
第10回◆業界や国の垣根を越えたプロフェッショナルの連携が半導体業界に新たな変革をもたらす
PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
半導体は、あらゆる電子製品に使われ、さまざまな産業を支える重要なコンポーネントであり、今後はAI需要の拡大に伴ってさらなる高度化が期待されています。一方で、業界内では技術開発の投資が過熱したり、国をまたぐサプライチェーンが複雑化したりするなど、複雑な課題も新たに生まれています。
このような背景を踏まえて、PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
PwCコンサルティング合同会社
パートナー
内村 公彦
2018年入社。PwCグローバルネットワークの半導体産業向けグローバル連携タスクフォースにおいて日本地域を統括。2024年に発足した半導体の組織横断型イニシアチブを率いて、業界横断で半導体産業の発展に貢献する事業開発をリード。
PwCコンサルティング合同会社
マネージャー
登島 隆
2021年入社。半導体製造装置メーカー出身。現在は組織横断型イニシアチブの半導体チームのメンバーとして、ヘッドカウントによらないPwCコンサルティングとしての新たなビジネスモデルの開発やエンジニアとしての経験を活かした産官学連携の推進などに従事。
登島:
半導体業界は複数の国をまたいでサプライチェーンを構成しています。そのため、事業のオペレーションにも、成長戦略を考える上でも必然的にグローバルの取り組みや視点が求められます。同時に、グローバルであるが故の地政学リスクに影響を受けやすいのが特徴ですね。
内村:
そうですね。地政学リスクを背景とするサプライチェーン再編の観点で、台湾の大手ファウンダリの誘致を検討したり、製造拠点の自国内回帰を進めたり多様な施策が錯綜しているのが現状です。私たちも国内の半導体企業から事業戦略の相談を受ける機会が増え、業界再編に向けて一緒に取り組みたいといった依頼も受けるようになりました。
登島:
業界全体の勢力図を国別に見ると、米国はAIに代表されるアプリケーションや半導体の設計分野、台湾は半導体の前工程や後工程と呼ばれる製造分野、日本は半導体製造装置や材料の分野でそれぞれの強みを発揮しています。各国がそれぞれのバリュープロポジションを打ち出し競争優位性を伸ばしていますね。
内村:
はい。半導体のアプリケーションは多岐にわたっており、さまざまな産業を下支えていることから、半導体事業が各国の国力の源泉になっているのが実態だと思います。ただ、半導体事業の本質は国単位の競争を制することではなく、半導体を使う自動車、スマホ、AIなどによって社会、暮らし、サービスを良くすることだと思っています。例えば、日本はこれから人口減少による労働力不足が深刻化します。社会全体として考えなければならないのは、人口ピラミッドが尻すぼみになっていく社会でも生活レベルを下げず、むしろ上げていくような未来を作ることです。そのための手段の1つがAIであり、その進化を支える道具が半導体です。国をまたぐ社会課題も同じです。それぞれの技術を自分のところだけに囲うのではなく、組み合わせることによって大きな社会課題の解決に役立てていく視点が重要だと思っています。
登島:
半導体事業は大規模な投資が必要であり、資金力がある企業による寡占や独占が進みやすいのが特徴です。一方で、用途やニーズの多様化によって新たなトレンドが生まれつつあります。具体的には、2次元では半導体の微細化のトレンドがあり、3次元では個々の要素となる半導体を歩留まりが見込める方法でそれぞれ製造した後に用途に応じて一つのパッケージにおさめて集積するチップレットと呼ばれるトレンドがあります。2次元の微細化は巨大な投資が必要であるため、台湾のファウンダリ大手のようなメジャープレーヤーがスタンダードを作りながらシェアを伸ばしていくと見ています。3次元の集積は用途や目的も幅広くスタンダードが定まっていない分野も多いため、各産業が仕様の定義や標準化を進めたり、そのために産業内の組合やコンソーシアムを通じて企業が連携し、装置や材料開発を共同で行ったりする変化が起き始めています。企業にとっては、どの技術を使うか、どの企業と組むかといった戦略がますます重要になっています。
内村:
