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2022-04-08
2022年4月8日
PwCあらた有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
「IFRSを開示で読み解く」(第40回)では有価証券報告書に焦点を当て、経営者が有価証券報告書で表示・開示している損益関連の業績指標の分析を行いました。本稿では有価証券報告書を含む5つの開示資料「有価証券報告書(*)」「決算短信」「中期経営計画」「決算説明会資料」「統合報告書」(以下、総称して「投資家向け開示資料」という)における業績指標の開示状況、算定方法、使用状況について総合的に分析します。
(*)本稿における「有価証券報告書」は、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(以下、MD&A)のみを対象とし、経理の状況で開示される連結財務諸表等を含みません。
なお、本稿では前回(第40回)同様、2021年8月時点の日経225銘柄のうち、その直近の有価証券報告書でIFRS連結財務諸表を公表している81社を対象として、公表されている投資家向け開示資料を基に分析を行いました。
本稿における基礎情報は掲載当時のものであり、意見にわたる部分は筆者の見解であることをあらかじめ申し添えます。
投資家向け開示資料における業績指標の開示状況について、81社を対象に調査を行いました(図表1)。ある企業が複数の業績指標を使用している場合は、それぞれの業績指標においてその企業を集計に含めています。
調査対象企業の全てが「売上収益」と「当期利益」を業績指標として用いており、「税引前利益」も、ほとんどの企業(77社)が用いていました。「営業利益」は多くの企業(71社)で開示され、「営業利益」や「税引前利益」から調整した「事業利益」などが開示されるケースもありました。また、少数であるため図表1には含めていませんが「Non-GAAP営業利益」や「戦略事業営業利益」などの名称で業績指標を開示している企業もありました。本稿で定めた投資家向け開示資料においては、損益計算書に比べ多様な業績指標が用いられているようです。
IFRSでは、損益計算書における売上収益と当期利益の間の段階損益の表示に関して定義が定められていません。そのため、売上収益と当期利益の間で使用される業績指標の名称はさまざまであり、またその名称が同じであっても企業によって算定方法が異なっているケースがあります。中でも売上総利益と税引前利益の間の業績指標については、定義と算定方法が各社によって異なっています。
財務諸表以外で開示している業績指標について、各社の投資家向け開示資料から売上総利益と税引前利益の間の業績指標に絞って算定方法を分析したところ、大きく以下の5通りに分類できました(図表2)。
まず、売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費(以下、販管費)を差し引いた、日本基準上の営業利益に相当する業績指標(算定方法①)を使用している企業は23社あり、その業績指標を「営業利益」と称している企業が9社、営業利益ではない名称を用いている企業が14社ありました。次に、売上収益から売上原価、販管費、その他の収益および費用を加減した業績指標(算定方法②)を用いている企業は43社あり、その全てがその業績指標を「営業利益」と称していました。
一方、売上収益から売上原価と販管費を差し引き、持分法による投資損益を加減した業績指標(算定方法③)を用いている企業は4社と少数でした。また、売上収益から売上原価と販管費を差し引き、その他の収益および費用と持分法による投資損益を加減した業績指標(算定方法④)は20社あり、うち「営業利益」と称している企業が18社、営業利益ではない名称を用いている企業が2社ありました。その他の企業では、損益計算書における業績指標(営業利益など)から特定の収益や費用項目を調整した業績指標(算定方法⑤)を使用していました。
また、「営業利益」を業績指標として使用している71社は、同じ名称を使用していても算定方法が異なっていました。算定方法①から④まで4パターンあり、算定方法②(43社)が最も多く、続いて算定方法④(18社)が多く使用されていました。
算定方法⑤は、特定の収益や費用項目を足し戻すなどして調整しています。損益計算書における業績指標(営業利益など)の算定過程に含まれる各収益、費用項目のうちいずれを調整項目として足し戻しているかは⑤を用いている20社の中でも多様であり、主な調整項目は以下のとおりです(図表3)。
