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2015-02-26
あらた監査法人
財務報告アドバイザリー部
森 亮太郎
今回は無形資産の領域に絞って、IFRS(国際財務報告基準)が日本企業に与える影響を分析します。一般的に言われるIFRSと日本基準(および米国基準)との差異としては、開発費の資産化や、割引後キャッシュ・フローによるのれんを含めた固定資産の減損が挙げられますが、これらの基準間差異により日本企業がどのような影響を受けているかを以下で見ていきたいと思います。
今回の分析では、既にIFRSを適用済みの以下の会社を見ていきたいと思います。
IFRS適用企業
IFRS適用企業(2015年1月31日現在) |
|
業種 |
企業数 |
卸売業 |
7 |
医薬品 |
7 |
電気機器 |
5 |
情報・通信業 |
4 |
サービス業 |
4 |
ガラス・土石製品 |
2 |
証券・商品先物取引業 |
2 |
小売業 |
2 |
化学/食料品/精密機器/輸送用機器/不動産業(各業種1社) |
5 |
合計 |
38 |
まず初めに、全体的な傾向ですが、IFRS適用により、適用会社が従前採用していた会計基準と比較して、IFRS移行日時点(例:2014年3月期を適用日とする企業の場合、2012年4月1日時点)で無形資産残高が増加した企業、減少した企業に分類すると、以下のように分類されます。金額の多寡はありますが、多くの企業でIFRS適用により無形資産残高が増加している傾向にあると考えられます。
分類 |
企業数 |
IFRS適用により無形資産残高が増加した企業 |
21 |
IFRS適用により無形資産残高が減少した企業 |
11 |
影響なしおよび初度適用調整表非開示(注) |
6 |
合計 |
38 |
(注)親会社がIFRSを既に適用している等の理由により初度適用の影響を開示していない会社。
次に上記の企業の業種別分解は以下のとおりです。
(単位:社)
業種 |
増加 |
減少 |
その他 |
卸売業 |
1 |
6 |
- |
医薬品 |
7 |
- |
- |
電気機器 |
4 |
- |
1 |
情報・通信業 |
3 |
1 |
- |
サービス業 |
1 |
2 |
1 |
ガラス・土石製品 |
2 |
- |
- |
証券・商品先物取引業 |
1 |
1 |
- |
小売業 |
1 |
- |
1 |
化学/食料品/精密機器/輸送用機器/不動産業(各業種1社) |
1 |
1 |
3 |
合計 |
21 |
11 |
6 |
「サービス業」、「証券・商品先物取引業」のように明確な増減の傾向が見られない業種もありますが、「卸売業」「医薬品」「電気機器」等で適用による一定の傾向がある業種も見受けられる状況です。
以下では増加、減少の要因を見つつ、業種別に傾向が示された背景を見ていきたいと思います。
まず、増加する方向を示している電器機器、医薬品ですが、これらの企業では、日本基準とIFRSの典型的な差異項目としていわれる開発費の資産化が影響していると考えられます。電器機器業界は製品開発の過程で、研究開発費が多額に生じる業界ですが、IFRS適用により、開発の一定の段階、例えばデザインレビューの一定の段階、開発費資産化の6要件(IAS第38号「無形資産」57項)を充足した以降の支出を資産化し、無形資産に計上しているようです。
例えば、電気機器業界でIFRSを適用している企業では、以下のとおりの影響を初度適用調整表で開示しています。
「日本基準の下で、研究開発費について、連結損益計算書で費用処理しておりましたが、IFRSでは開発局面における支出で資産化の要件を充足するものについては資産計上しております。」
なお、上記の開発費の資産化以外でも無形資産が増加する要因は他にもあるようです。例えば、のれんの償却に関して、日本基準上は、のれんは一定の期間で償却するところ、IFRS上はのれんの償却は行わないため、IFRS移行日以降の日本基準での累計償却額の戻し入れにより、日本基準と比較して、IFRS移行日後の年度において無形資産が増加する例も散見されます。例えば、以下のようにのれんの影響を開示しており、これにより無形資産が増加している企業もあります。
「のれんは日本基準では一定期間にわたり償却しておりますが、IFRSでは減損テストの対象とし、定期償却を実施しておりません。移行日以降の日本基準での累計償却額を戻し入れた結果、9,712百万円増加しております。」
顕著に減少している企業が多い業種は適用7社中6社が減少している卸売業です。例えば以下のような影響が開示されています。
「のれんについて、日本基準では一定の期間で償却しておりますが、IFRSでは償却しておりません。また、のれんの減損については、日本基準では、減損の兆候がある場合にのみ減損の要否の判断を行っておりますが、IFRSでは、毎期減損テストを実施しております。」
これは、IFRSと日本基準(および米国基準)との差異となりますが、IFRSの場合は減損の兆候にかかわらず、のれんを毎期割引後キャッシュ・フローによる減損テストを実施する必要があり、それによりのれんの減損損失が認識されたものと考えられます。
他には、日本基準(および米国基準)では、割引「後」のキャッシュ・フロー算定の前に、割引「前」のキャッシュ・フローによる減損判定がある一方で、IFRS上は、割引「後」のキャッシュ・フローのみによる減損判定であり、それによって減損が認識されている部分もあると考えられます。
「米国会計基準では、有形固定資産及び耐用年数を確定できる無形資産について当該資産が減損している可能性を示す兆候が存在する場合に、当該資産の帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フローを比較した結果、帳簿価額が割引前将来キャッシュ・フローを上回った場合に限り、公正価値を上回る金額を当該資産に係る減損として認識しております。
IFRSでは、当該資産が減損している可能性を示す兆候が存在する場合に、当該資産の帳簿価額が回収可能価額(使用価値または売却費用控除後の公正価値のいずれか高い金額)を上回る金額を固定資産の減損として認識しております。」
以上で見てきたように、IFRSの適用により一般的には日本企業は無形資産金額が増加する傾向が見られるものの、一方でIFRSは日本基準(および米国基準)と比較して減損が認識されやすくなる傾向もあるため、のれん残高が減少する企業も見受けられます。
もっとも、のれんに関しては、従前の日本基準で償却した帳簿価額を引き継ぐという初度適用時の免除規定もあるため、その適用の方法も慎重に検討し、対応することが必要と考えられます。
※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。