VUCA時代のビジネス開発と4つの評価軸

2022-07-04

ビジネス開発に求められるスピード感とライフサイクル

進化が早いデジタルテクノロジーを活用したビジネス開発では、これまでのように用意周到な計画に基づいていては、他社に先駆けて社会実装できず、むしろ後れを取る可能性すらあります。また、ビジネス開発のスタートを早めるために、発展途上のテクノロジーをいわば青田買いするケースも増えてきましたが、テクノロジー自身の確度の低さから、当初の計画と乖離したり、統一感が保てなかったりするケースも少なくありません。

そのため、アジャイル開発やリーンスタートアップのような、できるだけ短い期間で、プロダクトとして体感できる、最小限だけど完全なものを開発する方法論が用いられるようになっています。例えば、リーンスタートアップでは、「MVP(Minimum Viable Product)」のように、ユーザーに必要最小限の価値を提供できるプロダクトから開発していき、短時間にフィードバックと改変を繰り返しながらマーケットとのマッチングを図るという手法があります。もともとはソフトウェア開発の現場で用いられた方法ですが、現在ではサービス開発やソフトウェア以外のプロダクトにも応用されています。

特にこれらの方法論は、「手触り感」のあるモノや「具体的な体験イメージ」を伴う点でデジタルテクノロジーを活用したビジネス開発に有効であると考えられます。

「0→1」と「1→10」を分けずに考えるための4つの評価軸

「手触り感」と「具体的な体験イメージ」を伴ないながら、最小限の価値を提供できるプロダクトを短期間で開発するのが「0→1」(ゼロから物事を生み出すこと)だとすると、その次の段階は「1→10」(生み出したものをさらに大きく成長させること)になります。物事には「生みの苦しみ」があることから、これらは2つの段階に分けて考えられがちですが、ビジネス開発においてはそこに連続性が求められます。

一般的に、ビジネス開発に際してはユースケースを想定し、検討を進めるケースが多々見られます。ユースケースを想定すると、不必要な選択肢を検討対象から除外することができるため、特定の場面や用途を深堀りすることができます。しかし、「1→10」のスケールアップ、スケールアウトの段階では、より広いビジネスニーズとのマッチングが求められるため、特定のケースを想定するのではなく、発想を広げることが必要となります。

PwCは、ユースケースをスピード感持って広げていく方法として、以下の4つの評価軸を当初から想定することで、「0→1」の段階から「1→10」の段階に一貫性を保った状態で無理なく遷移していくことを提案しています。

  • スケール
    ビジネス展開を考えると、いくつものニーズを拾える規模の大きなゴールを設定したくなるものです。しかし、最初から大きな規模を想定して進めると、スピード感を持った展開が難しくなります。私たちは、最初に達成すべきビジネスニーズと、その後徐々に対応を広げるビジネスニーズをあらかじめ整理し、MVPのように規模の小さいプロダクトからスタートします。そして徐々に複数のビジネスニーズへの対応を広げるステップを組み込むことで、最終的に達成したい規模感を常に捉えつつ、短時間のうちにプロトタイピングを達成できます。
  • 組み合わせ
    既存の商材やサービスとのシナジーは大切なビジネスの要素の1つです。一方で、物事を組み合わせることは複雑性を増すことにつながるため、その組み合わせは慎重に選ばなければなりません。そこで、「将来、何かを組み合わせることを想定した枠組み」を逆算的に考え、全体像の中のどの部分が可変であるかを明確にすることで、スピード感あるプロトタイピングとシナジーを両立できます。
  • 計算量
    デジタルテクノロジーで必ず問題になるのはコンピューティングリソースの確保とその配置です。コンピューティングリソースは、何をコンピュータに任せるかによって変わりますが、これは計算量の問題と捉えることができます。計算量は先に挙げた「スケール」「組み合わせ」に影響される要素でもあります。プロトタイピングではシンプルさを追求するとともに、スケールや組み合わせが指数関数的な増え方をしないよう配慮することで、計算量がボトルネックとならない形で実現可能性を確かめることができます。
  • コスト
    デジタルテクノロジーを活用するにあたっては、「限界コスト0」がしばしば論点となります。ビジネスを広げる上で、そこにかかるコストをいかに低減させ、安定させられるかをKPIとして考えることで、実現可能性を広げることができます。

未来を「予測」し引き寄せる方法

私たちが21世紀初頭に経験した携帯電話からスマートフォンへのパラダイムシフトは、多種多様な価値観を許容する不確実性に溢れる社会には「本質的に変わらないもの」と「テクノロジーの進化により変わるもの」の双方があることを示しています。また同時に、その変化のサイクルは非常に早いことも裏付けています。一方で、人々の多種多様な認知と理解に対しては、「手触り感」とその「具体的な体験イメージ」が人々の関心を強化し、理解を深め、そして新たな創造へと導くということを示しています。

「Technology Laboratory」は、このレッスンに基づき、よりプリミティブで素早いプロトタイピングと、そのユースケースを広げる評価軸を同時に掲げ、ビジネス開発の方法論を探求していきます。この方法論は、素早い展開とピボットが可能なデジタルテクノロジーならではの「未来を作り出す方法」と言えそうです。

主要メンバー

三治 信一朗

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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南 政樹

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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