{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2022-03-01
デジタル技術やクラウドを活用し、ビジネスモデルや業務プロセスを変革する――。今、日本企業にとってデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は待ったなしの状況と言えます。しかし、いざDXを進めようにも何から取り組むべきかわからず、「デジタルサービスに投資したものの、業務効率が上がらない」「アジャイル開発に取り組みたいが、マネジメント層が難色を示している」「経営層からはDX推進の号令がかかるが、現場は混乱している」といった戸惑いの声もしばしば耳にします。では、DXを成功させ、競争力を高めるにはどのようなアプローチが必要なのでしょうか。本稿では「DXをどのように捉えるべきか」と悩むPwCコンサルティング入社3年目の髙澤良輔が、IT業界歴25年超でPwCコンサルティングにおいてクライアントのDX支援をリードする鈴木直に話を聞きました。
登場者
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
鈴木 直
PwCコンサルティング合同会社
シニアアソシエイト
髙澤 良輔
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(左から)鈴木 直、髙澤 良輔
髙澤:現在、多くの国内企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいます。ただ、その内容は人工知能(AI)を活用した品質検査の自動化といったものから、ペーパーレス化まで幅広い印象を受けます。最初に基本的な質問ですが、そもそもDXというものをどのように捉えればよいのでしょうか。
鈴木:DXはどうしても“D”、つまり「Digital」の方に目が行き、ややもすればツールの議論に終始しがちです。しかし、DXでより重要なのは“X”が示すところの「Transformation(変革)」です。
AIを活用した品質検査の自動化やペーパーレス化は、DXの結果として生まれたプロダクトやサービスの1つにすぎません。大事なのは、こうしたプロダクトやサービスを継続的に生み出していく「仕組み(メカニズム)」を企業の中に構築することです。つまり、DXとは、「デジタル技術による企業変革(corporate transformation with digital technology)」でなければならず、「デジタル技術を駆使しながら企業の新しいオペレーティングシステムを作り上げていくこと」が重要なのです。
髙澤:DX本来の目的は企業変革なのですね。では、どのようなアプローチでDXを推進すべきでしょうか。
鈴木:DXには「構造の変革」と「振る舞いの変革」という2つの観点があります。
構造の変革とは、企業組織や組織構造のあり方を見直すものです。具体的な例として、組織を小規模な「サービスチーム」に再編し、各サービスチームの責務を明確にして権限を付与するというものが挙げられます。
髙澤:小規模なサービスチームとは、具体的にどのようなものでしょうか。
鈴木:サービスチームとは、顧客に提供しているサービスやプロダクト単位で編成したチームを指します。従来のIT組織はインフラやアプリケーション、もしくは開発や運用など機能単位で組織編成することが一般的でした。このような組織体制は、比較的大規模な開発に対して効率的であった反面、意思決定の分断や組織間のコミュニケーションの壁があり、ビジネスからの要求に対して俊敏性と柔軟性に欠ける部分もありました。
そのような課題を解決するために、利用者への提供価値、つまりサービスやプロダクトを基準に小さなサービスチームを編成し、複数のロールからなるメンバーで企画から開発、運用までを担います。ちなみに、1つのチームは5〜8人程度の規模を想定しています。
髙澤:ビジネスの状況変化に柔軟かつ迅速に対応するには、組織構造自体を変革する必要があるのですね。
鈴木:小規模なチームで企画から運用までを担う点に加え、サービスチームが持つ責務と権限およびコミュニケーションのインターフェースを明確にし、広く公開するという点が重要な要素となります。これにより、ビジネス活動の大半を占めるコミュニケーションコストを大幅に削減することができます。どのチームがどの責務と権限を有しているのかが明確であり、かつ公開されていれば、効率的なコミュニケーションが可能となるからです。逆にこれらが曖昧だと情報は断片化し、調整に時間を有して意思決定のスピードは遅くなります。また、責務と権限が曖昧になってしまうと、「自分がやらなくても誰かがやるだろう」という意識が蔓延し、自律的に行動できる人材が育ちづらくなります。
