IFRSを開示で読み解く(第34回)顧客との契約から生じる収益

2019-03-18

2019年3月18日
PwCあらた有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
藤田 悟

はじめに

2018年1月1日以後開始する事業年度より、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が強制適用されることとなりました。今回はIFRS第15号にて新たに開示が要求される項目のうち、四半期決算報告より開示が要求される「収益の分解」です。

収益の分解に係る基準

IFRS第15号で認識された収益は、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性がどのように経済的要因の影響を受けるのかを表す区分に分解(第114項)し、分解の程度は、顧客との契約に対する固有の事実及び状況に応じて決まるものとされています(第B87項)。区分の種類を選択する際には、収益に関する情報が他の目的でどのように表示されているかを考慮しなければならず(第B88項)、また当該区分は各報告セグメントについて開示される収益情報との関係を、財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を開示しなければならないとされています(第115項)。

収益の分解に係る開示事例の紹介

IFRS第15号は、2018年1月1日以降の開始する事業年度から強制適用となり、収益の分解に関する開示は四半期決算報告でも要求される(IAS第34号第16A(l)項)ため、早期適用した企業も含めて、既に多くの開示事例を確認することができます。その中でいくつかの事例を以下でご紹介します。

事例1‐「a.財又はサービスの種類」の区分で開示した会社(業種:サービス)

IFRS第15号適用直前では、IFRS第8号(セグメント)に基づいた売上高の開示において、「組織開発ディビジョン」、「個人開発ディビジョン」及び「マッチングディビジョン」の事業別に開示をしていました。IFRS第15号に基づく収益の分解の開示においては、各事業をさらにサービス別に細分化して開示しています。

事例2‐「a.財又はサービスの種類」と「b.地理別区分」の区分を組み合わせて開示した会社(業種:化学)

IFRS第15号適用直前期では、IFRS第8号に基づいた売上高の開示において、「ビューティケア事業」、「ヒューマンヘルスケア事業」、「ファブリック&ホームケア事業」(総称して、コンシューマープロダクツ事業)及び「ケミカル事業」の事業別に開示していました。IFRS第15号に基づく収益の分解の開示においては、「ビューティケア事業」をさらに細分化して、「化粧品」と「スキンケア・ヘアケア製品」に区分しています。

事例3‐「a.財又はサービスの種類」と「c.市場又は顧客の種類」の区分を組み合わせて開示した会社(業種:サービス)

IFRS第15号適用直前期は、IFRS第8号に基づき単一セグメントとして、基準の要求事項に従いサービス別の開示を提供していました。IFRS第15号に基づく収益の分解の開示においては、サービス別区分を横軸に、縦軸には『顧客の業種別』に区分して開示しています。

事例4‐「a.財又はサービスの種類」に加え、「f.財又はサービスの移転の時期」の区分で開示した会社(業種:情報・通信業)

IFRS第15号適用直前期は、IFRS第8号に基づき単一セグメントとして、基準の要求事項に従いサービス別の開示を提供していました。IFRS第15号に基づく収益の分解の開示においては、サービス別開示及び、新たに『収益認識の時期』に区分して開示しています。

事例5‐「a.財又はサービスの種類」と「b.地理別区分」の区分の組み合わせに加え、「f.財又はサービスの移転の時期」の区分で開示した会社(業種:電気機器)

IFRS第15号適用直前期は、IFRS第8号に基づいた売上情報は事業別であり、また基準の要求に従い、製品別、地域別の開示も行っていました。IFRS第15号に基づく収益の分解の開示においては、地域情報を横軸に、縦軸は事業を製品分野別に細分化し、また新たに『収益認識の時期』の区分を設けて開示しています。

事例6‐「a.財又はサービスの種類」と「c.市場又は顧客の種類」の区分を組み合わせて開示した会社(業種:サービス)

IFRS第15号適用直前期は、IFRS第8号に基づいた売上情報は、事業別に開示していました。IFRS第15号に基づく収益の分解の開示においては、事業別情報を横軸に、縦軸は『顧客の業種別』に区分して開示しています。

まとめ

上記のように、IFRS第15号で収益の分解開示が要求されるようになったことで、事業の財務業績を評価するために検討していると考えられる区分を開示しているように見受けられます。

事例1は各事業内のサービスを細分化、事例2は主力事業内の製品を細分化し、事例3及び6は顧客を業種別に区分し、事例4及び5は収益認識の時期を分解の開示区分としています。

この分解の開示により、企業の事業活動における着眼点が以前よりも明瞭になっていると考えられます。

また、IFRS第15号早期適用企業において、企業の業種別に収益の分解の開示区分を調査(調査時点:2018年7月27日、企業数:45社)し、業種の収益の分解開示区分を整理しました。

下表から、同業種・異業種間で「財又はサービスの種類」という開示区分で比較検討することが、多くのケースで可能になったと考えられます。

(注1)括弧書き内に調査した会社数を表示しています。

(注2)各開示区分を設けている会社数を表示しています。括弧書き内の会社数は、当該開示区分以外の開示区分も設けている会社数となります。
サービス業においては、「財又はサービスの種類」と「市場又は顧客の種類」の両方を開示区分として設けている会社が1社、「財又はサービスの種類」と「財又はサービスの移転の時期」の両方を開示区分として設けている会社が1社あります。
情報・通信業においては、「財又はサービスの種類」と「財又はサービスの移転の時期」の両方を開示区分として設けている会社が1社あります。
電気機器においては、「財又はサービスの種類」と「財又はサービスの移転の時期」の両方を開示区分として設けている会社が1社あります。

以上

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。