図表3のとおり、算定方法⑤の調整項目には、減損損失・戻入益、構造改革・事業再編損益、固定資産除売却損益など、日本基準であれば特別損益に分類されることが多い項目が多く含まれていました。続いて買収に関連する費用が多くあり、これらは恒常的な業績や将来の見通しを把握するうえで、有用と考えられる業績指標を投資家向け開示資料の利用者に提示したいという経営者の意向を表していると考えられます。
投資家向け開示資料の種類ごとに、業績指標の使用状況を調べました。ここでは、図表1の上位5つの業績指標(売上収益、売上総利益、営業利益、税引前利益、当期利益)に絞って調査しました(図表4)。
投資家向け開示資料の全てにおいて、「売上収益」と「当期利益」を用いて業績や将来の見通しを説明している企業が多く、続いて「営業利益」を用いている企業が多くありました。
有価証券報告書のMD&Aにおいては、業績の概況が説明されています。「売上収益」を用いて事業活動の規模を示し、「当期利益」を用いて事業活動の成果を示しており、これらは有価証券報告書に収録される財務諸表の必須表示項目であることから、「売上収益」(81社)と「当期利益」(79社)が多く用いられていると考えられます(図表4①)。決算短信の「経営成績等の概況」もこれとほぼ同じ結果となり、「売上収益」(80社)と「当期利益」(76社)が多く用いられていました(図表4②)。
統合報告書においては、「売上総利益」を用いる企業が44社あり、他の投資家向け開示資料と比較すると売上総利益を用いる企業が多い傾向にありました(図表4③)。これは、法律(金融商品取引法)に基づき作成している有価証券報告書や取引所の規制に基づき作成している決算短信と異なり、統合報告書の作成は義務化されているものではないため、企業が比較的自由に示したい指標を複数示すことが可能であることが影響していると推察されます(図表4①、②、③)。
有価証券報告書、決算短信、決算説明会資料には平均して4つ前後の業績指標が用いられていましたが、中期経営計画では複数の業績指標を用いている企業は少なく、平均使用指標数が1.8と少ない傾向にありました(図表5)。これは、中期経営計画では業績指標数を絞ることで企業が将来に向けて注力すべきポイントをより明確にすることができるためと考えられます。
中期経営計画において「当期利益」のみを業績指標として掲げている企業は10社であり、他の単独指標(営業利益のみを業績指標とする)よりも多い傾向でした。うち7社は卸売業を営んでいました。一方、営業利益のみを業績指標として用いた企業(6社)は全て製造業であり、業種によって一定の傾向がみられることから、業種の特性や同業他社との比較可能性などが考慮されたと推察されます。
また、中期経営計画において「売上収益」を業績指標として用いている企業の中には、重点事業における売上収益や海外における売上収益などについて、より具体的な指標を設定している企業がありました。このことから、どの分野を土台に成長を目指すのかを中期経営計画において明確にしていることがわかります。
なお、中期経営計画において「税引前利益」を使用している企業はありませんでした(図表4④)。
決算説明会資料では、有価証券報告書、決算短信、統合報告書と比較して「税引前利益」を使用する企業が少なく、42社にとどまりました。非製造業を営む企業が「税引前利益」を使用する割合(22社のうち8社)は、製造業の割合(59社のうち34社)よりも低い傾向にあることがわかりました(図表4⑤)。
業績指標シリーズの第2弾として、本稿では5つの投資家向け開示資料における業績指標の開示状況や算定方法、資料ごとの使用状況について紹介しました。
企業が使用する業績指標の名称はさまざまであり、例えば営業利益は同じ名称であっても算定方法が企業によって異なっている事例や、算定方法は同じでも名称が異なっている事例が見られました。
5つの投資家向け開示資料で開示されている内容もさまざまであり、資料の用途によって開示する内容も異なることがわかりました。有価証券報告書と関連性が深い決算短信や決算説明会資料では、「売上収益」「営業利益」「税引前利益」「当期利益」などの業績指標を使用する企業が多い傾向にありました。また、比較的自由度の高い統合報告書では、他の開示資料と比べて最も多くの業績指標(平均4.5個)を使用している一方で、中期経営計画では当期利益のみを開示する企業が見られるなど、使用する業績指標の数が少ない(平均1.8個)という特徴があることがわかりました。
本連載の前回(第40回)と本稿を通じて、投資家向け開示資料における業績指標の開示状況を見てきました。IFRSに基づく企業情報の開示の参考として頂けますと幸いです。
※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。