こうしたアプローチは昨今、システムのアーキテクチャがモノリシックからマイクロサービスに移行しつつある状況と似ていると考えています。変化に柔軟かつ迅速に対応するためにマイクロサービスという概念が生まれ普及してきましたが、組織も同様にビジネスの状況変化に迅速に対応するため、マイクロサービスのように明確な責務とコミュニケーションインターフェースを持つ小規模のチームが自律的に動き、ビジネスを行うことが求められています。
髙澤:「構造の変革」について理解できました。では、もう1つの「振る舞いの変革」とは何を指すのでしょうか。
鈴木:振る舞いの変革とは、ビジネス活動全般を「アジャイルな状態(be agile)」にすることです。アジャイルの対象は、システム開発だけを指すものではありません。まず実践して、現状を把握する。そしてよりよい解決策を探り、また実践する。それを短期間で繰り返せているのがアジャイルな状態といえますが、これを開発だけでなく、ビジネス活動全般に適応していくべきだと考えています。
そのために大切なのが、情報と状態の徹底的な可視化です。さまざまな情報と状態を共有し、可視化することでコミュニケーションコストを抑制し、企業の活動スピードを上げていくのです。また、共有された情報と状態をもとに行動することで判断ミスを減少させることも可能です。加えて、意図的に情報を出し惜しみして“情報格差”を作りだし、社内政治にたけようとする無用な行動を抑えることもできます。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 鈴木 直
髙澤:「構造の変革」と「振る舞いの変革」を実現するために、PwCではどのような支援を実施しているのでしょうか。
鈴木:「クラウドトランスフォーメーション(Cloud Transformation)」というソリューションを提供しています。
タイトルに“クラウド”と入っているので特定のクラウドサービスやSaaS(Software as a Service)の導入に関するソリューションをイメージするかもしれません。ただ、クラウドトランスフォーメーションではクラウドを「最新技術やそれに関連する考え方や手法」と位置づけており、クラウドに移行したり、それを活用したりすることが目的ではなく、クラウド(最新技術やそれに関連する考え方)を活用して企業をトランスフォームすることに主眼を置いたソリューションです。また、トランスフォームする対象は、ITインフラやアプリケーションなどの技術領域だけでなく、業務プロセスや組織体制など、ビジネスのあり方全体を包含しています。
髙澤:「クラウドトランスフォーメーション」の具体的な内容を教えてください。
鈴木:冒頭、髙澤さんが指摘した通り、DXの取り組みは、AIを活用した検査など、何を実施するかという「What」=「やること」を変える議論が多くなっています。もちろんそれは大事ですが、「How」=「やり方」を変える議論も重要です。そうした観点からクラウドトランスフォーメーションでは「How」の部分に重点を置き、アジャイル開発の導入や業務部門とIT部門の融合促進、内部エンジニアの育成と開発の内製化、最新技術の徹底活用とそれによるITモダナイゼーションなどを支援します。これは、「やり方を変え、新たなメカニズム・文化を創っていく」ことにフォーカスしたソリューションです。
髙澤:とはいえ、「やり方を変え、新たなメカニズム・文化を創っていく」ことは簡単ではないと思うのですが…。
鈴木:その通りです。これらをやりましょうといっても、「仮説検証型の進め方は、マネジメント層の理解が得られない」「アジャイル開発はスケジュールの見通しが難しく予算をどう確保すればいいのかわからない」「既存の業務があるのに追加で新しい取り組みをするワークロードが割けない」など、実際の現場ではさまざまな壁に阻まれます。
こういった状況を一発で解決する特効薬はありません。企業ごとに文化や環境、成熟度は異なります。だからこそ、小規模でもいいので実践し、その企業ならではの進め方を探すことが重要なのです。成功体験と失敗体験を繰り返しながら改善点を把握し、次につなげていくのです。
髙澤:クラウドトランスフォーメーションは、「まずは小規模でやってみよう」というクライアントを包括的に支援するのですね。
鈴木:クラウドトランスフォーメーションのアプローチは、クライアント企業とともに特定の領域を定め、段階的に変革を促していきます。同時にそれを行ううえで必要なベーススキル獲得を目的としたワークショップも実施します。特定領域で成功体験を積み上げ、その対象を広げていく中で、クライアントの環境に応じたオペレーティングモデルを段階的に構築していくのです。
