万能ではないAI―得意なこと、苦手なこと

2021-07-29

人工知能(AI)の進歩は目覚ましく、万能性を期待する人もいるかもしれない。しかし、AIが高い性能を発揮できるのは、学習させるために与えたデータからわかることに原則限られる。

まず、学習させるデータからパターンを導き出す際、結果に重要な影響を及ぼす要因が含まれていない場合、期待する結果を導出することは現時点では難しい。

例えばコンビニの店舗別売上高を予測することを考えてみる。仮にAIに各店舗のアルバイトの数を入力しても店舗ごとの売上高の違いを正確に予測することは困難であろう。立地、客層、店舗面積、天気、あるいは過去の売上高など、店舗間の売上高の違いに影響を与えていそうな情報を追加する必要がある。

これは分かりやすい例なのでどのデータが売上高に影響しそうか推定できるが、そうでないこともある。その場合、データの種類はそのままに量を増やしたり分析手法を変えたりして解決しようとしても、そもそもデータの中に予測に重要な要素がないため、精度の改善が見込めない。最終的にはAIに失望してしまうことになる。

また、過去に起きておらず、かつ大きく変化した事象について予測することも非常に困難である。例えば、コロナ禍における消費動向などの予測にコロナ禍前のパターンを当てはめても人々の価値観や行動様式が大きく変わったため、高い精度は望めないだろう。

人間であれば経験から容易に判別できるようなことも苦手だ。例えば、動物の写真を学習させても漫画の動物を認識できず、また物体の背景を変えただけでも同じ物体と識別できないことが往々に起こる。AIは人間と比べてパターンを導出したデータとの微細な条件の違いにも影響を受けるのだ。

こうした特性を踏まえ、ビジネス活用を検討する際に2点を意識したい。1つは業務に影響している要素を洗い出し、データとして使える状態かを机上で確かめることだ。もし不足があれば、まず取り組むべきはデータの収集・蓄積となるし、収集が難しければ、導入対象の見直しが必要だろう。

もう1つは、環境が安定した領域から取り組むことだ。パターンがすぐ変化する業務は避け、同じようなロジックを高頻度、長い期間適用できる領域から攻めるべきだ。例えば、いきなり個別性の高い経営判断に挑むよりは、日々繰り返し発生する定型業務から適用するのが、成功への近道だろう。

AIが高性能を発揮できないのは
学習データに結果を導く要素がない場合
  • パターン導出に必要な情報が不足
    →データ量や解析法の変更では対処困難
学習時と予測時でパターンが変わる場合
  • 状況が変わり、学習したデータに含まれないパターンが出現
    →AIは過去の学習データのパターンに基づくため性能が低下

執筆者

塩谷 碩彬

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

※法人名・役職などは掲載当時のものです。

※本稿は、日経産業新聞2021年3月24日付掲載のコラムを転載したものです。見出しおよび図表は同紙掲載のものを一部修正/加工しています。

※本記事は、日本経済新聞社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

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