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2021-07-27
クラウドの利活用は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する重要なテコになりますが、一般のビジネスユーザーにとっては複雑で、なかなかイメージしにくいのではないでしょうか。そこで本稿ではPwCコンサルティング入社3年目の山田亜依が、同社でクラウドトランスフォーメーションのリーダーを務める中山裕之にDXを支えるクラウドの実態や本質的な価値についてインタビューを行いました。
登場者
PwCコンサルティング合同会社
パートナー
クラウドトランスフォーメーション リーダー
中山 裕之
PwCコンサルティング合同会社
テクノロジーコンサルティング アソシエイト
山田 亜依
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(左から)山田 亜依、中山裕之
山田:最初に基本的なことから教えてください。私は「クラウド」を「ITインフラの1つ」と捉えているのですが、この認識は合っていますか。
中山:実は私も数年前までは、「クラウドは、単なるサーバのレンタルで、ITインフラの1つ」だと思っていました。ところが、その本質を見ていくと、その認識が誤っていることに気づかされました。
山田:クラウドに対する認識が改まったのは、どのようなきっかけだったのでしょうか。
中山:クラウドの歴史を深堀りしてみたことがそのきっかけです。多くのスタートアップ企業がクラウドを活用し、かつてないスピードでビジネスを成長させ、ユニコーンと呼ばれるデジタルジャイアントへと飛躍していきました。クラウドは、インターネットにさえ接続していれば、必要なときに、必要な場所で、必要なITリソースの調達を可能にします。つまりは、起業して間もない企業であっても、ビジネスチャンスと見れば短期間で世界中にビジネスを展開できるようになります。また、データやCPUの使用量に応じた課金モデルが基本となっているので、大規模投資も不要です。ビジネスが成功した場合にはその成功度合いに応じて費用が発生しますが、期待通りにビジネスが行かなかった場合にはコストは最小限で済むのです。
要するに、従来のように自社内で物理的なITを調達していた時代に比べると、その概念は180度異なり、ITの俊敏性と弾力性が高まることが重要なポイントとなります。
山田:なるほど。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延で多くの企業は、さまざまな対応を余儀なくされました。その中で私が感じたのは、成長スピードが加速した企業と、失速した企業の二極化です。中でも日本は失速している企業が多いと感じました。こうした二極化に、クラウドは関係していますか。
中山:大いに関係していると思います。前述したようにクラウドが提供する最大の価値の1つは「俊敏性」です。コロナ禍で私たちの生活様式は激変しました。先を予測することはとても難しく、不確実性が高まっています。COVID-19の世界的拡大以前と比較して、家にいる時間は格段に増えましたよね。こうした変化をいち早く捉えて素早く対応するには、従来型のシステムや組織体制では難しいのです。
例えば、コロナ禍ではオンラインストアの需要が高まりました。しかし、その中には、急増したお客さまのアクセスに対応できず、システムがストップしてしまい、千載一遇のビジネスチャンスを逸してしまった企業もあったのではないでしょうか。一方で、世界中からアクセスが集中しても、びくともしなかったWebサイトもありました。こうしたWebサイトはクラウドを活用し、需要に応じて柔軟にシステムを拡張できる基盤を事前に構築していたのです。不確実性が広がっている今、世の中の動きに対してどれだけ俊敏に対応できるかは、重要な経営課題の1つと言えるでしょう。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー クラウドトランスフォーメーション リーダー 中山裕之
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング アソシエイト 山田 亜依
山田:eコマースやWebサービスを提供する企業が、クラウドの利活用により俊敏性を得られることは理解できました。では、そうしたサービスを提供していない企業は、クラウドの利活用によってどのようなメリットを享受できるのでしょうか。
中山:身近な例で考えてみましょう。自宅をリフォームしようとして、ちょっとした壁紙の貼り換えや棚を取り付けたいと思った時に、可能であればホームセンターで材料を購入し、自分で作業したほうが早いし安いですよね。わざわざ業者を呼んで、見積もりをもらって、予算の交渉をして作業してもらっていたら、時間もお金もかかってしまいます。
ITシステムでも同様です。例えば、コールセンターを立ち上げる場合、従来であれば機器の調達だけで数週間が必要でしたが、クラウドを利用すれば電話番号の取得から基本的な設定まで、数時間で完了します。ただし、社内にクラウドを活用できる人材が存在していることが前提となります。なぜなら、先ほどのリフォームのように、外部業者に委託せざるを得ない状況では、見積もりや確認作業が必要となり、もし社内にクラウドを活用できる人材がいなければせっかくのクラウドの俊敏性を享受できなくなるからです。
デジタル領域で大きな成長している企業は、例外なくクラウドを適切に活用できる人材を社内に擁しています。そういった人々が必要に応じて、必要なシステムを調達し、自ら構築することによって市場の変化に迅速に対応しているのです。クラウドを使いこなしている企業は、ITのDIY(Do It Yourself)を実践しており、それに対応できる体制を構築しているのです。
山田:よく理解できました。
中山:クラウドが提供する可能性はまだまだあります。例えば、ある課題をITで解決するにあたり、4つの案が出てきたとします。従来のやり方ではコストの問題もあり、1つの案に絞ってからプロジェクトを開始せざるを得ませんでした。しかし、クラウドは「使った分だけ料金を支払えばいい」ので、クラウドを用いて4案すべてを試し、成功の可能性がもっとも高そうなものを後から選択するというアプローチも可能になるのです。クラウド上に試作の開発環境を構築するコストは、従来のように物理的にサーバを購買することと比較すると、そのコストは桁違いに安く済みます。ですから試行錯誤を繰り返し、そこから成功しそうなものを見つけ出すというアプローチができます。乱暴に言えば、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」の心意気でチャレンジできる時代が到来しているのです。
