基本戦略・ビジネスモデルに内在するコンダクトリスクと取締役会の役割・責任

2020-07-16

1.基本戦略・ビジネスモデルの決定・変更における取締役会の役割・責任(コンダクトリスクの観点の重要性)

企業における重要な基本戦略やビジネスモデルの決定・変更にあたっては、一般にはまずは執行側がその立案を担当すると想定されますが、取締役会には、その基本戦略・ビジネスモデルが実行される前に、その妥当性などを審議・検証することが求められると考えられます。

ここでの判断が後から見て妥当でなく、自社に損害が生じた場合、その判断を行った取締役は、自社や株主などから善管注意義務違反を追及される可能性がありますが、この判断の過程・内容に著しく不合理な点がない限りは、取締役としての善管注意義務には違反しないという考え方も示されています(いわゆる経営判断原則)。

一方、自社の損害に対して、上述の通り取締役が法令上求められる適切な判断をしており、取締役としての善管注意義務を果たしていると評価されたとしても、他者(顧客をはじめとしたステークホルダー)に対して何らかの不利益を与えた場合は、さらなる考慮が必要です。そして、たとえこの他者の被った不利益が取締役の法令違反・善管注意義務違反によるものではなく、他者に対して法的な責任は負わないとされた場合においても、結果として自社のレピュテーションの低下(レピュテーショナルリスクの顕在化)などを招き、自社のビジネスの長期的な持続可能性が脅かされる可能性があります。このような、自社の行動が他者に対してネガティブな影響を与えるリスクをコンダクトリスクと呼びます。

そして、後述の通り、コンダクトリスクの発生の要因は、自社の基本戦略・ビジネスモデルそのものに内在していることも多いため、このような状況を回避するためには、取締役会における自社の基本戦略・ビジネスモデルの審議・検証段階において、自社の損害が発生するリスクだけではなく、こうしたコンダクトリスクも適切に捉え審議・検証することが重要です。

加えて、コンダクトリスクを正しく捉えるためには、自社の目線だけではなく、顧客や社会といった各ステークホルダーの観点からも考えなければなりません。取締役会においては、自社の論理やカルチャーなどに縛られない社外取締役が、当該基本戦略・ビジネスモデルの審議・検証に際して、コンダクトリスクの観点から適切なチャレンジをすることが重要と考えられます。また、当社が実施したアンケート調査[PDF 350KB]によれば、「社外取締役の発言や質問により決議案件が再検討・修正されたことがある」との回答が60%であり、社外取締役の発言・質問が取締役会において影響力を有していることが窺われます。

社外取締役も含めた取締役会での審議・検証の結果、当該基本戦略・ビジネスモデルにコンダクトリスク発生の可能性が内在すると考えられる際には、取締役会は執行側に対応策の策定や、場合によっては、基本戦略・ビジネスモデルの再考を求めることが必要になります。

2.基本戦略・ビジネスモデルに内在するコンダクトリスク発生要因

コンダクトリスク事象は、多くの場合、各ステークホルダー(顧客・社会・環境など)と企業との情報の非対称性が存在する中での、各ステークホルダーと自社の利益相反から引き起こされています。

このような状況が発生する要因は、そのサービス・商品の特性や販売戦略など、基本的な戦略・ビジネスモデルの設計に内在していることも多いと考えられます(一般には理解が難しい複雑な商品の取扱い/自社の利益を第一にした販売戦略/環境負荷が高いビジネスの推進など)。

したがって、企業における基本戦略・ビジネスモデルの決定・変更の段階において、その戦略やビジネスが抱えるリスクを、自社の損害発生の可能性としてだけでなく、各ステークホルダーに対してネガティブな影響を与える可能性としても捉えた上で評価し、戦略・ビジネスの実行にあたっては必要に応じた対策を講じることが重要です。

以下は、コンダクトリスクが内在すると考えられる基本戦略・ビジネスモデルの事例です。直ちに違法とは言えない可能性がある戦略・ビジネスにおいても、各ステークホルダーに対してネガティブな影響をもたらしたことによって社会的に批判を受けています。

【コンダクトリスクが内在する基本戦略・ビジネスモデルの例】

  • 外資系金融機関による、クロスセル販売の不適切な推奨戦略
  • 外資系ライドシェア企業による、競合他社からの引き抜き戦略
  • 大手企業による、保有する顧客情報の利用戦略(目的外利用・販売)
  • 大手IT企業による、優越的地位を利用したECサイトの取引条件の変更

このような戦略・ビジネスモデル(およびこれに基づいて行われた企業の行動)から発生する批判は、その実行前に外部ステークホルダーの観点から十分な審議・検証が行われていれば防ぐことができたと思われます。ここでの審議・検証の具体的なポイントの一つとしては、当該戦略・ビジネスモデルの収益性や適法性の観点だけでなく、それが外部ステークホルダーにどのような影響を与え、その影響が当該ステークホルダーの許容できる水準を超えていないかという観点を持つことが挙げられます。

3.外部からの知見の活用

上述の通り、コンダクトリスク事業発生の可能性を正しく捉えるためには、外部ステークホルダーの目線に立って、その基本戦略・ビジネスモデルを検証する必要があります。そのためには社外取締役の役割が重要になりますが、上述のアンケート調査[PDF 350KB]では、会社による社外取締役のサポート体制について、「今後望むサポート体制・環境」として「外部専門家を選任し、会社の費用負担で助言を得る権限」と回答した割合が「現在のサポート体制・環境」を大きく上回っており、社外取締役による外部専門家の助言を求める声も一定数存在すると考えられます。

PwCは、リスク管理に関する知見・経験に基づき、外部専門家として企業の基本戦略やビジネスモデルをレビューし、そこに内在するコンダクトリスク事象の要因についての検証を支援します。

また、PwCは、業界や国境を越えて発生するコンダクトリスク事象に該当する事案について、最新の情報を収集しています。クライアント企業の業界や特性に合わせて、このような事案の分析結果も提供しています。

【サービスメニュー】

  • 自社の事業戦略・計画、新商品・サービスに関する潜在的なレピュテーショナルリスク、コンダクトリスクの分析
  • データ・テクノロジー(AI)活用戦略に関する潜在的なレピュテーショナルリスク、コンダクトリスク、テクノロジーのインテグリティに関するリスクの分析
  • コンダクトリスクに該当する事案の提供・分析

詳細は「非財務リスク管理に関するアドバイザリーサービス」ページをご参照ください。

本コラムに関するお問い合わせがございましたら、以下までご連絡ください。

辻田 弘志
PwCあらた有限責任監査法人 パートナー
hiroshi.tsujita@pwc.com

執筆者

志村 保
PwCあらた有限責任監査法人 シニアアソシエイト

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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