不確実性が高い業界だからこそ私たちコンサルティングファームが支援できる要素は多く、市場の未来からバックキャストで考えながら支援していくことが求められています。加えて、ビジネスモデルの面でも変化が起きています。従来の業界大手企業は、半導体の製造拠点と、その製品を使う事業を両方持つことによって成長してきました。例えば、自社で製造販売するテレビ用の半導体も内製することで、商品の売り上げとともに半導体の売り上げも伸ばすことができ、足元の収益も獲得することができました。しかし、近年では自社向けの半導体だけでは収益が伸びなくなりました。より広範囲の用途を対象とする半導体の設計や開発が求められるようになっているのです。
登島:
1990年代ごろから日本の半導体メーカーが力を失っていった過程と似ていますね。当時の日本は電機メーカーや家電のメーカーが好調で、各メーカーが自社商品向けの半導体を作っていました。しかし、それら製品の一部とみなされていた日本の半導体事業は製品の市場縮小に合わせて事業が縮小し、最終的には事業を海外に売却する状況となってしまいました。
内村:
この状態から抜け出すためには次世代技術への投資が重要です。例えば、先端半導体を製造する大手ファウンダリは大学などと連携するオープンイノベーションの開発を行い、自動車やヘルスケアなどさまざまな産業のスタートアップへの投資も行っています。投資先のスタートアップは例えばAI半導体向けのファブレス企業として大化けするかもしれない金の卵で、将来の優良顧客にもなります。既存事業の効率化によって収益を獲得しながら、その一部を使って先端技術も作っていくビジネスモデルがこれからのトレンドとなっていくでしょう。業界全体の発展のためにも、そうなってほしいと思っています。
登島:
急速に変化と成長を続けている半導体業界の中で、日本企業がプレゼンスを高めていくためにはどのような変革が必要だと思いますか。
内村:
開発や製造の技術革新は引き続き重要ですが、事業戦略としては、プロダクトアウト型のモノづくりにとどまらず、マーケットインの視点を取り入れていくことが重要です。例えば、私たちPwCグローバルネットワークでは、各拠点の半導体チームが集まって顧客獲得(カスタマーアクイジッション)の戦略を議論します。これは、先端技術を駆使して作ったハイエンドの半導体を、誰に、どうやって売るかを考えるものです。供給が需要を作る側面もあるため、必ずしもマーケットインに振り切ることが正解とはいえません。しかし、そもそも市場が求めている製品を作る視点があれば、売り手を探さなくても売れるはずです。
登島:
プロダクトアウト型のモノづくりについては、各プレーヤーの投資が活発化している結果として、淘汰が始まりつつあるフェーズに入っているようにも見えます。AIチップなどは引き続き需要が伸びていますが、その他の製品では在庫の増加や価格競争が加速しているケースがあります。
内村:
パワー半導体はその一例ですね。この分野では、シリコン(Si)を使う半導体が安価な商品向け、シリコンカーバイド(SiC)のような高価な材料を使う半導体が高額の商品に使われています。高価な半導体の方が付加価値がある分だけ利益率も高いのですが、一方の安価な半導体にも需要があり、このマスマーケットにおける日本企業の市場シェアが、最近は中国等の活発な投資により縮小していく状態になったのです。
登島:
この状況を戦い抜いていくためには、希少性の高い新しい材料や製品を開発する、競合がいない新たな市場を創造したり、目を向けたりするといった戦略が必要ですね。
内村:
そう思います。既存の市場シェアを守るために競合と真っ向勝負で戦おうという考え方もあるのですが、それは得策ではないと思っています。半導体の用途は多様で、まだまだ埋めきれていない市場があります。そこに目を向けて、競争が厳しい市場から撤退し、撤退によって戻ってきた資金を新たな技術開発に投資する、新たな市場で事業を始めるといった判断をしていくことが求められます。その際には、1社で戦おうとせず、複数の企業で連携したり、国の支援を取り付けたりしていくことも重要です。
登島:
日本は半導体の製造装置や材料のメーカーが多いこともあり、どこかの国や地理的な市場だけでビジネスを行うのではなく、米国も中国もその他の国や地域も俯瞰しながらビジネスを拡大してきました。その多国間の市場の均衡が崩れていく過程では、今一度、自分たちがどの市場で事業をしていくか、自分たちのコアコンピタンスは何かを見定める作業が必要ですね。
