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2018-06-13
ここ最近、さまざまな業界で不祥事が立て続けに生じており、それらを報じる中でカルチャー、企業風土について言及されることが多くなっています。今回は不祥事の根底にあるカルチャー、特にリスクカルチャーについて論じます。
リスクカルチャーとは何でしょう。さまざまな定義が可能ですが、簡単に言えば、リスクに直面した時に組織の構成員がどう行動するべきなのか、その方向性を示す羅針盤のようなものと言えます。組織の構成員が顧客を含めたステークホルダーの期待や組織のミッション、ビジョンに沿って行動していく上で、リスクカルチャーを組織全体に浸透させることは非常に重要です。リスクカルチャーを形作るものとして、まず、組織のミッション、ビジョン、バリューがあります。それらを具体的に体現した行動規範などが一般的に作られ、さらにはそれらの規範が経営計画、年度計画などに落とし込まれ、事業活動を経て実践され、最後に評価が行われることになります。このようにリスクカルチャーは、抽象度の高い上位概念からブレークダウンされて具体化されますが、下図に示す通り、その過程でブレが生じることがあります。このため、実際にリスクカルチャーを醸成して浸透・定着させていくのは容易ではありません。
単純な例ですが、「顧客本位の業務運営」を行動規範に掲げている一方で、業務計画においては顧客にとってメリットの低い商品(組織の利益大)の売り上げを伸ばすことを強いられているような状況を想像してみてください。このような場合、現場の構成員は行動規範を“建前”であると考えるようになり、そこから乖離が始まります。この結果、向かうべき方向性が定まらず、組織内にリスクカルチャーが浸透しません。リスクカルチャーが組織に浸透した状態では、ミッション、ビジョン、バリューが行動規範などに落とし込まれて具体化され、構成員の行動は行動規範などに基づき正しく規律されます。リスクに適切に対処するためには、このような状態を目指すべきです。
リスクカルチャーと組織の活動との関係
組織のリスクカルチャーが明確に定義されていれば、事業活動や構成員の行動がカルチャーと一貫しているかを確認できますが、実際にはなかなかそうはいきません。新設の組織と違い、多くの場合は組織の歴史の中で培われてきた考え方や習慣があり、各人の組織での経験量などによっても捉え方が異なるため、一律に判断するのは困難です。このことからも、リスクカルチャーの醸成に向けた最初の一歩としては、組織のリスクカルチャーの現状を把握することから始めるのが好手です。
そのための有効な方法として、典型的なリスクに対して構成員どのように行動するか、組織全体、各職階別、部署別などによって違いがあるかなどを調べることが挙げられます。特に組織のリスクカルチャーが表れるのは、ストレスがかかった時です。最近の品質管理などの不祥事を見ていると、コスト、品質、納期の間でジレンマを感じていることが伺えます。組織の構成員がジレンマを感じた時(=ストレス)、どういった行動が推奨されているのか、端的に言えば、コスト、品質、納期のどれを優先するのか、どうやってそれを判断するのか、そして構成員がそれを正しいと思っているかどうかを調べることです。このような判断はリスクカルチャーに多分に依存しており、これを各構成員を対象にしたアンケートやカルチャーサーベイなどで調べることによって、組織のリスクカルチャーの現状が見えてきます(可視化)。可視化することで、ミッションやビジョンなどからのかい離を把握でき、あるべきカルチャーの醸成に向けた活動のスタートラインに立つことができます。
組織のリスクカルチャーを把握し、あるべきリスクカルチャーの醸成を目指すにあたっては、トップマネジメントのコミットメントが重要です。特に、あるべきリスクカルチャーを定めるためにはトップマネジメントのコミットが欠かせません。一時期“忖度(そんたく)”という言葉が取り沙汰されましたが、これはトップがリスクカルチャーに対して真剣に取り組んでいない代表例かもしれません。“忖度”することを組織の構成員に意識させるようでは、リスクカルチャーについての議論が尽くされているとは言えません。これは、あるべきリスクカルチャーが正しく伝わっていない典型であり、リスクカルチャーが組織の一人一人に腹落ちしていない証拠とも言えます。所詮、行動規範は“建前”に過ぎないと構成員が思っているうちは、組織にリスクカルチャーが浸透するはずがありません。トップマネジメントのコミットのもと、ミッション、ビジョン、バリューや行動規範について意見を有する人とは徹底的に議論し、一人一人が納得してはじめて、あるべきリスクカルチャーが定まったと言えます。
あるべきリスクカルチャーが定まったら、次にそれを浸透・定着させる仕組み作りが必要です。例えば、人事面でのインセンティブなどを組み込み、仕組みとして定着することを目指すことが考えられます。リスクカルチャーを定着させる仕組みが日々の業務や活動の中に組み込まれていることで、初期の段階では、各人が常にリスクカルチャーを意識するようになります。そして、その状態を継続するうち、それが組織の中に自然に定着するのが理想的です。その状態に至ることができれば、あとは形骸化しないよう、アップデートを続けていくだけです。アップデートに関しては、リスクカルチャーの浸透・定着において担う役割が各人で異なるため、職階等に応じた内容にするべきです。例えば、階層別の研修プログラムなどに組織の価値観やリスクカルチャーについて考えるセッションを設けることは有効です。その場でのディスカッションを通じて、各人の考え方の違いを理解した上で、共通認識として組織のリスクカルチャーを再確認できるからです。このような活動を継続的に続けていくことで、初めて「リスクカルチャーが定着した」と言えるでしょう。
以上が、リスクカルチャーを醸成するにあたっての定石的な進め方です。リスクカルチャーの醸成がうまくいかないことの根底には、あるべきカルチャーが明確に定まっていないことや、そもそもリスクをリスクとして捉えることができない感度の鈍さの問題があります。伝統的な組織であればあるほどそのリスクは高く、外部の目線からの感度チェックは必須と言えるでしょう。