IFRSを開示で読み解く(第6回)金融商品(IFRS第9号とIAS第39号の選択適用)

2015-03-16

あらた監査法人
財務報告アドバイザリー部

背景

2014年7月に国際会計基準審議会(IASB)は、国際会計基準(IAS)第39号のガイダンスを置き換える国際財務報告基準(IFRS)第9号「金融商品」の完全版を公表しました。IFRS第9号は下記【表1】の段階を経て最終化されましたが、2009年、2010年ならびに2013年公表のIFRS第9号の早期適用が、その適用開始日が2015年2月1日より前であることを条件に容認されています。早期適用した場合は、2018年1月1日までは完成版を適用する必要はありません。よって、下記のとおり、完全版の強制適用日である2018年1月1日までは、IFRS適用企業間で異なる会計基準に準拠して財務報告が行われる状況が継続します。

完全版適用までに選択適用可能な会計基準

IAS第39号、IFRS第9号(2009年版、2010年版、2013年版ならびに2014年版)

 

【表1】IFRS第9号最終化までの経緯

公表日

主な内容

強制適用日

2009年
11月12日

金融資産の分類および測定に係るガイダンスの改訂
IAS第39号

  • 金融資産を(1)損益を通じて公正価値で測定される金融資産、(2)満期保有投資(償却原価による測定)、(3)売却可能金融資産(その他包括利益を通じて公正価値で測定)ならびに(4)貸付金および債権(償却原価による測定)により分類

IFRS第9号

  • 金融資産を(1)償却原価で測定、(2)公正価値で測定のいずれかに分類する。これは、その金融資産を管理する企業のビジネスモデルと、その金融資産に係る契約上のキャッシュ・フローの特性との両方に基づいて決定される

2015年1月1日以後開始する事業年度(完全版の公表により削除)

2010年
10月28日

金融負債の分類および測定

  • IAS39号とおおむね同様の規定が設けられている

2015年1月1日以後開始する事業年度(完全版の公表により削除)

2013年
11月19日

ヘッジ会計適用の要求事項を緩和

  • ヘッジの有効性に関する要求事項の緩和
  • 非金融商品のリスク要素を個別に識別し、ひとつの構成要素のみをヘッジ対象とすることを許容

強制適用日は設定しない

2014年
7月24日

金融資産の分類および測定に関する規定を修正

  • 一部の負債性金融商品に関してFVOCIの測定カテゴリーを導入

減損の適用モデルの変更

  • 現行の発生損失モデルに代わる予想信用損失モデルの導入により損失の認識を早期化

2018年1月1日以後開始する事業年度

早期適用状況

以下では、日本におけるIFRS適用企業38社(2015年1月31日現在)のIFRS第9号早期適用状況を示しています。

 

【表2】IFRS第9号の早期適用(2009年度版、2010年度版)の業種別企業数(単位:社)

業種

IAS第39号

IFRS第9号
早期適用

合計

ガラス・土石製品

1

1

2

サービス業

2

2

4

医薬品

5

2

7

卸売業

0

7

7

化学

0

1

1

小売業

2

0

2

証券・商品先物取引業

1

1

2

情報・通信業

2

2

4

食料品

0

1

1

精密機器

1

0

1

電気機器

3

2

5

不動産業

1

0

1

輸送用機器

0

1

1

合計

18

20

38

【表2】から以下の3点が読み取れます。

  • IFRS第9号を早期適用する場合、要求される開示情報の増加が見込まれるため相応の準備が必要と思われるが、半数以上の企業(20社)が既にIFRS9(2009年度版、2010年度版)を早期適用している
  • 総合商社を中心とする「卸売業」では全ての企業(7社)が早期適用しているが、一方で「医薬品」では早期適用は7社のうち2社に留まっており、特定の業界において一定の傾向が見受けられる
  • IFRS第9号適用の影響を最も強く受けると想定される金融・保険業ではIFRS適用企業が2社のみであり、特定の傾向は見受けられない

なお、現状(2015年1月31日)において、「卸売業」の1社(3月決算)が2013年版のIFRS第9号(ヘッジ会計)を早期適用している旨が四半期報告書にて開示されています。

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。