
第10回◆業界や国の垣根を越えたプロフェッショナルの連携が半導体業界に新たな変革をもたらす
PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 髙梨 智範
サステナビリティの重要性が広く浸透し、多くの企業がサステナビリティ関連の施策を推進するようになっている一方で、取り組み内容が環境や人権といった個別のテーマに終始することも多く、非財務情報を通じた企業価値向上に資する取り組みに発展していない実態があります。
この状態から一歩先へ進むためには、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを統合して経営戦略として実行していく「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」が重要です。SX推進に向けた課題と企業価値向上に結びつけていくためのポイントをPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のディレクター、髙梨智範が語ります。
登場者
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
髙梨 智範
インタビュアー
PwCコンサルティング合同会社
シニアアソシエイト
小川 奈央
小川:
高梨さんとは、以前、約半年にわたるSXプロジェクトで一緒になり、その後もチーム内にてさまざまな取り組みを推進する様子を拝見しています。改めてSXに関わることになった経緯を教えてください。
高梨:
私は日系のコンサルティングファームで顧客企業の業務改革やIT改革を担当し、2016年にPwCコンサルティングに入社しました。多様なプロジェクトに関わりながら、2018年からSXに関与してきました。具体的には、私や小川さんが所属するTMT-SXチームのリーダーとして、テクノロジー、メディア&エンターテインメント、テレコム業界に向けたSXと、PwCコンサルティング全体のSXサービスを扱うSII(Social Impact Initiative)-SXのサブリーダーを兼任しています。
小川:
経済産業省の定義によれば、SXは「企業のサステナビリティ」(企業の稼ぐ力の持続性)と「社会のサステナビリティ」(将来的な社会の姿や持続可能性)を同期化させる経営変革を指します。まだSXという言葉が浸透していなかった2018年当時から議論を始めていたのですか。
高梨:
私たちがSXに着目した時期は早く、サステナビリティ対応が経営課題として重要になっていくだろうと見ていました。TMTチームにおいても、サステナビリティに関してどのようなニーズがあるか、PwCとしてどのようなサービス提供が可能かを検討するタスクフォースが立ち上がり、私がリーダーを務めることになりました。
小川:
サステナビリティは関連する領域が広いのが特徴だと思いますが、企業の持続的な成長にはどのようなテーマが含まれますか。
高梨:
サステナビリティの取り組みの中には、気候変動、生物多様性、循環型経済、人権といった社会課題への対応に加えて、人的資本、知的資本や社会・関係資本などの無形資産への投資も含まれます。企業の成長支援では、カーボンニュートラルなどの個別テーマも重要ですが、長期的な成長を実現するための非財務情報や無形資産への投資が欠かせません。PwCコンサルティングでは、企業の長期的成長のために重要な非財務情報・無形資産を特定して経営管理の中に組み込んでいくことを価値創造経営と呼んでいますが、そのプランニングから実行の支援までを担っています。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 髙梨 智範
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 小川 奈央
小川:
SXに関して企業にはどのような対応が求められていますか。
高梨:
足元の対応では情報開示規制への対応が求められています。例えば、欧州の開示規制であるCSRD(企業サステナビリティ報告指令)や、2024年3月に日本のSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が公表した公開草案など、非財務情報開示の規制化が加速しています。まずは欧州での開示が先行していますが、日本においても今後は一定の条件を満たす企業は非財務情報を有価証券報告書で開示することが求められ、法定開示の対応という点で上場企業はグループ全体での取り組みが必要となります。
小川:
企業の対応の現状について教えてください。
高梨:
