{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2016-07-28
PwCあらた有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
住友 理恵
今回は、IFRS適用初年度に求められる調整表開示のうち、特に移行日の利益剰余金に関する調整に関してIFRS適用済企業の開示内容から分析します。
IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」では、従前の会計原則からIFRSへの移行が財務諸表に与える影響を説明するため、最初のIFRS財務諸表で「(i)IFRS移行日、(ii)従前の会計原則に従った企業の直近の年次財務諸表に表示されている最終期間の末日の資本の調整表」(第24項(a)参照)、および、「企業の直近の年次財務諸表における最終期間について包括利益合計額の調整表」(第24項(b)参照)を開示することを要求しています。
実際にIFRSを適用した日本企業の移行初年度の有価証券報告書で開示されている調整表について、分析を行います。開示内容が多岐にわたるため、今回は特にIFRS移行日の資本に対する調整の注記の中から、利益剰余金に与える影響についての開示に関して、以下の3つの観点から分析を実施します。調査対象は2016年4月末時点でIFRSを適用した有価証券報告書または四半期報告書を開示している74社です。
まず、調整表の注記において、IFRS移行日の利益剰余金の項目別の調整内容が開示されているか否か分析しました。その結果、調査対象企業の中で調整表の開示が要求されている71社のうち、54社がIFRS移行日の利益剰余金の調整項目の内訳を開示しており、17社が利益剰余金の調整項目の内訳を個別には開示していませんでした。
【表1】
利益剰余金の調整項目内訳開示 |
企業数(全74社) |
あり |
54社 |
なし |
17社 |
調整表作成対象外 ※ |
3社 |
※日本電波工業株式会社、HOYA株式会社およびトーセイ株式会社は国内財務報告では初度適用に該当しないため調整表の作成、開示は行っていない。
IFRS第1号では、調整表に関する注記の詳細さに関する規定は特段ありませんが、多くの企業がIFRS移行日の調整項目の内訳まで記載していることがうかがえます。
次に、IFRSへ移行したことにより従前の会計基準に比べ移行日の利益剰余金が増加しているのか、減少しているのかを調査しました。利益剰余金の増減額の記載を行っている企業69社のうち、53社が従前の会計基準に比べて利益剰余金が減少しているという結果でした。
【表2】
移行日利益剰余金の増減 |
企業数(全74社) |
増加 |
16社 |
減少 |
53社 |
利益剰余金の増減額開示なし |
2社 |
調整表作成対象外 |
3社 |
最後に、利益剰余金の調整項目の内訳開示を行っている54社を対象に、どのような項目による影響があるのかを調査しました。
利益剰余金の調整内容として個別に開示している項目で最も多かったのは、「従業員給付・退職給付に係る負債」に関連するもので、54社中34社が開示していました。具体的な調整内容としては、退職給付債務の期間配分について、日本基準では期間定額基準、IFRSでは給付算定式方式を採用するというもの、また、数理計算上の差異および過去勤務費用についての会計処理の差異などが挙げられます。
次に個別に開示している企業が多かった項目は「在外営業活動体の換算差額」で、54社中30社が開示しています。これはIFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」第D13項に規定されている免除規定を選択し、海外子会社に係る換算差額の累計額の残高を、移行日時点において全て利益剰余金に振り替える処理をしていることによるものです。
3番目に個別に開示している項目として多かったのは「未消化の有給休暇」で、54社中25社が開示しています。日本基準の下では会計処理が求められていなかった未消化の有給休暇について、IFRSでは負債として認識していることによるものです。
【表3】利益剰余金の調整内容として個別に開示している企業が多い項目
利益剰余金の調整項目 |
企業数(全54社) |
|
1 |
従業員給付・退職給付に係る負債 |
34社 |
2 |
在外営業活動体の換算差額 |
30社 |
3 |
未消化の有給休暇 |
25社 |
その他、有形固定資産関連の項目も比較的多く開示されており、有形固定資産(取得価額、償却方法の変更など)の調整を開示している企業が20社、みなし原価の適用が10社、減損が4社となっています。
調査の結果から移行日の利益剰余金に与える影響として開示されている項目は退職給付に係る負債や未払有給休暇などの従業員給付に関連する項目、在外営業活動体の換算差額のリセット、有形固定資産関連が比較的多く、これらの項目が移行日の利益剰余金に与える影響が大きい企業が多い傾向にあるようです。
※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。