髙澤:変革する領域は、アプリケーション開発が対象ですか。
鈴木:主なものとして2つ紹介します。1つはクラウドトランスフォーメーションのサブメニューである「クラウドパワードイノベーション(Cloud-Powered Innovation)」の支援内容になります。これはクライアントが自社で検討している、もしくは取り組んでいるプロダクトやサービスに対して、アジャイル開発スタイル、具体的にはスクラムでの開発を体験してもらいながら、プロダクト企画からプロダクト開発までを実践します。一方で、クライアントからはプロダクトやサービスを統括するプロダクトオーナーを選出してもらいます。そして、スキルトランスファーができるようスクラムマスター見習いや開発チームのメンバーとして開発に参画してもらい、最終的にはクライアントが自律的にスクラム開発できるように進めていきます。
髙澤:PwCコンサルティングがプロダクトを請負開発するのではなく、クライアントが自走化できるように支援するのですね。
鈴木:はい。もう1つは同じサブメニューの「アジャイルアナリティクス(Agile analytics)」の支援内容になります。これは分析業務を対象としたもので、課題定義や課題設定、仮説検証を行いながらダッシュボードなどの分析環境を構築していくものです。
近年、解決したい課題や用途が曖昧のままデータ分析基盤を構築してしまったため、十分に使いこなせていないという企業が増加しています。アジャイルアナリティクはこれらの状況を解決するものです。具体的には、まずビジネス課題を特定して課題に対する仮説設計を行います。そして、仮説を解くために必要となるデータの収集と加工を行い、ダッシュボードのMVP(Minimum Viable Product)を構築します。それをもとに仮説検証を行い、新たな課題特定と仮説設計を行います。このイテレーション(反復、繰り返し)を通じて、分析環境の整備と状況の可視化を図っていきます。
不確実性の高い現在は、将来の予測が困難であり、「正解(最適解)」も時々刻々と変化しています。そのような環境下で重要なのは、状況を正確に把握した上で仮説を立て、それに基づいて実践し、再度状況を把握する。それを繰り返していくことです。PwCコンサルティングはそうしたアプローチを企業が継続的に実践できる体制や分析環境の構築を支援していきます。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 髙澤 良輔
髙澤:DX支援をうたうソリューションは市場に数多く存在します。その中でクラウドトランスフォーメーションにはどのような優位性があるのでしょうか。
鈴木:クラウドトランスフォーメーションはPwCコンサルティングのコンサルタントが長期間クライアントにつきっきりで支援するモデルではありません。クライアントへのスキルトランスファーを実施しながら、クライアントの自走化と内製化を通じてDXが推進できるよう、伴走しながら取り組んでいくモデルです。ですから、改革対象の領域がインフラやアプリケーションなど技術領域だけでなく、業務プロセスや組織体制などにまで広範囲にわたる点が特長と言えます。
PwCコンサルティングは各業界の事業ドメインに精通したプロフェッショナルを数多く擁しています。そのため、業界全体の特徴や業界におけるクライアントの状況も加味した支援ができるのです。
髙澤:今後の展開を教えてください。クラウドトランスフォーメーションでは支援対象の領域を拡大していくのでしょうか。
鈴木:日々の業務オペレーションも変革支援の対象にしたいと考えています。具体的には「定常業務(Rhythm of Business)」といわれる領域にも新技術やアジャイルなオペレーティングモデルを導入していく予定です。例えば、定例会議や情報共有の方法の効率化、サービス企画の進め方や承認プロセス、日々のコミュニケーションの枠組みなどです。
PwCはベンダーニュートラルな立場ですから、クライアントに特定の製品やサービスを販売したり、提供したりすることはしません。クライアントの課題解決に寄り添い、ベスト・オブ・ブリードで提案できることが私たちの強みです。PwCコンサルティングの目標は、クライアントがマネジメントスタイルを変革し、企業の俊敏性を向上させて継続的にビジネス価値を創出していけるようになることです。
髙澤:お話を伺って、自分が考えていたDXが全体の一側面にすぎなかったことが理解できました。本日はありがとうございました。
(左から)鈴木 直、髙澤 良輔
鈴木 直
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社