山田:短期間で、しかも低コストでさまざまな実験を繰り返すことで、新たなサービスを提供し、またそこで成功したものをどんどんスケールしていく。これを実現可能にしているのがクラウドなのですね。
中山:そうですね。各クラウドベンダーは毎年数千という新しい機能をリリースしています。その中に、ブロックチェーン、IoT、AIは当然のように含まれ、最近では5G(第5世代移動通信システム)や量子コンピューティングなどのサービスも提供され始めています。このような最新技術を「ちょっと試してみる」ことが可能なのもクラウドの大きな特徴の1つと言えます。
山田:今後は市場の変化に応じて、臨機応変にIT投資をしていくことが大切であることがよく分かりました。では、クラウドを活用して俊敏性と弾力性を有するITシステムを構築するには、どうすればよいのでしょうか。
中山:まず大事なのは自社のITシステムを、「自社でコントロールできるようにする」ことです。というのも、歴史的に振り返ってみると、長引く不況の影響もあり、1990年代後半から多くの企業がITベンダーに自社システムの開発と運用を委託しました。その結果として、「自社のITシステムが、ビジネスをどのように支えているのかを理解している人材が外部ベンダーに集中する」という弊害が生まれました。このような状況では、ビジネスサイドから「デジタルを活用してこんなことをやってみたい」という相談を受けても、すぐに対応することが難しくなってしまいます。
一方、俊敏性のあるスタートアップ企業には、ビジネス部門の中にエンジニアが必ずいます。そして現場のアイデアや「ちょっと試したい」という要求に対して迅速に対応してくれます。つまり、ビジネス人材とIT人材が一体になって、新しいアイデアを具現化しているのです。クラウドをより効果的に活用するには、このような体制が必要になります。
山田:デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が指摘される中、クラウドは「企業変革の重要なツール」になっているのですね。
中山:クラウドだけでDXが実現できるとは思っていませんが、クラウドはDXを実現するための「必要条件」だと考えます。DXとは業務を単にデジタル化したり、デジタル技術を使って新規サービスをリリースすることだけではなく、市場の変化に迅速に対応し、必要な業務施策をテクノロジーで実現し、そのスピードを限界まで高めることが本質ではないでしょうか。そのためにはクラウドを活用すること、自社で自社のシステムをコントロールしていることが重要な要素であると考えます。
(左から)山田 亜依、中山裕之
山田:クラウド利活用の重要性はよく理解できました。最後にPwCが提供するクラウドサービスについて教えてください。PwCはクラウドに関するコンサルティングサービスを提供しています。ただし、PwCは「クラウドを提供するベンダー(供給元)」ではありませんよね。PwCが提供するクラウドサービスと、クラウドベンダーが提供するクラウドサービスとでは何が異なるのでしょうか。
中山:PwCはコンサルティング業務が「核」であり、「クラウドベンダー」ではありません。一方、クラウドベンダーも、「コンサルティングサービス」を提供しています。ですからクライアントから見れば、両社が提供するサービスの違いはあいまいかもしれませんね。
基本的にクラウドベンダーが提供するコンサルティングサービスは、自社製品に特化したコンサルティングサービスとなります。先述したとおり、現在のクラウドにはさまざまな新技術が備わっています。ですから、彼らはこうした技術を利用するための支援や、オンプレミス環境からクラウド環境に移行する際の技術的なコンサルティングを主に提供しています。
一方、PwCはそういった技術的な支援に加え、企業全体の業務プロセスや人材配置、組織体制の構築にいたるまで、ビジネス全体の変革を包括的に支援できます。例えば、現状の組織体系でいいのか、今後どのようなスキルを有する人材が必要になるか、ITのコントロールを取り戻すためにどのようなステップを踏むべきかなど、クライアントに寄り添って検討します。その主眼はあくまでも「顧客企業の収益拡大と業務合理化の促進」です。
PwCでは「クラウドトランスフォーメーション」というサービスを提供しています。サービス名に「トランスフォーメーション」と付けている理由は、同サービスの主体が「企業の変革」であることを明確にしたかったからです。
山田:なるほど。「クラウド活用を支援する」のではなく、「クラウド活用を通じて顧客のビジネス価値最大化を支援する」ことがPwCのミッションなのですね。
中山:そうですね。DX実現に向けては、ビジネスとITが表裏一体となって取り組む必要があります。PwCでは、ビジネスにもITにも精通したコンサルタントが多く在籍しています。これらのコンサルタントは、クライアントの課題を見極め、目指すべきゴールを設定します。そして、その変革を実現すべく、クライアントに伴走しながらプロジェクトを遂行しています。同時に、クライアントに伴走しながらも、彼らが自走できるように支援することも重要だと考えています。
山田:「自走できるように支援する」とは具体的にどのようなアプローチですか。
中山:PwCが目指すのは「クライアントのビジネス価値最大化」です。そのためには、クライアントが自らの変革に継続的に取り組まなければなりません。例えば、クラウドを導入するにしても、PwCが最初は支援するとしても、最終的には私たちコンサルタントがいなくてもクライアント自らが変革を実行できるような状況を作り出するのが究極のゴールだと考えています。
山田:最終的にはクライアントが自走し続けられるように、PwCが伴走してそのノウハウを提供するのですね。
中山:クラウド活用には「プロセス・組織・人材・IT」の4本柱が不可欠です。また、これらの課題を一度に解決しようとしても無理が生じます。ですから、何から取り組むべきかの優先順位を付け、着実に歩みを進めることが重要です。
こうした支援は、クライアントのビジネスを熟知していないとできません。これがPwCの優位性であり、ITベンダーのコンサルティングサービスにはない付加価値だと自負しています。