読み方:そうごきょうぎ
相互協議とは、租税条約の規定に基づく、日本の権限ある当局と相手国の権限ある当局との協議をいいます。租税条約の規定に適合しない課税を受けたと認められる者および受ける可能性のある者は、自己の居住地国の税務当局に対し、この相互協議の申立てをすることができます。この協議において両税務当局が合意に達した場合には、両締結国で課税関係を調整することにより二重課税の排除が図られます。
たとえば棚卸資産の販売価格に関して移転価格課税が日本の内国法人に対して行なわれた場合、国外関連者側の購入価格が不変である限り、同一の所得に対して当該内国法人と国外関連者の双方で課税されることになります。同様に、国外関連者がその所在する国の税務当局から移転価格課税を受けた場合にも二重課税が発生します。このような移転価格課税に伴う二重課税を回避するために、内国法人は相互協議の申立てを行ない、両国の税務当局による調整を求めることができます。
相互協議の申立ては、適合しない措置の最初の通知の日から一定の期間内(各租税条約により異なるが、3年以内とするものが多い)にしなくてはならず、その申立てを受けた税務当局は相手国の税務当局との協議によって解決を図ることになります。また、条約に定めのない場合における二重課税が生じた場合も、税務当局は相互に協議することとなります。
相互協議の申立手続は、具体的には、納税者が管轄の税務署長宛てに、所定の「相互協議申立書」を提出することにより行ないます。相手国当局との協議が必要な案件かどうかは国税庁が判断することになります。なお、両国の税務当局は、当該事案を解決するように努力するように求められるだけであり、必ず解決されるとは限らない点には留意する必要があります。
なお、2012年12月に署名されたニュージーランドとの新租税条約以降、相互協議手続きにおける仲裁制度が導入され、条約の規定に適合しない課税に関する相互協議手続に関して、両国の税務当局間の協議により2年以内に事案が解決されない場合には、納税者からの要請に基づき、第三者から構成される仲裁委員会の決定により事案を解決することが新たに規定されています。
なお、2015年10月に取りまとめられたBEPSプロジェクトの最終報告書(行動14「相互協議の効果的実施(Making Dispute Resolution Mechanisms More Effective)」において、相互協議の申立ては、納税者の居住地国に限定せず、いずれかの締約国の権限ある当局に対して行うことも認めるべきとの勧告がなされました。これを受け、2016年10月に署名された日本・ベルギー租税条約、2017年1月に署名された日本・ラトビア租税条約及び日本・オーストリア租税条約において、相互協議の申立ては、納税者の居住地国にかかわらず、いずれかの締約国の権限ある当局に対して行うことができるとされました。
(注)2017年度税制改正により、相互協議の申立手続について、非居住者及び外国法人についても、国税庁長官に相互協議の申立てを行うことができることとされています(租税条約等実施特例法規則12条1項)。
なお、「税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」(BEPS防止措置実施条約)(日本では2019年1月1日に発効)は、BEPSプロジェクトの行動14「相互協議の効果的実施」の最終勧告を反映しており、日本は、「相互協議手続の改善に関する規定(第16条)」の適用を選択しています。
本用語解説は2022年6月1日現在の法令等に基づいて作成されており、これ以降の税制改正等が反映されていない場合がありますのでご留意ください。また、本用語解説は概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナルからのアドバイスを受けることなく、本解説の情報を基に判断し行動されないようお願いします。
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