開示対応の先にある企業価値の向上に目を向けてSX推進を考えている企業もあれば、義務的に対応する企業もあり、そのような企業では「サステナビリティ疲れ」も見られます。
小川:
サステナビリティ疲れとはどのようなものですか。
高梨:
日本の大手企業はこれまでもサステナビリティ対応に力を入れてきました。例えば、環境関連では温室効果ガス(GHG)排出量削減につながる省エネや再生可能エネルギー導入などを行っています。企業にとってコスト削減などの効果が期待できる施策は比較的進めやすかったと思いますが、そうでない施策は経済的にも心理的にも負担になっているように見受けられます。今後も長期的に対応が必要であり、さらに追加的な取り組みが求められることで、負担が増えることを心配している企業も少なくないように感じられます。その観点からも今後さらに企業価値の向上に紐づけていくことが重要だと考えています。
小川:
経済合理性の面から企業のSXにブレーキがかかることがあるのですね。現場の視点でのサステナビリティ対応はどのように変化していますか。
高梨:
現場視点のサステナビリティは、例えば、原材料の価格高騰や調達リスクなどの対策としてサーキュラーエコノミー推進への感度が上がっています。サステナビリティのための対応ではなく、事業リスクへの対応としてのサステナビリティ施策の取り組みという視点です。私が担当するTMT業界でも、事業活動とサステナビリティの統合が進んでいると感じます。
小川:
企業のSX推進ではどのような課題がありますか。
高梨:
先ほどお話しした長期的な成長を実現するために非財務情報・無形資産に投資するという観点で、担当する部門がないという大きな課題があると思います。私たちの支援先を例にすると、各企業の経営企画部門、サステナビリティ部門、CFOを含む経理・財務部門が窓口となるケースが多いですが、これらの部門のミッションを超える組織が必要なのだと考えています。
小川:
一般的に、経営企画部門は経営戦略、サステナビリティ部門はサステナビリティ対応、財務部門は財務情報を扱うため、それぞれ機能が異なりますね。
高梨:
そうです。どの部門もSXの重要性は理解できていると思いますが、誰が主導するかという話になると「自分たちではない」という姿勢になりがちです。この状況を変えていくために、私たちは各企業の経営者と対話をしてSX推進の共通認識を図り、これらの部門の連携を促したいと思っています。
(左から)小川 奈央、髙梨 智範
(左から)髙梨 智範、小川 奈央
小川:
企業のSX推進に向けて、私たちPwCコンサルティングや、PwC Japanグループの支援にはどのような特徴がありますか。
高梨:
サステナビリティへの対応は、さまざまな分野の知見が必要となりますが、PwCのメンバーファームには、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、生物多様性、人権などの各テーマで高い専門性を持つ人材が多くいます。開示対応のニーズにはPwC Japan有限責任監査法人やPwCの欧州の各拠点とも連携します。また、最近ニーズが強まっているサステナビリティ開示やオペレーション高度化を実現するための情報基盤の構築を支援できるメンバーもおり、サステナビリティにおける戦略から実行、開示までを一気通貫で支援できることに大きな価値があると考えています。
小川:
情報基盤のシステムはどのように活用するのですか。
高梨:
非財務情報開示の対応としては情報収集や開示業務の効率化、保証対応としての内部統制強化が強く求められますが、それだけではなく蓄積されたデータを企業価値向上に活用することも重要だと考えています。データが自社の強みとどう関連しているのか、そして、将来的に強みを押し上げていくために、これから何に取り組み、何を管理対象にしていくかを明らかにすることができます。
小川:
TMT-SX内のチームワークのみならず、グループ内の連携を通じた支援ができる点が強みですね。
高梨:
はい。私たちは、国内のPwCのメンバーファームとの連携、各業界や部門のオペレーションユニットとの連携、そしてPwCグローバルネットワークを通じた海外との連携に強みがあり、その点は他のコンサルティングファームと比べても強みの一つだと思います。
小川:
SXの推進方法や、開示対応の先にある効果が見えていない企業にはどのような支援からスタートするのですか。
高梨:
まずは各企業のビジョンを明確に定めること、具体化することがスタートです。企業として社会にインパクトを生み出し、10年、20年という長期間で成長していくために、企業が目指したい姿や、どのような価値を世の中に提供しているかといった具体的な姿を作る必要があります。
