
各国サイバーセキュリティ法令・政策動向シリーズ (2)インド
各国サイバーセキュリティ法令・政策動向シリーズの第2回目として、インド政府のデジタル戦略と組織体制、セキュリティにかかわる法律および規則とその動向などについて最新情報を解説します。
2022-07-04
今日の社会はVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べた「VUCA」という言葉で説明されることがあります。もともと軍事用語だったこの言葉は「複雑な仕組みにも関わらず、常に変化していて捉えどころがない」「先行きが不透明で、将来の予測が難しい」ということを意味しています。
VUCAはコンピュータとインターネットを中心とするデジタルテクノロジーの普及と発展によってもたらされました。デジタルテクノロジーは、人々の時間的・空間的な解像度を高め、常に変化する情報やデータに対する捉え方のバリエーションを増やしてきました。人々が同じ物事を異なるバリエーションで認知し、また理解するようになったことで、社会は異なる価値観を許容するようになりました。そして、多種多様な価値観が許容されることがミクロなトレンドとなり、VUCAの特徴である「捉えどころがない」状況を生み出しています。
このような多種多様な認知と理解により、価値観が異なることが当たり前となった現代社会においては、それまで通用していたノウハウやナレッジが通用しなくなってきています。したがって、これからのビジネス開発には、デジタルテクノロジーを前提とした物事の捉え方、考え方が重要になります。本コラムでは、デジタルテクノロジーによるインパクトと、社会の変化を考察するとともに、求められる価値観とそれに適応できるビジネス開発の方法論を紹介します。
テクノロジーの進化はとても早く、20世紀以降、新しいテクノロジーが次々と登場しました。中でも、デジタルテクノロジーは1960年代から始まるコンピュータの発展と普及、そして1990年代から始まるインターネットの発展と普及を経て、今日の社会基盤を形成する重要な地位を確立しています。
コンピュータもインターネットも30年前までは研究者をはじめ、ごく一部の人が使うものでした。しかし、現代社会ではほとんど全ての人がスマートフォンを持ち歩き、多くの時間をスマートフォン上で費やしています。家庭にあるテレビや冷蔵庫のような白物家電にもコンピュータが搭載され、インターネットに接続できる製品も珍しくなくなりました。さらに、AIスピーカーのように声だけで操作できる新しいタイプのコンピュータも登場し、広く普及しています。インターネットに接続できる環境も、かつてのケーブル接続から、無線によるワイヤレスが主流となり、自動車や電車のような乗り物にもインターネットへのアクセス環境が整備されるようになりました。
この30年を振り返ると、デジタルテクノロジーの進化は驚異的です。私たちの生活には、デジタルテクノロジーを活用した新しい製品やサービスが次々と登場し、そして消えていきました。例えば、音楽を楽しむ際には、かつてはレコードやCDのように、音楽が記録された物理メディアを専用のプレイヤーで再生していました。しかしCDに記録されている音楽のデジタルデータがインターネットを介して容易にやりとりできる環境が整うと、人々は音楽のデジタルデータそのものを購入し、音楽を楽しむようになりました。たった30年間で、レコードから、CD、MD、デジタルミュージックプレイヤーへと、音楽を楽しむ道具とそれを支えるテクノロジーやサービスは大きく変化しました。しかし、人々が音楽と楽しむという行為は変化していません。
このように、テクノロジーの進化は時として破壊的で、かつて当たり前だった生活スタイルやマーケットの構造を大きく変化させます。テクノロジーが価値をデリバリするための道具であるなら、私たちはビジネス開発に際して、テクノロジーの進化によって製品やサービスの形態や方法が容易に入れ替わることを認識しなければなりません。なぜなら、私たちはそのことを実体験として持っているからです。
したがって、デジタルテクノロジーを活用したビジネス開発を進めるにあたっては、テクノロジーの進化によって「変わる部分」と、音楽のような本質的に「変わらない部分」を、具体と抽象の思考を繰り返すことで明らかにするとともに、テクノロジーの進化に対応できるスピード感がますます不可欠になっていくと考えられます。
