
第10回◆業界や国の垣根を越えたプロフェッショナルの連携が半導体業界に新たな変革をもたらす
PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
テクノロジー業界は、技術の進歩、消費者のニーズの多様化、ビジネスモデルの変化などを背景に、他のどの業界よりも急速な変革が求められています。
特に、グローバルベースでビジネスを支える機能設計および組織運営において、環境の変化に対して、臨機応変かつ早期の変革が求められており、企業活動における業務の効率性と品質を高める強力なエンジンとして、グローバル・ビジネス・サービス(GBS)を活用する企業も増えています。
その重要性と日本企業の現在地について、実際に現場でプロジェクトを推進しているPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のメンバーが語り合いました。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 大東 裕昌
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 藤田 宗佑
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
大東 裕昌
テクノロジーによるトランスフォーメーション支援を幅広く経験。現在はテクノロジー企業を中心にGBS機能の構築や拡張プロジェクト管理に従事。
PwCコンサルティング合同会社
マネージャー
藤田 宗佑
製造系企業向けの財務領域を中心としたトランスフォーメーションの支援を担当。RPA導入推進やシェアードサービスの構築支援にも従事。
※対談者の肩書、所属法人などは掲載当時のものです。
藤田:
急速な外部環境の変化に対応していくため、テクノロジー業界では従来型のシェアードサービスからグローバル・ビジネス・サービス(GBS)へと機能強化するケースが増えています。大企業を中心に導入されてきたシェアードサービスは、業務効率化とコストダウンで一定の効果を生み出してきました。しかし、グローバル展開する企業では、本社主導のシェアードサービスを海外拠点にまで提供できないケースがあり、拠点ごとに業務がサイロ化し、コストダウン効果も限定的になっています。そこで注目されるようになったのがGBSです。GBSは複数の業務や機能をまとめ、エンド to エンドでサポートするモデルです。シェアードサービス同様に業務効率化に貢献するとともに、グローバルでサービスを管理することによって拠点ごとのサイロ化を解消し全体最適を実現できます。
大東:
GBSにおいて特徴的なのは、経営分析や予測といった高度な付加価値業務を含む点です。シェアードサービスは主に業務効率化やコスト軽減を目的としていますが、GBSはそれらに加えて、業務プロセスの標準化、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)といった各種トランスフォーメーションの推進、ガバナンス強化、イノベーション促進、経営や事業へのインサイト供与なども含み、グローバルでの横断的な改革を推進する「触媒」として機能します。
藤田:
テクノロジー業界は変化が激しく、先端技術のR&D、それらを活用するイノベーション創出、M&Aによる事業拡大が非常に速いサイクルで行われています。GBSの仕組みがあれば、変化に適応しながら必要な施策を柔軟に推進していくことができます。
(左から)大東 裕昌、藤田 宗佑
大東 裕昌
大東:
海外では大手テクノロジー企業を中心としてGBSが浸透しています。付加価値業務を集約し、専門的な知見を持つ人と機能を通じてグループ全体にサービス提供する体制を構築している企業も少なくありません。一方、日本企業は考え方と取り組みの両面で従来型のシェアードサービスの範疇から抜け出せていないのが実態です。
藤田:
日本企業のGBSが進まない要因は複数あります。ビジネス環境としては、商習慣の違いや業務の複雑性などが理由です。グローバルの視点では、言語の壁と品質基準も要因です。言語は、今後はAIによる翻訳や通訳によって解決できる可能性がありますが、現状では海外拠点とのコミュニケーションがグローバル水準の標準化の障壁となっています。品質基準は局所最適になりやすく、全体最適の視点での意識改革が求められます。
大東:
全社戦略を加味したGBS戦略が明確になっていないなど、戦略、組織、システムに根差す阻害要因も大きいと考えています。企業によってはグローバルプロセスオーナー (GPO)を設置して全社取り組みと位置付けている例もありますが、実態としては形式的な存在になり、ボトムアップ型の業務改善に留まってしまいます。海外企業のGBSがスピーディに進むのはトップダウン型であることが理由の1つです。システム刷新を例にすると、海外企業は本社がシステムを決め、現場はそのシステムに合わせて業務プロセスを大胆に作り直します。一方、日本企業は現場重視の発想で既存のシステムにアドオンで対応していくケースが多いといえます。ボトムアップ型の改善も重要ですが、GBS推進では企業全体を統制しながら進めていく必要があります。
藤田:
