
第10回◆業界や国の垣根を越えたプロフェッショナルの連携が半導体業界に新たな変革をもたらす
PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 茂又 弘訓
エレクトロニクス業界は、私たちに身近なハードウエアを生み出し、私たちの生活や仕事を支える分野です。一方で、業界内外での技術革新やマーケット変化のスピードが速く、大きいため、新規事業の創出や既存事業・業務の見直し、ポートフォリオやビジネスモデルを含む、抜本的な変革が求められている業界でもあります。
PwCコンサルティングのTMT(テクノロジー・メディア・情報通信)チームにおいて、私は不確実性に直面しているエレクトロニクス業界のクライアントの価値創造支援を担当しています。本稿では、エレクトロニクス業界の直近のトレンドと、その変化の中でクライアントが直面する課題への取り組みについて紹介します。
登場者
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
茂又 弘訓
インタビュアー
PwCコンサルティング合同会社
アソシエイト
影山 葉彩
影山:
茂又さんの経歴と専門領域についてお聞かせください。
茂又:
私は新卒で大手通信会社に入社し、複数の外資系マネジメントコンサルティング会社を経て2017年にPwCコンサルティングに入社しました。キャリアとしては、ネットワークSEからスタートし、コンサルティング業界に移ってからは主に通信・ハイテク業界クライアントのIT・テクノロジー分野の戦略立案や、業務変革の実行などに関わるプロジェクトを支援してきました。グローバルプロジェクトを担当することも多く、欧州、米州、アジア、中国、インド、東南アジアに計10年以上滞在してプロジェクトに参画してきました。
影山:
PwCコンサルティングではどのような役割を担当しているのですか。
茂又:
私は、エレクトロニクス業界のクライアントに対して、主に3つの領域で支援を行っています。1つ目はビジネスモデルやプラットフォーム戦略などの成長戦略の策定です。2つ目は、フロントおよびバックエンド業務の改革を含む業務改革の推進です。そして3つ目はStrategy&やX-Value & Strategyといった戦略チーム、未来デザインと実装を手掛けるFuture Design Lab、先端テクノロジーの研究やビジネス適用を手掛けるTechnology Laboratory、製造業の現場課題に向き合うデジタルソリューションを持つIndustry Solution Garage、シンクタンクのPwC Intelligence、PwC Japanグループの弁護士、税理士などで構成するチームによる支援の統合です。これらの支援を、One PwCの考え方のもと、クライアントの課題に応じて包括的に提供しています。
PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト 影山 葉彩
影山:
現在のエレクトロニクス業界はどのような状況にあるのでしょうか。
茂又:
各企業がこれまで蓄積してきたアセットを生かしながら、これからの需要や市場の変化を的確に捉えた成長戦略を描くことの重要性が増しています。企業経営の観点では、戦略の方向性を攻めと守りのバランスを取りながら舵取りしていくことが求められ、既存のビジネスモデルやオペレーションモデルを思い切って再構築する必要に迫られている企業も多いと言えます。
影山:
業界内企業が押さえておかなければならないトレンドを教えてください。
茂又:
エレクトロニクス業界において、以下の6つのパラダイムシフトが進みつつあると考えています
1つ目は、最終製品組立における業界の境界を越えた融合の加速、そして 新たな収益源を生み出すビジネスモデルへの転換とエコシステムの再構築です。
2つ目は、部品調達における地政学リスクと中国経済の減速を踏まえた、グローバルサプライチェーンのリバランスです。
3つ目は、製品、サービス、データのビジネスバンドルが常態化し、SaaSに代表されるようなAs-a-Service型のビジネスが完全に定着してきたことです。
4つ目として、中堅企業を中心とした第2次DXブームが訪れるだろうと見ています。
5つ目は、人材獲得の争奪戦が進んでいくことにより、企業が再びビジネス機能の配置を見直し、中には企業のコア機能をも外部化する必要性に迫られるケースが増えていくことです。
6つ目として、製品製造における環境関連の規制や施行の本格化により、実効性のある持続可能性への取り組みが必要になると考えています。 単なるプログレッシブムーブメントではないと見ています。
影山:
クライアントであるエレクトロニクス業界の各社は、その先でさまざまな業界の顧客とつながっています。顧客側である業界にはどのようなトレンドがありますか。
茂又:
