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2015-04-30
あらた監査法人
財務報告アドバイザリー部
富田 大雅
今回は、IFRS適用開示済企業(以下、IFRS適用企業)の固定資産の耐用年数変更事例についてご紹介したいと思います。
国際財務報告基準(以下「IFRS」)における固定資産の耐用年数は、企業にとって利用可能であると予想する使用期間(経済的耐用年数)、あるいはその資産から得られると予想される生産高(または類似する単位数)のいずれかで決定します(IAS第16号「有形固定資産」第6項、IAS第38号「無形資産」第8項)。
また、IFRSでは、資産項目を重要な各構成部分に配分して個別に減価償却を行う考え方(以下、コンポーネント・アプローチ)を採用しています(IAS第16号第44項)。例えば、航空機に関して、IFRS適用に当たり、当該資産を重要な構成部分(機体、エンジンなど)に細分化し、細分化した単位で異なる耐用年数を適用することが考えられます。
日本の会計実務では、「減価償却に関する当面の監査上の取り扱い(監査・保証実務委員会報告第81号)」において、不合理と認められる事情がない限り、税務上の法定耐用年数を採用することが、監査上妥当なものとして取り扱われています。そのため、多くの企業で税務上の法定耐用年数を採用するケースが見受けられます。
このことから、IFRSを適用する企業は、経済的耐用年数と税務上の法定耐用年数との間の重要な乖離の有無について検討が必要となる可能性があります。また、重要な構成部分に区分することが必要な資産を有している場合、当該資産を重要な構成部分に配分する調整が必要となる可能性があります。 以下、日本における下記のIFRS適用企業38社(2015年3月23日時点)を調査対象として、固定資産の耐用年数変更事例について分析します。
IFRS適用企業(2015年3月23日現在)
業種 |
企業数 |
卸売業 |
7 |
医薬品 |
7 |
電気機器 |
5 |
情報・通信業 |
4 |
サービス業 |
4 |
ガラス・土石製品 |
2 |
証券・商品先物取引業 |
2 |
小売業 |
2 |
化学/食料品/精密機器/輸送用機器/不動産業(各業種1社) |
5 |
合計 |
38 |
まず、IFRS適用企業が、固定資産の耐用年数を変更しているか否かについて確認した結果は、以下のとおりです。
耐用年数変更の有無 |
企業数 |
IFRS適用時に変更している…(1)参照 |
5 |
IFRS適用直前年度に変更している…(2)参照 |
4 |
変更していない…文末参照 |
29 |
合計 |
38 |
(注)便宜上、従来商標権を償却資産としていたが、IFRS適用時に耐用年数を確定できない無形資産に変更した企業は、「変更していない」ものとして扱っている。
以下、(1)でIFRS適用時に耐用年数を変更した企業についての分析を行い、(2)でIFRS適用直前年度に耐用年数を変更した企業についての分析を行うこととします。
IFRS適用時に、耐用年数を変更したIFRS適用企業5社についての開示事例分析を行います。
IFRS適用時に、「耐用年数の変更」に関する記載がある企業
業種 |
企業数 |
精密機器 |
1 |
電気機器 |
1 |
医薬品 |
2 |
情報・通信業 |
1 |
合計 |
5 |
上記5社は、いずれも日本基準から移行した企業となっています。耐用年数の変更に係る調整は、初度適用の注記で記載しており、IFRS第1号の免除規定に基づくみなし原価の適用や(IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」第D5項)、減価償却方法の変更と合わせて調整額を開示する傾向にあります。
耐用年数を変更した固定資産を、勘定科目別に区分した結果は下記のとおりです。なお、上記5社のうち2社に関しては、IFRS適用前に固定資産科目別の耐用年数を開示しておらず、勘定科目を確認できなかったため、3社に関してのみ記載しています。
耐用年数を変更した固定資産科目
業種 |
科目分類 |
||
建物(附属設備含む) |
機械装置または |
販売権 |
|
精密機器(1社) |
1社 |
1社 |
- |
医薬品(1社) |
- |
1社 |
1社 |
情報・通信業(1社) |
1社 |
- |
- |
合計(3社) |
2社 |
2社 |
1社 |
5社はIFRS適用時に、減価償却方法・耐用年数の見直しを行ったことによる移行日現在の資本に対する調整の影響額を記載しています。
IFRS適用直前年度に、耐用年数を変更したIFRS適用企業4社についての開示事例分析を行います。
IFRS適用直前年度に、「耐用年数の変更」に関する記載がある企業
業種 |
企業数 |
ガラス・土石製品 |
1 |
医薬品 |
1 |
小売業 |
1 |
電気機器 |
1 |
合計 |
4 |
上記4社は、(1)の企業と同様、従来日本基準を採用していた企業です。
いずれの企業も、IFRS適用直前年度の有価証券報告書において「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(企業会計基準第24号)」に基づき、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項の注記で、会計上の見積りの変更の内容を記載しています。
例えば、これらの企業では、「減価償却方法の変更を契機に、生産実態に応じた耐用年数に見直した結果」や「使用実態を見直した結果長期間使用可能である」もしくは「グループレベルでの将来の利用期間を考慮した耐用年数を適用することが合理的」であることを会計上の見積りの変更の内容として開示しています。当該固定資産の耐用年数の変更は、将来に向かって適用しています。
(1)の企業と同様、耐用年数を変更した固定資産を、勘定科目別に区分した結果は下記のとおりです。
耐用年数を変更した固定資産科目
業種 |
科目分類 |
|||
建物(附属設備含む) |
機械装置または |
工具器具 |
ソフトウェア |
|
ガラス・土石製品(1社) |
- |
1社 |
1社 |
1社 |
医薬品(1社) |
- |
1社 |
- |
- |
小売業(1社) |
1社 |
- |
- |
- |
電気機器(1社) |
- |
1社 |
- |
- |
合計(4社) |
1社 |
3社 |
1社 |
1社 |
会計上の見積りの変更の内容として、「利用・生産実態の見直し」、を挙げている企業が多いことから、製品製造で必須となる機械装置または運搬具の耐用年数を変更している事例が多く見受けられます。
なお当該4社は、IFRS適用時には、耐用年数の見直しを行ったことによる移行日現在の資本に対する調整の影響額は明記していません。
これは、IFRS適用直前年度において、利用・生産実態の見直しなどの事象を契機として耐用年数を変更している関係から、それより過去の時点では、利用・生産実態の見直しなどが必要となるような、合理的な見積を反映する事象が生じていなかったためであると考えられます。
最後に、耐用年数を変更していない29社については、従来から経済的耐用年数を固定資産の耐用年数として採用している、もしくは各資産の使用期間を調査した結果、従来の耐用年数と経済的耐用年数との間に重要な乖離が生じていなかったため、耐用年数を変更していないものと考えられます。
※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。