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2016-02-22
PwCあらた監査法人
財務報告アドバイザリー部
森本 啓
IFRSの開示要求事項における特徴的な項目の一つとして感応度分析があります。感応度分析は一般的に、会計処理の前提として用いる為替や金利などの指標が一定水準変動することによって、どのような会計上の影響が生じるかを分析することをいいます。そこで、IFRS適用企業がどのような感応度分析を実施しているかについて取り上げました(分析対象は2015年12月現在のIFRS適用企業62社)。
まず、IFRSの要請について整理します。次の基準において、感応度に関する開示が規定されています。
1.IFRS第4号(保険契約)
保険リスクに対する感応度
2. IFRS第7号(金融商品:開示)
市場リスクの種類ごとの感応度(金利リスク、為替リスク、価格変動リスクなど)
3. IFRS第13号(公正価値測定)
公正価値ヒエラルキーのレベル3に区分される経常的な公正価値測定(市場価格等の観察可能な公表価格が存在しておらず、観察可能でない情報を使用して実施する公正価値測定)について、観察可能でないインプットの変動に対する公正価値測定の感応度(非上場株式等を公正価値評価する際に使用する成長率、割引率の変動による影響など)
4. IAS第19号(従業員給付)
確定給付制度債務の現在価値の算定に用いた重要な数理計算上の仮定についての感応度
5. その他の項目に係る感応度分析
上記のように基準ごとに感応度分析を開示すべき項目が規定されていますが、別途IAS第1号(財務諸表の表示)では会計上の見積りの不確実性について規定しており、「資産負債の帳簿価額の計算の基礎となる方法、仮定及び見積りに対する感応度」についての開示を要請しています。このことから、上記基準に該当しない項目であっても見積りが影響する項目について感応度分析を開示している事例が見受けられます。
今回は、上記の1~3の基準に関して、基準ごとにIFRS適用企業がどのような感応度分析を実施しているか紹介します。
IFRS第7号において規定されている市場リスクの種類ごとの感応度分析に関しては、非常に多くの企業(45社)が開示しています。開示している企業の多い順に、各リスクの開示内容を紹介します。
為替相場の変動については多くの企業が影響を開示しています。分析の対象としている通貨は次のとおりです。
分析対象としている通貨 |
社数(複数開示している場合あり) |
米ドル |
33社 |
欧ユーロ |
18社 |
英ポンド |
4社 |
豪ドル |
2社 |
人民元 |
2社 |
通貨を特に指定せずに、円(機能通貨)以外の通貨が一律に同比率で変動した場合の影響額を開示している企業も5社ありました。
各社とも実際の相場から「1%円高となった場合」や「機能通貨に対して機能通貨以外の各通貨が10%増加した場合」のような前提を設定し、その影響を分析しています。各社の開示している相場変動の方向は下記のとおりです。各社の為替に対する選好によって、違いが現れていると考えられます。
円高と円安のどちらの場合の影響を開示しているか |
社数 |
円高となった場合を開示 |
21社 |
円安となった場合を開示 |
15社 |
両方を開示 |
3社 |
言及なし |
1社 |
「税引前当期利益」への影響額を開示している企業が最も多く(28社)、その他の企業も何らかの各段階損益への影響額を開示しています。また、利益以外にも「資本」や「債権債務残高」等に対する影響を複数開示している企業もあります。全ての企業が金額単位で影響を開示しています。
各社によって記載は異なりますが、「金利変動の影響を受ける金融商品」「金利スワップ」「変動金利の借入金」など、金利変動の影響を受ける資産負債の項目を分析対象としています。
各社とも「金利が1%上昇した場合」や「金利が10bp上昇した場合」のような前提を設定し分析しています。全社で金利が上昇した場合の影響を分析しており、その内2社(楽天とマネックスグループ)は金利が下落した場合の影響も開示しています。
また、算定の前提として「金利変動以外の要因(為替等)は一定であること」や「金利スワップ取引により実質的に金利を固定した部分を除いていること」などを明記している企業が多くありました。
「税引前当期利益」への影響額を開示している企業が最も多く(22社)、その他の企業も何らかの各段階損益への影響額を開示しています。利益以外にも「資本」や「金融資産及び金融負債に係る現在価値」などに対する影響を複数開示している企業もあります。全ての企業が金額単位で影響を開示しています。
各社によって「保有する上場株式の市場価格の変動」や「保有する資本性有価証券の価格変動」のように記載は異なりますが、市場価格の変動によって保有する資本性有価証券が受ける影響を分析の対象としています。
各社とも「株価が10%下落した場合」や「市場価格が10%変動した場合」のような前提を設定しています。価格が下落する方向の前提を設定している企業の方が多く(10社)見受けられました。
IFRS第7号の第41項には「リスク変数(例えば、金利及び為替レートなど)間の相互依存性を反映するバリュー・アット・リスク(VaR)のような感応度分析を作成し、金融リスクを管理するために感応度分析を利用する場合には、開示要求に対して当該感応度分析を用いることができる」旨が規定されており、伊藤忠商事ではこの方法を適用しています。
影響を受ける対象として開示されている項目は下記のとおりです(VaR計測の伊藤忠商事を除く)。
何に対する影響を開示しているか |
社数(複数項目開示の企業あり) |
税引前当期利益 |
1社 |
純損益 |
1社 |
その他の包括利益(税効果考慮前) |
11社 |
その他の包括利益(税効果考慮後) |
2社 |
累積その他の包括利益 |
2社 |
資本 |
2社 |
(1)(2)で分析した2つのリスクとは異なり、資本性金融商品の価格変動を各社がその他の包括利益で認識していることがうかがわれます。
このセクションの最後の項目として、商社等に見られる商品の価格変動リスクに関する開示を紹介します。対象の商品及び各社が取り扱う商品の価格変動の影響に関して開示を行っています。
会社名 |
対象の商品 |
何に対する影響か |
三井物産 |
原油/JCC、連結油価、米国ガス、鉄鉱石、銅 |
当期利益 |
伊藤忠エネクス |
原油価格及び石油製品価格 |
税引前当期利益 |
伊藤忠商事 |
市場に影響されやすい市況商品 |
※VaR |
住友商事 |
貴金属、非鉄金属、燃料、農産物等 |
※VaR |
双日 |
保有する商品関連デリバティブ |
税引前当期利益 |
※伊藤忠商事及び住友商事では前述のVaR計測による方法を採用しています。
IFRS第13号においても「公正価値ヒエラルキーのレベル3に区分される経常的な公正価値測定について、観察可能でないインプットの変動に対する公正価値測定の感応度の記述的説明」を要求する記載があります。これに関して、ソフトバンク、マネックスグループ、ヤフー、三井物産、日立キャピタルの5社が感応度の記述的な説明を行っています。
※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。