コーポレート・インバージョン対策合算税制

 

読み方:こーぽれーといんばーじょんたいさくがっさんぜいせい

定義

コーポレート・インバージョン対策合算税制は、会社法の合併対価の柔軟化(三角合併の解禁)により新たに可能となるクロスボーダーの組織再編成に対応し、日本の課税権を確保する措置を講じるため、2007年度税制改正により導入されました。現在では、特殊関係内国法人(5人以下の株主グループが80%以上保有する特定内国法人、またはその資産・負債のおおむね全部の移転を受けた内国法人)の特殊関係株主等(特定内国法人の特定株主等およびその親族等)が、三角合併等の組織再編成等により、軽課税国に所在する外国関係法人を通じてその特殊関係内国法人の株式等の80%以上を間接保有することとなった場合において、ペーパーカンパニー等である外国関係法人、または経済活動基準※1のいずれかを満たさない外国関係法人の所得に相当する金額を、当該外国関係法人の持分を有する特殊関係株主等である内国法人および居住者の所得に合算して課税を行なう制度となっています(租税特別措置法第66条の9の2第1項等)。

タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)に似ていますが、この税制の適用を受けるのは、特殊関係株主等である内国法人および居住者であり、外国子会社合算税制と異なり、居住者等株主等の割合が50%以下の場合や、請求権等勘案合算割合が10%未満の場合も適用対象になる(実質支配関係は考慮しません)などの違いがあります。なお、外国子会社合算税制と本税制が重複する場合は、外国子会社合算税制が優先適用されます。

※1:経済活動基準(以下の4と5は業種に応じていずれかを適用)
1.事業基準:主たる事業が株式の保有等一定の事業に該当しないこと
2.実体基準:主たる事業に必要な固定施設を本店所在地に有していること
3.管理支配基準:その事業の管理、支配をその本店所在地国において自ら行なっていること
4.非関連者基準:取引の過半を関連者以外の者と行なっていること
5.所在地国基準:事業をその本店所在地で行なっていること

2010年度税制改正では、経済活動基準(適用除外基準)を満たす外国関係法人であっても、一定の資産性所得を有する場合は、株式等の保有割合に応じて内国法人および居住者の所得に合算して課税することとされました(租税特別措置法第66条の9の2第6項等)。

なお、事務負担に配慮し、外国関係法人の租税負担割合が一定(ペーパーカンパニー等は30%※2、それ以外の外国子会社等は20%)以上の場合には、合算課税の適用が免除されます。

※2:2024年4月1日以後開始事業年度は27%

本税制の導入に合わせて、以下の改正も行われています。

  • 三角合併等の外国親会社株式を対価とする組織再編成により、非居住者または外国法人株主に外国法人の株式が交付される場合には、国内に恒久的施設を有するこれらの株主が国内において行う事業に係る資産として管理する株式に対応して交付されるものを除き、再編時に課税の繰延べを認めず、その再編の時に課税する(法人税法施行令第184条第1項第十八号等)。
  • 軽課税国の親会社の株式を対価とするグループ内(50%超の支配関係グループ)の組織再編成で一定の要件の下で親会社およびその子会社に実体がないとされる場合には、その組織再編成の適格性を否認するとともに、株主に対して再編時に課税する(租税特別措置法第68条の2の3・第68条の3等)。

米国でも、内国法人が経済活動の実態のない外国親会社に取得された場合にその外国親会社を内国法人として課税する(80%以上の株式保有の場合)、コーポレート・インバージョン対策税制が2004年に導入されています(内国歳入法 Section 7874)。

(参考)三角合併

三角合併とは、吸収合併の際に、被合併法人(消滅会社)の株主に対し、合併法人(存続会社)の株式ではなく、合併法人の親会社の株式を交付する形態で行なう合併をいいます。

旧商法においては、吸収合併に伴い被合併法人の株主に交付される株式は、合併法人の株式とすることが前提となっていました。しかし会社法施行により、合併の対価が合併法人の株式に限られず、金銭その他の財産を交付することも認められることとなりました(いわゆる対価の柔軟化、会社法第749条)。これにより上述の三角合併の形態での吸収合併が可能となりました。

税務上、三角合併は、「金銭等、合併法人株式以外の資産を被合併法人株主に交付しない」という適格合併の要件を満たさなかったため、かつては非適格合併として扱われていました。2007年度税制改正において、会社法における対価の柔軟化に対応すべく、合併親法人株式を交付する場合も適格要件に含められることとなったため(法人税法第2条十二の八)、上述のような親会社の株式を交付する吸収合併も適格合併として扱われるようになりました。

ここでいう合併親法人とは、合併法人の発行済株式等(自己株式等を除きます)の全部を直接または間接に保有する関係がある法人をいいます。なお「全部を直接または間接に保有する関係」とは、合併の直前に合併法人とその親法人との間に完全支配関係があり、かつ、その継続が見込まれる関係をいいます(法人税法施行令第4条の3第1項)※3

※3:2019年度税制改正により、合併等に際し間接100%の支配関係がある親法人の株式が交付される場合についても、直接100%の支配関係がある親法人の株式が交付される場合と同様に、適格組織再編成の対価要件を満たすことされています。

本用語解説は2023年9月1日現在の法令等に基づいて作成されており、これ以降の税制改正等が反映されていない場合がありますのでご留意ください。また、本用語解説は概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナルからのアドバイスを受けることなく、本解説の情報を基に判断し行動されないようお願いします。