若手社員とエキスパートがテクノロジーについて語る

テクノロジー活用を促進するためのデジタルガバナンス/デジタル戦略の重要性

  • 2024-10-07

企業がデジタルガバナンスを推進するためのポイントとは

五十嵐:
デジタルガバナンスを遂行する上で重要な要素についてはどう考えますか。企業が注力すべきポイントについて教えてください。

本田:
米情報システムコントロール協会(ISACA)とITガバナンス協会(ITGI)は、デジタルガバナンスの成熟度を測るフレームワーク「COBIT」を提唱しています。

そのCOBITでは、EDMサイクル(評価:Evaluate、方向付け:Direct、モニタリング:Monitoring)をしっかり回していくことを、デジタルガバナンスの重要な要素に位置づけています。言い換えれば、IT・デジタル関連の活動をしっかり評価しながら、事業戦略の方向性に沿って実行に移すサイクルを繰り返していくことが重要であるという指摘です。

なおEDMサイクルはまず評価から入るのですが、私としては先に方向づけの部分で戦略をしっかり示し、それに沿った形で活動ができているかモニタリングし、評価する順で仕組みを確立させてくことが重要であると考えています。

EDMサイクルを回すための機構や枠組みづくりという大前提が完了した後、デジタルガバナンスを進める段階では、組織の戦略や事業戦略の実現に資するデジタル戦略を策定することに注力すべきでしょう。

その際、単に既存のITサービスの延長ではなく、組織が目指す姿を実現するためのデジタル戦略や、事業に貢献し得る最新デジタルテクノロジーの活用方法を提言することが求められます。さらに、その提言を実効性のある形で実現できる計画にまで落とし込むことも重要なポイントです。

なお、デジタル戦略を策定する際にテクノロジーに固執しすぎると、ツールやシステムを導入することが目的となってしまい、事業とのシナジーは得られにくくなります。逆に提言が事業の方向性と合致していれば、デジタル戦略もおのずと良いものになるでしょう。

五十嵐:
システム導入そのものが目的となってしまい、実現したかった経営戦略がおざなりになるという状況はよく見聞きします。戦略と方向性をマッチさせることがなにより重要であるという指摘は、私自身も改めて意識していきたいと思いました。

次にデジタルガバナンスを推進する際に、企業担当者や意思決定者が意識すべき点について見解があれば教えてください。

本田:
冒頭の定義の話に戻りますが、デジタルガバナンスは問題が起こらないようにするためのルール整備であると同時に、より本質的にはデジタルの力を組織に活かしていくための仕組みづくりです。言葉のイメージに流されず、その本質を理解するだけでも、デジタルガバナンス推進の成果は大きく変わるはずです。

五十嵐:
デジタルガバナンスを推進するためには、その重要性を企業経営層だけでなく従業員やユーザーにも理解してもらう必要があると思います。そのためには、どのような取り組みが有効でしょうか。

本田:
戦略を描くだけでなく、しっかりと計画・実行に落とし込み、システムの効果を事業に対して責任を持って提供していく取り組みが必要でしょう。特に従業員やグループ会社がメリットを早期に享受できるクイックウィンな施策を段階ごとに定義・実行することは、とても有効な取り組みだと思います。短い単位で刈り取れる成果を提供していくことで、戦略に沿った活動を実行することの意義を感じてもらいやすくなるからです。

なおその際、必ずしもガバナンスの重要性を重ねて訴える必要はないと思います。むしろ、戦略と実行・モニタリング・評価・戦略のアップデートというEDMサイクルを着実に回しながら、統治されたデジタルテクノロジーの活用環境をつくることを意識していくべきです。

五十嵐:
人材に対する意見も聞かせてください。生成AIをはじめ、昨今ではデジタルサービスやツールの発展は目まぐるしいものがあります。デジタルガバナンスを推進する人材は、それらデジタル技術への理解が深い人がより好ましいのでしょうか。

本田:
たしかにデジタルツールや最新技術の動向を深く理解している人材がいるに越したことはないでしょう。自身でツールを活用した経験が豊富で実装面にも詳しければ、具体性を持った実行計画を練ることができるからです。

一方、評価などの観点では、ツールを導入したことではなく、その先にある事業にどういう価値やメリットをもたらしたのか、あるいはユーザーにどのような効果が得られたのかを検証しなければなりません。その際には、事業そのものや従業員が行っている活動や業務内容をしっかり理解していることが重要になります。つまり、ビジネスに対する知見が不可欠です。

デジタルガバナンスを推進するプロジェクトにおいては、少なくともリーダーのポジションにいる人材は、ビジネスとテクノロジーの両面を理解していることが望ましいでしょう。

PwCコンサルティング合同会社 Technology & Digital Consulting アソシエイト 五十嵐 ゆうま

PwCコンサルティング合同会社 Technology & Digital Consulting アソシエイト 五十嵐 ゆうま

デジタルガバナンス支援におけるPwCの強みと展望

五十嵐:
本田さんはデジタルガバナンス支援におけるPwCの強みをどのように捉えていますか。

本田:
ITの組織は単体で存在しているわけではなく、デジタルガバナンスも事業の形や組織全体のガバナンスのなかで成立しています。そのため、テクノロジーだけ分かっていても、良いデジタルガバナンスを構築することはできません。前提として組織の規程・ルールを読み解き、現在のポリシーや組織全体のガバナンスを理解することが必要となりますし、特に攻める部分に関してはビジネスや事業の戦略とのアラインが重要です。

PwCにはテクノロジーのみならず、ビジネスやコーポレートガバナンスを支援するチームが複数あります。それらチームの知見を掛け合わせて、全方位的にデジタルガバナンス推進を支援できることがなによりの強みではないでしょうか。

五十嵐:
デジタルガバナンス分野でキャリアを築きたい人材に向けて、本田さんの立場からアドバイスをお願いします。

本田:
まずデジタル技術やデジタルの本質に興味を持つことは、デジタルガバナンス分野でキャリアを築いていくためにとても重要だと思います。そして、デジタルガバナンスは単純なサイクルではあるものの、デジタル技術以外にも関連する要素がたくさんあります。クライアントが抱える課題の原因を発見・解釈・解決していくというスタンスに立ち、各要素の関連づけや分析をしっかり行う能力が求められます。

経験しないと身につかない能力も多いとは思いますが、好奇心と興味を持って考察するスタンスや能力を磨いて欲しいと思います。

五十嵐:
最後にデジタルガバナンスの推進・強化を支援していくにあたり、PwCコンサルティングやチームの展望について聞かせてください。

本田:
デジタルガバナンスはテクノロジーを活用するために不可欠であり、その強化は組織が成長していくためのドライバーになります。TDCは、クライアントのデジタルガバナンスを推進・強化するために必要なケイパビリティを豊富に有しています。

テクノロジーを活用して事業や組織をより良くしていくことがデジタルガバナンスの本質。クライアントのCIOやCDOとより良いデジタルガバナンスについて一緒に構想しながら、実行面でも支援していける存在・組織を目指していきたいです。

五十嵐:
デジタルガバナンスの本質に始まり、その具体的な推進に関わる話はとても参考になりました。本日はありがとうございました。

(左から)五十嵐 ゆうま、本田 弦

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主要メンバー

本田 弦

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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五十嵐 有真

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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