製造業を例にすると、エネルギー調達問題、「買うから使う」へのコンシューマーシフト、サーキュラーエコノミーや生物多様性といったサステナビリティトレンド、ソフトウェアの価値を最大化するデファインドシフト、生成AIや量子コンピューティングの活用などへの対応が求められています。これらをテーマとして、既存のサプライチェーンやエンジニアリングチェーンの変革を推進していかなければなりません。全体感をもって機敏に対応しなければ、ビジネスの機会損失や事業継続に対する脅威にもなるはずです。
影山:
変化が多く不安定な時代だからこそ、ビジネスモデルの変革が求められているのですね。
茂又:
はい。コンシューマーマーケットや各産業を下支えするエレクトロニクス企業も同じです。
影山:
エレクトロニクス業界内の取り組みについてお聞かせください。
茂又:
これまでの主なテーマは、「製品の高度化」と「生産性の向上」の2点でした。成長するマーケットの中で、エンジニアリングとオペレーションの力を磨き上げる、それを支える人材育成と資金確保を行うという明確な目的のもと、各職制で役割を分担して進めてきました。
影山:
さまざまな課題がありつつも、企業に求められることや、企業として目指すゴールは明確だったわけですね。
茂又:
そう思います。変化を細かく見れば、ローカルデマンド、CASE、ネットワーク、UX改善への対応などその時々で重要な課題がありますが、生活を豊かにするツールの形は過去30年間で大きくは変わっていません。職制で定めるそれぞれの活動に邁進し、与えられた役割を果たせれば企業としては大きく迷うことなく成長することができたのです。
影山:
現在はどのように変わったのでしょうか。
茂又:
外部環境を見ると、現在のビジネス環境は大きく3つの変化に直面しています。1つ目は世界の分断化にみられる地政学的な変化、2つ目は人口動態の変化とテクノロジーの進化による社会構造の変化、そして3つ目は気候変動に代表される環境問題です。これらの変化により、ビジネス環境は非連続で不確実性が高い状態に変わりました。その影響によって、企業として目標が定めにくくなっています。PwCが世界のCEOを対象として行ったサーベイ(第27回世界CEO意識調査)でも、6割を超す日本のCEOが今のビジネスモデルのままでは10年後の自社の存在が危ぶまれると答えています。
影山:
それくらい不確実性が高い社会なのですね。その中を生き残っていくためにはどのような意識の変革が求められますか。
茂又:
従来から継続してきたエンジニアリングとオペレーションの力を磨き続けつつ、企業として提供する価値やコアコンピタンスは何かを定め、必要に応じて事業方針のピボットを試みる柔軟性を許容していくことが肝要になるはずです。レジリエンスや短期的な収益性の向上に力を入れるだけでは、もはや十分ではありません。企業は、生き残りと成長に向けた変革を進める必要があるのです。
影山:
エレクトロニクス業界内の各社はその重要性を認識しているのでしょうか。
茂又:
はい。業界全体の傾向として新しいアイデアや成長に資する施策を進めています。例えば、「Race to Rebalance」の考え方で、サプライチェーンのリバランスを目的として、新たなサプライヤーを開拓したり、事業拠点を見直したり、グローバルでの人材獲得に力を入れている企業があります。ただし、不確実性が高くなるほど、未来に向けて覚悟を持って進めることが難しくなります。そこで迷いが生じることによって変革のスピードや深さが不十分になってしまっているケースもあります。
(左から)茂又 弘訓、影山 葉彩
影山:
不確実性が高い社会と大きな変化のトレンドの中で、PwCコンサルティングはエレクトロニクス業界に向けてどのような価値を提供できますか。
茂又:
私たちはグローバルで通用する新しいビジネスモデルの研究を続け、これからの勝ち筋となる可能性が高い6つのモデルを提唱しています。このフレームワークを使ってクライアントのリーダーと密に連携し、ビジネスモデルの再発明(Business Model Reinvention)を支援しています。Business Model Reinventionは、価値の創造と提供を通じて、収益性と成長性を高める戦略を根本的に変えることを指します。例えば、クライアントの戦略を実現するMinimum Viable Product(MVP)を開発し、それをスケールさせていくことでBusiness Model Reinventionを実現するのが方法の1つです。
影山:
勝ち筋はどのような研究を根拠として考え出しているのですか。
茂又:
私たちの企業研究は、テクノロジー活用、マネタイズ、マーケットリーチ、製品やサービス特性のアイデアを出発点としています。これらを踏まえて、事業戦略、オペレーションモデル、ファイナンシングモデル、組織モデルなどの戦術の立案、試行、展開、定着を伴走支援しています。
