
サステナビリティー開示で求められる「保証」の実務上の論点:週刊金融財政事情 2025年4月1日号
2025年3月、サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ情報の開示基準を最終化しました。サステナビリティ開示を巡っては、開示情報の信頼性を担保するため第三者による保証が重要となります。保証計画の策定など、「保証」の実務上の論点について解説します。(週刊金融財政事情 2025年4月1日号 寄稿)
GHG(温室効果ガス)排出量や人的資本の状況などのサステナビリティ情報の開示と保証は、真の企業価値創造において欠かせない重要なテーマである。「サステナビリティ」をプライオリティ―テーマに掲げ、サステナビリティ情報の開示支援と保証の提供に力を入れているPwC Japan有限責任監査法人で保証をリードする遠藤英昭氏と、監査の研究を専門とする立教大学の小澤康裕准教授に、サステナビリティ情報の開示が求められる理由と、この領域におけるトラストギャップ(信頼の空白域)の埋め方について聞いた。
(左から)遠藤 英昭、小澤 康裕 氏
登場者
立教大学
大学教育開発・支援センター 副センター長
経済学部 准教授 博士(経営学)
小澤 康裕 氏
PwC Japan有限責任監査法人
公認会計士 上席執行役員 監査事業本部 副本部長
パートナー
遠藤 英昭
※本稿は、日経ビジネス電子版の記事広告を転載したものです。
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※法人名、役職などは掲載当時のものです。
地球温暖化による気温上昇や生態系の変化、人権に関する問題の発覚など、サステナビリティを脅かす現象や出来事が日常的にメディアをにぎわしている。
自社が社会や環境からどのような影響を受けるのかをステークホルダーに信頼できる形で開示することは、企業にとってますます重要な取り組みとなっている。
「今や企業のサステナビリティ情報は、企業価値を測るための重要な判断材料となっています」と語るのは、PwC Japan有限責任監査法人の上席執行役員監査事業本部 副本部長でパートナーの遠藤英昭氏だ。
遠藤 英昭
周知の通り、日本にはPBR1倍割れの上場企業が多いが、サステナビリティ情報の開示が十分でないことも、企業価値に大きく影響しているとみられる。
「会計で示される企業価値は、実際の企業価値の半分にも満たないと言われています。財務情報では表現できない企業価値を示すため、サステナビリティ情報をいかに積極的に発信していくかが問われているのです」と遠藤氏は語る。
国際的な潮流としても、企業のサステナビリティ情報の開示・保証の機運は高まっているが、サステナビリティの領域は財務情報の開示・監査のように定まったルールや法制度が整っておらず、企業の任意の開示は投資家をはじめとしたステークホルダーから信頼されないという問題が発生していた。これをいかに整備していくかが、サステナビリティ領域におけるトラストギャップを埋める上で重要な取り組みとなるだろう。
「歴史を振り返れば、財務会計の世界も黎明期には企業が独自に会計処理方法を考え、まちまちな決算書類を開示していました。しかも、その内容に対する第三者の監査保証は行われていませんでした。それが年月をかけて、会計基準を設定し、今日のように客観性や信頼性の高い監査・保証制度へと洗練されていったのです。サステナビリティ情報の開示・保証についても、ようやく国際基準作りや法制化の動きが始まっており、会計基準や監査基準が時間をかけて整ったように、今後整備されていくでしょう」
そう語るのは、監査の研究を専門とする立教大学経済学部の小澤康裕准教授だ。
小澤 康裕 氏
基準や法令の整備とともに、企業によるサステナビリティ情報の開示が今後さらに活発化することは間違いない。昨今の世の中の動向から見ても、顧客や株主、取引先、従業員など、ステークホルダーからの信頼を得るには欠かすことのできない取り組みだからである。
「サステナビリティ情報の開示は、一義的にはサステナビリティへの取り組みが企業価値に与える影響を示すものですが、企業が社会や環境に与える影響を開示するものであるという考え方もあり、欧州のCSRD(企業サステナビリティ報告指令)ではその両方を開示対象にしています。その場合、ステークホルダーは全世界ということになるので、開示と保証によってトラストギャップを埋めることの重要性はますます大きくなります」と遠藤氏は指摘する。
一般に企業の存続期間は数十年、長くても100年程度だが、地球環境の存続は、数十億年ものタイムスパンにわたる問題である。サステナビリティへの取り組みは、未来に大きな影響を与える重要なテーマでもあるため、しっかりとマーケットメカニズムを働かせ、地球に配慮しない企業を排除する仕組みが求められ始めていると言っても過言ではないだろう。
しかし、サステナビリティ情報の開示・保証を求めるニーズは年々増加傾向にあるにもかかわらず、小澤准教授が指摘したように、その情報の開示・保証は会計情報の開示・監査に比べて歴史が浅く、これらの仕組みが完全には整っていない。このこと自体がトラストギャップを生み出しているとも言える。さらに、サステナビリティにまつわる課題は年々多様化・複雑化しているので、空白域はどんどん広がり、それを速やかに埋めていくことの難度もどんどん広がっている。
小澤准教授は、「情報に信頼が付与されることが、情報を発信する側、受け取る側の双方にとってのメリットです。ただ、そこには確固とした独立性を持った第三者の担い手が必要で、それがサステナビリティ領域のトラストギャップを埋めていくためのカギを握るでしょう。会計情報の開示・監査の基準を生み出してきた歴史を踏まえると、数字と実態を結びつける能力に最も長けた監査法人こそがそれを担える唯一の存在ではないかと考えます」と話す。
「監査法人には、いつの時代も第三者として企業の会計監査を行ってきた歴史があります。開示や保証、監査を担う上で、長年にわたる監査実績の蓄積は非常に重要で、それ自体も保証の重要な要素の一つです。そういった監査法人の立ち位置がステークホルダーの安心感につながることに加え、会計監査を通じて企業のビジネスから業界特性、経営陣の人となりまでをも知っていることも、『トラスト』の付与に結びつく要素と考えられます」と遠藤氏は言う。
