IFRSを開示で読み解く(第14回)収益の認識時点

2015-11-11

PwCあらた監査法人
成長戦略支援 製造・流通・サービス(MDS)本部
杉田 大輔

今回はIFRSの収益に係る開示について、IAS第18号「収益」における収益認識の会計方針を分析します(注1)。

IAS第18号では物品販売およびサービス提供に係る収益認識の会計方針に関する開示の要求として、「収益の認識に対して採用された会計方針(サービスの提供において取引の進捗度を決定するために採用された方法を含む)」(第35項(a))とのみ記載しています。よって、開示に関する具体的な要求内容はサービス提供において取引の進捗度の決定に用いた方法のみであることから、収益認識は、各種会計領域に関するIFRSの会計方針開示の中でも開示する企業の判断に委ねられる程度が高い領域と考えられます(注2)。
そのような状況を背景に、収益認識の会計方針の開示においては、具体的で詳細な開示例と一般的で簡潔な開示例との間に大きな差異が見られます。開示によって企業の事業・取引形態や会計処理の内容を詳しく説明したいと考える企業は、ビジネスや各取引およびその会計処理に則して詳細な開示を行っている一方で、開示内容は重要事項のみに限り簡潔に記載したいと考える企業は、基準に規定される要件等を列挙するのみの場合や、一般的な内容をごく簡潔に記載するにとどめる場合も多くみられます。ここでは、実際の開示例からどのような傾向があるか、典型的な論点の1つである収益認識時点にフォーカスし、(i)物品販売と(ii)サービス提供に分けて、見ていきます。
本稿における調査対象はIFRS適用企業68社(2015年10月31日現在)のうち、IFRSに基づいて作成した有価証券報告書を提出済みの企業60社です。

(注1):
収益について2014年5月28日にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が公表され、IFRS適用企業は早期適用が可能ですが、今回の分析はIAS第18号での開示を対象として行います。

(注2):
IAS第18号でカバーされない工事契約については、IAS第11号において収益の会計方針として「その会計期間に認識した工事契約収益を算定するために用いた方法」(第39項(b))と「進行中の工事契約の進捗度を決定するために用いられた方法」(第39項(c))についての開示要求がありますが、これらの開示内容も上記IAS第18号の要求から実質的に大きく異ならない開示の内容であると考えられます。

(i)物品販売

物品・商品の販売の収益認識時点については60社の調査対象中51社が開示を行っており(不動産の販売のみを開示している企業を含む)、そのほぼ全てがIAS第18号第14項の要件(物品の所有に伴う重要なリスクおよび経済価値の移転、継続的な管理上の関与がないこと、など第14項の要件(a)~(e)の内容を実質的に指すもの)に言及していますが、その中で大きく、IAS第18号の要件のみに言及している企業と、具体的な取引上の時点にも言及している企業に分かれます。下記【表1】のとおり、この各分類に対応する企業数は19社と32社であり、半数弱は、収益認識の会計方針としてIFRS適用企業全てが順守すべき収益認識時点の一般的要件のみを開示しており、残りの半数強は、具体的な取引・ビジネスの内容に少しなりとも言及していると言えます。

 

【表1】

収益認識の会計方針の開示の内容(物品販売)

該当する企業数

(1) IAS第18号第14項の要件のみを記載

19社

(2)取引上の時点を記載

32社

上記(2)のうち:IAS第18号第14項の要件も記載しているもの((2)‐a)

29社

IAS第18号第14項の要件を記載していないもの((2)‐b) 

3社

51社

また、【表1】の(1)と(2)‐aの分類を合わせ、物品販売の収益認識の会計方針について、第14項の5要件を記載している企業は60社中48社であることが分かります。ここから、第14項の5要件は収益認識時点に係る会計方針の開示として基準(IAS第18号)上の要求事項ではないものの、当該5要件を記載することは比較的定着した実務となっていることが観察されます。
これらの開示の分類についてのさらなる考察は下記のとおりです。

(1)IAS第18号の第14項の要件のみを記載している例

(1)の19社のうち、IAS第18号第14項の5要件を実質的に全て列挙している企業は18社です(原価と収益額の測定・見積りの要件について1つの節で述べる、などの例を含めた数)(注3)。これらの企業については、基準にある収益認識要件全てを記載していますが、該当する各商品・製品販売に係るビジネスや取引実態を踏まえてどのような時点で収益を認識しているかに関しては具体的に開示していません。

(注3):
5要件の全てを記載していない企業はリスクと経済価値の移転の要件(第14項(a))のみを記しています。

(2)取引上の具体的時点を記載している例((2)‐aおよび(2)‐b)

(2)の具体的な取引上の時点に言及している企業は、多様な表現で収益認識時点の通常の時点を記載しています。例示の形で複数の時点を示している場合もあるため、下記【表2】にまとめたとおり、企業数(32社)以上の時点が記載されています。
これら具体的に収益認識時点を示している企業の開示の大きな傾向は、実質的に商品の「引渡」を示す時点(「(顧客の)受け取り・受領」、「(顧客への)届け」、なども含む)を明記している企業が32社中31社あり、当該時点が収益認識時点の具体的な開示文言としてかなり一般的となっていることです。
一方で、引渡よりも一般に早い時点である「船積」もしくは「出荷」の時点を言及している企業は7社のみであり、また引渡よりも一般に遅い時点である「検収」を示す時点(「受入」を含む)に言及している企業は8社となっています。これはいずれも、開示例の数として引渡に比べかなり少ないだけでなく、「船積」、「検収」などが言及される例では全て、引渡を含めた他の時点と併記される形での開示となっています。
また、上記と比較して記載する企業数が少ない収益認識時点として「所有権の移転」があり、言及している企業は2社のみです。これはIAS第18号が法的内容よりも実質を重んじ、第14項(a)として「重要なリスクおよび経済価値」という概念を標榜していることに対応して、契約上・法律上の権利関係だけで判断するべきでないというIAS第18号の精神を多数の企業が汲んだことの表れであるとも考えられます。

