公開国別報告法案(オーストラリア)

2023-07-10

2023年4月6日、政府は、特定の大規模多国籍企業(国別(CbC)報告親事業体)に対し、CbC報告書の情報、および現在は非開示となっている追加税務・財務情報について、国・地域別に公開することを求める法案を公表した(4月28日までコメント募集)(注1)。法制化されれば、初の包括的・義務的公開CbC報告になろう。これは、グループ親会社がオーストラリアの事業体か外国事業体かにかかわらず、オーストラリアの居住事業体またはオーストラリアの恒久的施設を通じてオーストラリアで事業を行う大規模多国籍企業(MNE)に適用されよう。制定された場合、2023-24課税年度(注2)以後の所得年度において、公開CbC報告が求められよう(現在税務当局に提出している非公開のCbC報告とは別途)。追加で公開すべき情報には、以下が含まれる。

  • グループの「税へのアプローチ」の説明
  • 各国・地域におけるグループの実効税率
  • 各国・地域における関連者取引費用
  • グループが各国・地域で保有する無形資産(およびその簿価)のリスト

本追加情報の公開は、国際的にも独特で、自主的な税に関するグローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI 207)、オーストラリアの現在の非公開CbC報告制度、EUや英国における同様の公開CbCや公開税務戦略報告でも求められていないものである。

(注1)本措置の公表に先立ち、2023年3月16日、政府は、オーストラリアの公開企業(上場・非上場を問わず)に対し、その子会社に係る追加情報(税務上の居住地(国内法上の定義)、資本関係の明細、事業体種別など)を含む「連結事業体報告書」の公開(法人ウェブサイト内にある年次財務報告書内で開示)を求める透明化措置法案(2023年7月1日以後開始会計年度から適用見込み)を公表している(4月13日までコメント募集)。

(注2)オーストラリアの課税年度は、原則、7月1日から6月30日までである(法人は、例えば1月1日から12月31日などの代替年度の採用申請が可能)。なお、本法案によれば、2023年1月1日から本規定が適用される可能性がある。

公開CbC報告書の適用対象者

原則として、本新措置は、CbC報告グループのメンバーであるCbC報告親事業体に適用される。CbC報告親会社とは、個人以外で、年間のグローバル所得が10億豪ドル以上、かつCbC報告グループの他のメンバーによって支配されていない事業体である。CbC報告グループを構成するのは、個人以外で、会計上単一の(みなし)連結グループに属する事業体である。本措置は、一定の法人(constitutional corporations)である事業体((国外で設立された法人を含む)に適用される。本法案では、信託やパートナーシップも、関連する受託者またはすべてのパートナーが一定の法人である場合、CbC報告親事業体に含まれることが明示されている。なお、本法案によれば、ATO(税務当局)長官(Commissioner)は、特定(類型)の事業体について、公開CbC報告要件を免除できる(例えば、政府の予算プロセスなどで代替的開示や説明責任制度の対象になる政府関連機関などが免除される可能性がある)。

報告対象となる情報

CbC報告親事業体は、報告書に関連する所得年度の終了後12か月以内に、ATOが承認した書式で、公開CbC報告書を当局に提出することが求められる。ATOはその後、実務上可能な限り速やかに、その報告書を政府のウェブサイト(未特定)に公表しなければならない。公開CbC報告書には、グループの「税へのアプローチ」の説明を含めなければならない。これには一般的に、グループの税務戦略に関する詳細、税務戦略のレビュー・承認者、規制遵守に対するグループのアプローチ、税へのアプローチが組織の事業戦略や持続可能な成長戦略とどのように関連しているのかが含まれることになろう。また、各国・地域別に、以下の情報をグループレベルで開示することが求められる。

グループの主要な事業活動に関する説明/所得年度末時点の従業員数/当該国・地域の税務上の居住者でない関連者、および非関連者からのグループ収入/税引前利益(損失)/グループが保有する有形固定資産の合計額/グループの現金ベース支払所得税額/グループの当期発生所得税額/必要情報の計算・表示通貨

上述の開示項目は、主にGRI 207から採用されたもので、現在の非公開CbC報告書に含まれる開示と整合している。しかしながら、本法案では、さらに次の4つの開示が求められている。

  • グループが各国・地域で保有する有形・無形資産のリストとその簿価
  • 他国・地域の関連者に支払われる費用
  • 当期未払法人税額が、税引前当期純利益に標準税率を乗じた額と異なる理由の説明
  • 各国・地域の実効税率(ETR)(ETRは、第2の柱目的のETR計算方法と整合的に計算)

なお、コンプライアンス違反には、ペナルティーが適用されるとしている。

出典:PwC Australia
「月刊 国際税務」2023年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修