海外企業との違いは組織図からも見ることができます。海外企業はGBS機能をCxO直下に置いて重要な経営アジェンダとして取り組んでいます。そのため、企業内でGBSの重要性が理解されやすくなっています。GBSを強く推進するためには、その機能を強化していく重要性や必要性を社内向けに発信しGBSのプレゼンスを大きくしていくことが重要です。日本企業では、現場のトランザクションを寄せ集めたセンター機能といった捉えられ方をするケースが多いため、例えば、マネジメント層がGBS推進をトップアジェンダに設定する、中期経営計画の重要方針に入れるといったことが重要です。
大東:
GBSの強化は組織変革につながっていくため、現場の社員を含めたマインドのチェンジマネジメントが必要です。コストカットのための機能ではなく、組織を成長させ、改革のイネーブラーであることを認識してもらうことで、変革に取り組む士気も高まると思います。
大東:
日本企業の現状と課題を踏まえて、GBSを推進していくには、センターオブエクセレンス (CoE)機能の強化、人材の育成、テクノロジーの活用の3点の取り組みが必要であると考えます。まず1点目のCoEについては、財務、会計、開発、サプライチェーン管理、税関管理といった専門的な知識が必要な業務を集約します。定型的で反復的な現場のトランザクションには専門性は求められませんが、CoE領域では各業務について適切な知識とスキルを持つ人材をそろえて、専門的なサービスを提供することが重要です。
藤田:
専門性を伴うナレッジを集約しCoEからグローバルでグループ会社や各拠点に提供することにより、業務全体を効率化できるだけでなく、ナレッジの集中管理によって新たな事業や改善策を生み出しやすい体制が構築できます。また、専門性が高い業務ほど属人的になりがちですが、それらをGBS内に集約することでCoE業務の可視化を進めることができます。
大東:
税務を例にすると、各地域の税制などを熟知した人を物理的に配置するというよりも、知見と機能を集約することが重要です。地域の制度に詳しい人は現地にもある程度残しながら、そのメンバーを通じてCoEに情報を集めていきます。各拠点から情報を集めることによって、例えば、新たに拠点を立ち上げる時の相談をCoEで一括して引き受けることができ、現地拠点に情報を聞くよりもスピーディに拠点展開できるようになります。
2点目の「人材の育成」については、CoE機能を拡充していくためには、その実行役として、高度な専門知識を持つ人を採用し、育成、およびGBS機能内に配置していくことが求められます。
藤田:
GBSを人材のハブと位置づけて、専門的なスキルの習得方法を考えたり、そのための取り組みを促進したりすることも重要です。具体的な取り組みとしては、GBSの人材に複数の事業を経験させるローテーションプログラムを行い、専門知識を習得してもらうことができます。このような取り組みにより、言語を含むグローバルの視点で変革を推進できる人材が増えていきます。
大東:
人材の拡充では、内部で育成する方法のほかに、外部と連携して採用を強化することも重要です。そもそも専門知識を持つ人は少数ですので、研究所や大学と提携することで必要な知識を有した人材を獲得し、即戦力として活躍してもらうことを期待しています。
GBS内の人材リソース確保としては、専門領域を担当している各拠点のメンバーを機能ごとに集約していきますが、次のステップとして、後発人材をどう育成していくか、また高い専門性を持つ人材が辞めた時にどう補填するかが課題になるため、そこまで含めた中長期的な人材戦略が必要です。海外ほどではないにしても、日本も人材の流動性が高くなっているため、報酬制度を含めた人材の採用と保持の対策が求められます。また、人口減少が進んでいく今後は採用への対策も必要です。解決策の1つは、専門性に長けた外部組織を活用することです。私たちPwC Japanグループも監査や税務を専門とするメンバーファームがあり、専門知識の提供を通じてクライアントのGBSに貢献できると思っています。クライアントそれぞれのリソースと外部リソースを組み合わせていくことは人口減少の時代では現実的な選択肢だと思います。
3点目の「テクノロジーの活用」については、テクノロジー活用はGBSのイノベーションにつながります。PwCの直近のGBSグローバル調査によれば、CoEが提供するサービスのトップにDXと自動化が挙げられています。ほかにも、RPAやOCR(光学式文字認識)の導入、生成AI活用を推進するイノベーションハブとしての役割を果たすことで、GBSはクライアントの成長エンジンとして競争優位性の獲得に貢献できます。
藤田:
生成AIをはじめとする先端テクノロジーの活用はGBSの受託範囲やサービスの幅を拡大することにつながります。ユースケースを増やしていくことによって、現状では部門ごとに検討しているシステムやツール導入に関する相談に対し、GBSが最も効果的な取り組み方をグローバルで提供できるようになります。
藤田 宗佑
(左から)藤田 宗佑、大東 裕昌
藤田:
日本企業がGBS機能を強化するにあたり、PwCコンサルティングができる支援には、例えば、GBSに関する情報提供があります。クライアントからの相談では、競合がどのようにGBSを進めているか、業界内で自分たちのGBSはどのレベルかなど、全体のトレンドや現在地を知りたいといった内容が多く、情報収集に苦労されています。私たちはPwCグローバルネットワークを通じて国内外の最新の情報を提供できますし、現在地の把握という点では、クライアントのGBS機能の成熟度を診断するクイック診断ツールを提供しています。
