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2019-02-28
ステークホールダーが内部監査に期待する価値はさまざまです。客観的なエビデンスに基づく保証を求める経営者もいる一方で、プロジェクト監査では、保証というよりは統制が大体効いているのか、リスクとして見ておくべきところはどこなのか(プロジェクトがうまくいっているのか、気にすべき点はないのか)といった、場合によっては保証という言葉ほど重く受け止める必要性が高くないものまでさまざまです。
その他にも、定型的な業務で検査的な対応を過去から継続的に行っており、業務部門でも主たるリスクの認識が進んでいることから、検査・監査手続きをしても結果として出てくる発見事項が限られているようなものも多く見られます。また、監査の期間が長く被監査部門からすると、忘れたころに監査報告書が発行されているというケースも見られるのではないでしょうか。経営からしても、年初に重要なリスクとして監査対象としたものが、数カ月以上たってから発行されてもリスクの捕捉という意味ではあまり意味をなさないケースもあるかもしれません。
内部監査とはそういうものであり、より短期的なものの見方は1線や2線によるモニタリングであるというのも正しくはありますが、あくまでその考え方は「正統派監査」として、内部監査部門の視点から成立するものです。ステークホールダーはそういった内部監査に対する理解・認識を持った方ばかりでもありません。内部監査部門には客観的に見てほしいが、必ずしも、いわゆる「監査・保証」にこだわっているものではないケースもあると思われます。
上記のような状況に対して、リスクベースで監査対象と深度(キーリスク、キーコントロールの絞り込み)に差をつけることで対応するのは一般的に見られるケースです。一方で、すべてを監査プログラムやサンプリングの差で対応するのではなく、監査の進め方やチーム構成についても工夫する余地があります。ここでアジャイル型監査(Agile Audit)という概念が参考になります。
小さくてコンパクトなチーム(3~5人である場合が多い)が、小さなPDCAを繰り返しながらプロジェクトを進めるのが、アジャイル型監査の基本的な考え方です。
なお、「アジャイル」な内部監査の主要な構成要素として、以下が挙げられます。
「アジャイル」は、システム開発における伝統的な手法である「ウォーターフォール」と比較されることが多いです。ウォーターフォールは、より体系化されている場合が多く、定められた工程を線形的に完了させていく手法です。内部監査部門の大半は、ウォーターフォール型で業務を行っていますが、監査の計画策定・スコーピング・実施をより協働的かつ反復的な手法を用いて行うことに価値を見出し始めている内部監査部門も出てきています。
4~6週間程度の期間、週次でステークホールダーとのミーティングを行い、監査上の要点や論点の絞り込みを行っていきます。監査報告書の発出も事前におおよその合意を取っておいて出すなど、監査終了後2週間を目途とする例もあります。
また、期間が短いだけにステークホールダーの協力は必須で、これが得られないと、短期間での終了は不可能です。被監査部門は、監査期間中は通常の内部監査と比較して、より深い関与が求められる一方で、拘束される期間は短くなります。結果として、トータルで見た時には負荷は軽減します。
実施している企業ではおおむねよい評価が得られている、という話も聞かれます。必ずしも監査の全過程が透明化されるわけではないのですが、被監査部門・ステークホールダーがより深い関与をインタラクティブに行うことにより、監査人が何を考えて、何をしているかについての見える化が促進され、監査部門とステークホールダーの相互理解も深まると考えられます。結果として、内部監査部門のカルチャーの変革にも寄与する可能性があるのです。
アジャイル型監査は以下のようなメリットをもたらします。
内部監査は、結果として何もないことを確認するために監査を行っているという部分もあります。とはいえ、結果に影響を及ぼさない、無駄とも考えられる手続きがあることも事実です。ミーティングの結果、必要ないと判断された作業を即座に中止していくアジャイル型監査は、そういったものについて一定程度割り切る考え方を取ったものとも言え、監査部門のカルチャー変革を促すという効果もあるかもしれません。
アジャイル型監査は通常の内部監査と同様に、ステークホールダーに対し保証を提供するのですが、両者が提供する保証には程度の差が生じる可能性があります。このことをステークホールダーが適切に理解しなければ、監査リスク・期待ギャップを引き起こすこととなります。
先述の通り、ステークホールダーが内部監査(監査)とはどのようなものであるかを、内部監査部門が期待する程度に理解しているとは限りません。内部監査の概念は理解していても、その前提や具体的な手続きがどのようになされて結果や発見事項が出てきているかを理解しているというケースは、監査委員会(監査役会)など主たる関係者に限られることも多いと思われます。
アジャイル型監査は通常の監査と大きく異なるものではなく、単に内部監査の進め方の違いであるのですが、監査リスクにつながり得るステークホールダーの期待と現実のギャップを避ける意味でも、両者を明確に分けておくことが初期段階では無難かもしれません。
また、早い段階で絞り込みやステークホールダーの意見を取り入れていくと、監査人としての考えにバイアスがかかる可能性があります。被監査部門・ステークホールダーのより早い段階での関与による意見形成への影響についても留意する必要があります。
加えて、アジャイル型監査手法では口頭による報告が多いと言われます。内外の関係者は保証の成果物として、内部監査部門に対して一般的な監査報告書を提出することを求める場合もあります。そのため、重要な問題が組織の適切な階層に伝達されない可能性がある点に懸念を示す監査人もいます。
いくつかの留意点は存在するものの、アジャイル型監査は重要なもの(監査上フォーカスすべき要点)が見つかると、非常に有用なものとなります。通常の監査と比較して、重要事項により容易にフォーカスすることができるからです。
その特徴を踏まえると、導入の初期段階でアジャイル型監査が当てはまりやすいものは以下のようになります。
なお、アジャイル型監査が定着してきた後には、これらに加えて、事前に定まった計画を立てにくい監査を対象とすることにも視野が広がると思われます。
また、アジャイル型監査を活用する上では、テクノロジーの利用も有用です。最近は複数のユーザーによる同時編集機能を有する文書作成ソフト、ビデオ会議、チャットなどさまざまなツールを容易に使える環境も整っています。いずれも専用の機器を必要とせず、PCやスマホ上で利用できるので、スピーディな監査を実現するアジャイル型監査との相性はよいでしょう。
アジャイル型監査は決して万能ではありませんが、ステークホルダーの理解の上で通常監査と適切に使い分けることができれば、今までの監査の課題を克服するためのアプローチとして有用であると言えるでしょう。
本コラムに関するお問い合わせがございましたら、以下までご連絡ください。
辻田 弘志
PwC Japan有限責任監査法人 パートナー
hiroshi.tsujita@pwc.com
加藤 美保子
PwCあらた有限責任監査法人 シニアアソシエイト
上農 峻輔
PwCあらた有限責任監査法人 アソシエイト
※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。
以下は本コラムの別添資料です。英国の資料「Agile auditing」を基に、抜粋・翻訳したものです。