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2023-06-30
2023年6月30日
PwCあらた有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
「IFRSを開示で読み解く」(第42回)では、日本のIFRS適用企業におけるのれんの減損損失の認識状況について調査しました。本稿では、のれんの減損テストに関する開示要求事項と開示状況について紹介します。
開示状況の調査対象は第42回と同様、2022年9月末時点でIFRS連結財務諸表を公表している上場企業(251社)のうち、5期前であるFY17*1以前よりIFRS連結財務諸表を開示(155社)し、かつFY17の期首にのれん残高がある112社の有価証券報告書としました。
*1 2017年1月1日から2017年12月31日に開始する事業年度。以下、各事業年度をFYで表記。
本稿における基礎情報は掲載当時のものであり、意見にわたる部分は筆者の見解であることをあらかじめ申し添えます。
日本基準では、減損損失が生じていなければ減損テストに関わる開示は不要ですが、IFRSではIAS36号「資産の減損」において、減損の有無に関わらずのれんの減損テストに関わる開示が求められています。
減損テストにおける回収可能価額は、処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額によって測定(IAS36号18項)されますが、開示内容は、その算定方法に応じて異なります。
のれんの減損テストにおける回収可能価額の算定は、使用価値が実務上多く使用されています。なお、資産の処分コスト控除後の公正価値および使用価値の双方を算定することは、常に必要とは限らず、どちらか1つでも資産の帳簿価額を超過する場合には、資産は減損していないため、もう一方の金額を見積る必要はありません。また、使用価値が処分コスト控除後の公正価値を上回るケースが多いことから、使用価値が実務上多く使用されています。
調査対象企業112社においても、使用価値に関する開示が多く行われていました。図表1では、調査対象112社の企業において使用価値について開示されていたのれんの減損テストの単位(以下、開示単位)数を調査し、集計したものを表しています。
ここからは、回収可能価額が使用価値に基づいている場合の開示について見ていきます。
減損テストにおける回収可能価額が使用価値に基づいている場合、以下の事項を開示することも求められています(図表2)。本稿では以下の事項の中で、(iii)~(v)の開示がどのように行われているのかを、開示例をもとに調査・分析を行いました。
(参考)上記要求に対応した開示イメージを把握されたい場合は、以下リンク先から、PwCグローバルが作成した「2022年版 - IFRSに基づく連結財務諸表」のひな型(英日対訳形式)を入手できます。有料会員または無料登録会員の方は、以下のリンク先にサインイン後、左上の目次から年度を選択して、PDFファイルのダウンロードページに移動してください。
https://viewpoint.pwc.com/dt/jp/ja/pwc/illustrative_financi/illustrative_financi_JP/illustrative_financi_JP.html
調査対象企業112社について、使用価値に関する開示が行われていたのれんの減損テストの単位の直近5期間における開示状況を調査しました。
(1)CF予測の対象となった期間
まず、CFの予測の対象期間の開示状況をまとめました(図表3)。
IAS36号33項(b)において、CF予測の対象期間は最長5年間(ただし、より長い期間が正当化できる場合を除く)とされています。本稿の調査においても、図表3に示すとおり、5年を対象としている開示例が最も多いことが分かりました。また、中期経営計画は一般的に3~5年で作成されることが多いことから、3年を対象としている開示例も比較的多くありました。
(2)CF予測期間経過後の成長率
次に、CF予測期間経過後の成長率に関する開示状況をまとめました(図表4)。
IAS36号33項(c)においては、直近の予算・予測の期間を超えたCF予測は、後続の年度に対し一定の、または逓減する成長率を使用した予算・予測に基づくCF予測を推測して延長することにより見積らなければならない(逓増率が正当化できる場合を除く)とされています。この成長率は、企業が営業活動をしている製品、産業もしくは国、または当該資産が使用されている市場の、長期平均成長率を超えてはならない(より高い成長率が正当化できる場合を除く)とも規定されています。
CF予測期間経過後の成長率の記載があった開示例のうち、最も多く開示されていた成長率は図表4のとおり、1%以下でした。内閣府が発表している経済成長率(※)の資料を元に算出した各期における過去10年間の日本の平均成長率は0.3%から1.0%の間にあることから、国内事業では日本の長期平均成長率より低い成長率が使用されていることが窺えます。
一方で、より高い成長率を見込んでいるケースは、新興国を中心とした海外市場の、特にAIやDXなど成長分野と考えられる事業が多いことが開示から見受けられました。
また図表4に示すとおり、業種別ではサービス業や情報・通信業においては幅広い成長率が使用されていましたが、医薬品・化学や卸売業・小売業では高い成長率は使用されていないことが推察されました。
※出典:2021年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA)。(1) 国内総生産(支出側)実質
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2021/2021_kaku_top.html
上記年度別情報の増減率をもとに、調査年度の過去10年間の増減率を単純平均して導出。
(3)CF予測に適用した税引前割引率
続いて、税引前割引率の開示状況をまとめました(図表5)。
金利やリスクの状況を反映してか、近年は、より高い割引率を使用するケースが増えています。特に、金利が低い国内市場に関連するのれんの場合に比べて、海外市場に関連するのれんの場合、減損テストにおいて比較的高い割引率を適用していることが見受けられました。業種別では、サービス業や情報・通信業において比較的高い割引率が使用されていることがうかがえました。
なお、資産に固有のリスクは将来CFの見積り、もしくは、割引率のいずれかに反映させますが、割引率の方にリスクを反映させる場合には、一般的に割引率はより高いものとなります。
「のれんの減損―IFRS適用後」シリーズの第2弾として、本稿では日本のIFRS適用企業におけるのれんの減損テスト(使用価値)に関する開示状況について紹介しました。
減損テストに関する開示は、財務諸表利用者や規制当局が注視している領域であり、特に経済や地政学的な不確実性が高まっている時期に注目が集まることが見込まれます。使用価値に関する開示においては、税引前割引率や予算などの対象期間を超えるCF予測の推定に用いる成長率以外に、減損テストに使用された全ての「主要な仮定」についての開示が必要になるので留意が必要です。また、IAS36号134項に従った減損リスクや感応度分析などの開示も含め、個社の状況に応じて個別具体的な検討・開示が求められます。
本連載の第42回と本稿を通じて、IFRSに基づくのれんの減損開示の参考としていただけますと幸いです。
※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。