できている知見がありますし、私たち独自の取り組みとしても、グローバルネットワーク内でDX、AI、生成AIに関する技術や知見の共有を推進しています。また、PwC Japanグループ内にテクノロジー分野の専門チームがあり、PwCコンサルティングのTechnology Laboratoryを拠点としてクライアントに先端テクノロジーを体感いただく機会も提供しています。
方:
最後に、グローバル展開する企業に向けてメッセージをお願いします。
田中:
企業を取り巻く5つのメガトレンドは、一つひとつが大きなリスク要因であると同時に、それぞれが複雑に絡み合うことによって、より対応が難しくなっているのが現状です。簡単には解決できない課題だからこそ、私たちはクライアントの海外展開を支え、推進していくためのパートナーとして長期的に支援していきたいと思っています。
山口:
多様な専門性を持つメンバーによって多面的な支援ができることが私たちのケイパリリティです。この強みをグローバルで磨いていくとともに、クライアントの皆さまにも私たちのケイパビリティをご活用いただきたいと思います。
PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
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