大東:
GBS機能の構築は、どこを目指すかを描き、フェーズごとに整理しながら着手する順番を決めていきます。実行段階では、効果が大きいところから着手し、ファーストステップはスモールスタートで効果を出していきます。同時に、人材の確保や育成も考えていきます。中長期で複雑なロングジャーニーだからこそ、明確な方向性を示すために、経営に寄り添ってジャーニーマップを一緒に考えていくパートナーが必要です。
藤田:
クライアントはそれぞれ事業戦略や目指す姿が異なるため、GBS機能もクライアントごとにカスタマイズする必要があります。どこにGBSの拠点を設けるか、どういう業務を集約の対象にするかといったことを企画から実行まで一緒に考える伴走型支援が私たちの特徴の1つです。
大東:
GBSは、本社に付加価値業務をまとめて各拠点に提供していくのが形としてはきれいです。しかし、それが最善とは限りません。1拠点集約型が良いこともあれば、欧州、アジア、米国などの各地域にGBSを分ける方が良い場合もあり、その見極めが重要です。変化のスピードが速いため、見極めには正確性とスピードの両方が求められます。とくにテクノロジーに関しては、どのタイミングで、どの技術を適用するのかを見極めることが難しく、投資して導入したツールが技術の進化によってすぐに陳腐化することもあります。そういう時代であることを前提として、私たちは新しい技術の目利きをしながらライトかつクイックに業務に適用し、期待できる効果を見極めています。
藤田:
GBSは、業務や事業の変革をもたらし、売上のトップラインを伸ばし、さらにはCoEに集約した知見から新たなインサイトを獲得できます。GBSがクライアントの業務や事業を改革するリーダーとなっていくように、GBS機能の強化を支援していきたいと考えています。
大東:
GBSは、GBS機能を構築することがゴールではなく、ビジネスに生かし、企業のビジョンを実現する戦略的イネーブラーとして活用することがゴールです。日本企業にはGBSを活用した潜在的な成長の伸びしろがあると捉え、より強い組織へと変わっていくテクノロジー企業に貢献していきたいと考えています。
PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
グローバルなビジネスを支えるための機能設計と組織運営で迅速な変革が求められており、グローバル・ビジネス・サービス(GBS)を活用する企業も増えています。その重要性と日本企業の現在地について、PwCコンサルティングのメンバーが語り合いました。
エレクトロニクス業界は、業界内外での技術革新やマーケット変化のスピードが速く、大きいため、抜本的な変革が求められています。直近のトレンドと、変化の中でクライアントが直面する課題への対応について、PwCのコンサルタントが語り合いました。
気候変動、テクノロジーによるディスラプション、人口動態の変化、世界の分断化、社会の不安定化といったメガトレンドに対し、グローバル企業はどのような施策を推進していくべきか、PwCのコンサルタントが語り合いました。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)推進に向けた課題と企業価値の向上に結びつけていくためのポイントについてPwCコンサルティングの担当者が語ります。
気候変動、テクノロジーによるディスラプション、人口動態の変化、世界の分断化、社会の不安定化といったメガトレンドに対し、グローバル企業はどのような施策を推進していくべきか、PwCのコンサルタントが語り合いました。
スマートフォンやEVの普及により充電可能な電池の需要は高まっており、シェア獲得を目指すスタートアップの参入は世界中で増えています。このような成長市場を勝ち抜くためにはどのような戦略が必要なのか、PwCコンサルティングのディレクターが語ります。
デジタル化やIT活用が進むことで、医療機器の市場成長率は高水準のまま推移すると見込まれています。医療機器業界を支援し、治療や健康維持に貢献することで社会課題の解決を目指すコンサルタントが、これからの同業界に求められる成長戦略について語ります。
本書では、SDV(ソフトウェア定義車両、Software Defined Vehicle)とは何か、今後何をすべきかを検討いただく一助として「SDVレベル」を定義し、SDVに関するトピックや課題を10大アジェンダとして構造分解して、レベルごとに解説しています。(日経BP社/2025年4月)
株式会社アドバンテスト取締役の占部利充氏とPwCコンサルティングのパートナー北崎茂が望ましい経営トップ交代、経営チームづくりのポイントを解説します。
HRテクノロジーに対する投資は堅調であり、2020年時と比較して増加しています。近年、生成AIなどのテクノロジーの発達も著しく、今後全ての業務領域でシステム化が進むと考え、人事施策と連動したテクノロジーの活用がより必要となってくることが予測されます。
AIブーム、テクノロジーとビジネスモデルの継続的なディスラプションに伴い、テクノロジー・メディア・情報通信(TMT)分野のM&Aは2025年も活発に行われる見込みです。