内村:
そうですね。それをせずに今まで通りの事業を続けていくと、気づいた時にはマーケットシェアを失うことになりかねません。中国企業に限らずですが、トップダウンで動く企業はスピードが速く、積極的な投資によって先端技術をすぐにキャッチアップします。その脅威を認識した上で成長戦略を描いていくことが重要だと思います。
登島:
このような課題の解決を支援すべく、私たちは半導体に特化したグローバルタスクフォース「Semicon CoE」を立ち上げました。また、2024年にはPwC Japanグループも業界横断でインパクトを出していく組織横断型イニシアチブを設けました。
内村:
はい。PwCグローバルネットワークには、半導体企業を支援しているプロフェッショナルが各国・地域の拠点に存在しています。私たちは、日本、ドイツ、米国、韓国、台湾、インドでタスクフォースを組織し、半導体市場、開発や製造の先端技術、メジャープレーヤーの動向などについて情報共有しています。また、PwC Japanグループの組織横断型イニシアチブは、多様なバックグラウンドと専門性を持つメンバーをそろえ、産官学連携によって外部からの情報や知見も収集しながら、日本の半導体企業の成長につながる提言や情報発信を行っています。
登島:
私は前職が半導体製造装置のメーカーだったこともあり、効果的な支援や産業へのインパクトをより創出していくためには、半導体産業の製造ノウハウや技術トレンドを理解している各専門家だけでなく、半導体産業以外のさまざまな産業において幅広い実績を持つ人材、さらには地政学のプロフェッショナルなど多様な知見を持つ人との連携が不可欠だと思っています。
内村:
そうですね。PwCグローバルネットワークには2050年の未来創造やフューチャーデザインの分野でコンピテンシーを持つチームがいます。私たち半導体のチームは、このような独自のノウハウを持つチームとも連携をしながら産業に必要な取り組みを逆引きで考え、半導体の供給不足や技術革新の後れなどが起きない状態をこれから3、4年で構築していくことがミッションであると考えています。
登島:
コンサルティングの観点では、未来はきっとこうなると予測するだけではなく、バリューチェーンや事業戦略を変革していく具体的なビジョンに基づきながら事業のあり方を整流できるコーディネート機能が求められています。企業としてどうしたいか、中長期でどこを目指しているのかを一緒に考え、実現するための施策やアプローチ方法を導き出すことが重要で、そこに私たちの強みがあると感じます。
内村:
半導体は社会を良い方向に変えていくイネーブラーであり、ホットなテーマでもあります。そこに関与できていることが私たちの仕事の魅力ですよね。業界全体を俯瞰すると地政学リスクをはじめとするさまざまな課題が複雑に絡み合っていますが、それを1つずつひも解いていくチャレンジがモチベーションになっていると感じます。
登島:
私も同感です。従来の半導体業界は、現在と比べて専門技術を持つ企業だけに閉じられた業界でした。しかし、半導体の用途が広がるにつれて業界外との接点が広がっています。技術的な専門性のみならず、地政学や経営戦略などの分野で専門性を持つ人がそれぞれの立場で知見を提供することが業界のさらなる発展につながります。そのような視点で業界に新しいエッセンスを入れ、グローバルレベルで変革を生み出していくことが私たちの役割であると思います。
内村:
半導体に興味がある人はメーカーで働くことを希望し、コンサルティングファームの立場で関わるという選択肢を思い浮かべるケースはまだまだ少ないと思います。しかし、コンサルティングファームは、業界内の企業、国、NPOなどとは異なる立場で複雑な課題を解き社会に良いインパクトを生み出していくことができます。事業戦略の上流から実行まで幅広く関わり、業界のさらなる成長や再編に向けた提案ができるのはコンサルティングファームが唯一であり、その役割を果たしていくことが私たちの使命だと思っています。
(左から)内村 公彦、登島 隆
PwC Japanグループは業界横断で半導体事業の課題解決を支援する「組織横断型イニシアチブ」を立ち上げました。その取り組み内容と、これから目指す半導体業界の未来像について、キーパーソンに話を聞きました。
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