【表2】

明記のある収益認識時点(物品販売)

該当する企業数

引渡、納品、受け取り、受領、届け

31社

検収、受入

8社

船積、出荷

7社

所有権の移転

2社

その他少数例:倉庫証券の交付、試運転、製品の設置、回収可能と考えられる時点、等

(ii)サービス提供

サービス提供に係る収益認識時点については60社の調査対象中37社が会計方針を記載しています。下記【表3】にまとめたとおり、(i)物品販売と同様にIAS第18号の収益認識要件の記載の有無を基準として分類した場合の開示例の分布をみた場合、IAS第18号の要件を記載していない例((4)‐b)が半数以上の17社あり、物品販売についての場合(上記(2)‐b)では3社とごく少数派であることと極めて対照的です。サービス提供の場合、IAS第18号上の要件を記載することは物品販売の場合と比べると慣行として必ずしも一般的でない、ということが推察されます。

【表3】

内容

該当する企業数

(3)IAS第18号第20項の要件のみを記載

7社

(4)取引に即した収益認識方法を記載

30社

上記(4)のうち:IAS第18号第20項の要件も記載しているもの((4)-a)

13社

IAS第18号第20項の要件を記載していないもの((4)-b) 

17社

37社

(3)IAS第18号第20項の要件のみを記載している例

IAS第18号第20項では、サービス提供取引について、進捗度の測定や収益額・発生原価・完了までの予定原価の測定などに係る4つの要件全てを満たす場合に取引の成果を信頼性をもって見積もることができるとし、その場合に「報告期間の末日現在のその取引の進捗度に応じて認識」することを要求しています。いわゆる「進行基準」の原則です。
物品販売の場合と同様、IAS第18号の要件のみを記載している例では、上記のようなIAS第18号の内容を記載していることにとどまり、例えば一般的な取引において進捗度をどのように決定するかなど、具体的な収益認識の方法について記載していません。

(4)取引に即した収益認識方法を記載している例((4)‐aおよび(4)‐b)

具体的な取引上の時点を記載している会社の収益認識時点の記載内容として比較的多くみられる文言としては、「サービス提供/契約期間にわたって」「契約期間で按分して」など、進行基準的に収益を認識することを明示したものや、「役務の提供が完了した時点で」など、サービスの完了を基準として認識することを明示したものがあります。(同時に、前二者よりも認識方法を明示しない「サービス提供時に」という文言も前二者とほぼ同程度の頻度で用いられています)
一方で企業が行うサービスの内容によっては、取引内容を踏まえてかなり具体性の高い文言が記載されている例もあります。例えば、下記のような文言がこうした具体性が高い開示と言えます。

  • 一定のインターネット広告について「ページビュー数等の実績に基づき」
  • 料理の提供について「顧客への料理の提供後、顧客の退店時点」
  • モバイルゲームのアイテム販売について「アイテムの性質に応じて、顧客のアイテムの利用時点または見積利用期間にわたり、サービスの提供が完了したと判断された場合」
  • 調査サービスについて「当社グループが成果物を提出した時点」

さて、サービス提供に関する収益認識時点の会計方針の開示で興味深いことは、開示すべき事項を定めた第35項(a)が要求している「サービスの提供において取引の進捗度を決定するために採用された方法」について、取引の進捗度を決定する方法を定めたIAS第18号第24項で規定している3つの方法(注4)のいずれであるかを明示的に言及している企業が少ないことです。これを明記しているのは3社のみにとどまり、下記のような表現になっています。

  • 「原則としてプロジェクト見積総原価に対する連結会計期間末までの発生原価の割合で進捗度を測定する方法を適用」、「契約開始時にマイルストーンが定められている場合は、マイルストーンによる測定を適用」
  • 「期末日における見積総原価に対する累積実際発生原価の割合に応じて収益を計上」
  • 「アイテム等の販売に係る売上収益は、役務提供の進捗度に応じて認識しており、その進捗度は、顧客によるアイテム等の利用実態を踏まえて見積もっております」

このようにサービス提供の収益認識時点に関しては、基準の開示要求に明示的にこたえている企業は多くはなく(一部の例では、時間の経過などによって進捗度を測定していることを暗示しているという整理も考えられますが)、全体として開示文言自体も物品販売に比べてシンプルで短い傾向がある一方で、具体性の高い開示を行う企業もあり、開示内容に多様性が見受けられます。

(注4):
IAS第18号第24項では下記の3つの方法を規定しています。
(a)提供したサービスの調査
(b)現時点までに提供済みのサービスが、提供しなければならないサービスの全体に占める割合
(c)現時点までの累計発生原価が、その取引の見積総原価に占める割合

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

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