人工知能(AI)を経営に生かすといっても、そのイメージを持ちづらい経営層の方は少なくないのではないか。「AIを使えば、業績が結果として確定する前に、いち早く手を打ちやすくなる」と考えると分かりやすい。
私は2020年7月より最高経営責任者(CEO)として経営のかじ取りをしている。日々、多くの経営判断をしているが、事象の「原因」とその「結果」の因果関係が分かれば、より明確に判断でき、それを基に打つ一手も効果的なものになるだろう。その世界に近づく鍵となるのが、AIである。
従来、経営状況を把握するには業績などの数字が集計されるのを待たなくてはならなかった。このため、多くの企業が集計の早期化に努めた。決算を例にみると、連結ベースで1カ月近くかかった集計期間は、締め日から1週間後、3日後と短縮された。早期化したとはいえ、こうした経営判断スタイルは以前から続く「結果集計型の経営判断」と言うことができる。
この「結果集計型の経営判断」には2つの段階がある。1つ目は実態を正確にリアルタイムに把握できている段階、2つ目は結果と原因の因果関係を分析して確認できている段階である。経営判断の精度を高めるため、これまで1段階目については集計の早期化、2段階目については業務標準化や統合基幹業務システムなどの導入、分析などを通じて高度化してきた。ただ、いくら高度化しても「結果」から判断するので、精度にはおのずから限界がある。
ここにAIを活用するとどうだろう。期初の時点でAIによって期末の状態を予測し、その予測と目標の乖離(かいり)に対して経営施策を打つことが可能になる。つまり、経営者はAIが判断した根拠(因果関係)を基に、今後起こりうる経営状況を理解し、仮説検証して次の一手をいち早く打てることになる。
従来の「結果集計型の経営判断」に対し、こちらは「将来予測型の経営判断」と言ってもいいだろう。同じ経営判断でも、両者はアプローチの仕方も、打てる手も大きく異なるのである。
もちろん、AIもAIを活用する人間も完璧ではない。私もAIが出してきた予測値と仮説にあたる「原因」と「結果」を目にした時、自らの経験と勘が反発し、快く受け入れるのに時間を要した。
実際の業績などの数字が、AIが予測した数字より上向いていれば良いし、現状維持・下降していた場合はAIの精度の改善もしくは施策を見直す必要があるだろう。このプロセスが正にAIを経営に生かすということだ。AIは対立する相手ではなく、一緒に働くパートナーなのである。
AI活用のテーマは決算に限らない。あらゆる企業活動にAIは応用できる。最初に着手すべき領域に決まりはない。デジタルトランスフォーメーション(DX)の成熟度などと自社の経営状況の把握レベルをつかんだ上で、ビジョンを掲げ、企業独自のAI経営実現に向けたロードマップを描くことが肝要だ。