徐々に整いつつある基準やルールを速やかに理解し、信頼性の高い保証サービスが提供できる点も、長年会計監査に携わってきた監査法人の強みと言えるだろう。
中でも、「サステナビリティ」をプライオリティ―テーマに掲げ、その開示・保証サービスに注力しているのがPwC Japan有限責任監査法人だ。
なぜPwC Japan有限責任監査法人は、「サステナビリティ」をプライオリティ―テーマに掲げているのか。
それは、人々の間で環境や人的資本のガバナンスに対する懸念が高まり続けており、それに最優先で向き合うことは企業価値向上につながる上、トラストギャップを埋める抜本的な取り組みになると考えているからである。
ただし、「これまで財務会計を専門としてきたため、新たな領域としてサステナビリティに取り組むことは大きな挑戦でした。ですが、監査人である私たち自身が、会計に関する知識だけでなく、複雑で多岐にわたるサステナビリティ関連の知識をしっかり習得しなければ、ステークホルダーの皆様に納得しご安心いただける保証サービスは提供できないのです」と遠藤氏は語る。
小澤准教授も、サステナビリティの情報開示・保証においては、“人財”が重要だと話す。
「基準などが徐々に定まってくれば、今度はその開示、保証、監査を正確にできる人財が求められます。そこで初めて、ステークホルダーが開示・監査の結果を理解し利用することができるようになるのですが、会計・監査と比較するとまだ歴史の浅いサステナビリティの領域では、この分野における知見を有した人財の確保が非常に重要になります」
PwC Japan有限責任監査法人では、新たな教育研修プログラムを策定し、サステナビリティ領域に関する教育を実施している。これまでに初期研修を履修したメンバーは2000人以上に上り、監査部門所属の対象者は全員が履修を終えたという※¹。
この他にもPwC Japanグループではサステナビリティに関連する様々な知識を持った人財が数多く活躍している。そうしたグループの総合力を生かし、より高度で信頼性の高い保証サービスが提供できることも、同監査法人の大きな強みだ。
遠藤氏は、「グループ内の他のメンバーと会話をするにしても、保証サービスの担当者自身がサステナビリティに関する知識を十分に身に付けていないとコミュニケーションが成立しません。教育研修プログラムには、そうした共通言語を身に付けてもらい、グループ一体となってより良いサービスを提供する土台づくりの狙いもあります」と語る。
※1:出所:PwC Japan監査法人、サステナビリティ保証の初期研修を監査部門所属の対象者全員を含む2,000人超が受講完了
もう1つ、PwC Japan有限責任監査法人がサステナビリティ情報の保証サービスを提供する上で大きな強みとしているのが、「財サス一体」の監査・保証体制を構築している点だ。文字通り、財務会計の監査もサステナビリティ開示の保証も、同じメンバーがワンストップで実施するというものだ。
「相互に深く関わり合っている財務とサステナビリティの活動を関連づけながらサービスを提供できることが大きな価値だと思います」と遠藤氏は言う。
例えば、会計監査の項目には、固定資産や売り上げ・仕入れの監査手続きなども含まれるが、これらの手続きを通じて、サステナビリティ情報開示の正確性や整合性を検証する機会も得られるという。
「生産設備の件数や規模と比べ、開示されているGHG排出量が少ないのではないかとか、売り上げや仕入れ規模に照らし合わせると、トラックによる輸送量は多いはずなので、より大量のGHGを排出しているのではないか、といった疑問が浮かび上がってくるわけです。会計上の数字とビジネスの状況は密接に結びついているので、会計監査のメンバーがサステナビリティの保証まで担当することには大きな意味があるのです」(遠藤氏)
小澤准教授は「会計監査を通じて、企業のあらゆる側面を把握し、独立的な立場から評価ができる点も、監査法人はサステナビリティ情報の開示・保証の担い手として最適任です。『間違いや不正は起こり得る』という前提に立って、健全な懐疑心を発揮しながら監査や保証のサービスを提供できることは、トラストギャップを埋める上で非常に重要な要素だと言えます」と話す。
サステナビリティ情報の開示・保証の重要性は、間違いなく今後ますます高まっていくだろう。最後に、小澤准教授は次のように語った。
「これからの企業は、社会の急速な変化に柔軟に対応し、持続可能な存在であり続けることが求められています。そのためには、サステナビリティ情報の開示と、それに対する反響を基に、正しい行動ができているか、その行動はステークホルダーに評価されているかを検証し続けることが大切です。開示内容に信頼を付与する保証が伴えば、ステークホルダーの理解を得ながら、より良い未来を築き上げられるはず。それが結果的に企業価値の向上にもつながることでしょう」
遠藤氏も「これからは、自社評価がしっかりできる企業であることと、それを外部にきちんと説明できる企業であることが求められます。PwC Japan有限責任監査法人はそれらをサポートし、ステークホルダーが求めるトラストギャップを埋めることで、社会への貢献と企業価値向上を支援してまいります」と語った。
2025年3月、サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ情報の開示基準を最終化しました。サステナビリティ開示を巡っては、開示情報の信頼性を担保するため第三者による保証が重要となります。保証計画の策定など、「保証」の実務上の論点について解説します。(週刊金融財政事情 2025年4月1日号 寄稿)
監査の研究を専門とする立教大学の小澤康裕准教授と、PwC Japan有限責任監査法人で保証をリードする遠藤英昭が、サステナビリティ情報の開示が求められる理由と、この領域におけるトラストギャップ(信頼の空白域)の埋め方について語りました。
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