IFRSを開示で読み解く(第7回)重要な会計方針に関する開示

2015-04-10

あらた監査法人
財務報告アドバイザリー部
小峰 光

IFRSでは、重要な会計方針の概要として下記の事項を注記において開示する必要があります(IAS第1号「財務諸表の表示」第117項参照)。

  • 財務諸表を作成する際に使用した測定基礎
  • 財務諸表の理解に関連性のある使用したその他の会計方針

IFRSでは日本基準と異なり、開示すべき会計方針が例示列挙されておらず、代わりに「その開示が、取引、その他の事象及び状況が業績や財務状態の報告にどのように反映されているのかを利用者が理解するのに役立つかどうかを検討する」というガイダンス(IAS第1号第119項)が示されています。経営者は会計方針を開示すべきかの決定にあたり、財務諸表利用者の理解に関連性があるかどうかを検討しなければなりません。
一方で、金額に重要性がない場合であっても企業の営業活動の性質上重要な項目については開示が求められ、会計方針の開示は定量的のみならず定性的な側面も考慮する必要がある点は、IFRSと日本基準で同様です。

IFRSにおける重要な会計方針の開示の特徴として記載のボリュームが多いという点が挙げられます。以下では、IFRS適用企業について、IFRS適用前と比較して重要な会計方針の開示の頁数がどれだけ増加したかについて分析を実施しました。具体的には、IFRS適用企業38社(2015年3月10日現在)のうち、IFRSに基づいて作成した有価証券報告書を提出している企業30社を対象として、IFRS移行前に適用されていた会計基準を調査し、直近の会計年度(3月決算企業の場合は2014年3月期)の有価証券報告書(IFRS)にて開示されている重要な会計方針の頁数と、IFRS移行前の年度の有価証券報告書にて開示されている重要な会計方針の頁数につき比較を行いました。

上記の分析対象企業30社について、IFRS移行前に適用していた会計基準は以下のとおりです。


【表1】IFRS適用企業のうちIFRSに基づく有価証券報告書を提出済みの企業におけるIFRS移行前の会計基準

IFRS移行前に適用していた会計基準

企業数

日本基準

22

米国基準

6

IFRSを適用して新規上場したため対象外

2

合計

30

上記の【表1】の企業30社のうちIFRSを適用して新規上場した企業2社を除く28社につき、IFRS移行前に適用していた会計基準ごとに、直近の会計年度の有価証券報告書(IFRS)における重要な会計方針の頁数と、IFRS移行前の年度の有価証券報告書(日本基準もしくは米国基準)における重要な会計方針の頁数を比較したのが以下の【表2-1】および【表2-2】になります。


【表2-1】IFRS移行前に日本基準を適用していた企業に関する平均開示頁数の比較

業種

平均開示頁数

日本基準

IFRS

電気機器(2社)

2

7

精密機器(1社)

3

12

卸売業(2社)

4

9

ガラス・土石製品(2社)

4

9

食料品(1社)

4

9

サービス業(2社)

4

12

証券・商品先物取引業(2社)

4

10

情報・通信業(2社)

4

11

不動産業(1社)

3

6

医薬品(6社)

3

7

小売業(1社)

3

9

合計(22社)

3

9



【表2-2】IFRS移行前に米国基準を適用していた企業に関する平均開示頁数の比較

業種

平均開示頁数

米国基準

IFRS

電気機器(1社)

4

6

卸売業(5社)

6

11

合計(6社)

6

10

【表2-1】および【表2-2】によれば、IFRS移行前に適用している会計基準(日本基準/米国基準)および業種にかかわらず、IFRS移行後の直近の会計年度の重要な会計方針の記載量は移行前と比較して一律増加していることが分かります。また、日本基準の開示においては開示頁数が3頁程度と業種にかかわらずほぼ一定であるのに対して、IFRSの開示においては頁数が6頁から12頁と業種によってばらつきが見られます。これは、日本基準では、連結財規で開示すべきと例示列挙されている会計方針の他に、各社個別の状況に基づいて重要な事項は開示すべきと定められてはいるものの、連結財規で例示列挙された会計方針のみを開示するケースが多いことに起因すると推察されます。また、IFRSでは、経営者はその開示が取引、その他の事象および状況が業績や財務状態の報告にどのように反映されているのかを利用者が理解するのに役立つかどうかの観点から、ある特定の会計方針を開示すべきかどうかを決定することによるものと推察されます。

次に、上記の【表1】に記載のIFRSに基づいて作成した有価証券報告書を提出している企業30社を調査対象として、直近の会計年度(3月決算企業の場合は2014年3月期)の有価証券報告書にて開示されている重要な会計方針の項目数と頁数につき業種別かつ項目内容別の分析を行いました。

【表3】IFRS適用企業のうちIFRSに基づく有価証券報告書を提出済みの企業における重要な会計方針の開示の業種別比較

(注)重要な会計方針として記載されている項目のみを集計対象としています。従って、例えば、セグメント情報、会計上の見積り・判断、未適用の新たな基準書等、重要な会計方針の外で開示されているケースが多い項目については、上記の表には集計されないため開示対象項目数が少ない結果となっています。

【表3】によれば、重要な会計方針の開示項目数および頁数ともに多い業種として精密機器と卸売業が挙げられます。これは、多くの企業が重要な会計方針の外で開示している項目(測定の基礎、組み替え、未適用の新たな基準書等)について、上記の業種に属する企業は重要な会計方針の欄に記載している点が要因として挙げられます。また、卸売業を構成する商社は、ビジネスの性質上、石油・ガス・鉱物の採掘活動や農業会計およびサービスコンセッション等、他の業種ではビジネスを行っていないため開示対象となっていない項目について開示している点も挙げられます。さらに、開示頁数という観点からは、卸売業は特に収益認識に関する記述のボリュームが他の業種よりも比較的多い傾向が見られます。対して、医薬品と小売業は開示項目数および頁数ともに他業種と比べて少ない傾向が見られます。

以上で見てきたように、IFRSにおける重要な会計方針の開示に当たっては、従前の日本基準と比較して経営者による判断が要求され、かつ開示の拡大も見込まれるため、事前の十分な準備と検討が必要となります。

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

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