小川:
目指す姿から今の課題を特定していくわけですね。
高梨:
はい。ビジョンが具体化されると、現状とのギャップから自分たちがこれから身につけたり蓄積したりしなければならないケイパビリティが分かります。例えば、イノベーションを生み出すためにどのような技術力や企業文化、制度が必要か、社員のマインドをどう変えていかなければならないのか、どのような外部のパートナーが必要でどんな企業と協創していかなければならないのかが分かります。それらをマテリアリティ(重要課題)として設定したうえで、マテリアリティを実現するために蓄積すべき無形資産を特定し、無形資産を管理するためのKPIや目標値を設定して最終的に現場業務へと落とし込んでいきます。
小川:
SXを通じた企業価値向上を目指す企業は増えているのでしょうか。
高梨:
はい、増えています。そのような企業は、非財務情報基盤の構築や、データを活用した経営管理を見据えています。私たちには、サステナビリティ対応、規制対応、戦略策定、業務変革、情報基盤構築などのケイパビリティがあり、企業の長期的な成長を実現する経営改革について、その一連の流れを伴走しながら一気通貫で支援できます。
小川:
SX推進の支援ではどのような能力が求められますか。
高梨:
知識の面では、サステナビリティの知識のほか、経営や業務の変革に関する知識、システム導入の知識などが求められます。ただし、これら全てを併せ持つ人は少数です。そのため、企業の変革と長期的な成長に貢献したいという想いと、型のないサービスの創出と提供というチャレンジを楽しめることが重要だと思っています。
小川:
型のないサービスとはどのような意味ですか。
高梨:
SX推進の方法は、現時点では「これが絶対的な正解」という答えがありません。プロジェクトの実績を増やしていくほど一定の方法論とパターンは見えてくると思いますが、業界や個社の事情などによって最善の支援策は常に異なります。その最適解を追求し続ける人がSX推進で活躍できる人だと思います。
小川:
幅広い知見が求められるからこそ社内外の人たちとの連携や協業が重要ですね。
高梨:
その通りです。SXは1つのチームでは価値を提供できない大きい取り組みであるため、オペレーションユニットやメンバーファームの垣根を越えたチームづくりや海外との連携により、お互いの強みを組み合わせながらビジネスを創出していくことが求められます。また、目の前の顧客との連携も重要ですので、バックグラウンドや言語の違いを理解し、価値向上という目的を共有していくコミュニケーション能力も求められます。
小川:
PwCは、さまざまな領域のプロフェッショナルが持つスキルを組み合わせて顧客の課題を解決することを強みとしています。SXはまさにその強みを発揮できる領域ですね。
高梨:
そう思います。そのようなアプローチを私たちは「Community of Solvers」と呼び、専門的知見の組み合わせと、それを下支えするテクノロジーが、顧客に新たな解決策をもたらすとともに、私たち自身の成長にもつながっています。また、Community of Solversを実現するためには多様なバックグラウンドや視点を持つ人材が必要です。PwCは、目先の課題のみならず、SXのようにニーズが拡大していく領域に向けたソリューション創出にも目を向けて、人材獲得をはじめとするさまざまな先行投資をする土壌があります。
小川:
TMTチームの一員として企業のSX推進に幅広く携われることは私自身のキャリアパスにおいても大きな経験になっていると実感しています。一緒に型のないサービスを追求していきたいと思うとともに、同じ考えを持っている新しいメンバーの加入にも期待したいと感じました。最後に、SXの今後の展望について教えてください。
高梨:
企業は社会を良くすることを存在意義としてとらえて活動しています。その本質に立ち返ると、企業は長期的な成長を実現しながら社会に与えるインパクトを大きくしていくことが求められます。SXはそのために不可欠な取り組みだと思っています。TMT企業の長期的成長を通じて社会課題解決に貢献し、皆さんと一緒により良い社会の実現を目指します。
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SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)推進に向けた課題と企業価値の向上に結びつけていくためのポイントについてPwCコンサルティングの担当者が語ります。
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