影山:
伴走支援の過程では、さまざまな専門知識も必要です。その点で、PwC JapanグループやPwCグローバルネットワークは、エレクトロニクス業界以外の支援実績も多く、監査や税務などを専門とするメンバーファームが多いことも強みですね。
茂又:
そのとおりです。クライアントの課題が複雑化している社会では、常に新しい解決策を創出する必要があります。そのためにはエレクトロニクス業界に特化した専門性やメソドロジーのみならず、テクノロジー、思索的未来デザイン、M&A、税務、法務などの専門家を有機的にテーラリングする必要があります。私たちは、法人や国・地域の枠を超え、メンバーやメンバーファームが持つ知見と機能を掛け合わせ、横断的にコラボレーションするxLoS(クロスロス)と呼ぶ活動を重視して課題解決に取り組んでいます。PwCの集合知と外部情報を統合知に変えて、ファクトとシナリオに基づく経営の判断と変革をクライアントと一緒に描いていくことは私たちの強みの1つです。
影山:
今後の業界の変化と、PwCコンサルティングの支援について教えてください。
茂又:
エレクトロニクス業界では、事業再編やM&A、アライアンスを通じたエコシステム再編が第1の変化として進んでいます。第2に、欧米企業に加え、資本力をレバレッジした中国や韓国企業の台頭、インドも含むグローバルサウスからの新興国企業の参入により、グローバル競争が一層激化しています。そして第3に、これらの変化に対応するため、経営課題の明確化とスピーディーな実行が求められています。私はこれらの変化を捉え、クライアントとともに実践的な解決策を見いだす変革の支援を行っていきます。
影山:
不確実性の中で勝機を捉えて成長していくエレクトロニクス企業の支援はTMTとしてもメンバーとしても魅力が溢れていますね。本日はありがとうございました。
PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
グローバルなビジネスを支えるための機能設計と組織運営で迅速な変革が求められており、グローバル・ビジネス・サービス(GBS)を活用する企業も増えています。その重要性と日本企業の現在地について、PwCコンサルティングのメンバーが語り合いました。
エレクトロニクス業界は、業界内外での技術革新やマーケット変化のスピードが速く、大きいため、抜本的な変革が求められています。直近のトレンドと、変化の中でクライアントが直面する課題への対応について、PwCのコンサルタントが語り合いました。
気候変動、テクノロジーによるディスラプション、人口動態の変化、世界の分断化、社会の不安定化といったメガトレンドに対し、グローバル企業はどのような施策を推進していくべきか、PwCのコンサルタントが語り合いました。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)推進に向けた課題と企業価値の向上に結びつけていくためのポイントについてPwCコンサルティングの担当者が語ります。
気候変動、テクノロジーによるディスラプション、人口動態の変化、世界の分断化、社会の不安定化といったメガトレンドに対し、グローバル企業はどのような施策を推進していくべきか、PwCのコンサルタントが語り合いました。
スマートフォンやEVの普及により充電可能な電池の需要は高まっており、シェア獲得を目指すスタートアップの参入は世界中で増えています。このような成長市場を勝ち抜くためにはどのような戦略が必要なのか、PwCコンサルティングのディレクターが語ります。
デジタル化やIT活用が進むことで、医療機器の市場成長率は高水準のまま推移すると見込まれています。医療機器業界を支援し、治療や健康維持に貢献することで社会課題の解決を目指すコンサルタントが、これからの同業界に求められる成長戦略について語ります。
本書では、SDV(ソフトウェア定義車両、Software Defined Vehicle)とは何か、今後何をすべきかを検討いただく一助として「SDVレベル」を定義し、SDVに関するトピックや課題を10大アジェンダとして構造分解して、レベルごとに解説しています。(日経BP社/2025年4月)
株式会社アドバンテスト取締役の占部利充氏とPwCコンサルティングのパートナー北崎茂が望ましい経営トップ交代、経営チームづくりのポイントを解説します。
HRテクノロジーに対する投資は堅調であり、2020年時と比較して増加しています。近年、生成AIなどのテクノロジーの発達も著しく、今後全ての業務領域でシステム化が進むと考え、人事施策と連動したテクノロジーの活用がより必要となってくることが予測されます。
AIブーム、テクノロジーとビジネスモデルの継続的なディスラプションに伴い、テクノロジー・メディア・情報通信(TMT)分野のM&Aは2025年も活発に行われる見込みです。