進化が早いデジタルテクノロジーを活用したビジネス開発では、これまでのように用意周到な計画に基づいていては、他社に先駆けて社会実装できず、むしろ後れを取る可能性すらあります。また、ビジネス開発のスタートを早めるために、発展途上のテクノロジーをいわば青田買いするケースも増えてきましたが、テクノロジー自身の確度の低さから、当初の計画と乖離したり、統一感が保てなかったりするケースも少なくありません。
そのため、アジャイル開発やリーンスタートアップのような、できるだけ短い期間で、プロダクトとして体感できる、最小限だけど完全なものを開発する方法論が用いられるようになっています。例えば、リーンスタートアップでは、「MVP(Minimum Viable Product)」のように、ユーザーに必要最小限の価値を提供できるプロダクトから開発していき、短時間にフィードバックと改変を繰り返しながらマーケットとのマッチングを図るという手法があります。もともとはソフトウェア開発の現場で用いられた方法ですが、現在ではサービス開発やソフトウェア以外のプロダクトにも応用されています。
特にこれらの方法論は、「手触り感」のあるモノや「具体的な体験イメージ」を伴う点でデジタルテクノロジーを活用したビジネス開発に有効であると考えられます。
PwCコンサルティング合同会社の「Technology Laboratory」は、「手触り感」と「具体的な体験イメージ」にこだわり、その実現に注力することで、多くの人が体感して理解することを大切に考えています。なぜなら、体感による理解が、多くの創造を生み出すからです。
その身近な例はスマートフォンです。スマートフォンは、私たちの生活に大きな変化をもたらしました。当時、初めてスマートフォンを見た人たちの一部は、「あんなに小さな画面で入力ボタンもないのに、パソコンと同じようなことができたとしても、使えるとは思えない」と酷評していました。しかし、実際に手に取ると、その評価はガラリと変わりました。結果的に、スマートフォンはそれまでの携帯電話とは異なる直感的な操作性、画面の豊かな表現力、その能力を活かしたアプリケーション(アプリ)により、それまでなかった新しい体験イメージが広く認知され、急激にそのシェアを伸ばしました。今日では家庭普及率が90%を超えるに至っています。
「手触り感」と「具体的な体験イメージ」を伴ないながら、最小限の価値を提供できるプロダクトを短期間で開発するのが「0→1」(ゼロから物事を生み出すこと)だとすると、その次の段階は「1→10」(生み出したものをさらに大きく成長させること)になります。物事には「生みの苦しみ」があることから、これらは2つの段階に分けて考えられがちですが、ビジネス開発においてはそこに連続性が求められます。
一般的に、ビジネス開発に際してはユースケースを想定し、検討を進めるケースが多々見られます。ユースケースを想定すると、不必要な選択肢を検討対象から除外することができるため、特定の場面や用途を深堀りすることができます。しかし、「1→10」のスケールアップ、スケールアウトの段階では、より広いビジネスニーズとのマッチングが求められるため、特定のケースを想定するのではなく、発想を広げることが必要となります。
PwCは、ユースケースをスピード感持って広げていく方法として、以下の4つの評価軸を当初から想定することで、「0→1」の段階から「1→10」の段階に一貫性を保った状態で無理なく遷移していくことを提案しています。
私たちが21世紀初頭に経験した携帯電話からスマートフォンへのパラダイムシフトは、多種多様な価値観を許容する不確実性に溢れる社会には「本質的に変わらないもの」と「テクノロジーの進化により変わるもの」の双方があることを示しています。また同時に、その変化のサイクルは非常に早いことも裏付けています。一方で、人々の多種多様な認知と理解に対しては、「手触り感」とその「具体的な体験イメージ」が人々の関心を強化し、理解を深め、そして新たな創造へと導くということを示しています。
「Technology Laboratory」は、このレッスンに基づき、よりプリミティブで素早いプロトタイピングと、そのユースケースを広げる評価軸を同時に掲げ、ビジネス開発の方法論を探求していきます。この方法論は、素早い展開とピボットが可能なデジタルテクノロジーならではの「未来を作り出す方法」と言えそうです。
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